ナチュラルキャピタリストのブログ

地球環境問題を切り口にした諸問題解決をライフワークとしている筆者が、独自な視点で語ります。

欧州は環境先進国? ― 地球環境分野における過度の欧州崇拝は止めよう!(その2)

2012-07-08 08:18:35 | 日記

前回に引き続き、地球環境分野における欧州崇拝の問題点について述べたい。

ところで話は変わるが、民主党を離党した小沢一郎氏が7月8日のNHK日曜討論に出演し、脱原発を明言したという情報を入手した。小沢氏とともに離党した三宅雪子氏はツイッターで次のようにつぶやいている。

https://twitter.com/miyake_yukiko35/status/221768210540789760

(引用開始)

再送) 小沢代表、日曜討論出演中。原発について。脱原発を明確に宣言。ドイツの例を出しながら10、15年を念頭に将来的にはゼロにするということ。

(引用終わり)

小沢氏としては、やっと明確に脱原発を宣言したのだが、筆者の感想は「菅直人と大して変わらないじゃないか?」。そして特に「またドイツかよ!」というのが本音である。我が国の政治家は、明治維新以来、我が国独自の政策を出さず、地勢も気象も文化も国民性も違う欧米の事例を元に政策を考える癖から抜けだすことができないようだ。

さて、前回は欧州諸国に「環境先進国」などあり得ない、という事実をEcological Footprint という指標を使い解説したが、今回は欧州社会の思想的な観点から地球環境分野への考え方にメスを入れるとともに、欧州等、海外の情報発信が実は非常に偏向的だという事実も指摘したい。


【キリスト教と地球環境】

まず、次の絵を見ていただきたい。

 

有名なジョットの絵「小鳥への説教」である。イタリアのアッシジにある世界遺産、聖フランチェスコ教会に描かれている壁画であり、聖フランチェスコが小鳥へ説教を始めたところ、小鳥たちがその説教を聞き始めたという伝説を絵にしたものである。この絵はイタリアのエコロジーの原点と呼ばれている。筆者も現地でこの絵を見ており、非常に感銘を受けたのだが、この絵の題の「説教」という言葉は嫌いであり、勝手に「小鳥との対話」と呼んでいる。

地球環境を考える上で重要なのは、

生態系>人間社会(経済を含む)

であるのだが、キリスト教の教義では「自然は人間によって支配される対象」であり、両者は完全に矛盾する。

「説教」という言葉は、所謂上から目線の言葉であり、生態系<人間社会ではないのか?という疑問を常に持ちながら、この絵を見ている。もっとも現地でイタリア人とこのことを議論したのだが、そのイタリア人曰く「バチカンの枢機卿なら別だが、ほとんどのイタリア人はそんなこと深く考えていないよ」と言われた。さすが(いい意味で)いい加減なイタリア人である。

スウェーデンも、キリスト教の教義と学問は切り離して考える傾向にあり、私がスウェーデンのルンド大学のHuman Ecology専攻の教授にインタビューした時も、「キリスト教とは関係なく、自然に対して傲慢であってはいけない」と言われた。

しかしながら欧州の環境政策には、やはりキリスト教の影響は否めない。例えばドイツだが、基本法第20条a項に

「国は未来の世代に対する責任という面においても生活基盤としての自然を保護するものとする」

とある。この条文をもって、我が国の専門家はドイツを「環境先進国」としているのだが、筆者は納得できない。やはりこれは「自然は人間によって支配される対象」というキリスト教の教義に影響された、生態系に対する人間の上から目線ではないのか?人間こそ自然によって保護されるべきではないのか?という疑問を筆者は常に感じている。少なくともキリスト教国家ではない我が国が、このドイツの法理念を真似るべきではないと強く感じる。


【実は偏向的な欧州発の情報発信】

地球環境分野における偏向的な欧州発の情報発信はかなり多い。私は数カ月に渡り欧州を視察したことがあるが、現地に行くと日本で収集した情報とは違うことが結構あった。特に日本人の欧州通や在留邦人に偏向的な情報発信の傾向が強い。あらかじめお断りしておくが、全ての方々とは彼らの名誉のためにも言わない。勿論、真面目に欧州の悪いところも含め、フェアな情報発信をされる方々もいる。

