★取材レポート★
<永青文庫「くまもとの絶景」展で、視覚の原点を再発見>
東京・目白の永青文庫で開催中の初夏展「くまもとの絶景―知られざる日本最長画巻『領内名勝図巻』―」は、風景画愛好家だけでなく風景写真を愛する方にもぜひ足を運んでほしい展覧会です。

熊本県指定重要文化財 衛藤良行筆「領内名勝図巻 芦北郡田浦佐敷湯浦手永之内(牧山)」 寛政5年(1793) 永青文庫蔵 (熊本県立美術館寄託)
「領内名勝図巻」は、18世紀後半に8代熊本藩主・細川斉茲(ほそかわ なりしげ)の命で制作された大規模な写生図巻です。
藩のお抱え絵師、矢野良勝(やの よしかつ)と衛藤良行(えとう よしゆき)が、主に熊本領内の滝や川沿いの風景などの名勝を実際に訪れて写生し、全15巻、全巻の合計は約400メートルという驚異的なスケールで描き上げました。今回は現存する14巻のなかから選りすぐりの7巻が展示され、現地の写真と並べて紹介されています。

熊本県指定重要文化財 衛藤良行筆「領内名勝図巻 上益城郡矢部手永之内(千滝)」 寛政5年(1793) 永青文庫蔵(熊本県立美術館寄託)

巻物は縦30cmがほどの大きさが標準的ですが、この作品はなんと約60cmもあり、広がりと臨場感が段違いです。
まるで一眼レフの広角レンズで切り取ったかのようなパノラマが連続し、構図の妙や遠近の扱いには写真表現にも通じる技術が感じられます。

たとえば断崖から滝が落ちる構図、水の流れに沿って視点が移動していく表現などは、まさに風景写真のフレーミングそのものです。
絵師たちは雨や雪、寒風に耐えながら現地で写生を行い、わずか2年足らずでこの壮大な画巻を完成させたとのこと。
風景への情熱と観察力に、写真愛好家としても共感せずにはいられません。


熊本県指定重要文化財 衛藤良行筆 「領内名勝図巻 上益城郡矢部手永之内 (五老ヶ滝)」 永青文庫蔵(熊本県立美術館寄託)
また、細川斉茲自身も絵を描きました。
会場には、斉茲が描いた動物画や娘の肖像、さらに9歳であった斉茲の息子・斉樹が描き、斉茲が彩色した親子による珍しい合作も展示されています。

細川斉茲筆「融姫像」 江戸時代(19世紀) 永青文庫蔵

細川斉茲・細川斉樹筆「鶏図」 寛政9~10年(1797~98) 永青文庫蔵
斉茲は風景好きの大名たちと交流し、参勤交代を通じて文化を行き来させたという背景も興味深い点です。当時の文化的ネットワークの広がりを感じさせます。

司馬江漢作「地球儀」 文仁7年(1810) 永青文庫蔵

「柿の蔕茶碗」 朝鮮 朝鮮時代(16世紀) 永青文庫蔵
現代の写真表現における「構図」「観察」「記録」という基本に立ち返りたい人にとって、『領内名勝図巻』は最高のインスピレーション源となるでしょう。
旅するように画巻をたどる時間は、撮ることとはまた違う、新たな「見る喜び」を教えてくれます。
(本文中の写真は「くまもとの絶景―知られざる日本最長画巻「領内名勝図巻」―」の内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。)
■初夏展「くまもとの絶景―知られざる日本最長画巻「領内名勝図巻」―」
会期:2025年4月26日(土)-6月22日(日)
会場:永青文庫(東京都文京区目白台1-1-1)
休館日:月曜日(ただし5月5日は開館し、5月7日は休館)
開館時間:10:00-16:30 (入館は16:00まで)
詳細:https://www.eiseibunko.com/
■アートツリー出版社の投稿できる写真雑誌『PHOTOSAI』では投稿作品を募集しています。

