お久しぶりです。まいどおなじみくまのサンタです。
クリスマスはとおおっくに終り、もうすぐおひな祭りの季節ですが、くまのサンタです。
せっかくプレゼントをあげても、注目されるのは年に1回だけ。なんだかさびしい職業ですね。
さて、今回ご紹介するのはおひな祭りにちなんだもの。これがほんとうかうそかは皆様でご判断ください。
~ ~ ~ ~ ~
「きょうは楽しいひなまつり~♪おかあさーん、このお雛さん、ここでいいの?」
「そうねえ、もう一つ右かな。それとゆみちゃん、それはお雛さまじゃないのよ。三人官女っていうの」
「それくらい知ってるよ。でもさ、三人官女って、みんな“三人官女”じゃない。名前がないみたいでかわいそうだもん」
「あら、そうねえ。でもそれじゃあ、お雛さまっていうのも、一番上の段のお雛さまといっしょになっちゃうわよ?」
「それもそっかあ。うーん、よし。じゃあ、このお人形は私と同じ、“ゆみ”にしよう」
「ほかの三人官女の名前はどうするの?」
「ほかのはいいの。だって、この三人官女は昔私が壊して、おばあちゃんに新しく買ってもらった人形だもん。ゆみはとくべつなお人形なの」
たしかに、三人官女のなかで、ゆみと名づけられた1体は後から買い足されたお雛さまでした。それは、他の2体がすまし顔をしているのに対して1体だけ、微笑んでいることからも、簡単にわかることでした。
こうして、この1体はゆみと名づけられました。でも、それはゆみにとっては悲劇の始まりでした。
~ ~ その夜~ ~ ~ ~ ~
「ねえ、けさ聞こえたゆみって子、どの子?」
「三人官女って聞こえたけど」
なにやらひそひそと話し合う声がきこえます。
「なんでも新しく入ってきた子らしいわよ。どんな顔しているのかしら」
「あ、わたし見てた。あのまん中の子」
「まん中って、あの髪のきれいな子?」
ゆみからは見えない高い位置からぼそぼそと聞こえてきます。
(あーもう、うっとおしいなあ。でも、ふりかえることはできないし)
「ねえねえ、みんなあなたのことうわさしているわよ」
とつぜん、左隣の三人官女が話しかけてきました。
「しってるわよ。あれだけ大きな声でしゃべられればいやでも気づくわ。そんなに珍しいのかしら。ったく、これでふりかえることさえできたら、どなりちらしてやるのに」
と、そのとき、右隣の三人官女がゆみをじっとみていました。ゆみがふりむくと、ぱっと目をそらしました。
「なに?」
「いや、あの、その……、そんなんじゃないと思う、よ。ここに新しく入ったの、は、はじめてだから、その、あなたが、ね。わたしも、会うの、初めて・・・、だけど」
しばらくおしだまったあと、意を決したように言いました。
「きれい、なの」
うんうん、とうなずくおとが響きました。
「きれいってなにが。みんなといっしょじゃない。黒髪に、赤い着物に、白い顔。どこが違うっていうの」
左隣の三人官女がふっと声をたてました。
「そうねえ、優しい目つきとか、ほら、私たちってみんなすまし顔じゃない?でも、あなたはそうじゃなくて、なんだかやんわりしてるっていうか」
「でも、そんなの後ろには見えないはずじゃない」
「顔だけじゃないのよ。髪も、私たちはただまっすぐの髪だけど、あなたの場合は少しボリュームがあって、ふわっとしてて。なんだかあこがれちゃうなあ」
ため息がそこここから聞こえてきました。右隣の三人官女も少しうつむいて、なんだか微笑んでいるようでした。
「ねえ、あなたのいたところはみんなそんな優しい顔をしているの?」
後ろに立っている二人官女が聞いてきます。
「そんなことはないわよ。今だって、すまし顔の人形はいるわ。でも、笑っているのも少なくないわね」
「へえ。具体的にはどんな子がいるの?」
質問攻撃が始まりました。上の段から、下の段から、どんどん質問が飛び出してきます。
この状態は次の朝まで続きました。
~ ~ 朝になって ~ ~
「おはよう、お母さん。おはよう、ゆみ。……うん?ねえ、お母さん」
「なあに、どうしたの?」
「ゆみがへん」
「へんって?・・・あら、ほんとう。なにがついたのかしら」
買ってもらったばっかりの白いゆみの顔は、一晩かかった質問攻めで青く変色していました。
