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粟屋かよ子・Ψ(プサイ)が拓く世界を求めて

量子力学の理解を深めつつ、新しい世界観を模索して気の向くままに書きたいと思います。
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アメリカの正体――『覚醒の日米史観』より

2024-08-04 20:27:27 | 自己紹介
この6月30日に発刊してまもない、渡辺聡樹とジェイソン・モーガンの共著書『覚醒の日米史観:捏造された正義、正当化された殺戮』(徳間書店、1700円)を読んだ。
以前から、日本がアメリカから真に独立することの重要性を切実に思うようになるとともに、その実現が容易ならざることもひしひしと感じるようにもなっていた。
ユーチューブ動画などいろいろと視聴しているうちに、麗澤大学准教授のジェイソン・モーガンという人物を見つけた。

モーガンは1977年、アメリカ南部のルイジアナ州出身で「私は自分を白人と思ったこともなければ、アメリカ人ともあまり思っていない。自分はインディアンとの混血であり、ルイジアナの人間で、ワシントンが消えてもかまわないと思っています。それは、ごく普通の、ルイジアナ南部の沼地に住んでいる人々の常識でしょう」と言う(p.43)。
動画上で語る彼のとつとつとした日本語と素朴な風貌に、どことなく懐かしさ、日本人以上に日本的な懐かしさを感じていた。
同時に、アメリカ、日本、中国、ハワイなどの各地の大学で求道者のごとく研究し、その真っすぐな物言いは時に過激にもなる。

そんな彼が渡辺聡樹(北米在住の日米近現代史研究家)と対談したのがこの著書である。
この著書の「まえがき」で彼は「アメリカは、人間が初めてアメリカ大陸を踏んだまさにそのとき“建国”されたのであり、当時の北アメリカ大陸は言語的、政治的、民族的にも実に多様性に富んでいたのです。
その大陸に大西洋の反対側からピューリタンが押し寄せてきたことが、多様だったアメリカの終わりの始まりを意味しました。
インディアンを虐殺したのも、黒人奴隷の存在が長引いたのもそれが理由です」(p.8)と言い「南部の人の自由、そして日本人の自由を取り戻したい。これが本書にこめた切なる想いです(p.9)と締め括っている。

私は昔から、アメリカという国の出自そのものに大きな疑問を抱いていた。
だがそれを口にしても、まともに議論してもらえず、いつしか「こんな話はタブーなのだ」と自身に言い聞かせて、自分の胸の内に押し込めてきた。
ところが、ここにその話題を正面から提起している人がいた。
ソーシャルメディアの出現という、何だか騒々しいものに振り回される世の中になって、ゆっくり歳を取る暇もなくなったなと恨めしく思ってもいたが、今は感謝している。
ユーチューブがなかったら、私と同じような考えを抱いている人の存在も知らずに人生を終えるところだったのだ。
因みに、遺伝子ワクチンについて「おかしい」と思った時も、周辺に誰一人理解者が存在せず、ソーシャルメディアがなければ、一人で鬱々としていただろうと思う。

以下では大雑把に、この著書の紹介をする。
また、必ずしも網羅的ではなく、私の主観によりテーマを取捨選択したことも了承願いたい。
詳しく知りたい方は著書を直接読まれることをお勧めします――対談なので読みやすい。
なお、煩雑を避けて、モーガンをM、渡辺氏をWと略記させて頂いた。


第1章ふたつの敗戦国が暴いたアメリカの正体(pp.20-47)
 ここで2つの敗戦国のうち、1つは無論、第二次世界大戦で負けた日本ですが、もう1つはアメリカ合衆国における南北戦争の敗戦国である南部です――Mの故郷でもある。
 南北戦争は奴隷解放戦争だと言われている(アメリカ人もそう思わされている)がそうではない。
 南北戦争の目的は北部こそが絶対的な善であり、それに背いた南部は悪という図式の下で、アメリカ合衆国を否定した南部の反乱者を徹底的に潰し「無条件降伏」を呑ませること。
 「奴隷解放」は、後で自分たちの絶対的な正義を強調するために創出した神話。
 その証拠に、奴隷解放が達成した後でも、リンカーンは戦争を拡大した。
 「その結果、南部は奴隷も非奴隷もみながワシントンの奴隷になってしまった。
 南部の奴隷制度が北部の産業的奴隷制度に合併させられた」(M, p.36)。
 「南部の中でさえさまざまな文化、文明があり、もともとインディアンという先住民がいるのに、憲法の下にひとつに融合させることじたいが無理矢理です。・・・
 本音をいうと“アメリカはすべての土地をインディアンに返せ”と言いたい。・・・
 そもそも理念で巨大な国をまとめ上げるという実験はもう終わったのではないかと思う」 (M, pp.42-43)
 
第2章世界史に混乱をまき散らす“ピューリタン帝国”(pp.50-77)
 合衆国を支配するワシントンの人々の宗教的ルーツには、キリスト教、正しくは「プロテスタント」、なかでもごく少数派で極めて排他的な宗派である「ピューリタン(清教徒)」の影響が大きい。
 イギリスにプロテスタントを導入したのはヘンリー八世(1491~1547)である。
 妻と別れ他の女性と結婚したいと思っていたヘンリー八世は、離婚が厳しく禁止されているカトリック教会を分裂させ、カトリック神父と司教を殺し、国家統治者を首長とするイングラン
 ド教会をたてた。
 更にカトリックの教えを広めることを禁止し、多くの信者も殺された。
 イングランド教会は、その後、次々と分裂し、秩序がなくなっていった。

