若い頃、3畳1間のアパートに住んでいたことがある。トイレも台所も無く、本当に畳3畳分の部屋であった。物が置けないから、部屋にあるものといったら、布団とラジオくらいであった。
2階の部屋で、窓を開けると中央線の高架が手の届きそうな所にあった。電車が通ると、部屋中にその音が響き渡った。最初はうるさく感じたが、間もなく慣れた。国鉄のストで電車が止まると、あまりの静けさに落ち着かなかった。
当時の仕事は、健康食品の卸会社のアルバイト。サメエキスとか減塩醤油とかそういった類のものを都内の有名百貨店の健康食品売り場に届けていた。幌付きのトラックに瓶詰の重い荷物を積んだりするので、そこで働いている人の半分以上は腰を痛めたことがあった。
仕事が終わると、駅前の屋台で焼酎を2~3杯、焼き鳥、ニンニク、銀杏の実等串焼きを食べて、串の本数で代金を支払った。飲んだ後は、アパートに帰って寝るだけだった。
ある日、アパートに警察が来た。このアパートで盗難があったらしい。「盗まれた物はないか」と聞かれたが、盗まれるようなものは持っていない。しかし、よく見てみると目覚まし時計が無くなっていた。何にもない部屋から、泥棒は安っぽい目覚まし時計を持っていったようだ。
犯人は、2階の奥の部屋に住む男で、警察が調べたところ、女性の下着がごそっと出てきたそうだ。私はパトカーに乗せられ、警察署に行って、簡単な事情聴取と、捜査のために必要だと言われ、指十本の指紋を取られた。目覚まし時計は戻ってきたが、私の指紋は今も警察に残されているのであろうか。
久里洋二のシルクスクリーンです
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