ブログ“愛里跨の部屋(ありかのへや)”

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愛里跨の恋愛スイッチ小説 (蒼ちゃん編 46)

2011-10-28 15:56:15 | Weblog
46、光世、運命の分かれ道




穂乃佳と、シャロン・アン・シャンパーニュに来て、
早1ヶ月ちょっとが過ぎた。

二人で過ごす時間は穏やかに流れていたけど、
穂乃佳はかなり退屈な日々を過ごしていたようで、
口数も少なくなり、少し怒りっぽくなっていた。
彼女は日本やパリでも、
バリバリ仕事をしていた女性だったから無理もないけど、
いくらお気に入りの街でも、
ホテル暮らしと仕事のない日々は、かなりのストレスだったようだ。
僕はそんな穂乃佳のデリケートな感情なんて気にも留めず、
パリとこの街を行ったり来たりしつつも、
最終地トロアの撮影にも行きながら仕事に専念していた。


ここ、アヴォワール・ドゥ・ポットホテルは、
三階建ての建物で部屋数は少ない。
一階は小さなカフェとランドリースペースがあり、
小ぢんまりではあるがキッチンの付いたアパルトマンタイプで、
冷蔵庫やセフティボックスもあり、ネット接続環境も割と良かった。
部屋も広かったので、六畳と四畳半くらいの別室があり、
長期滞在する者にはもってこいのホテルだった。
穂乃佳にも気を遣わずに仕事をすることが出来て、
僕にとって環境のいいホテルだったから、
まるで長年住み慣れた我が家のように暮らしてた。
そんな仕事人間の僕が穂乃佳にしてあげられた事と言えば、
時間のある日は、二人でワール・オーブ湖のあるフォレドリオン公園に、
彼女をドライブに連れて行くことくらいで、
この時だけは穂乃佳も笑顔でお弁当を作り、無邪気にはしゃいでいる。


僕がトロアの撮影から帰ってくると、穂乃佳は手料理を用意していた。
バターたっぷりで焼き上げるふわふわのオムレツと、
例の眉間にしわを寄せた気難しい店主の店で購入する、
とろけるカマンベールチーズをのせた、クロック・ムッシュ、
(チーズやハム・チキンなどをパンにはさんで、
 ホワイトソースを塗りオーブン焼いたもの)
を作って、僕を笑顔で待ってくれてるんだ。
その姿は彼女がご機嫌だと言うことを、鈍感な僕に解らせた。



(ホテル・アヴォワール・ドゥ・ポット201号室)

東  「穂乃佳、ただいまー(ドアを閉める)」
穂乃佳「光世、お帰りなさい。食事出来てるよ」
東  「うん。おー!美味そうなオムレツじゃん」
僕は穂乃佳にkissをして、洗面所で手を洗うとテーブルについた。
穂乃佳「実はこのチーズね、
    前に光世が撮影拒否されたチーズ専門店で買ってきたの」
東  「えっ、あの鬼瓦みたいな顔の気難しい頑固店主の店?」
穂乃佳「うふふふっ、鬼瓦(笑)言われてみれば確かに似てる。
    うん。でも試食したらね、
    このカマンベール本当に美味しくて。
    ナイフを入れて少しするとトロンととろけるんだから」
東  「へぇー。見かけによらずあのオヤジ腕はいいんだ。
    あー、腹減った。いただきますっ」
穂乃佳「うん」
東  「(オムレツを食べて)んっ!美味い!
    何度食べても穂乃佳のオムレツはサイコーだ」
穂乃佳「そう?(笑)…あのね、光世。話があるの」
東  「ん?何?(ワインを飲む)」
穂乃佳「私、この街で仕事しようと思うの」
穂乃佳「え?…だってあと少しで僕の仕事が一段落して、
    年末には日本に帰る予定なんだよ」
穂乃佳「うん、分かってる…。
    でも私、何もしないでここに居るの限界なの。
    光世は一度出掛けたらなかなか帰ってこないし、
    酷い日は夜中に帰ったり、外泊してくることもあるじゃない」
東  「それは…仕事なんだから仕方ないだろ。
    僕らは何年付き合ってるんだよ。
    そういうこと今更言わなくても、
    僕の仕事がどんなだか穂乃佳だって理解してるだろ?
    ここはフランスで東京とは訳違うんだ。
    移動にも時間がかかるんだぞ」
穂乃佳「そんなこと分かってるわよ!
    でも…私ここには友達がいないし、
    毎日パソコンとにらめっこするのも、もう耐えられないの。
    こんなに退屈な生活になるんだったら、
    モンルージュに残ってた方が良かったかな」
東  「何だよ、今さら。
    あの時僕がパリに残れっ言っても、
    穂乃佳が勝手に仕事辞めて僕についてくるって言ったんだろ」
穂乃佳「そうだけど、少しは私の気持ちも分かってよ!」
東  「……」