 ピューリタンという一派が現れたのもその過程で、革命を通して根本的な改革を試みたが、それは排他的なイングランド教会からしても「過激」なものだった。
 そのため、王権べったりのイングランド教会がピューリタンを迫害するようになる。
 迫害されたピューリタンは大西洋を渡り、アメリカ大陸に逃げ込んだ → メイフラワー号!
 故に「アメリカ建国の父」がアメリカに渡ったのは、アメリカ大陸の原住民に福音を持っていくためなどではなく、自分の身を守るための「亡命」にすぎなかった。
 自分たちが絶対に正しいと思い込んでいる宗教的テロ組織=ピューリタンは北部の遺伝子。
 ピューリタンが分かれば、今のワシントンがよくわかる。(p.54)

 アメリカに渡った単なる一派だったピューリタンの群れはさらに不安定に分裂を始めた。
 例えば、弁護士のジョン・ウィンスロップはライバルのロジャー・ウィリアムズをマサチューセッツ湾植民地から追い出す → ウィリアムズは新たにロードアイランドを植民地とした。
即ち、プロテスタント同士なのに互いに宗教の自由を与えなかった → アメリカは州が多い。
 しかも、ウィンスロップの名演説(と言われる):「我らピューリタンは神と契約を交わした民であり、丘の上の輝く町のように世界は我らを模範として見ている・・・仲良く暮らしている
 ように見せることが重要である」
 この演説には、アメリカ大陸に住むアメリカ・インディアンに
ついて一切触れていない。 (pp.54-56)
 カトリック=キリストの血と肉の宗教(血を飲み救われる)。誰もが罪を持ち懺悔で救われる。
 プロテスタント=聖書主義。アメリカ大陸に入り白人至上主義に変貌。
         聖書が白人のやっていることを裏付ける →「マニフェストディスティニー」 (p.61)

 中国の中華思想はワシントンに似ており、歴史が大嫌いなところも共通している。
 アメリカの憲法~中国の朱子学。マニフェストディスティニー~中華思想
 アメリカにとっての黒人・黄色人~中国人にとっての「化外の民」
 西洋病=他人を蹴落とさなければ生き残れないという強迫観念が常識になっている
 中国と手を結ぶバチカンは「反カトリック」            (pp.64-77)

第3章“捏造神話”の人工国家は歴史が弱点 (pp.80-117)
 アメリカは味方の犠牲者を出してから復讐というパターンを繰り返している:
   真珠湾攻撃(犠牲者2400人)、9・11(2977人)、ハマス・イスラエル戦争 等 
 ワシントンとは、人を殺したい、人殺しをビジネスにしたいという一種のカルト集団。
その証拠にウクライナ戦争では、武器を売るだけで絶対に助けにはこない。
“死のカルト”であるワシントンを「同盟国」という親米保守は国民を騙している。
(キッシンジャー曰く「アメリカの敵になることは危険だが、友人になるのは致命的だ」)

アメリカ人の歴史認識の変化←ハマス・イスラエル戦争における反イスラエル運動の出現 (W、p.104)
                                   
ユダヤ人がメディアを支配しているからイスラエル支持の声が絶対的に強い・・・のではない。
アメリカ人が信じたい神話にイスラエルの存在が欠かせない・・・というのが真相。
 この双子のシオニスト(アメリカにとってはピューリタン版シオニスト)は、ユダヤ教とは
 ほぼ関係がなく、歴史を装った神話が全てです。
アメリカとイスラエルは「歴史がない」、あるいは歴史を勉強すると崩壊してしまうという意味で双生児なのです。
イスラエルの正当性については、みな聖書に書いてあると言いたがるが、聖書のイスラエルと
現在のイスラエルはまったく別の国です。            (M、pp.106-107)

「第二次世界大戦は正義のためにアメリカは戦った」という神話と、「世界史上ホロコースト
の最大の被害者であるユダヤ人」による「イスラエル建国」の正当性は、ワンセットになって
いるため、片方の前提が覆るとアメリカも共倒れになる。
たとえイスラエルがどんなに非道であっても、アメリカが支持せざるをえないのは、これが理
由です → 戦後は神話としてこれがまかり通ってきた。
「ナチスドイツの犠牲者であるユダヤ人を批判するのか」といえばみな黙ってしまう。
イスラエルを批判した人間に対してはユダヤ人批判だとすり替えればいい。
ナチスドイツ=絶対悪、ユダヤ人=絶対善という伝家の宝刀が抜かれれば、黙るしかない。
それは当のユダヤ人にも適用された。
そしてアメリカ人も、自分の国の暗黒な歴史を隠すために、自分たちの正義を強調するために、
イスラエルを隠れ蓑として、無意識に利用している。
ユダヤ教、旧約聖書などは、関係ありません。      (M、pp.107-108)

