Ⅰ.短答式問題
( )内の語句が正答。出題文の文意を変えず、諸変更を加えた。
・司法職務定制では、(検事)も法定に出席し、判事の審判を監督した。
・9世紀後半になると検非違使には、強盗二盗と(私鋳銭)の裁判権が与えられた。
・有位者が獄成りて逃走をすると、(免官)の罰に処された。
・元禄14年の法令では2両以下の質の年利は(32)%ほどとされた。
・新制は主に(過差)を取り締まりの対象とした。
・律令時代、大学での過程は(孝経)と論語が必修であった。
・旧刑法で官吏となる権利などが一定期間認められなくなるのは、(停止公権)という付加刑である。
・(擅興)律は、軍防や兵事関係の犯罪について規定している。
Ⅱ.論述式問題
戸令応分条における嫡母について述べなさい。
1.戸令応分条の規定
戸令応分条における嫡母について述べるにあたり、まず該当条文をながめていく。
「凡応分者。家人。。(氏賎。不在此限。)田宅。資財。(其功田功封。唯入男女。)計作法。嫡母。継母。及嫡子。各二分。(妾同女子之分。)庶子一分。妻家所得。不在分限。兄弟亡者。子承父分。(養子亦同。)兄弟倶亡。則諸子均分。其姑姉妹在室者。各減男子之半。(雖已出嫁。未経分財者。亦同。)寡妻妾無男者。承夫分。(女分同上。若夫兄弟皆亡。各同一子之分。有男無男等。謂。在夫家守志者。)若欲同財共居。及亡人在日処分。證拠灼然者。不用此令。」
「凡そ分すべくは、家人、、(氏賤、此の限りにあらず)田宅、資財、(其の功田功封、唯だ男女に入れよ。)計し作法せよ。嫡母、継母、及び嫡子は、各二分。(妾は女子の分に同じ。)庶子は一分。妻家所得、分す限りにあらず。兄弟なくば、子父の分を承けよ。(養子も亦同じ。)兄弟倶に亡くば、則ち諸子均分せよ。其の姑姉妹室にあらば、各男子の半に減ぜよ。(已に出嫁すといえども、未だ分財を経ずば、又同じ。)寡妻妾男なくば、夫の分を承けよ。(女の分上に同じ。若し兄弟皆亡くば、各一子の分に同じ。男あり男なし等は、夫家守る志ある者を謂う。)若し同財共居せんと欲し、及び亡人在日処分せば、證拠灼然たれば、此の令を用いず。」
2.問題の所在
さて、この条文において、「嫡母」あるいは「継母」という語は登場するが、「妻」なる語句は現れてこない。一般に「嫡母」、「継母」は「実母ではない母」、すなわち「まま母」と解されているから、上の条文を素直に読むと、「妻」には相続分が発生しないものの、「妾」には、少ないながらも相続分が発生する結果となってしまう。この奇妙な逆転現象が戸令応分条における「嫡母」の問題として指摘されている。(「継母」は、後妻からみた前妻の子であるので、ここでは「嫡母」の問題に限定される。)なお、「相続分」という語句を先程用いたのは、戸令応分条の性格(遺産分割か家産分割か)について通説に従っているからであることに留意していただきたい。また、「妻」と「妾」の序列については、五等親制で「妻」と「妾」を並列して記してあることから問題がやっかいとなるが、ここでは、「妻」は「妾」よりも上位の立場にいるものとして取り扱う。
3.嫡母の解釈
上述のように、「妻」、「妾」関係の矛盾を埋めるために戸令応分条における「嫡母」について、様々な解釈が提示されているが、ここでは代表的な3つの解釈を紹介する。
)「妻」と嫡子がまま母―まま子関係にある
この解釈に従うと、嫡子が「妻」の実子である場合には、「妻」には相続分がない。これは、実子(嫡子)に養われる「妻」を想定した解釈である。なお、ここでいう、嫡子とは、家督相続人を意味している。
)「妻」と男子がまま母―まま子関係にある
この解釈では、「妻」に男子がいる場合には、「妻」には相続分が発生しない。この解釈は、大宝令との関係で養老応分条の性格を規定する。すなわち、大宝応分条においては、女子の相続分が規定されていなかった。その改正としての養老応分条では、寡婦の救済措置として相続分を用意したのだ、と考える。
)「妻」と「妾」の子がまま母―まま子関係にある
この解釈は、一見すると、奇妙な感をうける。というのも、「妻」と「妾」の子がまま母―まま子関係にあるのは、至極当然だからである。それは、「嫡母」が本来もつ中国語の語義に従った解釈であるが、その結果、「妻」には必ず相続分が用意されることになる。前述の2説では、「妻」に相続分が発生しない可能性が考えられるが、この説では必ず「妻」に相続分が発生する。また、前述の2説が養老応分条の性格を遺産分割と捉えるのに対し、この説は家産分割だと捉える点でも異なる。養老戸令応分条を家産分割と捉える結果、(すでに死亡した)「妾」の子は、別籍異財条による財産分割の請求が「妻」に対して可能となる。その結果、「妻」の取り分を確保する必要が生じ、そのために当該規定が置かれたとみる。
4.まとめ
以上、戸令応分条における嫡母の問題点とそれに対する解釈について眺めてきたが、史料の制約が大きく、どの説が正しいのかの決定打はいまだない。個人的な見解としては、()の解釈が穏当だろうか。もっとも、先にふれた「妻」と「妾」の関係も不明瞭な部分が多く、唯一の解を見つけ出すのは困難だろう。