紅点(BENI TEN)
第8話:石田博士地団駄を踏む
テロリストの二人は下野に対して銃が全く効かないことに焦っている。
しかしついに手榴弾を取り出したので、今度は下野が焦る番になった。
白石が危ない。
今はまだ、自分たちが爆発に巻き込まれないよう二人が慎重に距離を作っているので投げはてこない。
突然、二人のうちの一人が銃を撃ちながら走り出した。
下野は何事かと身構える。
どうやら彼は、廊下側を確認に行ったようだ。
なるほど、気持ちはわかる…逆に相手の行動に筋が通りホッとした。
彼が廊下を覗くと外壁に大穴が開いており、その向こうに銃を構えた米兵が見える。
彼は母国語で”ちくしょう”と叫び、部屋の奥にいる戦友の元へと戻っていった。
下野は急いで白石をソファーの横へと誘導し、自分の体を盾に使いながら彼をソファーのウラに押し倒した。
白石「うわっ!」
反射的に身を起こそうとする白石を押さえつける。
下野「ここで、じっとしていてください。」
テロリスト二人は部屋の一番奥の壁際に陣取り、手榴弾を投げ、すぐに床に伏せた。
下野は飛んできた手榴弾を普通に手で払った。
1mほど先で爆発したが、どうと言うことはない。
爆圧でソファーに座らされてしまった程度だ。
モーテルの廊下の奥から、下野が開けた穴に向かって発砲が始まった。
他のテロリストが今起こっている異常事態に対し、動き始めたようだ。
目の前の二人を早めに片付けないと、廊下から来る奴等との挟み撃ちになり、白石を守りにくくなる。
テロリストの一人がわずかに身を起こしたので、下野は座ったまま刀を投げた。
刀はその男の口から胸につきぬけ、床に刺さった。
それを見たもう一人は意を決し、険しい表情で立ち上がった。
生半可な攻撃では、目の前の白い敵には通じない。
上着のジッパーを下ろすと、シャツの腹部にはビニール袋がぐるりと巻かれ、ガムテープで固定されている。
下野は”C4じゃない、ANFO爆薬だ”と直感した。
この部屋丸ごと吹っ飛ぶ量だ、爆発させてはならない。
下野「うおおおっっ!!」
ジェットエンジンを吹かして、距離をつめる。
背後…廊下に何かを叫んで去ってゆく人影を感じた。
他の部屋に居た仲間のテロリストがこの部屋にたどり着いたに違いない。
そして仲間が自爆をしようとしているのを見て、巻き込まれぬように逃げていったのだろう。
自爆しようとしている前方の男が廊下の人物を追う目つきでも、それは類推できる。
彼が叫んだのは、仲間を3人殺した自分への怒りか?これから自爆する仲間への祈りか?
まぁいい…これはこれで、挟み撃ちにされない良い人払いになった。
しかし、なにしろ自爆は必ず阻止しなければいけない。
軟式甲冑だってさすがにもたないぞ!
コードを引っ張り、懐にある起爆スイッチを取り出すテロリスト。
コードは4本、腹と背中と横っ腹に一つずつ信管があるようだ(雷管感度を上げたANFOを使っている気がするのだが)。
殴っても蹴っても、自爆は実行されるだろう。
ボタンを押すだけだからな、死にながらできるさ。
床から刀を抜くが、4本のコードをちまちまと切っている時間は無い。
一撃で人間を行動不能にするか、4本のコードを切断するしかない。
下野「っりゃああっっ!!」
胸の位置で切り裂いた。
男は右腕、左腕、胸から上、胸から下の4つに分かれて床に転がった。
無論コードは4本とも切断されている。
刃先にまとわりついた血を払い、右を見ると窓の前に積み上げられたベッドや机。
廊下側は恐らくテロリストに抑えられている。
自分が盾になれば壁に開けた穴から白石を逃がせそうだが、敵は今だ大量の爆弾を有している、彼の安全を考えるなら万が一の事態を想定して、最短距離で逃がすべきだ。
下野「白石さん。急いでこちらに来てください。」
ソファーからひょっこりと顔を出す白石。
テロリストの死体を目にする。
それは恐ろしい光景だが、自分の目の前から脅威が取り除かれ安堵する。
白石はずっと死の恐怖の中に閉じ込められていたのだ。
小走りで下野の方へとやってくる。
彼と一緒にいるのがもっとも安全なのだと確信した。
それは飼い主に寄り添う子犬のような心情だ。
下野は積み上げられた机に左手をつき、ジェットエンジンを吹かした。
アルミサッシがへし折れ、ばらんと家具が外に転がってゆく。