 アメリカという国じたいが「正義」という神話で成り立っている。だから歴史を知ってその神
 話を覆すとアメリカは瓦解してしまう。
 「アメリカに歴史がない」の本当の意味は、単に歴史の短さだけをいうのではない。
 アメリカでいう「歴史」とは客観的な歴史ではなく、自分たちのとって都合のいい正義の衣に
 包まれた「神話」にすぎない。
 アメリカという国は自分たちがつくった神話を世界にばらまき、理念で現実を覆い隠す、真の
 意味での歴史がない国です。
 その理念を正当化するために歴史を捏造してきた。
そもそも「建国」じたいが神話です。
いままでの出来事すべて無視して、この時点から新しい歴史が始まる、と宣言すること
じたいがおかしい。                  
欧米の日本に対する歴史の見方は著しく偏り日本アレルギーと言える。(pp.110-112)

第4章ネオコン+親米保守が日本を滅ぼす(pp.120-145)
 この章は項目だけ記す――内容はほぼ推測できる:
 ユダヤ人とイスラエルは別物/ 米国内の反イスラエルは希望/ ようやく歴史の存在に気づきだ
 したアメリカ人/ アメリカのほうが(日本より)危機感は強い/ 分断こそアメリカの希望/ ト
 ランプ政権の「失策」/ ワシントンが中国と戦うはずはない/ ウクライナ戦争の真実を理解し
 ていない親米保守/ 親米保守の論調はCIAそっくり/ 陰謀論批判に大反論/「台湾有事」は口実
/ 米国から守るために憲法九条は護持したほうがいい可能性

第5章日本人が知らない残酷な「ブラックビジネス」(pp.148-171)
ここであげている主なものが性的な犯罪を巡るもので、私自身の評価が定まっていないのでこ
 こも項目のみに留める:
 春文化も違う日本と韓国/ 人間が人間を裁くカトリック/ 南京事件を広めたのは宣教師/ モラ
 ルが崩壊した医師たち 

第6章ディープステート解体はローマの歴史を見習え(pp.174-216)
 最後の対話を除いて、項目だけを列記する:
アサンジに訴えられたCIA/ トランプ打倒に燃える卑劣な民主党の選挙戦略/ 中央銀行も政
府もいらない/ 政府を大きくしないために政治家が官僚を制御/ 日本の政府の上にある「政
府」/ 数学者もレイシスト扱い/「被害者」という病/ 慰安婦を政治利用するアメリカの歴史
学者/ 慰安婦問題と共産主義者/ 核使用を正当化するいかなるロジックも日本は許してはな
らない/「無条件降伏」はプロテスタントの発想/ 途中で単なる「核実験」に変わった原爆
投下/ 経済政策はケインズでなく「オーストリア学派」が正しい/ アメリカ帝国解体の仕方

 W:「Mさんは私よりアメリカへの絶望の度合が大きい。私はそれでもアメリカの復活を信じ 
  たい」(p.214)
 M:「ナポレオンの帝政フランスのように、常に理念を湧出していかなければならない膨張主義
  に入ってしまったので、これが終わると今のアメリカは瓦解します。
  南北戦争の意味は、普通の国が帝国化したということです。
  その帝国化したアメリカが今終わろうとしている。
  その時に本当の希望が見えてくるのです。
  本来のアメリカは素朴でシンプルな国です。
  なぜそのような国が世界を支配しているのか、逆に不思議です。
ずるがしこい北部の支配が終われば、元の素朴なアメリカに戻るのではないかと思いま 
す。・・・
  私はテネシーで[大学時代]、プロテスタントの人たちにさんざんいじめられました。・・・
欧米を支配するアングロサクソンという人種は、元来狂暴で、絶え間ない闘争を好んできた 
人たちです。
キリスト教の意義というのは、そのような彼らの狂暴な性質を抑えることにあったのです。
従って、キリスト教が衰退すれば、おのずとその狂暴性が浮かび上がる。
今の欧米の分裂と混乱はそこにあるのです」(pp.214-216) 

以上ですが、アメリカという国の凄まじい姿が見えるようになった気がする。
どうやら我々は宗教のあり方も含め、この500年の「世界の近代化」そのものを問い直す必要があるところに来ているように思う。
その際、「建国の神話」に関しては、日本も「万世一系」とか「紀元は2600年」等を振りかざせば、アメリカやイスラエルと同じ過ちに陥る可能性がでてくる。
それにしても、北部の支配が終われば、元の素朴なアメリカの戻るという発想は、私が縄文を振り返ろうというのと、どこか似ている気がする。

「ゲノム編集ムラ」がやってくるのか

2023-01-12 16:40:56 | 自己紹介
昨年の暮れから新年にかけて、出版されて間もない2冊の本を読んだ。
1つは、堤未果著『ルポ 食が壊れる』(文春新書、2022年12月20日発行)。
もう1つは、ウォルター・アイザック著『コード・ブレーカー――生命科学と人類の未来――』上、下(文芸春秋、2022年11月10日発行、原書は The Code Breaker: Jennifer Doudna, Gene Editing and the Future of the Human Race で2021年発行)。
いよいよ何かが怒涛のようにやってくるという印象を持った。

「ゲノム編集ムラ」という表現は、堤氏の著書のp.72にある小見出し「<原子力ムラ>の次は<ゲノム編集ムラ>!?」から拝借したが、今回はとりあえず『コード・ブレーカー』の紹介をしたい。
著者は、レオナルド・ダ・ヴィンチやアルベルト・アインシュタイン、ベンジャミン・フランクリン、スティーブ・ジョブズ等の評伝を書き、イノベーティブな天才を描くことに定評がある。

