「つまり中野サンプラザで下之園さんに初めて会ったそのときが、
自分が競技オセロを始めた日だったんですよ。」と川端
「なるほど。それが1984年の秋で川端さんが26のときだったんですね。」と影田
「おっしゃるとおり。」と川端
「いろんな思い出があってさ。一番はその日、中野サンプラザのゲームコーナーには
オセロ以外にも他のゲームを楽しむ人たちがいたんだよ。」と川端
「老人クラブの碁会が催されていた。頬ひげをはやした長老格の方が
指導者として多くの年配の入門者に碁を教えていたんだ。入門者が
19路盤の星の位置に9つの黒石を置いて置き碁を打つ。下手が9つ置くことを普通、星目といっている。」と川端
「それを長老が碁盤で解説しながら、打っていく。全くの入門者への指導は案外難しいもの。
でもそれを熱心にやっていた。」と川端
「年配の方の中には女性もいた。もしかして夫を亡くして一人になった方かもしれない。皆さんが、
皆んなの輪の中に入って碁を覚えよう、碁を楽しもう、という感じで真剣にやっていた。」と川端
「それを横目に自分はオセロプレーヤーが来るのを待っていたり、彼らとオセロの試合を
したりしたわけだ。」と川端
「今でもそのときのことをよく覚えているよ。人間、何を始めるにも
年齢的に遅いなどということは決してないということだ。」と川端
「はい、おっしゃるとおりです。」と影田
「ではまた今度おしゃべりしましょう。」と川端が返した。