欧州通の日本人、在留邦人が、地球環境分野において偏向的な情報発信に行う原因は次の3点が考えられる。

1.あらかじめ、欧州に対する憧憬と劣等感を持っている。

2.疑うことから始めない。もっとも欧州の人々は常に疑うことから始めるというクリティカルシンキングの癖がついているのだが、日本人は信じることから始めてしまう。

3.これが一番悪質なのだが、欧州を看板に地球環境分野でビジネスをしている者はドイツやスウェーデン、デンマークが「地上の楽園」で、我が国は「遅れている」というストーリでなければ困る。

例を挙げよう。

巷ではドイツは脱原発国家と言われている。専門家でも飯田哲也氏などは「メルケル首相は福島第一原発事故の後、すぐに7基の原発の暫定停止を政治決断した」という旨の発言しているが、しかし、実際にドイツの脱原発政策の歴史を調べてみると次のようになる。

2002年 原子力法改正、脱原発決定。脱原発期限は2021年~23年。当時はシュレーダー政権(社会民主党(SPD)と緑の党他の連立政権)。

2005年 メルケル政権誕生(キリスト教民主同盟(CDU)、キリスト教社会同盟(CSU)、SPDの大連立)。「原子力法には触れない」という3党間合意。

2009年 9月 総選挙でメルケル保保連合(CDU、CSU)勝利。脱原発路線を主導してきたSPDが政権離脱。

2010年 12月 原子力法改正。脱原発期間を2035年に延長。

2011年 3月 福島第一原発事故。その後ドイツは国内原発17基のうちの7基を暫定停止。脱原発期限をわずか数カ月で2021年~23年に戻す。

福島第一原発事故後のドイツの早急な対応は評価できるが、注目するべきは2009年から2011年までの脱原発期限をめぐる迷走ぶりである。一体、2021年なり2035年の脱原発期限にどういう根拠があるのだろうか?根拠などない。単なる政治的な思惑に過ぎないのであり、今後の政局次第でどう変わるか分からないのである。

特に脱原発期限の迷走ぶりを飯田哲也氏が発信したのを私は聞いたことがない。こういう偏向的な情報発信がきっかけになり、ドイツ=環境先進国というイメージだけが先行し、このブログの冒頭に例を挙げた小沢一郎氏の発言につながったとすれば、これは非常に残念なことである。

私は何年も欧州に滞在していたわけではない。しかし全ては調べれば、誰にでも分かることなのである。脱原発を確実に行い、持続可能なシステムを構築していくためにも、主体的に情報を収集し、リテラシーをつけていくことが大切である(自戒も込めて言う)。

特に地震国であり、事故当時国でもある我が国は世界に率先して脱原発を進める(要はこれ以上再稼働をしない。)べきであり、ドイツの原子力政策、もっと言えば環境政策をそのまま精査もしないで真似てはいけないのである。


欧州は環境先進国? ― 地球環境分野における過度の欧州崇拝は止めよう!(その1)

2012-07-07 08:20:56 | 日記

筆者は欧州に憧憬を持っている。旅行先としても大好きである。筆者と同じように多くの日本人が憧憬を持っていて併せて劣等感も持っている。それは無理もない。明治維新以来、我が国は欧州諸国から様々な分野で科学技術等を導入してきた歴史がある。さらに1894年に治外法権が撤廃され、1911年に関税自主権が撤廃されるまで、我が国は欧州諸国とは不平等条約を結ばされていたのだ。

近年では欧州諸国(特にスウェーデン、ドイツ)等が「環境先進国」ともてはやされ、欧州通の地球環境分野に携わる有識者から在留邦人まで、それを喧伝する。例えば、飯田哲也氏はツイッターでこうつぶやいていて、軽く100以上のRTがついている。

https://twitter.com/iidatetsunari/status/150788277530660864

(引用開始)

(引用終了)

このツイートの問題点なのだが、

1.「欧州」と一括りにして「常識」と論ずるのは如何なものか?原発が(動いてい)ないイタリアやオーストリアは異端なのであろうか?

