私の知ってる彼女は背が高くてスタイルが良く、赤い口紅やヒールがとってもよく似合うキャリアウーマンでした。8歳年上の勤務先の上司と5年間の不倫の末、略奪婚を成功。そのときにはすでに彼との間に二人の娘をはぐくみ、ほとんどシングルマザーのような生活だったはずなのに、いつも美しくして子供にも優しく、理想的な妻であり母親であったようです。
仕事も常勤に復帰してバリバリやっていたようです。子供さんは続けてお受験をして私立の同じ学校へ。二人とも母親に似て成績が良く、美人で性格が良いのでクラスでも人気者。家ではお母さんのお手伝いも積極的にやる理想的な娘さん。
そうこうするうちに彼女も40代の後半へ。スレンダーだった身体も脂肪で丸みをおびて、美しい黒髪にも白髪がまじるようになりました。美と健康維持のためにジム通いに余念がなく、食事もきっちり頑張っていたようですが、それもだんだんきつくなってきてしまったようです。
若いころの自分に固執しすぎてしまったためか、あまり頑張りすぎたのか、いつしか彼女は過食症と拒食症を繰り返す摂食障害になってしまいました。聞けば若いころにもそういうことがあったそう。
食べ吐きに費やす時間で精いっぱいで、ご主人が外泊や外出を繰り返す時間がだんだん長くなっていることに気が付きませんでした。自宅でだれにも邪魔されない時間が確保できるのは、彼女にとっても好都合だったからです。
彼女は痩せてむかしの美しさを取り戻してゆきました。でも身体は疲れ切って、人とコミュニケーションをとることができません。ご主人とは気づけばもう何年も触れ合っていません。優しいご主人は、彼女と一緒に過ごす日は家の掃除や子供さんの世話を積極的にになって、デリケートな彼女に何も言わずに過ごしていたようです。
ある日、彼女に虫の知らせがあり、夫が留守をして3日以上たつことにはっと気づいたそうです。そのときダイニングテーブルの上に置き忘れられていた彼の携帯が鳴り出しました。彼女はワナワナ震える手で着信を受けたそうです。すると聞いたこともない女性の声が・・・。
「・・・くん?もう着いた?」
「お風呂場においてあったシャツは洗っとくよ~ん。今度は週末?またあの温泉にも行きたいネ!」
「・・・っくん?・・・?」
彼女は倒れそうになるのを必死でこらえて、着信の「・・・子」という電話番号をメモ用紙に控え、何も言わずに電話を切ったそうです。
震える指で、携帯の写真のアルバムを繰ると、有名な古い観光街のタイトルがついたアルバムに、ホテルで黒い下着だけつけている?とおぼしき肩から上のショットの女性の写真や、同じ女性がその観光名所ではにかんだような笑顔で目を伏せている写真、有名な名所の風景の右下に彼女の夫がポツンと入っている写真、などが出てきたそうです。
彼女はその女性の名前に憶えがありました。ご主人と出会ったばかりのころに、昔の彼女だと教えられていました。
どうやらご主人は、彼女と結婚しながら昔の彼女と続いてしまったようです。
その原因の一つには、彼女の摂食障害があったことは否めないでしょう。
どのように治療をすすめてゆけばよいでしょうか。
たいへんに悩ましい状態ですね。