それでもまだ、腰の高さ程度に家具が積み上がっているので、かがんで今一度家具を外に押し出す。
下野は白石の肩を背中から抱き寄せ、外に向かって叫んだ。
下野「私が白石さんを外に行かせます!」(英語)
表を見ると、軍のスナイパーが残りの3部屋の窓に狙いを定め、盾を持った警官が数名近づいてくる。
背後からも、下野が開けた穴から廊下に向かって銃声がする。
危険を承知で軍がバックアップしてくれているようだ。
警察も軍も迅速に対応してくれている。
警官と兵隊の配置状況を確認し、下野は今なら白石を表へ出せると判断した。
そして、外にも聞こえるように大きな声で叫ぶ。
下野「白石さん!動いて!」(英語)
下野は肩をつかんでいる手をポンと放した。
白石は不安げに下野を見た後、恐る恐る解放への一歩を踏み出す。
外の警官たちが”行け、今だ”(英語)としきりに手招きしているのを見て、一気に外へと駆け出してゆく。
その途中で忘れ物をしたように立ち止まって振り返る。
白石「ありがとう!」
下野が腕を突き出す。
下野「いいから!走って!!」
白石に群がり、彼を確保する警官たち。
下野が安堵したのもつかの間、背中にぴんぴんと銃弾が当たる衝撃。
弾は東レゼロFの表面を滑って行く。
そうだ、まだ5人敵は残っている。
廊下を制圧した敵が、物陰に隠れて自分を狙っているらしいな。
手榴弾を投げ入れられた。
死体はそれぞれ自爆用の爆弾を腹に巻いているだろう。
その近くで爆発されたらたまらない、誘爆してしまう。
おいおい!まだ死ぬ気はないぞと、富士鏡の腹で手榴弾を廊下へと打ち返した。
名刀にとってはさぞかし屈辱的な使われ方だったろう。
さて、壁を切って隣の部屋に移動したいところだが…見取り図を思い出す。
この面はたしかシャワー室とクローゼットが両の部屋から背中合わせに並んでおり、ここを通ると一時的に密室に閉じ込められることになる。
明らかに不利だ。
結局自分も窓から建物の外に出て、ジェットエンジンでジャンプしチップのところに行く。
彼は山のように動かず、堂々として戦場と向きあっている。
下野「私はあなたに爆撃をお願いできるか?」(英語)
ややとぼけた表情で、片眉をぴくりと動かすチップ。
若いのに、なかなかいい判断をすると思った。
血の気が多いだけの馬鹿なら、少々無茶でも突っ込んでゆく。
素人丸出しの無駄な深追いだというのにだ。
チップ「問題ない。」(英語)
彼は無線機ですぐに手配をした。
アパッチと言っているのが聞き取れたので、爆撃機ではなく攻撃ヘリを2機手配したようだ。
ヘリを待つ間、下野がバルコニーをジャンプして周り、中の様子を確認する。
人質を失った敵が何をしてくるかわからない。
この行為は敵に対する威嚇にもなる。
今一度狙撃兵の配置を確認し、気を抜かないよう指示をするチップ。
ヘリの音が近づいてきたので、建物から離れる下野。
警官へも退避命令が出た。
いよいよ始まる。
この時点で、チップの表情から力が抜けた。
下野は勝利を確信したその表情を見て”戦いは終わった、勝ったのだ”と知った。
下野「shutdown -(ハイフン)h now」
軟式甲冑のシステムを落とした。
もう必要ないだろう。
2機のアパッチは建物の両側に向かい合って止まり、チップの合図で砲撃を開始した。
国道沿いにぽつんと立っている小さなモーテルに、チェーンガンとロケット砲が容赦なく打ち込まれてゆく。
建物はあっという間に形を失ってゆく。
テロリストたちの悲鳴も怒声も攻撃ヘリの作り出した爆音で聞こえない。
彼らの爆弾の山に誘爆し、巨大な火柱が上がった。
警官や兵士たちが轟音に耳を塞ぎ、首をすくめた。
ヘリは十分に距離をとっていたが、それでも爆風とその後起こった上昇気流に姿勢を乱された。
腕を組んで立つチップが、隣に立つ下野に話す。
轟音に負けないように、大声でだ。
チップ「彼らはでかい一つを持っていたな。」(英語)
下野はうなづきながらチップの耳元で叫ぶ。
下野「あれは本当に危険だ。」(英語)
やがて攻撃ヘリは去ってゆき、代わりに消防車がやってきた。
下野は着替えを済ませ、陸軍と一部を除いた警官は撤収を始めていた。
チップに誘われてハンヴィーに乗る下野。
目的地を聞かれ空港と答えようとしてはたと気づく。
思わず”あ!しまった!”と天を仰いだ。