ストーリーは「ゲノム編集技術クリスパーはいかにして誕生したか」を、ノーベル賞化学者ジェニファー・ダウドナの半生(1964年~)を中心に、国際色豊かな科学・技術者との競争・共同的人間模様を通して描かれている――56章のすべてに、登場人物の魅力的な写真が添えられていて、まるで映画でも観ているような臨場感を漂わせている。
彼女は科学者としてばかりでなく、教育者・経営者・企画者・組織者としての能力も遺憾なく発揮するが、その出発点をハワイ育ちの孤独な少女時代から解き明かしてくれる。
今や極めて切実になってきた人類の未来に対する問いかけもあれば、どこの世界にもありそうな特許をめぐる醜くきわどい争いも出てくる――正直、よくここまで描けたなと感心する。
そして最後は、新型コロナウイルスのパンデミックに突入してゆくのである――因みに2020年のノーベル化学賞は、エマニュエル・シャルパンティエと共に受賞。

ここでは私の課題意識に基づいて、印象に残る部分を列挙してゆきたい:

①ダウドナは小学6年生のとき、読書好きの父親が彼女のベッドに置いておいてくれた『二
 重らせん』(ジェームズ・ワトソン著)を夢中で読み、2つのことを心に深くとめた。
 ・二重らせん発見に関わった構造生物学者で結晶学者のロザリンド・フランクリンの存在
を知り、女性も偉大な科学者になれるという発見。
 ・分子の形と構造が、その分子の生物学的役割を決めている、という洞察。(上pp.30-31)

②高校時代、女の子に科学は無理という男性進路カウンセラーの言葉に深く傷つき、却って 
 科学を志す決意が固まる。
 1981年秋、化学と生化学の優れたプログラムを持つ、カリフォルニアのポモナ・カレッ
 ジに入学し、大学3年を終えた夏休み以降は、指導教官でもあった尊敬する女性生化学者
 シャロン・パナセンコのもと粘菌を研究、科学雑誌に初めて名前が掲載される。

③大学院は、父親が強く勧めたハーバード大学に進学し、分子生物学科の若き天才、ジャッ
 ク・ショスタク――当時、酵母のDNAを研究していた――のもとで博士論文のための研
 究をし、ここで基礎科学が応用科学に変わる可能性を垣間見た。 
 彼女は、酵母の塩基配列と一致する配列で終わるDNA断片を作り、微量の電気刺激で、 
 酵母の細胞壁に小さな穴を開け、そのDNA断片を潜り込ませた。するとそれは酵母の 
 DNAと結合した。彼女は酵母のゲノムを編集するツールを作ったのだ!(pp.62-63)

④ダウドナは1986年以降も、シャスタクのもとで博士課程の研究を続けることを望んだ。
 シャスタクは――ヒトゲノム計画に夢中だった当時の他の生化学者と違って――研究の 
 焦点をRNAに移していた。
 というのも、RNAは生物学の最大の謎である「生命の起源」の秘密を解き明かす鍵にな 
 る、という予感があったからだ。
 根拠は、ワトソンと共にDNAの二重らせん構造を発見したフランシス・クリックにより
 提唱されていた「セントラルドグマ」――生命の情報は、DNA ➡ RNA ➡ タンパク質
 へと流れる――が、初めて修正されるという研究が、トーマス・チェックとシドニー・ア
 ルトマンによって1980年代初期になされていたからである。
 2人は細胞内で触媒の働きをする分子はタンパク質だけでなく、ある種のRNAは触媒に 
 もなるという驚くべき発見をし、このようなRNAを「リボザイム」と命名した。

 (後にノーベル賞を受賞したとき、ノーベル委員会は「将来の可能性として、ある種の遺 
 伝性疾患を治療することが挙げられる。そのような“遺伝子のハサミ”を用いるには、そ
 の分子のメカニズムをより詳しく知る必要があるだろう」と述べていた!(上p.84)

 この発見は「イントロン」――DNA配列上で、遺伝情報(タンパク質を作るための命令) 
 をコードしていない領域――の研究を通じてなされた。
 イントロンがRNAに転写されると、RNAはイントロンを切り出し、その後、有用なRNA
 断片をつなぎあわせて自らを修復する――この編集作業は「スプライシング」と呼ばれる。
 このスプライシングには触媒が必要で通常はタンパク質からなる酵素が触媒になるが、2
 人は自力でスプライシングができるRNAを発見したのである。
 ➡ 生命の起源を考える上でRNAはDNAより重要かもしれない、なぜなら、DNAは触 
 媒の役目をはたすタンパク質がなければ自己複製できないからだ。(上pp.73-74)

⑤1989年、ネイチャー誌に掲載されたシャスタクとダウドナの共著論文では、「RNAは自
 らを触媒として自らを複製できる」ことを示した。
こうしてダウドナは、RNA研究という珍しい領域で期待の星になった。
 当時その領域は、生物学の僻地にすぎなかったが、続く20年間で、ゲノム編集と、ウイ 
 ルスとの戦いの両方において重要になっていった。(上p.77)