カチャカチャとナイフで食器をこすり合わせる音だけが聞こえて、
とても気まずい空気が二人の間に流れていた。
僕は黙って食事を続け、彼女はそんな不機嫌な僕をじっと見ていた。

すると…
穂乃佳「光世。実は、パリに住んでる従姉妹のエミちゃんに相談したら、
    エミちゃんの大学時代の友人が、
    この街でボディケアショップをしてるらしくて、
    ちょうど店員募集してるから、
    アルバイトならって口聞いてくれたの」
東  「えっ。アルバイト…その店はどこにあるの?」
穂乃佳「フランソワ通りの“ベルガモット”っていうお店。
    前に赤のシルクキャミソール買ったお店の近くで、
    ここから歩いて5、6分の距離だから近いの」
東  「んーっ。…」
僕は食事する手を止めて、少しの間考えていたけど、
縋るような穂乃佳の目線に根負けして…
東  「そうだぁ…。知り合いの店なら…まぁ、いいか。
    穂乃佳も毎日部屋の中じゃ退屈だろうし…」
穂乃佳「ありがとう!光世」
東  「で、いつから?」
穂乃佳「私さえ良ければ明日からって…
    って言うか、実はもう仕事してるの」
東  「え!?就職事後報告かよ!…いつから働いてんの」
穂乃佳「実は二週間前から…」
東  「え!?二週間前!?」
穂乃佳「光世、ごめんね。なかなか切り出せなくて」
東  「全く気づかなかったなー。本当にやれるのか?」
穂乃佳「うん。大丈夫!」
東  「ふん。そんな大切なこと切り出せないなら、
    それこそ穂乃佳が言ってた“木箱の伝書鳩”使えばいいだろ?」
穂乃佳「え!?…そんな使い方する為に買ったんじゃないわ!
    とにかく仕事してると気が紛れて本当に楽しいの(笑)」
東  「ふぅん…」
僕はニコニコしながら話す彼女に少々腹が立っていた。
そんな僕の悶々とする気持ちをよそに、
穂乃佳は何もなかった様にチーズを頬張ってた。



ある日の昼下がり、日本に居る生から電話が入ったんだ。

東 「おー、生。久しぶりだな」
神道『光世。どうだ、フランス暮らしは。
   穂乃佳さんは元気してるのか?』
東 「ああ。元気だよ。ここの暮らしは快適だよ。
   今居るホテルがとっても居心地が良くてさ、
   こんな仕事環境のいい所ならずっと住みたいくらいだ」
神道『そうか。もう日本に帰りたくないなんて言うなよ(笑)』
東 「ああ。ただ、チーズやパンにもそろそろ飽きてきたし、
   日本食や畳が少し恋しくなってきたから、
   東京に帰ったら一番に、
   座敷でしゃぶしゃぶと寿司が食べたいよ(笑)」
神道『よし!その時は一緒に、東京一の料亭に食いに行こうな。
   ところで撮影の方はどこまで進んでる?』
東 「今日、トロアの撮影が全て終わったよ。
   後は今日の写真現像と全ての編集済ませたら渡すだけだ。
   パリで最後の仕上げが済めば、年末には日本に帰れそうだよ」
神道『そうか。…あのな、光世。
   ひとつ頼まれて欲しい仕事があるんだが』
東 「ん?何だよ仕事って」
神道『実は、今月末にドイツの写真集の仕事で渡欧して、
   1ヶ月撮影する予定で契約してたカメラマンが、
   急に倒れて腸の手術で入院してな。
   年明けまで代わりにドイツに飛べるカメラマンがいないんだ。
   それで、光世にはかなり無理を言うんだが、
   来月から1ヶ月間、ドイツで撮影を頼めないかな』
東 「1ヶ月…。そっか…。そうことならいいよ。
   ドイツならマンハイムに、
   友人のフランクがいるから手伝って貰えるし、
   僕の方は後2、3日あれば仕上がるから、
   ギリギリ何とかなるから」
神道『そうか。本当に無理言って悪いな。
   詳しい仕事内容は添付して今からメールするよ。
   内容を確認出来たら、パブリック社の中山さんに連絡してくれ。
   今回の仕事の担当者だ。彼の連絡先も一緒に送るよ」
東 「ああ、分かったよ」
神道「俺もクリスマス挟んで一週間、
   ドイツに行く予定にしてるから、
   久しぶりに一緒に仕事しような。
   本場のビール飲みながらな(笑)』
東 「ああ、楽しみにしてるよ(笑)」
神道「穂乃佳さんもドイツに連れて行くのか?」
東 「出来ればそうしたいんだけど、あいつが何て言うか。
   仕事始めたから一緒にくるかどうか。
   最近の彼女、ストレス溜まってるのか、
   些細な喧嘩が増えてさ」
神道「そうか。とにかく、
   穂乃佳さんにドイツの件は話しててくれよ。
   じゃあ、光世。また連絡するよ」
東 「ああ、分かった。またな(切る)」