チップ「Shit?A matter?」
下野は”無理に音を英単語に置き換えなくていいよ”と思った。
しかもその意味が微妙に正解にかすってるところが、とても嫌だ。
下野「私は私のパスポートを持っていない、今。」(英語)
チップは薄く笑みを浮かべ、数回小さくうなづいた。
チップ「判った。君は間違った車に乗った。」(英語)
ハンヴィーから降ろされた下野は、パトカーの後部座席へ載せられた。
助手席の警官にチップが下野を紹介する。
チップ「彼は彼のパスポートを持たない不法入国者だ。彼のための強制退去手続きが必要だ。」(英語)
下野「チップ!」
ぎょっとして、彼のほうを見たがニヤリとウィンクされてしまった。
嘘だろう?と思った、犯罪車扱とは冗談きつすぎる。
しかし彼は更に続けた。
チップ「彼は非常に強暴だ。あなた達は彼に手錠をかけたほうが良い。」(英語)
下野「チィーップ!!」
彼は口笛を吹きながら去ってゆく…楽しそうだなオイ。
車内に3人いる警官は皆いたずらっぽい笑顔で下野を見ている。
そして全員が一斉に手錠を取り出した。
下野「まじかよっ!」
手首に一つ、足首に一つ、隣に座っている女性警官と下野の手首をつなぐために一つ。
皆楽しげだ。
助手席の警官がカメラを取り出した。
すぐに隣の女性警官が抱きついてきた。
下野「イタイ!イタイ!」
手錠が引っ張られ、手に食い込んだ。
だが、皆、そんなのお構いなしだ。
帽子をかぶせられたり、頬にキスをされたりと散々おもちゃにされ、何枚も写真を撮られた。
市街地までの道行きは3人とも大人しかったが、隣の女性警官がIN-N-OUT BURGERを発見し、運転席の警官が”自分はつかんだ”(英語)と店に向けてハンドルを切ったあたりから、またテンションが上がってゆく。
手錠を外してくれるのかと思ったら、そのまま店に入るようだ。
女性警官がそりゃあもう楽しそうに下野を引っ張ってゆく。
店の中では、見ているだけで胸焼けしそうな4×4と大量のフレンチフライを前に”彼女はいるのか”とか”年齢は”とか兎に角質問攻めにされた。
女性警官が”童貞なら私に任せて”と言ったので、ほかの二人は机を叩きながら大喜び。
しかし下野が自分の年齢を正直に答えると、皆それよりずっと低い年齢を想像していたらしくひどく驚いていた。
どれだけ童顔に見積もっても、高校を卒業したばかりの新兵だと思っていたようだ。
自分の階級を答えると、皆驚いて固まってしまった。
気安くじゃれていたが、相手はエリートさんだった。
食事が終わった後、警察署に連れて行かれてそのまま留置された。
下野「はははー、強制送還ってのは本当なんだ。」
牢屋ってところにはじめて入った。
翌日の朝、日本大使館から子安武人という男が身元引き受けに来たと警官に聞かされた。
まもなく本人が登場、牢屋に入ってきて下野の横に座った。
子安「日本大使館の子安と言います。」
握手を求めてきたので応じた。
その分厚い感触に驚く。
子安「おっほ。これはとんでもない手ですねー。」
下野「どうも。」
お互いに手を退げる。
子安「早速ですが、今、身分を証明できるものはお持ちですか?」
下野はポケットから財布を取り出した。
開くと運転免許証が入っている。
下野「これでいいですか?」
取り出して子安に差し出した。
子安「十分です。ちょっとお預かりしていてもいいですか?」
下野は無言で頷いた。
やわらかい笑顔で下野の目を覗く子安。
子安「もう数日、我慢していただけますか?あなたを国外に退去させるには、強制退去を執行する効力のある書類が必要になります。つまり、令書の執行を持ってあなたを日本に返せるわけですね。」
下野は無言のままただ頷いている。
やることはやったし、帰る手順にはあまり興味が無かった。
子安「警察と州には話を通してあります。あなたはこの牢から出られますよ。私がホテルを手配しました。令書が発行されるまでは観光を楽しまれると良いでしょう。」
下野が頷くと”では行きましょう”と、牢屋の外に連れ出された。
パトカーをタクシー代わりにホテルへ向かった。
408号室の鍵を受け取り、エレベーターに乗る。
部屋の鍵は子安が開けてくれた。
どうぞと案内されてびっくり、だだっ広くてゴージャス、オイオイ!こんなとこ一泊何十万円するんだ!?
