ブログ“愛里跨の部屋(ありかのへや)”

本ブログでは、毎月の占いと癒し記事をお届けしております。

愛里跨の恋愛スイッチ小説 (蒼ちゃん編 41)

2011-10-19 12:21:01 | Weblog
41、冷たい街



奏士くんのバイクは公道から、スター・メソドの門を入り、
ゆっくりと駐車場の中へ入ってきた。
裏口近くにバイクを停めエンジンを切って、ヘルメットを脱ぐと、
奏士くんは目の前の不気味に立っている、
黒いビルを鋭い視線で眺めた。
奏士「ここか…」



(スター・メソド、二階オフィス)

神道社長は、実写『ツイン・ビクトリア』撮影の商談中だった。

神道「(書類を見ながら)是非この見積もりでお願いします。
   明後日の『ツイン・ビクトリア』の撮影から加わって頂きたい」
男性「はい、大丈夫です。
   この間出された写真集といい、このお話の実写版といい、
   神道さんの活躍には僕も注目していただけに、
   今回一緒に組めて光栄ですし、本当に楽しみですよ。
   早速、グラフィックとスチール写真を用意します」
神道「ありがとうございます!
   いやぁ、本当に助かりますよ。
   こちらも貴方が味方についてくれれば百人力ですからね」


コンコン!(ノック音)

神道「おお、やっと来たかな。はい、入りたまえ」
奏士「失礼します(ドアを開ける)」


奏士くんはドアを開けてオフィスに入り、
神道社長と打ち合わせをしている男性を見て、
思わず険しい顔で立ち止まり固まってしまった。
奏士「あ、兄さん…」

神道社長と打ち合わせしていたその男性は、
奏士くんのお兄さん、一色幸雅(こうが)だったのだ。

幸雅「ん!?…奏士!何故お前がここに…
   神道さん、これはどういうことですか?」
神道「ああ。彼には別件で協力を依頼してましてね」
幸雅「別件?」
神道「はい。実はうちのモデルの金賀屋蒼が、
   奏士くんと良いお付き合いをさせて貰ってるんです」
奏士「し、神道さん!」
幸雅「え?…奏士がおたくのモデルさんと、ですか…」
神道「はい。一色さんも東光世はご存じでしょう?」
幸雅「ええ、勿論。
   この業界で東光世を知らない人はいないですからね」
神道「その彼女が12月からドイツに渡り、
   東光世の指導で写真エッセイ集を出すんですよ」
幸雅「ほーぅ」
神道「それで彼にも臨時で撮影アシスタントをして貰ってるんです。
   今日はその為の打ち合わせに呼んだんですよ」
幸雅「そうでしたか。
   奏士、お前もやっとこの世界を理解する気になったんだな。
   学生のお前が、神道さんと東さんの元でアシスタントなんて、
   本当に誇らしいことだぞ。僕も鼻が高い。
   お二人に迷惑かけないようにしっかりやれよ」
奏士「……」
幸雅「この話をすればきっと、親父も喜ぶだろうな」
奏士「おい、あの人には言うな!神道さんが今言ったことも含めて、
   あの人や身内の前で僕の話は一切するなっ!」
幸雅「奏士!あの人ってお前の父親だぞ!」
奏士「父親…。…ふっ…くくくくくっ(笑)…」
奏士は声を殺して笑い、じっとお兄さんの顔を睨みつけ、
胸のモヤモヤを吐き出す様に強い口調で言った。


奏士「父親…よく言うよ(笑)
   中学の時以来、まともに話もしてないんだぞっ!
   それでも親か!金さえ渡せば親なのか!
   兄さんだってそうだろ。
   6年ぶりに会っといて、僕に偉そうに説教するか。
   自分の都合の良いときだけ、家族面するんじゃないぞ!」
幸雅「奏士…。神道さん、すみません。
   弟の失礼な態度を許して下さい」
奏士「……」
神道「いえ、いいですよ。身内とは得てしてそんなもんです。
   私にも確執はありますし、どの家庭にも色々あります。
   奏士くんも第三者の私の方が落ち着いて話しが出来るでしょう」
幸雅「はい(苦笑)…では、今日はこの辺で。
   明日宜しくお願いします。
   それから、弟のこともどうぞ宜しくお願いします(一礼する)」
神道「はい、安心して任せて下さい。
   では、こちらこそ明日宜しくお願いします」
幸雅「じゃあ、奏士。またな」
奏士「……」
奏士くんのお兄さんは、奏士くんを横目で見ながら部屋を出ていった。
奏士くんは下を向き、歯を食いしばり両手を握り締めて、
お腹の底から湧き上がる怒りを抑えていた。