その夜、僕は穂乃佳に来月のドイツ行きを話した。
すると、彼女は酷く憤慨して大ケンカになった。
穂乃佳「光世、信じらんない!そんな仕事断ればいいでしょ!?」
東  「は!?何言ってんだよ。断れる訳ないだろ!
    僕にとっては依頼されればどの仕事も大切なんだ。
    飛び込んでくる仕事は全てがチャンスなんだ。
    僕の仕事は穂乃佳の様に、
    その時の気分でコロコロ変えられる仕事じゃないんだよ!」
穂乃佳「酷い…(涙ぐむ)光世!酷いわよっ!!」
穂乃佳は泣き叫びながら自分の部屋へ入っていった。
東  「はぁーっ(溜め息)何でいつもこうなるんだよ」

僕はそれから3日間、黙々と自分の仕事をこなし、
同時にドイツ行きの準備を進めていた。
ドイツに住んでいるカメラマンの友人フランクに連絡を取り、
彼に仕事内容をメールして、今後のスケジュールを決めた。
あの喧嘩以来、穂乃佳はずっとつんけんしていて、
結局まともに彼女と話せないまま旅立つことになった。
朝起きると、穂乃香はもう仕事で出掛けていた。
彼女のいない静かで寂しい部屋…
僕はテーブルの上にメモを残し、荷物を持ってホテルを出た。


11月30日。
僕はフランスのランスから高速列車に乗って、
ドイツのフランクフルトへ向かった。
僕にはちょっとした期待と策略があった。
ドイツに行ったら彼女が前の様に仕事を辞めて、
「寂しい…」と言って僕のところに飛んでくるんじゃないかと…
そして年明け、日本に帰ったら春に結婚しようと思っていた。
この仕事が完了するまでは、彼女にプロポーズはしないでおこうと決めて。
でもその策は裏目に出て、穂乃佳の怒りに拍車をかけた。
彼女は居ない間にメモだけ残してドイツに旅立った僕を、
電話するたびに容赦なく責め続けた。


4日目に入ると仕事が急に忙しくなりスタッフも増えた。
休憩もろくに取れないくらいのハードスケジュールに変わり、
仕事が終わってホテルに帰ると、シャワーを浴びる気力も体力もなく、
倒れこむ様にベッドで眠る日が続いた。
そんな僕だったから、穂乃香にまともに電話も出来なくなった。
携帯を見れば、彼女からの着信の数は日に日に増えて…
留守電を聞くのがちょっと恐怖ですらあった。
穂乃佳は、夜中であろうが早朝であろうが電話で僕を起こすんだ。



僕がドイツに来て10日目の深夜。
穂乃香は電話をかけてきた。
終始泣きながら怒りと不満をぶつけ、
とうとう日本に帰りたいとまで言い出した。
さすがの僕ももう心身共に限界だった。

