「未来の社会はどんな様相を見せるだろうか。同志諸君、申し上げよう。 まず闘争によって選りぬかれた貴族階級が現われる。 新しい中産階級、無知な大衆、新しい奴隷、仕えるものの集団、「永遠の未成年者集団」があろう。 そしてこれらすべての上に、さらに新しい貴族がある。特別の指導的人物である。 このように、支配をめぐる闘争によって、国の内外に新しい身分が成立する。 しかも東方が巨大な実験の場になる・・・そこに新しいヨーロッパの社会秩序が生まれるのだ」(ラウシュニングに語った言葉)
この正確な意味はラウシュニングにはわからなかった。 彼とともに聞いていた他のナチ幹部たちも、貴族とか、新しい奴隷とか、 東方とか未成年者とか・・・わかったようで、本当の意味はつかめなかった。
で、数日後、やはり総統ブレーンの1人だったハンス・フランクが、 ヒトラーみずから上の予言を解説してくれるように、おそるおそる頼んでみた。 このハンス・フランクというのは、ヒトラーの若いころからの弁護士で、信任が篤く、 東ヨーロッパの占領地域の管理を任されたほどの腕ききのナチス幹部である。 そのせいか、ヒトラーはうるさがらず、機嫌よく求めに応じて答えた。 だんだん明らかになっていく彼の魔性の予知の、何合目かまでの真実を。
「よろしい、では解説してやろうハンス。私が言った未来に現われる「永遠の未成年者集団」というのは、 もちろん、死ぬまで大人になりきれない人間たち、ということだ。 そんなことは、厳しい正常な社会ではありえない。だからそうなる背景には、甘やかされた異常な社会が当然ある。 その中で、同じように大人になりきれない親に、愛玩動物のように育てられるため、 子どもも成人しても真の大人になれないのだ。
しかしハンス、じつはそれだけじゃない。私が本当に言いたかったのは、そのことではない。 未来社会には、そういう「永遠の未成年者集団」が現われる一方で、 幼いときから大人の思考と感情を持った人間たちも現われるのだ。信じられないだろうが、 彼らは胎児のときからさえ、そのように教育される。5つか6つで一人前の理屈と判断力を備え、 13、4歳にもなれば、並の大人を指揮するほどの力を持つようになる。つまり両極端ということだ。 肉体が大人で感情が幼児のようなグループと、肉体はまだ青春期にまでいかないのに、 思考と感情が大人を超えるグループ・・・」
「しかもハンス、それは人間の発育状況だけじゃないのだ。人類と社会のあらゆることが、 未来には、そのように両極端に分かれてしまうのだ。たとえばカネだ。一方には腐るほど大量のカネを持ち、 広く高価な土地を持ち、労せずして限りなく肥っていく階級が現われる。 貴族とか新しい中産階級とか言ったのはその意味だ。
だが少数の彼らが現われる一方、他方の極には、何をどうやっても絶対に浮かび上がれない連中も現われるのだ。 それはカネだけの問題でもない。より正確にいえば、精神の問題だ。 限りなく心が豊かになっていく精神の貴族、精神の新しい中産階級が現われる半面、支配者が笑えと言えば笑い、 戦えといえば戦う「無知の大衆」「新しい奴隷」も増えていくのだ。」
「人間だけではない。国もそうだ。恐ろしく豊かな、労せずして肥っていく国が現われる。 他方、何百年かかっても絶対に払いきれないほどの借金をかかえ、水一杯すら容易に飲めない国も現われる。 気候もそうだ。とほうもない旱魃や熱波におそわれる国と、寒波や洪水におそわれる国が出る。 災害におそわれつづける地域と、楽園のような地域、人っ子一人いなくなる荒地と、 無数の人間が鼻をくっつけ合って生きる都会とが分かれる。
愛もそうだ。特定の男女にだけ、愛と肉体の快楽が集中する。 一方、一生に一度の真の愛も快楽も得られない男女も増える。要するに、土地や金や支配力を得る者は、 ますますそれを得、支配される者はますます支配されるだけになる。 そうだハンス、それが未来なのだ。私の見た未来だ。未来はそうなるのだ・・・」
「それは1989年だ。そのころ実験は完成する。人間は完全に2つに分かれる。 そこから引き返せなくなる。そうだハンス、その完成と更に新しいアプライゼ(スタート)の時期が 1989年4月に来るのだ。」
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