思う所があって、
敬愛する夏目漱石が弟子の芥川龍之介に宛てた手紙を、
ここに載せたいと思います。
幾度ともなく、
心が折れかけたり
舵を失いかけた時
読み返してきました。
一字一句がずっしり心に響きます。
音楽家、演奏家として以前に
人間として成長する事が先ず大切だと。
牛になる事はどうしても必要です。吾々はとかく馬になりたがるが、牛には中々なり切れないです。僕のような老獪なものでも、只今牛と馬がつがって孕める事ある相の子位な程度のものです。
あせっては不可せん。頭を悪くしては不可せん。根気づくでお出なさい。世の中は根気の前に頭を下げることを知っていますが、火花の前には一瞬の記憶しか与えて呉れません。うんうん死ぬ迄押すのです。それだけです。決して相手を拵へてそれを押しちゃ不可せん。相手はいくらでも後から後から出て来ます。そうして我々を悩ませます。牛は超然として押して行くのです。何を押すのかと聞くなら申します。人間を押すのです。文士を押すのではありません。