神道「一色くん。そんなとこにつっ立ってないで、まぁ座りなさい」
奏士「神道さん…これはどういうことですか。
   何故兄がここに居るんです。
   もしかして、わざと僕と鉢合わせさせたんですか!」
神道「いや、一色さんとは前々から仕事の打診はしていたよ。
   一色幸雅はクリエイティブでなかなか面白い仕事を手掛けてる。
   今回彼に『ツイン・ビクトリア』の撮影に加わって貰うように、
   是非にと私がお願いしていたんだ。
   実写となるとリアリティーが要求されるからね。
   彼の技術と感性が今回の撮影には必要不可欠だ。
   そんなことは、君も美術を学んでるんだから分かるな」
奏士「それだけじゃなく、何故蒼との事を話したんだ。
   僕と蒼の付き合いは兄には関係ないでしょう。
   人のプライベートを掻き回す様な、
   至らない干渉はしないで下さい!」
神道「一色くん!何か勘違いしてないか!
   君はうちの商品であるモデルと付き合ってるんだぞ!」
奏士「商品!?」
神道「ああ。僕らはその一人一人に大金を使ってるんだ。
   そして彼女達を一人前にして、世界に羽ばたかせてる。
   まだ一学生で世間知らずの君が、うちの大事な商品に手をつけてる。
   蒼さんや茜ちゃん、
   情けないことに、光世までが必死で君を庇ってる(笑)
   でも何故か分かるか。
   それは君が一色昌道の息子で、一色幸雅の弟だからだ」
奏士「…それは違う。…蒼は…。
   それに東さんともここに来る前に話したが、
   僕自身を認めてくれている」
神道「ふぅん。果たしてそうだろうか。
   まぁ、私から言われた事が悔しかったら、
   絵の世界で名を売って、自分の実力でこの世界に這い上がり、
   本物の男として蒼さんをものにしたらどうだ」
奏士「……」
神道「蒼さんがこの世界を歩み始めドイツに渡れば、
   今の君たちの絆なんて脆いものだと感じるだろう」
奏士「く…っ(怒りを抑え考えている)」



(スター・メソド一階、裏口通路)
奏士のお兄さんが廊下を出口に向かって歩いていると、
ドアを開けて、東さんが早歩きで入ってきた。

幸雅「東さん!」
東 「んっ…。貴方は…一色幸雅さん!」
幸雅「いやぁー。ここで東さんにお会いできるとは光栄だな。
   貴方も奏士と一緒に打ち合わせですか」
東 「え?一色さん、奏士くんと会われたんですか?」
幸雅「ええ、先ほど上で会い話しました。
   神道さんから、弟は貴方のアシスタントをしてると、
   先ほど聞きました」
東 「えっ。あぁ、はい…」
幸雅「弟はずっとこの世界を避け続けてきたもので、
   話を聞いたときは本当にびっくりでしたが、
   貴方達が居れば、きっと良い刺激を受けて、
   弟の中で何かが変わるかもしれない。
   世間知らずで不束者ですが、
   今後とも宜しくお願いします(一礼する)」
東 「あぁ、いえ。こちらこそ宜しくお願いします(一礼する)」
幸雅「では、失礼します」

幸雅さんは深々と頭を下げて挨拶をすると、
少し寂しそうに歩きながら、ゆっくり出口に向かっていった。
そんな幸雅さんの後ろ姿を、東さんは心配そうに見送ってる。
東 「生の奴、一体何をする気だ。
   兄弟を鉢合わせさせたのか?何を考えてる…」
東さんは階段を駆け上がり、二階のオフィスに向かった。



(二階オフィス)

奏士くんは怒りで震える手を握り締めて、少しの間黙っていたけど…
奏士「神道さん…それは僕が一端になるまで、
   蒼に近づくなと言ってるんですか…」
神道「まぁ、そうとも言うな。
   君だって自分の家族をこれまで見てきたなら、
   この業界のルールくらい少しは分かるだろう。
   さっきお兄さんとの会話を聞いていて、
   君も長い間嫌な思いをして苦しんできたようだから。
   叩かれる人間の末路がどういうものかも察しはつくな。
   いいかげん大人になれよ、一色くん。
   一時の恋の熱に絆されて、君の子供じみた感情で、
   大切な蒼さんをそんな道に引きずり込みたいかい?」
奏士「…蒼と別れろと言うんですか」
神道「いや、別れろとは言わない。
   私が君にお願いしたい協力とは、彼女の撮影が一段落するまで、
   ただ黙って静観して欲しいと言うことだよ。
   君が蒼さんを本当に愛していて、
   守りたいと思っているならこんな協力は簡単なことだ」
奏士「……」