⑥1990年にヒトゲノム計画が正式に始まると、ジェームズ・ワトソンはその初代代表に任
 命された。彼の息子ルーファス(1970年~)は統合失調症で、かつて世界貿易センター
 ビルから飛び降り自殺を試み、以来、病院に収容されていた。
 ワトソンにとってヒトゲノムのマップを作成するという大規模な国際プロジェクトは、も
 はや抽象的な学問的探究ではなく、彼は遺伝学によって人の生き方が説明できるという、
 強迫観念に近い信念を抱くようになった。
 彼は「わたしにとって、息子を理解し、普通に生きられるようにする唯一の方法は、ゲノ
 ムを解読することだった」という。(上pp.66-67)
 ヒトゲノム計画により、高速シーケンシング法が生み出され、2003年までに、ヒトやマ 
 ウスだけでなく、200種近い細菌のゲノムが解読された。

⑦博士号取得後ダウドナは、RNA分子の自己複製の仕組みを知るため、構造生物学を学ぶ
 必要を感じ、コロラド大学ボルダー校の構造生物学者トーマス・チェック(リボザイムの
 発見者の1人、④参照)を訪ねた。
 当時、彼はX線回折法によってRNAの構造をくまなく調べているところだった。
 コロラド大学にポスドクとして赴任したダウドナの任務は、チェックが発見した自己スプ
 ライシングRNAの一部であるイントロンの3次元構造を明らかにすることであった。
 1970年代、生物学者は小さく単純なRNAの構造を解明したが、以来、20年間、進歩は
 ほとんどなかった――より大きなRNAを分離し画像化するのは極めて困難だった。
 X線回折法には不可欠なRNAの結晶化は、検査助手による不手際が逆に功を奏して、温
 度を上げればよいことが分かったが、結晶にX線を当てるとすぐ壊れてしまう。
 当時、イエール大学から長期休暇でボルダーに滞在していたトム・スタイツに相談すると、
 彼の研究室では冷却する新たな技術を試している――結晶を液体窒素に入れて瞬間的に
 冷凍すると、X線を照射しても壊れにくい――ことが分かった。
 
⑧1993年秋、X線をよく回折するRNA結晶を作るため設備の整ったイエール大学へ移る。
 この間、科学にも彼女にも真摯に向き合ってくれた父親が亡くなった。
 ダウドナは「父はヒューマニストで、人文学の教授だったが、科学も愛していた。わたし
 は、クリスパーが社会に与える影響について語るとき、父の声が聞こえるように感じる」
 と、後に振り返った。
 父の死と時を同じくして、彼女は初めて大きな科学的成功を収めた。
 即ち、RNAがらせんを折りたたんで三次元の形状になる仕組みを明らかにした――DNA
 二重らせん構造が、遺伝情報の保存と伝達の仕組みを明らかにしたのと同様に、彼女のチ 
 ームが発見したRNAの構造は、RNAが酵素となり、自らを切断し、スプライシング[接 
 合]し、複製する仕組みを説明した。
 RNAに関する基礎科学を、ゲノム編集のツールに変換するための探究がここから始まっ 
 たのだ。(上pp.93-94)

⑨2000年、共同研究者の一人、ジェイミー・ケイトとの再婚を機に、ハーバード大学に移 
 った――イエール大学にはケイトのライバルがいた。
 2年後、一人息子のアンドリューが生まれる。
 2002年には、夫のケイトが好むカリフォルニア大学バークレー校へ移った。
 当時ハーバード大学は、MITおよびブロード研究所とともに、バイオテクノロジー研究
のメッカであり、とくにゲノム操作の研究が盛んであった。
 10年後ダウドナは、これらケンブリッジを拠点とする研究者たちと競い合うことになる。

⑩2002年の頃までに20種の細菌と古細菌のDNAにおいて発見され話題になっていた――
 日本人の石野良純も1986年、大腸菌で確認していた――「クラスター化され規則的に間
 隔があいた短い回文構造の繰り返し」(Clustered Regularly Interspaced Short
 Palindromic Repeats)が略してクリスパー(CRISPR)と命名された。
クリスパーの近くには、酵素を作る命令をコードしていると思われる遺伝子が存在し、そ
れらはクリスパー関連(CRISPR-associated)酵素、略してCas酵素と名づけられた。
 
⑪実は、地球上で最も古くから続いている(およそ30億年)最も壮大で凶悪な戦いは、細
 菌とファージ――バクテリオファージと呼ばれるウイルス――との戦いである。
 ファージの総数は1031、地上で最も多く存在する生物的存在――砂1粒当たり1兆個。
 新しいウイルスが襲ってきた後、生き残った細菌はそのウイルスのDNAの一部を取り込 
 み、子孫がそのウイルスに免疫を持てるようしている。
 発見者のフランシスコ・モヒカは、感動のあまり泣きそうになった(上p.111)。
 クリスパー・システムは、その免疫システムであり、クリスパー関連酵素の役割は攻撃し
てきたウイルスからDNAの断片を切り取って、細胞のDNAに挿入することであった。

