尹派八卦掌

知っている人は知っている秘伝-中国伝統武術

50年代の記憶

2007-10-12 21:40:04 | Weblog
前回にも書きましたが、王先生の家は北京で五本指に入る大変有名な家系で、大きなお庭つきの邸宅を構えていました。後に、私有財産として邸宅は政府に回収されてしまいましたが、50年代まで、王宅は尹派八卦掌伝人たちの集まり場になっていました。

王尚智師は5、6歳のごろから、老先輩たちの練習をよく目にしていました。王先生によると、あの時、老先輩たち切磋琢磨の姿を鮮明に覚えていて、「交手」の場面は最も面白かったとのこと。あの時の練習雰囲気は、今の武術界ではなかなか再現できない、と先生は時々口にします。

当時、伝統武術は「旧社会の陳腐」として、公の場で姿を見せられない状況でした。尹派八卦掌の場合は、さらに「度が重い」。宮廷の大臣や貴族たちの間だけに教えていたため、継承者たちはいわゆる「ブルジョア階級」の末裔が多かったのです。新しい「無産階級」共産党政府の統治のもとで、彼らの立場だとは頭が上げられません。

例えば、何忠祺の家は、西太后からもらった北京郊外にある数百里面積の土地が、建国後全て没収されました。何忠祺の仕事も、以前は武術教頭だったが、新しい中国では地方公安局の雑用係の職になりました。とは言うものの、王先生によると、実際には、犯人を捕獲する現場にいくとき、何師匠はよく同行するように頼まれていました。とにかく、「身分が悪い」後継者たちは新しい政府で、自分の過去を隠すことで精一杯でした。そんな環境で特に八卦掌の伝承はほとんど行われませんでした。弟子を持ったり、しっかり後世へ伝えていけるような状態ではなかったのです。王宅に集まって練習するの仲間たちは、どのような思いだったのでしょうか?

そのような王宅の50年代の光景も文革によって途絶えてしまいます。