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デスペラード日記

日々の内容を綴る

違憲判決の効力について論じなさい。

2010-07-26 00:53:48 | Weblog
1.日本の違憲審査の特徴
本論に入る前にまず、日本が採用している(と考えられている)違憲審査制度について少し述べる。日本国憲法の「司法」の項目の中に違憲審査制度について書かれていること、日本国憲法自体が司法審査制度を採用しているアメリカ法を継受したものであること、憲法裁判所等の規定が存在しないこと、これらのことから日本の違憲審査制度は司法審査であると考えられる。司法審査の特徴は、以下の要件をクリアしない限り基本的には違憲審査の対象とならないというところにある。
・具体的紛争性があること(法律上の争訟に該当し、法によって解決可能な、私人の権利侵害をめぐる紛争であること)
・紛争が司法権の限界内にあること(問題が統治行為や議院自律権などに絡まないこと)

2.違憲判決の位置づけ
1でみてきた要件をクリアしてようやく司法は憲法判断が可能となるが、司法審査には大きく3つの次元がある。すなわち文面審査、適用審査、運用審査である。このうち違憲判決の効力が問題となるのは、文面審査(法令違憲)のレベルである。

3.違憲判決の効力をめぐる学説Ⅰ
違憲判決の効力をめぐる主張には大きく2つのものがある。すなわち、法令違憲の効力はその案件のみに限定されるとする説(個別的効力説・以下、A説)と法令違憲の効力はその法律自体を無効にするという説(一般的効力説・以下、B説)である。
A説の根拠(B説への批判)はこうだ。日本の違憲審査は先にもみたように、司法審査であり、そこでの最大の関心事は一回きりの紛争の解決である。それに伴う違憲審査(付随的審査)の効力は、法律それ自体ではなく、その紛争における限定的な場面にしか及ばない。また、違憲判決がその法律を無効にしてしまうと、裁判所が実質的に法を廃止することになってしまう(消極的立法)。それは、国会単独立法・国会中心立法の原則からして認められない。さらに法令違憲で法律そのものが無効となると、遡及効の問題も生じてしまう。
これに対しB説の根拠(A説への批判)は次のようになる。そもそも93条1項で憲法に違反する法令等の効力は無効だと定められているし、事件ごとに合憲・違憲の判断が異なるようでは、法の安定性を害する。

4.違憲判決の効力をめぐる学説Ⅱ
このような応酬の中で、A説、B説を修正した学説も登場した(以下、A’説、B’説)
A’説は次のように主張する。法令違憲は個別的効力しか持たないが、立法府にはその法令を改廃する政治的義務が、行政府にはその法令を適用しない政治的義務が発生する。
これに対する批判としては、政治的義務は法的義務ではないので、履行しないことも可能であり、そうなれば問題は解決しないと唱えるものがある。
一方、B’説はB説への批判に対して次のような修正を加える。消極的立法がなされるからいけないと言うが、違憲判決によってその法文が削除されるわけではなく、あくまで効力を失うだけなので、立法には当たらない。また遡及効については、違憲判決において将来効判決も可能であり、問題とならない。

5.実務レベルでの解釈
では、実務ではどのような立場をとっているのだろうか。たとえば、刑法200条尊属殺人罪は法令違憲となってから30年後にようやく国会で廃止されたが、それまで検察は一度として200条で起訴をしていないし、法令違憲判決が出されると国会は基本的にはただちに、その法律を改廃してきた。このように、実務レベルでは法令違憲は一般的効力を持つと考えているとみるべきだろう。

6.判例
国籍法3条1項違憲判決。この判決は、法律上の婚姻関係にない父母(父が日本人、母が外国人)の場合、父の認知だけではその子は日本国籍を取得できないとした同規定は法の下の平等(憲法14条)に反すると認定した。その際、同判決は利益考量を行い、その規定すべてを無効とするのではなく、法律上の婚姻関係を要件とする部分のみを無効とした。

7.私見
個人的にはB’説を支持する。いわゆる事情判決が下された衆議院議員定数不均衡訴訟において判決では、行政事件訴訟法31条の「法の一般原則」を持ち出して、なんとか問題を終結させたが、98条1項で「全部又は一部は、その効力を有しない」と書いてあるのだから、ここから素直に、違憲な選挙の効力は「一部」(将来効)のみが無効であると宣言すればよかったのではなかろうかと考える。また、こう解釈すると国籍法をめぐる先の事例でも規定全体が無効になるならないの(一見不毛に思える)議論に陥らずに済んだはずだ。

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