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雛人形ゆみ(落語)

2012-02-16 15:31:39 | 日記
お久しぶりです。まいどおなじみくまのサンタです。
クリスマスはとおおっくに終り、もうすぐおひな祭りの季節ですが、くまのサンタです。
せっかくプレゼントをあげても、注目されるのは年に1回だけ。なんだかさびしい職業ですね。
さて、今回ご紹介するのはおひな祭りにちなんだもの。これがほんとうかうそかは皆様でご判断ください。

~      ~          ~          ~      ~


「きょうは楽しいひなまつり~♪おかあさーん、このお雛さん、ここでいいの?」

「そうねえ、もう一つ右かな。それとゆみちゃん、それはお雛さまじゃないのよ。三人官女っていうの」

「それくらい知ってるよ。でもさ、三人官女って、みんな“三人官女”じゃない。名前がないみたいでかわいそうだもん」

「あら、そうねえ。でもそれじゃあ、お雛さまっていうのも、一番上の段のお雛さまといっしょになっちゃうわよ?」

「それもそっかあ。うーん、よし。じゃあ、このお人形は私と同じ、“ゆみ”にしよう」

「ほかの三人官女の名前はどうするの?」
「ほかのはいいの。だって、この三人官女は昔私が壊して、おばあちゃんに新しく買ってもらった人形だもん。ゆみはとくべつなお人形なの」

たしかに、三人官女のなかで、ゆみと名づけられた1体は後から買い足されたお雛さまでした。それは、他の2体がすまし顔をしているのに対して1体だけ、微笑んでいることからも、簡単にわかることでした。

こうして、この1体はゆみと名づけられました。でも、それはゆみにとっては悲劇の始まりでした。


~    ~   その夜~    ~      ~    ~       ~




「ねえ、けさ聞こえたゆみって子、どの子?」
「三人官女って聞こえたけど」

なにやらひそひそと話し合う声がきこえます。

「なんでも新しく入ってきた子らしいわよ。どんな顔しているのかしら」
「あ、わたし見てた。あのまん中の子」
「まん中って、あの髪のきれいな子?」

ゆみからは見えない高い位置からぼそぼそと聞こえてきます。

(あーもう、うっとおしいなあ。でも、ふりかえることはできないし)

「ねえねえ、みんなあなたのことうわさしているわよ」
とつぜん、左隣の三人官女が話しかけてきました。

「しってるわよ。あれだけ大きな声でしゃべられればいやでも気づくわ。そんなに珍しいのかしら。ったく、これでふりかえることさえできたら、どなりちらしてやるのに」

と、そのとき、右隣の三人官女がゆみをじっとみていました。ゆみがふりむくと、ぱっと目をそらしました。

「なに?」

「いや、あの、その……、そんなんじゃないと思う、よ。ここに新しく入ったの、は、はじめてだから、その、あなたが、ね。わたしも、会うの、初めて・・・、だけど」

しばらくおしだまったあと、意を決したように言いました。

「きれい、なの」

うんうん、とうなずくおとが響きました。

「きれいってなにが。みんなといっしょじゃない。黒髪に、赤い着物に、白い顔。どこが違うっていうの」

左隣の三人官女がふっと声をたてました。

「そうねえ、優しい目つきとか、ほら、私たちってみんなすまし顔じゃない?でも、あなたはそうじゃなくて、なんだかやんわりしてるっていうか」

「でも、そんなの後ろには見えないはずじゃない」

「顔だけじゃないのよ。髪も、私たちはただまっすぐの髪だけど、あなたの場合は少しボリュームがあって、ふわっとしてて。なんだかあこがれちゃうなあ」

ため息がそこここから聞こえてきました。右隣の三人官女も少しうつむいて、なんだか微笑んでいるようでした。

「ねえ、あなたのいたところはみんなそんな優しい顔をしているの?」

 後ろに立っている二人官女が聞いてきます。

「そんなことはないわよ。今だって、すまし顔の人形はいるわ。でも、笑っているのも少なくないわね」
「へえ。具体的にはどんな子がいるの?」

質問攻撃が始まりました。上の段から、下の段から、どんどん質問が飛び出してきます。

この状態は次の朝まで続きました。


~        ~       朝になって    ~       ~     



「おはよう、お母さん。おはよう、ゆみ。……うん?ねえ、お母さん」

「なあに、どうしたの?」

「ゆみがへん」

「へんって?・・・あら、ほんとう。なにがついたのかしら」

 買ってもらったばっかりの白いゆみの顔は、一晩かかった質問攻めで青く変色していました。