子安が下野に部屋の鍵と携帯電話、それとドル紙幣の束を渡す。
子安「観光は自由ですが、州の外には出ないでください。脅しではなく、逮捕されます。あと、何か問題がありましたらこの携帯で私にお電話ください。真夜中でも構いません。」
手にさげたバッグを床に置き、差し出された三つを受け取る下野。
下野「お世話になります。」
深々と頭を下げた。
ぼーっとしてはいたが、自分に対して尽力してくれる相手には礼をするよう身に染みついている。
条件反射みたいなものだ。
子安は下野の頭を上げさせ、去ってゆく。
子安「最優先で処理します。気を楽にして、待っていて下さい。今回は非常に特殊なケースなのです。該当する法がないので、強制退去の手段をとるだけです。幸いあなたは自国に帰りたがっていますから、形だけの手続きになるでしょう。」
エレベーターのドアが閉まり、彼の姿は見えなくなった。
3日後、簡単な尋問があり、日本に帰れることになった。
羽田空港で待っていたのは、石川英郎陸将補。
ノートPCを脇に抱えている。
彼の姿を認めた下野はすぐに彼の元へと向かった。
姿勢を正し敬礼する。
下野「ただいま戻りました。」
うむと頷く石川。
石川「空港に頼んで部屋を借りている。来い。」
下野「ハイ。」
事務員の女性に、空港内にある応接室へと案内された。
席に着き、ノートPCを開く石川。
石川「お前があの会議を去ってから今までの経緯を全て話せ。」
下野「ハイ。」
下野が話し、それを石川がパソコンでまとめてゆく。
ひと通り終わると石川が質問をし下野が答え、それを追記してゆく。
質問は微に入り細に渡り、気がつくと2時間がたっていた。
ここで石川が下野を厳しく問いただす。
石川「米軍を紹介してくれたお前の”友人”とは誰のことだ?」
しかし、下野に豊崎愛生の名を出すつもりは全く無い。
下野「友人であります。」
ギロリと石川が睨みつけてくる。
下野に動じる気配はない。
これを見て石川は言おうとしていた言葉を引っ込め、別な方向から攻めることにした。
石川「お前を立ててやっているだけで、石田に聞いてもいいんだぞ。あいつならちょっとつつけばすぐに話すだろう。」
たしかにその通りだとうなづき、石川の手をぎゅっと握る下野。
下野「大切な友人です。」
短く簡単な言葉を握る手の決意で、数百ページの願書レベルへと強烈に補足する。
石川「どうしても話したくないのか?私が見逃しても上から追求されるぞ。」
だが、下野の目は揺るぎなく攻撃してくる。
下野「話せないと言ったほうが良いかもしれません。陸将補も含めて、多くの人のためになりません。」
このキツイ台詞にため息をつく石川。
政治的にデカイことになっているからそっとしておけと、この小わっぱは上官を脅している。
逆に自分の上官の顔を思い浮かべる石田。
こういっちゃお偉いさんに失礼だが、逆立ちしたって他国と喧嘩できそうにない。
下野から友人の名を聞き出して報告しても、彼らにとってはいい迷惑なのかもしれないな。
ノートPCを閉じる。
石川「判った。ここは私が何とかしておこう。」
下野は手を引き頭を下げる。
下野「申し訳ありません。」
石川「いいよ。個人的にはこれくらいのほうが頼もしい。さぁ、帰るぞ。」
立ち上がる石川に”ハイ”とついて行く下野。
ドアノブに手を伸ばしながら、石川は言葉を付け加える。
下野がごねるから、そっちに熱くなりすっかり忘れていたことだ。
石川「おっと、、それとな、東レゼロFは国が管理することになった。輸出や情報の公開は厳禁だ。今日は家に帰りゆっくり休め。」
下野「ハイ。」
その凛とした起立姿勢が崩れたのは次の瞬間。
石川が自分のバッグを手に取ろうとしたので、慌ててひったくる下野。
間違っても上官に荷物もちはさせられない。
あー、驚いた。
石川「それをよこせ。」
いや、いや、いや、渡せられないから…つか、持たせられないから。
さっきまでの威勢はどこへやら、その目は泳ぎ、怯えていさえする。
下野「いえ、自分が運びます。」
石川「国家機密だといったろう。自宅に持ち帰ることは許さん。私が研究室まで運ぶ。」
むり、むり、むり、もっとダメ!!上官にお使いなんてさせられないから。
下野「では私がご一緒して、研究室まで運び、それから家に帰らせていただきます。」
石川のため息に下野の緊張感が高まる…怒らせたか?