⑫2006年の初め、微生物学者ジリアン・バンフィールドに誘われて、ダウドナはクリスパ 
 ー・システムの研究を始める。
 後にダウドナは「当時、クリスパー・システムを構成する分子を分離し、実験室で調べて
 構造を解明した人はいなかった。私のような生化学者や構造生物学者が参入するには絶 
 好のタイミングだった」と回想する。(上p.117)
 2008年までに科学者たちは、細菌DNAのクリスパー配列に隣接する遺伝子が生成する 
 酵素をいくつか発見した――最終的に、キャス1、キャス9、キャス12、キャス13とい 
 う名前に統一された。
 これらのキャス酵素によって、新たに攻撃してきたウイルスの記憶を、カット・アンド・ 
 ペーストしている――ヨーグルトの細菌のクリスパー配列と、かつてその細菌を死滅させ 
 たウイルスの配列が100%一致(上p.130)。
 そのシステムは、クリスパーRNA (crRNA) と呼ばれる短いRNA断片も生成し、その 
 RNA断片がハサミのような酵素を危険なウイルスへと導き、その遺伝物質を切断させる。

⑬クリスパー・システムが標的にするのは侵入してきたウイルスのDNAであることが明確
 になるにつれ、クリスパーがゲノム編集のツールになるのではという期待が高まった。
 ➡ 遺伝性疾患の原因遺伝子を修正できるようになるだろう。(上.133)
クリスパー・システムの基本的な構成要素を解明するには、生体内(インビボ)で研究す 
 る微生物学者や、コンピュータ内(インシリコ)で配列データを比較する計算遺伝学者に 
 よる発見だけでなく、試験管内(インビトロ)で分子を研究する生化学者のアプローチも 
 必要(➡ダウドナの出番)(上p.134)

⑭2008年末、巨大バイオベンチャーであるジェネンティック(遺伝子工学テクノロジーの
 略)がダウドナの採用に乗り出した。
 この会社はもともと、1972年にホノルルで開かれたDNA組み換えに関する会議で、ス
 タンリー・コーエン(スタンフォード大学)とハーバート・ボイヤー(カリフォルニア大
 学サンフランシスコ校)が意気投合し、その後、弁護士やベンチャーキャピタリストの勧
 誘により、遺伝子操作による薬の製造を始めたのがきっかけである。
 1978年8月には、糖尿病を治療する合成インスリンの製造競争に勝利し――それまでは、
 1ポンドのインスリンを得るために2万3000頭の以上の豚や牛から8000ポンドもの膵
 臓を集める必要があった――バイオテクノロジー業界全体を軌道に乗せた。(上p.139)
 
⑮ダウドナはジェネンティックへの入社を決意したが、2009年1月、働き始めて始めてす
 ぐ、自分が間違いを犯したことに気づいた。
 「自分にふさわしくない場所に来てしまったと、直観的に感じた」と言う。(上p.141)
 強い雨が降る晩、呆然自失で裏庭でずぶ濡れになりながらうずくまっていたという。
 友人の援助で、2カ月後にバークレーに戻ったが、発見のためではなく権力や昇進のため
 に競い合う企業という環境は苦手だと悟った。
 それでも、自らの研究を実用的な新しいツールの開発や、それを商業化する企業の設立に
 は結びつけたいという思いはあり続け、その後の彼女を動かしてゆく。

⑯アメリカにおける政府、ビジネス界、研究機関のトライアングルの推進。
 第二次世界大戦が終わった時、エンジニアで官僚であったヴァネヴァー・ブッシュ―― 
 MIT工学部長、レイセオン社の共同設立者、政府の科学行政最高顧問、原爆製造の監督 
 もした――はイノベーションを推進するには、政府、ビジネス界、研究機関の連携が必要
 と説き、この三者のパートナーシップは数々のイノベーションをもたらし、戦後のアメリ
 カ経済を推進した。
 まずはデジタルテクノロジー分野で、トランジスタ、マイクロチップ、コンピュータ、
 GUI、GPS、レーザー、インターネット、k検索エンジンはこうして生まれた。(pp.161-162)
 大学については、戦後すぐに「学術研究」と「ビジネス」の融合がスタンフォード大学の 
 周辺で始まり、そこからグーグルも生まれ、果樹園だった谷がシリコンバレーに変わった。
 かつては商業とのつながりを軽蔑していたハーバードやバークレイ等もこれに続いた。

⑰2011年10月、ダウドナは信頼する教え子と共に、ダウドナの研究室でなされた発見の商 
 品化を目標にカリブー・バイオサイエンス社を起こした。 
 女性蔑視的なベンチャーキャピタリストには頼れなかった初期の数年間は、連邦政府から  
 の資金もカリブーを支えた。(p.159)
 2020年には、ダウドナは、ビル&メリンダ・ゲイツ財団からの資金提供により、クリス 
 パー・システムを利用して新型コロナウイルス検出の研究を行うことになる――現在では 
 上記⑯の三者にしばしば慈善財団(例えば、ゲイツ財団)が加わる。   (p.162)
 
⑱2011年3月にプエルトリコで開催されたアメリカ微生物学会で、ダウドナはフランスの
 生物学者エマニュエル・シャルパンティエと出会う。
 この学会でのシャルパンティエの発表は、クリスパー・キャス9システムがわずか3つの
 要素を用いてウイルスを撃退しているという発見の報告であった――当時のクリスパー
 の研究者はキャス9に焦点を絞っていた。
 その3要素というのは、crRNA(=過去に攻撃してきたウイルスの遺伝子コードを含む 
 RNA断片で、ガイドとして働く)、キャス9(=ハサミとして働く)、tracrRNA (トレイ 
 サーRNA=短いRNA断片でcrRNAの生成を促進する)というもので、tracrRNAにつ 
 いてはよく分かっていなかった。