2.スイスは脱原発に30年必要と言っているが、地勢や国民性も違い、地震国である我が国に「欧州の常識と現実」をそのまま持ち込んでよいのか?

3.そもそも欧州は環境先進国なのか?

今回のブログでは、2回に渡り、上記3の「そもそも欧州は環境先進国なのか?」について検証したい。

結論から言えば、大量生産、大量消費が行われている欧州の先進国が「環境先進国」である訳がないということなど、少し考えれば誰でも分かることなのだが、前述した日本人の欧州への憧憬と劣等感が我々を思考停止状態に陥らせているのである。かく言う筆者もかつては地球環境分野において「欧州は素晴らしい!」「地上の楽園だ!」と思い込んでいた。

【Ecological Footprint】

それを一変させたのは、Ecological Footprint(EF)という指標である。簡単に説明すれば次の通りである。

1.例えば全世界が日本並みの生活をすれば、地球が5.94個分必要ということ。

2.単位はgha(グローバルヘクタール)であらわす。

3.厳密に言えば自然の再生力があるので、人類は地球1.8個分の生活をすれば良い。日本の場合、5.94÷1.8=3.3 で、日本は3.3倍の生活をしているということになる。

さて各国のEFを見てみよう。

Ecological Footprint of top 25 countries

(出所:gogreenのHPより抜粋 http://www.go-green.ae/footprint/countries.php )

スウェーデンは7.53gha、スイスは6.63gha、ドイツは6.31ghaであり、日本より(環境負荷が)高いのである。日本の5.94ghaも決して誇れる数字ではないが、これを見ると欧州諸国が「環境先進国」であるという幻想は見事に打ち砕かれるのである。

もっと詳しく知りたい方はWWFが出している「生きている地球レポート2012年版」を読むことを勧める。

http://www.wwf.or.jp/activities/lib/lpr/WWF_LPRsm_2012j.pdf

ところで、読者諸氏の方々の中には「先進国の日本で、いくらなんでも地球1.8個分の生活などできるわけがない」と仰る方がいると思う。しかし、理解することはできる。全ての日本人が理解をし、一部でも生活に取り入れる努力をすれば、例えば原子力発電所など、すぐ停まると確信する。


メタボグリッドの治療法と原発の無力化

2012-07-05 20:38:26 | 日記

ツイッターで山本太郎氏に「先生、先生」と煽てあげられ、すぐに乗ってしまう筆者は、またブログを再開することとなった。

さて、2年前に私が作った造語である「メタボグリッド」だが、もう一回こちらを読んで欲しい。

http://blog.goo.ne.jp/casadelamusica/e/c24a4f65a3e5b4b9c411031c1e1972c6

我が国における所謂スマートグリッド構想が既存の原発を長距離高圧送電網ありきで構築されているため、全くスマートとは言えず、「メタボグリッド」になってしまっていることを書かせていただいた。もう一回復習すると現状の送電の仕組みは次のようなイメージになる。

Smartgrid3

(出典:東北北関東大震災で注目を集める「スマートグリッド」とは?http://blogs.itmedia.co.jp/assioma/2011/03/post-856e.html  から抜粋)

この既存の電力網の問題点だが、

1.原発をはじめとした大規模集中電源ありきの送電網なので、当然原発の盤石化に貢献している(逆に失くせば原発は無力化する)。

2.送電ロスを迎えるため高圧で送電するが、それでも長距離送電することにより、送配電ロス4%として1260万世帯分の電気を捨ててしまう。

3.実は安定供給にも問題がある。(超)高圧変電所等が地震等でやられると大停電が発生する。2011年4月の震災の余震による広域停電の原因と思われる。

以上を頭に入れておきたい。

 

