「もし失ったものがあったとしても、その開いた空間に運びこめるものがきっとある。
サッカーだって同じことだよ。」
我々の住むこの世界には、小さな、奇妙な巡り合わせ ――あるいは神秘的な出来事と言ってもいい―― が
存在する事をあなたはどう思うだろうか。
どのようなケースも、一見まったく内容的には取るに足りない出来事である。
それが起こったことによって、人生の流れに変化がもたらされる訳ではない。
我々としてはただ、ある種の不思議さに打たれるだけだ。こういうことも実際に起こるものなのだ、と。
しかし"それ"は、明らかに存在する。確実に、完璧に。
実のところ、私はオカルト的な事象には関心をほとんど持たない人間である。
占いに心を惹かれた事もない。
わざわざ占い師に手相を見てもらいに行くくらいなら、自分の頭を搾ってなんとか問題を解決しようと思う。
決して立派な頭ではないのだが、それでもその方が話が早いような気がする。
超能力についても無関心だ。
輪廻にも、霊魂にも、虫の知らせにも、テレパシーにも世界の終末にも、正直言って興味はない。
まったく信じないと言うのではない。
その手のことがあったって別にかまわないとさえ思っている。
ただ単に個人的な興味が持てないというだけだ。
しかしそれにもかかわらず、少なからざる数の不可思議な現象が、我々のささやかな人生の
ところどころに彩りを添えることになる。
それについて私は何か積極的な分析をするか?しない。ただそれらの出来事をとりあえず
あるがままに受け入れて、あとはごく普通に生きているだけだ。
ただぼんやり、「そういうこともあるんだ」とか「神様みたいなのがいるのかもしれないな」
みたいな事を思って。
スッドセントラルを本拠地とするフットサルチームb.m.minamiに所属する、ミノール・イシダービッツもまた
そのような「奇跡」に彩られた体験を持つ一人である。
■少年時代が教えてくれたもの
「考えたり立ち止まったりする暇も隙間のないというのは、当時の私にとって
決して悪い状況ではないように思えなくもなかった。」
ミノール・イシダービッツへのインタビューは、秋口の気持ち良い風が吹く10月の晴れた日
スッドセントラルの練習コート脇で行われた。
誰かが置いた芝生の上のラジオから、砂糖を入れすぎた甘たるいコーヒーのような
ポップソングが風に乗って微かに聞こえている。
失われた愛だとか、失われそうな愛だとかについての歌だ。
太陽の光が、半袖の両腕に静かに吸い込まれていく。
― 前節は、移籍したばかりだったにも関わらず素晴らしい活躍でチームを勝利に導きました。
「本当にラッキーだったね。移籍してすぐに活躍できるなんて、めったに経験できることじゃない。
でも、僕が導いたんじゃないよ(笑)。b.m.minamiには世界の超一流プレーヤーがひしめいているからね。
― でも、君の力は大きかった。
「ありがとう。」
― 試合開始直後は少し動きが硬かったようにも見えました。
「そうだね。周囲の期待も前とは格段に違っていたし、プレッシャーがなかったといえば嘘になるね。
でも、チームメイトとのコミュニケーションが深まるにつれて、よりファミリーのような雰囲気
の中でプレーできるようになった。その証拠は試合結果をみれば明らかだろう? それと・・・
個人的なお守りがグラウンドに届くのが遅れてね。」
― あなたの出場する試合のベンチに、いつも置かれているあの古いマリオネット人形の事ですか?
「ああ。試合に出るときはいつもあの人形を置いておくんだ。あれが無いと、自分が自分でないような
動きしか出来ない。ちょっとしたおまじないと言うか、とにかくあれは特別な人形なんだ。
あの人形が壊れる時は、僕が現役を引退する時だろうね。」
― それはジンクスのようなものですか?良ければ、話を聞かせてくれないかな?