石川「お前は本当に頑固な男だな。好きにしろ。」
結局、研究室のある演習場まで石川の車で送ってもらい、正門の前で別れた。
そのとき下野がテロリストの報復攻撃を心配して、対策会議を開いては?と石川に提案した。
ぽんと下野の胸を叩く石川。
石川「ふっ、それは心配するな。大樹に寄り添う八方美人は日本のお家芸でな、アパルトヘイトの時でさえ日本は”特別白人”とされていたんだ。まぁ、俺たちに任せておけ。」
下野は馴染みの隊員と挨拶を交わしながら廊下を進む。
研究室に入ると、石田が自分の机に突っ伏してぐったりしている。
下野は軟式甲冑を片付け、コーヒーを入れて打ち合わせテーブルに座った。
ホッと一息ついた。
研究室って、こんなに落ち着く場所だったんだなと、今更見慣れた天井をじっと眺めた。
首を捻ってゴキゴキと鳴らす。
両足を伸ばした。
さて、コーヒーをもう一口と、視線を落とす。
下野「ぶっっ!!」
下野の顔を覗き込む、どん底に情けない石田博士の顔が目に飛び込んできた。
下野「ど、どうしたんですか?顔の筋繊維がブチ切れたんですか?すげー顔してますよ?」
石田博士は下野の両腕を掴んで揺さぶる。
石田「ねぇ?ゼロFが国家機密ってどゆこと?」
下野はどういうことも何もと、話の要点を得ない。
下野「言葉通りの意味です。ゼロFは国が管理します。」
頭をかきむしり、天に叫び訴える石田。
石田「あーぅ!なーぁぁあああああっっううっ!!ちがーあああああぅっっ!!」
ぐりんと下野を恨み深げに見据える石田博士。
石田「僕はね!君の活躍でゼロFの性能が世界に知れ渡り、世界中の軍や警察から問い合わせが来ると期待していたのですよ!!」
下野には、石田の言いたいことがまだわからない。
下野「はぁ。」
のんきに頭を掻いている。
それが石田をさらに苛立たせる。
石田「大儲けーっ!できるぅーっ!ハズだったのっーっっ!!」
おーっと下野が拳で手のひらをぽんと叩く。
わかったわかった、、つまり、ほぼ確信していた皮算用のアテが外れて、博士様はお怒りなのだ。
とはいえ軍の要人や国に直接物申せないので、下野に怒りをぶつけていると。
石田「しかもーっ!!ぼく、これから当分!特許の取得や、関連会社との契約とか!法律関係の事務仕事ばかりなんだよおう!?だぁあいっっきらいなのにぃっっ!!」
いや、疲れて帰ってきたので、八つ当たりの的はゴメンですたい。
下野「あっ!」
すっとんきょうな声を上げて窓の外を指さした。
つられて外を見てしまう石田博士。
窓の外は平和な青空、カラスも飛んでて馬鹿が見るぅである。
下野「脱出!」
ダッシュで研究室を逃げ出して行った。
石田「あーっ!卑怯者ーっっ!!」