お兄さんとの思いがけない再会に動揺する奏士くんに、
神道社長は半ば強制とも言える口調で、容赦ない攻撃をしたのだ。
怒りと悲しみに追い討ちをかけて…


そんな重苦しい空気を打ち破るように、
奏士くんを心配した東さんが、いきなりドアを開けて入ってきた。
東 「生!」
神道「おお。光世、何しにきた」
東 「(奏士を見て)一色くん…。
   生、お前一体何を企んでる。
   一色くんに何を話して、何を協力させるつもりだ。
   それに何故、一色幸雅がここに居たんだ」
神道「ふぅ(溜め息)来て早々質問攻めか。
   企むって…光世、お前はここの人間なんだ!
   訳の分からん身勝手な同情は止めろ!
   それに、一色幸雅さんに関してはお前は担当外だ。
   いちいちお前に話す必要はない」
東 「お前が一色くんに言ったことは、
   蒼さんとの今後の付き合いに関してだろうから、
   大体検討はつくが、お前がやろうとしていることは、
   これから上手くいく蒼さんの可能性を潰すことになるんだ。
   それくらい分からないのか!」
神道「光世、お前には本当にがっかりだな。
   悪いがこれ以上、この件に関しては話すことはないし、
   私は今から明日の準備をしなければいけないんでね。
   言いたいことがあるなら後日聞くから、今日は帰ってくれ。
   一色くんも、さっきの件宜しく頼むよ」

神道社長は、冷たく突き放すように二人に言うと、
二人の間をすり抜けてオフィスを出ていった。
奏士くんは俯き、黙ったまま一点を見つめていた。


東 「一色くん、大丈夫か?
   僕がさっき言った忠告だが、安易に承諾なんかしてないよな?」
奏士「ええ…承諾はしてません。蒼とは別れませんから…」
東 「ふぅ(溜め息)そうか」
奏士「東さん…」
東 「ん、なんだ?」
奏士「東さんは、僕が一色昌道や幸雅の身内だから、
   ここまで庇うんですか。守ろうとするんですか…」
東 「何言ってるんだ。さっきも話しただろ。今は違う。
   神道に何を言われたか分からないが、蒼さんは勿論、
   僕や茜さんやヤスも、君の純粋さに惹かれたんだ。
   だからみんな守りたいと思う」
奏士「ふっ(笑)そうですか。それを聞いて安心しました。
   あの、…東さん。…蒼を…蒼のことをお願いします」
東 「え…それはどういう意味だ」
奏士「僕が居ない間、蒼のオーラが消えないように、
   あの写真のキラキラしたオーラが消えないように、
   貴方が…貴方が、蒼を愛してやって下さい」
東 「一色くん!何を言ってる!」
奏士「じゃあ、僕もこれで失礼します」
部屋を出ようとする奏士くんの腕をぐっと掴み、
東さんは諭すように言った。
東 「一色くん、あの写真のオーラは、
   あの輝くオーラは君が愛さなければ出ないんだぞ!
   君の描いた『Gaze at the sea』がそれを語ってるだろ!」

奏士くんは東さんの手をゆっくりほどき、
軽く頭を下げて、驚く東さんの目をしっかり見ると、
少し微笑んでオフィスのドアを開けて出ていった。
東「おい!一色くん!」


廊下を歩く奏士くんの足は、早歩きから駆け足へと変わり、
階段を駆け下り裏口からビルの外へ出ると、
ヘルメットをかぶりバイクに跨がってエンジンをかけた。

奏士「くそぉ…何も言い返せない…
   指切りげんまんしたのに…
   蒼…約束…守れそうにないよ…」

ブォン、ブォン、ブォン、ブォーーン!

奏士くんはスター・メソドの敷地から公道に出ると、
アクセルを思い切りふかし、バイクを走らせた。
まるで悲しいと憎しみと、私への想いまで吹き飛ばすかの様に、
どんどんスピードを上げて…
奏士くんは心まで凍りつかせる程の冷たい街を、
猛スピードで走り抜けたのだった。
(続く)



この物語はフィクションです。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 愛里跨の恋愛スイッチ小説 ... | トップ | 愛里跨の恋愛スイッチ小説 (... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事