過去3回にわたり、金融機関への決算報告実施の大切さを話してきました。
今回は、実際に金融機関へ決算報告を実施した実例(守秘義務がある為、多少脚色してあります) を御紹介いたします。
決算報告をした企業を A社 とします。A社の概要は以下のとおりです。
- サービス業(HPの製作やソフトウエアの受託開発)
- 決算は4月
- 法人設立して5期が終了
- 私は第2期から財務コンサルティングとしてサポート
- 金融機関への決算報告は第3期の決算が終了した頃から実施
- 都銀とのお付き合い(借入)は第5期が始まったばかりの頃から新規で取引を開始
- その他の金融機関は地銀2行と信用金庫1行
- 第1期は赤字 第2期も赤字 第3期は収支トントン 第4期は50万円ぐらい黒字
A社が都銀とのお付き合い(借入)が始まったのが、第5期に入ったばかりの頃でした。第5期は会社としても次のステージへ上っていく為にいろいろと設備投資や人材投資、市場調査などをして行こうと計画をしていました。
その計画を実施するために、資金を調達する必要があり、地元の信用金庫や地銀、都銀へ新規融資の打診をしたのです。
都銀とは、東京や大阪の業者の売上代金の入金口座として普通預金口座を第3期頃から開設していましたが、借入の取引はありませんでした。
そのような状況の中で、都銀と第5期に実施するA社の戦略や必要となる資金について打ち合わせを行い、1000万円の借入をすることが出来ました。
都銀から融資を受けた1000万円と以前から貯蓄していた資金とを使い、会社内のシステムを整備したり人材を確保したり、市場調査を実施しました。
A社としては、第5期に売上高や利益を増加させる事も大事ですが、これからの3年5年を見据えて、将来的に会社としての組織力・商品力・開発力を高めるための【設備投資・人材投資・市場調査の年】と第5期を考えていましたので、第5期の結果として決算をしてみると、損益計算書では売上高は前年比120%と伸びましたが、【設備投資・人材投資・市場調査】という特別支出があったため、約800万円の赤字を計上することになりました。第5期の800万円の赤字が計上されたことにより、貸借対照表上の純資産額が黒字から赤字に転落(債務超過状態になった)しました。
A社社長と決算内容等を振り返りながら、自社が実施してきた各種投資に対する費用対効果の分析や手に入れた成果、見えてきた課題などを検討しあい、金融機関への決算報告書を策定しました。第5期のポイントは
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投資をしたこと
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特別な支出をしたこと(市場調査費)
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800万円の赤字を計上したこと
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債務超過状態になったこと
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第5期の投資等は第6期以降に効果が出てくる支出であること
上記がポイントです。
金融機関にしてみれば【債務超過状態】は避けたい状況なのは十分承知していましたが、会社としての戦略上、第5期の各種投資や市場調査は必要な支出でしたので、これらの事をどこまで金融機関に理解してもらえて、そしてA社の事をどれだけ理解してもらえるかが【決算報告】のキモでした。
都銀との決算報告の日がやってきました。当日は都銀担当者がA社まで来て頂き、A社会議室で決算報告となりました。
A社社長と一緒に作り上げた【決算報告書】を渡しながら、和やかな雰囲気の中、雑談から始まり、場の感じが落ち着いた所で決算報告に入りました。
決算報告書のページ構成は
1) 表紙
2)第5期営業報告
3)第5期の収益性及び安全性の財務分析
4)決算書及び勘定科目内訳書
5)第5期のキャッシュフロー計算書
6)第6期の経営方針
7)第6期の経営計画書(数値計画)
というページ構成でしたが、A社社長は決算報告書に沿って、第5期の営業報告を説明していました。この営業報告はとても重要だと私もA社社長も認識していました。第5期にA社がどのような事を実施してきて、その結果手に入れたものやそこから見えてきた課題等を説明します。決算書という定量的な情報では読み取ることが出来ない定性的情報の提供です。
しかし・・・・
A社社長が第5期の営業報告している最中、都銀の担当者は社長の顔を見る事なく、耳で営業報告を聞きながらそそくさと決算報告書をペラペラとめくります。A社社長の説明も十分聴かずに決算書に目を通します。
決算書の貸借対照表が目に入った途端、都銀担当者の表情が一気に曇りました。担当者が見ていた所は ” 純資産 ” の部分です。債務超過状態が都銀担当者の目に入ったのです。今まで和やかな感じだったのが、債務超過が分かった途端、手のひらを返した如く、厳しい表情です。
全く分かりやすい都銀担当者でした。(思わず、営業担当ならもうチョット、EQを鍛えて欲しいと思ってしまいましたよ)
私達も債務超過になっていることは承知していました。しかし、その結果数値には意味や根拠があり、再建可能な債務超過だと私とA社社長は認識していたのですが、都銀担当者にはそんな事は関係なく、貸借対照表の純資産がプラスなのか?マイナスなのか?だけが重要だったようです。
都銀担当者の心の中や言いたい事がまるで手に取るように、都銀担当者の表情から読み取れます。明らかに不快感を出している表情で、口調も一気に沈みました。
都銀担当者の気持ちも十分分かりますが、営業としての立場から、お客さんが説明をしている最中に、お客さんの話もそっちのけで資料に目を通し、マイナス要因が出てきた途端に表情に出すのはどうかと思いましたね。確かにその都銀担当者は以前からコミュニケーション能力は低かったです。明らかに【もう一度話しをしたいと思いたくない】コミュニケーションレベルでした。それはA社社長も同感でした。
そのように私達が感じていたのに、決算報告をしている最中にモロ「A社社長! これはマズイよ!」と言いたげな表情をした都銀担当者を見たA社社長も一気にトーンダウンです。
都銀担当者に話しをする前に、信用金庫の支店長や担当者へ決算報告をしていただけに、都銀担当者の表情や態度は明らかにA社社長のやる気を削ぐことになりました。
そして少しトーンダウンしながらもA社社長は自社の第5期の営業報告と第6期の経営方針について説明をして下さいました。でも、とても駆け足な説明です。明らかに早く都銀担当者との報告会を直ぐにでも終わりにしたいという感じでした。
そして ・・・
都銀担当者の口からこぼれた言葉が ・・・〔続きはコチラ〕