東  「穂乃佳…もういい加減にしてくれよ。
    今日も忙しかったから、くたくたなんだよ。
    頼む。眠らせてくれ…」
穂乃佳『光世、本気で私のこと愛してるの!?
    この間の電話で、今日帰ってくるって言ったのに!
    何で帰ってこないの!?どうして帰れないの!?」
東  「え?そんな約束したっけ?…してないだろ。
    今回の仕事には、たくさんの人が同行してるんだ。
    パリやランスの一人でする仕事の時のように、
    僕の自由になる時間なんて殆どないんだよ」
穂乃佳『光世は私のことなんて眼中にないしょ!』
東  「そんなことないよ!愛してるに決まってるだろ。
    でも本当にハードスケジュールで、
    1ヵ月びっしり仕事が入ってるから、
    こっちの方がダウンしそうだよ。
    他の奴らも休日が取れなくて家に帰れないんだ。
    僕だけ特別に休みくれなんて、とても言えないよ」
穂乃佳『…ねぇ、もしかして…女?浮気してるの?」
東  「は!?そんな訳ないだろ!」
穂乃佳『嘘!仕事スタッフに女性がいるんでしょ!』
東  「何馬鹿なこと言ってんの。野郎ばっかだよ!
    勝手な妄想もいい加減にしてくれ!
    そんなに僕が信じられなくて、浮気を疑うなら、
    穂乃佳がバイトなんて辞めてドイツに来ればいいだろ!?
    そして一日同行すれば僕がどんな仕事をしてるか分かるさ!
    その方が僕も助かるし、毎日一緒に居られるじゃないか」
穂乃佳『え!?何故私ばかりが光世に合わせて生きなきゃいけないの!?
    やっとここで友達が出来たのに光世はまた私に、
    ドイツでホテルに缶詰めの寂しい日々を過ごせって言うの!?』
東  「穂乃佳。そんなこと言ってないだろ。
    あと少し我慢してくれよ」
穂乃佳『我慢…。光世は分かってない(苦笑)私のこと何も…』
東  「え?何が。君のことは僕なりに、
    理解しようとしてるだろ?でも本当に仕事が」
穂乃佳『光世って、二言目には“仕事仕事”なのね。
    やっぱり私のこと分かってない!
    今日が何の日かも、何も分かってない!』
東  「え?今日…今日って…」
穂乃佳『光世、もういいわ!…』
東  「穂乃佳?…穂乃佳!(電話が切れる)」


僕は電話を持ったまま必死で考えていた…今日が何の日か。
疲れと眠気で働かなくなった思考回路をたたき起こし、
フル稼働させて…思い出そうとしていた。

今日は12月9日…

それは穂乃佳の29回目の誕生日だった。
彼女は僕が誕生日を覚えていて、
今日はシャロン・アン・シャンパーニュに戻って、
誕生日のお祝いをしてくれるんだと期待していたのだ。
そう言えば、ドイツに着いた日。
電話で話して、穂乃佳の損ねた機嫌を取るために、
誕生日にシャロン・アン・シャンパーニュに帰ると約束した。
東  「あっ!!しまった…穂乃佳、ごめん」
僕は慌てて彼女に電話をかけ直したが、
僕に失望し憤慨した穂乃佳は電話に出てくれなかった。
それから仕事が終わって毎日電話をしても、
コールする呼び出し音だけが僕の耳に虚しく聞こえた。



一週間後、彼女から電話が掛かってきて、
僕は久しぶりに冷静な穂乃佳の声を聞いた。
僕は真っ先に誕生日に帰れなかったことと祝えなかったことを謝り、
クリスマスイヴには何とか休暇を貰って、
シャロン・アン・シャンパーニュに戻ってお祝いすると約束した。
穂乃佳『光世、寂しい…会いたい』
東  「僕もだよ。穂乃佳、愛してる」
穂乃佳『ねぇ、帰ってきて。今すぐ帰ってきて抱きしめて…』
東  「ごめん、穂乃佳…もう少し、あと一週間我慢して」
穂乃佳『うっ…(泣)』
東  「ねぇ、穂乃佳。仕事は辞めなくてもいいから、
    1日か2日でも休みを貰ってフランクフルトに来いよ。
    僕がチケット用意するから」
穂乃佳『光世が帰ってきて…お願い…』
東  「困ったな。…そんなに一人が辛くて、ドイツに来るのが嫌なら、
    僕が帰るまでパリの伯父さんのところに行ったらどうだ?」
穂乃香『……(泣)』
彼女は電話先で泣きながら、すぐ一緒に日本に帰ることと、
カメラマンを辞めて、普通の企業に勤めて結婚を考えて欲しいと訴えた。
いくら大好きな穂乃佳の頼みでも、泣きながらお願いされても、
仕事のことだけは頑として、強い口調ではねのけた。
彼女の一時の我が儘を、そんなに簡単に受け入れる僕ではない。
僕は再度、彼女に仕事を辞めてドイツに来るよう説得したが、
結局今日も互いの意見をぶつけるだけの会話に終わった。


僕がドイツに旅立つ時に思っていた甘い策略は、
今の頑なな穂乃佳には通用しなかったのだ。
きっと、こういうことを“策士、策に溺れる”と言うのだろうか…
この出来事が、僕と穂乃佳の運命の別れ道となった。
そして…この頃から穂乃佳に変化が起きていたのだ。
(続く)


この物語はフィクションです。
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