澄み切った彼の目にうっすらと影が差し、しばしの沈黙が訪れた。
一ダース分の柔らかな秋の風が練習コートを通り過ぎた後、彼は静かに語りだしてくれた。
<続く>
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サッカーだって同じことだよ。」
我々の住むこの世界には、小さな、奇妙な巡り合わせ ――あるいは神秘的な出来事と言ってもいい―― が
存在する事をあなたはどう思うだろうか。
どのようなケースも、一見まったく内容的には取るに足りない出来事である。
それが起こったことによって、人生の流れに変化がもたらされる訳ではない。
我々としてはただ、ある種の不思議さに打たれるだけだ。こういうことも実際に起こるものなのだ、と。
しかし"それ"は、明らかに存在する。確実に、完璧に。
実のところ、私はオカルト的な事象には関心をほとんど持たない人間である。
占いに心を惹かれた事もない。
わざわざ占い師に手相を見てもらいに行くくらいなら、自分の頭を搾ってなんとか問題を解決しようと思う。
決して立派な頭ではないのだが、それでもその方が話が早いような気がする。
超能力についても無関心だ。
輪廻にも、霊魂にも、虫の知らせにも、テレパシーにも世界の終末にも、正直言って興味はない。
まったく信じないと言うのではない。
その手のことがあったって別にかまわないとさえ思っている。
ただ単に個人的な興味が持てないというだけだ。
しかしそれにもかかわらず、少なからざる数の不可思議な現象が、我々のささやかな人生の
ところどころに彩りを添えることになる。
それについて私は何か積極的な分析をするか?しない。ただそれらの出来事をとりあえず
あるがままに受け入れて、あとはごく普通に生きているだけだ。
ただぼんやり、「そういうこともあるんだ」とか「神様みたいなのがいるのかもしれないな」
みたいな事を思って。
スッドセントラルを本拠地とするフットサルチームb.m.minamiに所属する、ミノール・イシダービッツもまた
そのような「奇跡」に彩られた体験を持つ一人である。
■少年時代が教えてくれたもの
「考えたり立ち止まったりする暇も隙間のないというのは、当時の私にとって
決して悪い状況ではないように思えなくもなかった。」
ミノール・イシダービッツへのインタビューは、秋口の気持ち良い風が吹く10月の晴れた日
スッドセントラルの練習コート脇で行われた。
誰かが置いた芝生の上のラジオから、砂糖を入れすぎた甘たるいコーヒーのような
ポップソングが風に乗って微かに聞こえている。
失われた愛だとか、失われそうな愛だとかについての歌だ。
太陽の光が、半袖の両腕に静かに吸い込まれていく。
― 前節は、移籍したばかりだったにも関わらず素晴らしい活躍でチームを勝利に導きました。
「本当にラッキーだったね。移籍してすぐに活躍できるなんて、めったに経験できることじゃない。
でも、僕が導いたんじゃないよ(笑)。b.m.minamiには世界の超一流プレーヤーがひしめいているからね。
― でも、君の力は大きかった。
「ありがとう。」
― 試合開始直後は少し動きが硬かったようにも見えました。
「そうだね。周囲の期待も前とは格段に違っていたし、プレッシャーがなかったといえば嘘になるね。
でも、チームメイトとのコミュニケーションが深まるにつれて、よりファミリーのような雰囲気
の中でプレーできるようになった。その証拠は試合結果をみれば明らかだろう? それと・・・
個人的なお守りがグラウンドに届くのが遅れてね。」
― あなたの出場する試合のベンチに、いつも置かれているあの古いマリオネット人形の事ですか?
「ああ。試合に出るときはいつもあの人形を置いておくんだ。あれが無いと、自分が自分でないような
動きしか出来ない。ちょっとしたおまじないと言うか、とにかくあれは特別な人形なんだ。
あの人形が壊れる時は、僕が現役を引退する時だろうね。」
― それはジンクスのようなものですか?良ければ、話を聞かせてくれないかな?
澄み切った彼の目にうっすらと影が差し、しばしの沈黙が訪れた。
一ダース分の柔らかな秋の風が練習コートを通り過ぎた後、彼は静かに語りだしてくれた。
<続く>
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