クリスマスはとおおっくに終り、もうすぐおひな祭りの季節ですが、くまのサンタです。
せっかくプレゼントをあげても、注目されるのは年に1回だけ。なんだかさびしい職業ですね。
さて、今回ご紹介するのはおひな祭りにちなんだもの。これがほんとうかうそかは皆様でご判断ください。
~ ~ ~ ~ ~
「きょうは楽しいひなまつり~♪おかあさーん、このお雛さん、ここでいいの?」
「そうねえ、もう一つ右かな。それとゆみちゃん、それはお雛さまじゃないのよ。三人官女っていうの」
「それくらい知ってるよ。でもさ、三人官女って、みんな“三人官女”じゃない。名前がないみたいでかわいそうだもん」
「あら、そうねえ。でもそれじゃあ、お雛さまっていうのも、一番上の段のお雛さまといっしょになっちゃうわよ?」
「それもそっかあ。うーん、よし。じゃあ、このお人形は私と同じ、“ゆみ”にしよう」
「ほかの三人官女の名前はどうするの?」
「ほかのはいいの。だって、この三人官女は昔私が壊して、おばあちゃんに新しく買ってもらった人形だもん。ゆみはとくべつなお人形なの」
たしかに、三人官女のなかで、ゆみと名づけられた1体は後から買い足されたお雛さまでした。それは、他の2体がすまし顔をしているのに対して1体だけ、微笑んでいることからも、簡単にわかることでした。
こうして、この1体はゆみと名づけられました。でも、それはゆみにとっては悲劇の始まりでした。
~ ~ その夜~ ~ ~ ~ ~
「ねえ、けさ聞こえたゆみって子、どの子?」
「三人官女って聞こえたけど」
なにやらひそひそと話し合う声がきこえます。
「なんでも新しく入ってきた子らしいわよ。どんな顔しているのかしら」
「あ、わたし見てた。あのまん中の子」
「まん中って、あの髪のきれいな子?」
ゆみからは見えない高い位置からぼそぼそと聞こえてきます。
(あーもう、うっとおしいなあ。でも、ふりかえることはできないし)
「ねえねえ、みんなあなたのことうわさしているわよ」
とつぜん、左隣の三人官女が話しかけてきました。
「しってるわよ。あれだけ大きな声でしゃべられればいやでも気づくわ。そんなに珍しいのかしら。ったく、これでふりかえることさえできたら、どなりちらしてやるのに」
と、そのとき、右隣の三人官女がゆみをじっとみていました。ゆみがふりむくと、ぱっと目をそらしました。
「なに?」
「いや、あの、その……、そんなんじゃないと思う、よ。ここに新しく入ったの、は、はじめてだから、その、あなたが、ね。わたしも、会うの、初めて・・・、だけど」
しばらくおしだまったあと、意を決したように言いました。
「きれい、なの」
うんうん、とうなずくおとが響きました。
「きれいってなにが。みんなといっしょじゃない。黒髪に、赤い着物に、白い顔。どこが違うっていうの」
左隣の三人官女がふっと声をたてました。
「そうねえ、優しい目つきとか、ほら、私たちってみんなすまし顔じゃない?でも、あなたはそうじゃなくて、なんだかやんわりしてるっていうか」
「でも、そんなの後ろには見えないはずじゃない」
「顔だけじゃないのよ。髪も、私たちはただまっすぐの髪だけど、あなたの場合は少しボリュームがあって、ふわっとしてて。なんだかあこがれちゃうなあ」
ため息がそこここから聞こえてきました。右隣の三人官女も少しうつむいて、なんだか微笑んでいるようでした。
「ねえ、あなたのいたところはみんなそんな優しい顔をしているの?」
後ろに立っている二人官女が聞いてきます。
「そんなことはないわよ。今だって、すまし顔の人形はいるわ。でも、笑っているのも少なくないわね」
「へえ。具体的にはどんな子がいるの?」
質問攻撃が始まりました。上の段から、下の段から、どんどん質問が飛び出してきます。
この状態は次の朝まで続きました。
~ ~ 朝になって ~ ~
「おはよう、お母さん。おはよう、ゆみ。……うん?ねえ、お母さん」
「なあに、どうしたの?」
「ゆみがへん」
「へんって?・・・あら、ほんとう。なにがついたのかしら」
買ってもらったばっかりの白いゆみの顔は、一晩かかった質問攻めで青く変色していました。