⑲ダウドナとシャルパンティエは4人のスカイプを通じた国際的連携チームを作り、試験管
 内での実験により、tracrRNAのもう一つの役割を見つけた。
 それは、crRNAとキャス9が標的DNAの適切な場所をつかめるよう、「足場」になるこ 
 とだった――キャス9はその足場を利用してDNAを切断する。
 この驚くべき小さなシステムは、重要な応用の可能性を秘めていた。
 crRNAガイドは、切断したいDNA配列を標的にするよう修正できる――つまり、これ 
 までよりはるかに容易で安価なゲノム編集ツールになり得るのだ。
 ダウドナ自身「好気心から生まれたこの楽しいプロジェクトは、とてつもない意味を秘め 
 ていて、それがプロジェクトの方向性を大きく変えることに気づいた」と言う。(上p.182)
 これを実現するため、crRNAとtracrRNAを結合させたもの、シングルガイドRNAを
 発明した――つまり、自然の奇跡を人間のツールに変えたのである。(p.183)
 2012年6月、ダウドナ-シャルパンティエの論文、サイエンス誌へ投稿(➡ノーベル賞)

⑳以上がノーベル賞につながるまでの話であるが、その後、クリスパー・キャス9のゲノム
 編集ツールとしての特許をめぐる壮絶な戦いが始まる。
 さらには、ダウドナの個人的思いを離れて――その兆しは⑮にもすでに見られるが―― 
 産・軍・学(そして時に、慈善財団⑰)の巨大な渦に巻き込まれてゆく。

㉑ペンタゴンから潤沢な資金を提供される調査部門、DARPA(国防高等研究計画局)は、「安 
 全な遺伝子」というプログラムを立ち上げ――6500万ドル相当の助成金を支給――ダウ  
 ドナも、クリスパーを用いた生物兵器を無効化するツールの開発やクリスパーを使って核
 放射線から身を守る方法の研究なども依頼された。
 このような軍・学の巧みな協働の姿に、2018年の彼女は感銘を受けたが、それは1960
 年代にDARPAがインターネットの前身を作っていた時と同じだった。(下pp.31-34)

㉒2014年春、クリスパー特許とゲノム編集企業の設立をめぐっての競争が激化していた頃、 
 ダウドナは悪夢を見た――ある著名な研究者から、ある人物に会ってほしいと頼まれ部 
 屋に入ると、テーブルの向こうに座っていたのは、何とブタの顔をしたアドルフ・ヒトラ
 ーであった。
 「きみが開発したこの興味深い技術の利用法と意義をぜひとも教えてほしい」と言う。
 この恐ろしい夢の余韻は、いつまでも彼女につきまとった。(下p.62)
 また、善意の人々がゲノム編集の道を切り開いていく事例(『ハッピー・ヘルシー・ベビ 
 ー』なる会社の立ち上げ等)も目の当たりにした。
 彼女は、有名な1975年のアシロマ会議――遺伝子組み換え実験の安全性やモラトリアム
 (研究の一時中断)について議論され、最終的には「慎重な前進」という方針が打ち立て
 られた――と同様の会議を開くべきと確信した。(下p.67)

㉓そこで2015年1月、ナパで倫理的な問題を議論し、12月には、ワシントンで第1回ヒ
 トゲノム編集国際サミットが開催された。
 結論は、生殖細胞系列のゲノム編集には厳しい条件が満たされるべきだとしながらも「モ
 ラトリアム」や「禁止」という言葉は使われなかった。
 生命倫理学者の大半は落胆したが、医療研究に携わる人々は「慎重な前進」を許可する黄
 色信号とみなした。(下pp74-76)

㉔2018年11月香港における第2回ヒトゲノム編集国際サミットで、中国人科学者フー・  
 ジェンクイはクリスパーを使った世界初のゲノム編集ベビー誕生の報告をし、そのニュー
 スは世界に衝撃を与えた!(下pp82-116)
 体外受精させた受精卵の遺伝情報を、HIV(エイズウイルス)に感染しないよう編集し、
 母親の胎内にもどした。因みに父親はHIV感染者であり、実験では気がかりな情報もい
 くつかあった――その後、中国では有罪判決が下された。
そこで、ダウドナをはじめとするサミットの主催者たちがつくりあげた声明は、非常に控 
 えめな内容になった。
 「今回の予想外の憂慮すべき行為は、無責任であり、国際的規範を満たしてもいなかった」。
 ・・・現時点では、生殖細胞系列のゲノム編集を許可するには、安全面でのリスクが大き
 すぎる」しかし「将来、これらのリスクが解決され、いくつかの追加的基準が満たされれ
 ば、生殖細胞系列のゲノム編集は容認される可能性がある」と述べている。
 つまり、生殖細胞系列は、もはや越えてはならない一線ではなくなった!(下pp.116-117)

