竜爪山(りゅうそうざん) 薬師如来(やくしにょらい)
【データ】竜爪山 1051メートル▼最寄駅 JR東海道本線・静岡駅▼登山口 静岡県静岡市葵区の平山集落▼石仏 薬師岳山頂。地図の赤丸印。青丸は石燈籠▼地図は国土地理院ホームページより
【案内】竜爪山は薬師岳と文殊岳からなる山。その中腹にあるのがかつて竜爪権現を祀った穂積神社。境内の隅に石仏が集められ、薬師岳に薬師如来(石仏)、文殊岳に文殊菩薩(石祠)を祀っているので、明治になるまでは竜爪権現を中心とする神仏混淆の神社だった様子である。
『静岡市神社名鑑』には、古くは山神あるいは地主神だったが「延享の頃(1744~1748)、権兵衛という樵夫に竜爪権現の心霊が憑依して、衆庶の病難を治しその霊験が偉大であったので、山上に社殿を建立し神霊を奉祀し、権兵衛は吉田家の許状を受けて神職となり滝紀伊と号した。これが竜爪山神職のはじまりである」と記載されている。
登山口から神社までは町石が立ち、垢離とり場跡に「従是より竜爪山拝殿迄三十六丁」の案内がある。神社から薬師岳に登りだしたところにあるかつての本社跡には「奉納御宝前 文化七牛年(1810)相州鎌倉郡中田村 小山伊兵衛 青木庄左衛門」銘のある石燈籠が立つ。薬師岳に祀られた薬師如来は高さ53センチの立像。左手に薬壺、右手与願印の珍しい印相の組み合わせ。関東から静岡にかけての山で薬師を冠する山は少なく、薬師の石仏も珍しい。
【独り言1】平山集落からの道は中腹の穂積神社まで通じていますが、この日は道の崩壊で集落の少し上で通行止めになっていた。その手前の駐車場で我が車の左隣に止めた女性の話では、竜爪権現には昔から鉄砲祭があり、戦争中は〝弾よけ〟の霊験があるといって、祈願する者が参集したそうです。人気がある竜爪権現ですから、これを勧請した神社が伊豆の方にもいくつかあるとのこと。石燈籠にあった相州鎌倉郡中田村(現横浜市泉区)の小山、青木の二人も竜爪権現の熱心な信者だったのでしょうか。この二人の家は中田村の名家だったようで、中田村においても宝永二年(1705)と安政七年(1860)に庚申塔を立てたことが、『泉区石造物調査』(平成元年、横浜市教育委員会)に出ていました。
【独り言2】竜爪山に登った次の日、東名高速の富士川サービスエリアで女性に声をかけられました。なんとこの女性は、竜爪山の駐車場で右隣に車を止めた人でした。竜爪山へは前後しながら登っていて、その時と同じ山の服装をしていたので気が付いたのでしょう。50年も山に登ってきましたから、山で山仲間に会うことは珍しくありませんでした。しかし一期一会が重なってしまうことはそうありません。昔、秋の甲斐駒ヶ岳で出会った人に、翌年の秋に聖岳であったことがありました。また、冬の八ヶ岳で会った人に、半月後の新宿西口の思い出横丁の飲み屋であったこともありました。何かの縁があって巡り会うのでしょうが、不思議なものです。