さて、スマートグリッドだが各社のコンセプトを見てみると、

1.東芝

スマートグリッドの図

 (出典:東芝のHPより http://www.toshiba.co.jp/env/jp/energy/distribution_j.htm

 

2.日立

[画像] スマートグリッド概要図

(出典:日立のHPより http://www.hitachi.co.jp/environment/showcase/solution/energy/smartgrid.html

 

注目してもらいたいのは東芝、日立両者とも絵の中にしっかりと原子力発電所が存在することである。見事に原発と再生可能エネルギーが同じ基幹送電網上に共存してしまっているのだ。

つまり、現状のスマートグリッド構想とは既存の大規模集中電力、長距離送電ありきで送電ロスを発生させ、原発と再生可能エネルギーを共存させるスマートなどとは程遠い「メタボグリッド」なのである。

さらに両社とも再生可能エネルギーが出てくるが、想定しているのがメガソーラーや洋上風力であろう。これらは業者にとっては小規模の電源をちまちまと販売するのと比べれば、非常においしいビジネスなのである。特にメガソーラーは7月から施行される再生可能エネルギーの固定価格買取制度において、kW=42円という高値買取の波に乗り一時的に爆発的に普及することが見こまれているが、これも再生可能エネルギーの中では大規模であるメガソーラーを長距離高圧送電するということなのである。

しかも不安定なメガソーラーを基幹送電網に逆潮流するので系統に混乱をもたらすことになる。「系統の混乱」とは誰にでも分りやすく例えるとすれば、不整脈である。従って既存発電所のバックアップが必要となり、火力発電は勿論だが、場合によっては原子力発電所もバックアップのために必要であるというとんでもないことになりかねないのである。

筆者が危惧するのはこのことである。全てが電力会社ありきのシステムなのである。

 

さて、この「メタボグリッド」の治療法であるが、既存の送電網の発想を変えることと自家発の導入である。

送電網の発想の転換だが興味深い事例があるので紹介する。次の絵を是非見て欲しい。

(出典:VPEC株式会社HP http://www.vpec.co.jp/eco.html より抜粋)

最大の特徴は送電網を「基幹系」と「ローカル系」に分けていることである。ローカル系において小規模の電力クラスターを構築し、再生可能エネルギーで自給自足しようというコンセプトであり、大規模集中電源、長距離送電網ありきの基幹系電網に非常時以外は依存しないということであり、言い方を変えれば、「主体性を持った脱原発」なのである。

さらに再生可能エネルギーを基幹送電網に逆潮流もしないということにも注目して欲しい。従って基幹系送電網の系統の負荷も低減できる。分りやすく例えれば不整脈にならないのである。

このローカル系の送電網を我が国でより安定的に運用するために筆者が勧めるのは中山間地域における小水力発電を中心とした電力クラスターの構築である。小水力発電は安定電源であり、急峻な我が国の地勢に非常に適している。

次に自家発の導入だが、7月4日の「環境ビジネス」に興味深い記事が出たので是非見て欲しい。

「トヨタ、自家発8基を新設、新開発の見える化システムを全工場に導入」 http://www.kankyo-business.jp/news/002721.php

(引用開始)

トヨタ自動車は、今夏の節電に向けた新たな取り組みとして、供給能力拡大のため、最新の高効率コジェネレーションガスエンジン発電機を8基新設するとともに、全工場に新たに開発したエネルギーマネージメントシステムを導入すると発表した。これらにより、今夏、中部電力管内企業に求められている節電目標5%(2010年の夏季買電ピーク電力比)を確実に達成する。

(引用終わり)

原発推進を強力に推し進めている経団連企業の中核であるトヨタが電力会社の基幹送電網依存から脱する動きをしたことは注目に値する。さらにトヨタのことであるから、おそらく自家発だけでなく、今後さらにPPS事業に参入していくことも十分考えられる。このトヨタの動きに他の企業も追随していくだろう。

大飯原発は残念ながら再稼働してしまったが、脱原発の動きは着実に進んでいるということが言えよう。