株式会社アートツリー出版社
<永青文庫「くまもとの絶景」展で、視覚の原点を再発見>
東京・目白の永青文庫で開催中の初夏展「くまもとの絶景―知られざる日本最長画巻『領内名勝図巻』―」は、風景画愛好家だけでなく風景写真を愛する方にもぜひ足を運んでほしい展覧会です。

熊本県指定重要文化財 衛藤良行筆「領内名勝図巻 芦北郡田浦佐敷湯浦手永之内(牧山)」 寛政5年(1793) 永青文庫蔵 (熊本県立美術館寄託)
「領内名勝図巻」は、18世紀後半に8代熊本藩主・細川斉茲(ほそかわ なりしげ)の命で制作された大規模な写生図巻です。
藩のお抱え絵師、矢野良勝(やの よしかつ)と衛藤良行(えとう よしゆき)が、主に熊本領内の滝や川沿いの風景などの名勝を実際に訪れて写生し、全15巻、全巻の合計は約400メートルという驚異的なスケールで描き上げました。今回は現存する14巻のなかから選りすぐりの7巻が展示され、現地の写真と並べて紹介されています。

熊本県指定重要文化財 衛藤良行筆「領内名勝図巻 上益城郡矢部手永之内(千滝)」 寛政5年(1793) 永青文庫蔵(熊本県立美術館寄託)

巻物は縦30cmがほどの大きさが標準的ですが、この作品はなんと約60cmもあり、広がりと臨場感が段違いです。
まるで一眼レフの広角レンズで切り取ったかのようなパノラマが連続し、構図の妙や遠近の扱いには写真表現にも通じる技術が感じられます。

たとえば断崖から滝が落ちる構図、水の流れに沿って視点が移動していく表現などは、まさに風景写真のフレーミングそのものです。
絵師たちは雨や雪、寒風に耐えながら現地で写生を行い、わずか2年足らずでこの壮大な画巻を完成させたとのこと。
風景への情熱と観察力に、写真愛好家としても共感せずにはいられません。


熊本県指定重要文化財 衛藤良行筆 「領内名勝図巻 上益城郡矢部手永之内 (五老ヶ滝)」 永青文庫蔵(熊本県立美術館寄託)
また、細川斉茲自身も絵を描きました。
会場には、斉茲が描いた動物画や娘の肖像、さらに9歳であった斉茲の息子・斉樹が描き、斉茲が彩色した親子による珍しい合作も展示されています。

細川斉茲筆「融姫像」 江戸時代(19世紀) 永青文庫蔵

細川斉茲・細川斉樹筆「鶏図」 寛政9~10年(1797~98) 永青文庫蔵
斉茲は風景好きの大名たちと交流し、参勤交代を通じて文化を行き来させたという背景も興味深い点です。当時の文化的ネットワークの広がりを感じさせます。

司馬江漢作「地球儀」 文仁7年(1810) 永青文庫蔵

「柿の蔕茶碗」 朝鮮 朝鮮時代(16世紀) 永青文庫蔵
現代の写真表現における「構図」「観察」「記録」という基本に立ち返りたい人にとって、『領内名勝図巻』は最高のインスピレーション源となるでしょう。
旅するように画巻をたどる時間は、撮ることとはまた違う、新たな「見る喜び」を教えてくれます。
(本文中の写真は「くまもとの絶景―知られざる日本最長画巻「領内名勝図巻」―」の内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。)
■初夏展「くまもとの絶景―知られざる日本最長画巻「領内名勝図巻」―」
会期:2025年4月26日(土)-6月22日(日)
会場:永青文庫(東京都文京区目白台1-1-1)
休館日:月曜日(ただし5月5日は開館し、5月7日は休館)
開館時間:10:00-16:30 (入館は16:00まで)
詳細:https://www.eiseibunko.com/
■アートツリー出版社の投稿できる写真雑誌『PHOTOSAI』では投稿作品を募集しています。

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