投資家の目線

投資家の目線896(エネルギー価格高騰でピンチに陥る欧州経済)

 エネルギー価格の高騰で、欧州経済が危機に陥っている。ドイツではトイレットペーパー製造のハクレ社がガス料金高騰で倒産するなど、債務超過に陥る企業が急増しており(「アングル:ドイツを襲うエネルギー危機、広がる企業倒産の波」 2022/9/20 ロイター)、負債が拡大しているエネルギー大手のユニパーについてはドイツ政府が国有化する(「ドイツ政府、ユニパーを国有化 ガス減で負債拡大」 2022/9/21 日本経済新聞WEB版)。オランダでは光熱費高騰で老舗のパン屋が閉店の危機だ(『オランダのパン店、光熱費高騰で閉店の危機 「持って半年」5代目の苦悩』 2022/9/26 ロイター)。スロバキアのへゲル首相も電力価格高騰で経済崩壊の危険を訴えている(『[FT]スロバキア首相、経済「崩壊のリスク」 エネルギー危機で』 2022/9/29 日本経済新聞WEB版)。フランスでは複数の石油精油所でストライキ(”France Is Hit by Strikes Over Pay at Multiple Oil Refineries” 2022/9/27 Bloomberg)。西欧諸国の経済が破たんすれば、旧宗主国として旧植民地諸国に介入する余裕がなくなるとする見方もある。

 

 損傷が見つかったロシアからドイツに至るガスパイプライン「ノルドストリーム」はガス供給の停止が長引く見通しで、2023年以降も天然ガスの需給のひっ迫が懸念されている(「ノルドストリーム停止長期化も 23年から需給逼迫の懸念」 2022/9/28 日本経済新聞WEB版)。ウクライナ国内を通るロシア産天然ガスのパイプラインは通過料の支払いで対立(「ガス輸送管の通過料で対立、運用に赤信号 ウクライナとロシア」 2022/10/1 CNN)。これでウクライナは通過料収入を失うことになろうが、ロシアから欧州・ドイツに至るガスパイプラインはベラルーシ・ポーランド経由のものと、トルコ経由のサウスストリームぐらいしかなくなる。また、イタリアもロシアからの天然ガス供給も停止された(「ガスプロムがイタリア向け天然ガス供給停止-欧州エネルギー危機悪化」 2022/10/2 Bloomberg)。

 

 ノルドストリームの損傷は、破壊工作によるものと見られている。Fox Newsの司会者タッカー・カールソンは、この破壊の責任は米国にあるとの見方をしているという(”Tucker Carlson conjectures that US behind alleged Nord Stream sabotage”  By AARON BLAKE THE WASHINGTON POST September 28, 2022(Stars&Stripes))。同記事には理由として、” Perhaps the most prominent quote Carlson used was from President Biden in February: Biden had said that, if Russia invades Ukraine, "there will be no longer a Nord Stream 2. We will bring an end to it."(2月のバイデン米大統領の、ロシアがウクライナに侵攻すればノルドストリーム2はもはや存在しないだろう。われわれはそれを終わらせるつもりだ)という発言、” It was top State Department official Victoria Nuland, who said in January, "If Russia invades Ukraine, one way or another, Nord Stream 2 will not move forward."”(1月のビクトリア・ヌーランド国務次官の、もしロシアがウクライナに侵攻したらノルドストリーム2は前進しないだろう)という発言、” Radek Sikorski is a member of European Parliament representing Poland and is the country's former defense and foreign minister. His Twitter account on Tuesday featured a photo of gas bubbling up to the top of the Baltic Sea, with the brief message: "Thank you, USA."”(欧州会議議員でもあるシコルスキ元ポーランド国防・外務大臣の、バルト海で泡立つガスの写真とともに上げられた「ありがとう、アメリカ」という火曜日のツィート)が挙げられている。また、『ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官は29日、ガス漏れが起きた一帯にはNATOの兵器が多く配備されていると記者団に語った。「この地域はバルト海だ。当地にはNATO諸国の航空機や船舶が多い」とし、ロシアの関与を巡る「報道は全く理不尽で(中略)偏っている」と述べた』(「ノルドストリームのガス漏れ、NATOは破壊工作と認定」 2022/9/30 ダウ・ジョーンズ配信)という。同海域でNATO諸国の多くの軍用機が活動していることは検証可能な事実だ。9月27日にはノルウェーからデンマークを経てポーランドに至るガスパイプライン「バルティック・パイプ」が開通している(『「意図的ガス漏れ」 パイプライン・ノルドストリーム、北欧2国警察も捜査』 2022/9/28 産経ニュース)。ポーランドはそこそこ安泰だ。

 

 発足したばかりの英国のトラス政権は早くもピンチだ。保守党は支持率で労働党に大きくリードされ(「英保守党、支持率で労働党に33ポイントのリード許す-20年余りで最大」 2022/9/30 Bloomberg)、国民の過半数がトラス首相の辞任を望んでいる(「トラス首相は辞任すべきだ、英国民の過半数が望む-ユーガブ世論調査」 2022/10/1 Bloomberg)。トラス政権は大規模な減税と国債増発を打ち出しており、英ポンドは一時対ドルで過去最安値を記録した(「英ポンド、対ドルで過去最安値 財政出動に懸念」 2022/9/26 日本経済新聞WEB版)。ドイツ空軍が航空自衛隊と国内で初の訓練を行ったり(「ドイツ空軍、空自と国内初訓練 対中国抑止へ関与拡大」 2022/9/28 日本経済新聞WEB版)、英国のクレバリー外相がインド太平洋への関与を表明したりしている(『英外相「インド太平洋を重視」 エネルギー・食料で連携加速』 2022/9/27 日本経済新聞朝刊)。しかし、経済が危機的状況の英独に太平洋地域に関与するだけの財政的余裕などあるのだろうか?先の日経朝刊の記事でクレバリー外相は、「ロシアによる天然ガスをはじめとしたエネルギーや食料の輸出制限を受けて、日本やアジア諸国が代替の供給源として果たす役割は大きくなったと指摘」している。エネルギーや食料の不足に悩む英国にとって、インド太平洋はそれらに対する協力を得るために必要なだけで、財政負担を伴う安全保障などは空手形に終わると考えた方がよいだろう。ロシアの4州併合に関して「キエフの物乞い」と協議した岸田首相は、G7で連携してロシアに追加制裁を検討しているようだが(『岸田首相「4州併合」で追加制裁 ゼレンスキー氏と協議』 2022/9/30 日本経済新聞WEB版)、それは愚かなことだ。つい最近弔意を述べた議員のことも忘れてしまう「恍惚の人」に追随していっても好ましい結果が得られるわけがない。

 

追記:

2022/10/13

↓ロシアから欧州への石油パイプラインが破損。上記の通り、ノルドストリーム破壊事件の時、写真とともにサンキューUSAとツィートしたのはシコルスキ元ポーランド国防相。ポーランド当局は破壊工作を否定しているが、鵜吞みにしてよいものか?

 
ロ・中欧間のパイプラインで漏れ、原油供給減るも「破壊工作の形跡なし」2022/10/13 (ロイター)
 
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