㉕2020年から始まった新型コロナウイルス・パンデミックに対しては、検査方法の開発な
 ど積極的に関与してゆくが、(従来型であれ何であれ)ワクチン自体については、人の免
 疫システムを頼みとするので常にリスクを伴うとして、これを避け、クリスパーを使って
 ハサミの働きをする酵素を誘導し、ウイルスの遺伝物質を切り刻むという治療の開発が勧 
 められた。
 私(粟屋)が絶えず気にしていた遺伝子ワクチンそのものについては何のコメントもなく、 
 開発は当然視されていたようである――なぜなら、体細胞へのゲノム操作なのであるから。
 そして「訳者あとがき」にはアイザックソンの言葉「パンデミックに見舞われた2020年
 は、伝統的なワクチンが遺伝子ワクチンにに取って代わられた年として記憶されるだろ
 う」が紹介されていた。
 本書の帯には、一際大きく『ビル・ゲイツ絶賛』とあった。
 

以上が『コード・ブレーカー』の簡単な紹介であるが、私のコメントを3点略記したい:
(1)DNAよりRNAの方が生命の起源にとってより本質的であるらしい。(④参照)
 クリスパー・システムは30億年昔からのファージとの戦いの、バクテリアの免疫シス
 ムであるが(⑪参照)、ここで本質的な働きをするのは酵素である。
 酵素の働き(触媒)は量子力学的トンネル効果を用いて説明されるようであるが(『量子
 力学で生命の謎を解く』2015年SB creative参照)、生命活動はどこまでが機械論的に説
 明がつくのか。
 
(2)自然のクリスパー・システムを人工的(機械論的)に改良して(シングルガイドRNA)、
 クリスパー・キャス9などを作り(⑲参照)、巨大な市場に(安価で大量に)送り出すこ
 との危険性をどう評価するのか。
 何万年・何億年という自然(環境・生態系)の中で試されることなく放出される危険性。
 遺伝子ワクチンの結果も少しずつ明らかにされつつある(週刊新潮2020/01/19号等参照)。

(3)著者はエピローグで「自然と自然の神はその無限の叡智によって、自らのゲノムを修正
 できる種を進化させた。その種が、たまたまわたしたち人類なのだ」と言う。(下p.321)
 しかしここでの問題は、上記(2)とも関係するが、その修正のあり方である。
 致命的な遺伝病の治療は別として、この修正は当然のことながら、自然の歴史の中で試さ 
 れるべきで、その叡智は限られている――なぜなら人間は自然の一部であるから。
 量子論で本質的に出てくる発見確率は、人間が外界を完全にはコントロールできないとい
 うことを露呈している(高林武彦『量子力学―観測と解釈問題』2001年海鳴社pp.109-111)。
 いたずらにミクロ世界の法則の断片を機械論的に(19世紀の世界観で)つまみ食いして、 
 市場や戦場の餌食にするのでなく、まずは量子論を包摂する世界観(ミクロとマクロの統
 一)を確立しつつ、持続可能な世界の実現に向けた努力が必要であろう。

高林武彦氏からの引用

2021-01-18 22:02:02 | 自己紹介
以下は高林武彦による『現代物理学の創始者』(1988年みすず書房、p.311)からの引用である。

「現在の素粒子論の方法は、新粒子の導入や対称性の原理や相互作用の統一などのモチーフに支配され、むしろアインシュタイン流に近づきボーアから遠ざかっているようにみえる。しかしやはりそれらのものについての認識論的分析が不可欠なのであって、ボーアの方法はアインシュタインの方法と共に主要な方法として現在に生きている。ボーアがそこに、観客でもあり演技者でもある人間の視点をとるのに対し、アインシュタインはスピノザ的な神の視点をとる。問題は、ボーア自身のあらゆる努力にも拘わらず、彼の方法とアインシュタインの方法とを調和させることが果たせなかったというところにあり、そのことは一般に物理の方法と認識論に深刻な問題を投げかけるものであった。しかもそれは物理がクォークとかGUTとか量子重力などにさしかかった現在一層深刻になっている。例えばいまGUTとその宇宙論への適用についての観測問題の角度からする認識論的分析が要求されている」

これは私にとっての導きの一節である(粟屋かよ子「量子論と科学革命の後半」四日市大学論集 2019年~2020年第2巻・33巻 参照)。

自己紹介の詳細

2021-01-11 11:13:12 | 自己紹介
プロフィール
<自己紹介>

中国・済南生まれの引揚者。児童期は山口県、思春期は岐阜県、職場は四日市。
理学博士(名古屋大学:素粒子論)。日本詩吟学院・奥伝(容風)。
教育運動(フリースクール研究会)や反公害活動(産廃問題など)、市民芸術活動(四日市公害をテーマにした市民ミュージカル『四日市ラプソディ――その海と空と――』の実現)に取り組むかたわら、量子力学の観測問題を手掛け、ついにこれを生涯の研究テーマの根幹に据え、現在に至る。

 (この近くに住んでいる)
著書に『自然と人間復権の教育』(共著)、『破局――人類は生き残れるか――』、『量子論にパラドックスはない――量子のイメージ――』(P・R・ウォレス著)(共訳)、『先進例から学ぶ再生可能エネルギーの普及政策』(共著)、『環境問題の数理科学』の入門編・発展編(J・ハート著)(共訳)他。