時には目食耳視も悪くない。

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面食いですか?

2017年05月26日 | 映画
 「あなたは面食いですか?」

 私の場合、答えはずっと「いいえ」です。
 だって、世間的にカッコいいとされている男子って、性格悪そう(偏見?)だし、顔がイイということで何か得をしてそうでズルい(やっぱり偏見?笑)
 だったのですが、最近その信念が崩れるような出来事がありました。

 《ルートヴィヒ(原題:Ludwig II》(2012、ドイツ)という映画を観た時のことです。
 この映画、かの有名なドイツのお城を作らせたバイエルン国王ルートヴィヒ二世Ludwig II(1845-1886)のお話です。
 この王様については、その凡人には理解し難い波乱万丈な人生ゆえに、人々の興味をひいて今までにも何度も映画が作られていますね。
 その王様のお城の厩舎長(馬小屋係?)を演じた俳優さんに珍しくトキメキました。

 何が珍しいって、私の好みのタイプは「ぽっちゃりした穏やかで優しいオジサマ」だからです。
 あのしゃべる殺人クマ《テッド(原題:Ted)》(2012、アメリカ)みたいな人です。
 ですが、この役を演じたFriedrich Mueckeさんは、まあまあのイケメン(何様?)だし、年も若い方。

 ワイドショーやバラエティ番組でイケメンだともてはやされているセレブさんや、タレントさんたちにはあまり心を動かされることがない私がなぜ?と思い、この俳優さんが出ている他の作品も観てみたら、全くときめきませんでした…(おい)

 つまり、この映画での彼の役どころに惚れたわけで、私の好みが変わったわけではありませんでした。一安心です。

 さて、私に(勝手に)イケメン認定されたミュッケさんが演じるのは、これまた(若い時は)イケメンとして有名だったバイエルン王の忠実な家来ホルニヒさん。
 主人公のバイエルン王はそれはそれはピュアにこの青年に恋をします(今どきの中学生だって、こんなにピュアじゃないよってくらいにね)。
 恐らく、宗教的な倫理観・信仰心も大いに手伝ってのことだと思われます。

 そして、青年の方も王のピュアさに心を鷲掴みにされてはいるのですが、この二人の間には様々な問題が山積み。
 同性ということはもちろん、王は血筋を絶やしてはいけないため、女性と結婚しなければいけないし(結局、婚約破棄しましたが)、王と家来という身分の違いの問題もあり、そして宗教的倫理観に政治的体面や世間体と、どう考えてもうまく行くはずがありません。

 好きという気持ちだけでは成り立たない恋愛関係のお手本のような二人です。
 イケメンだからって、必ずしも得しているわけじゃないんですね。

 彼らは結局、お互いに相手に気持ちがありながら、それ以上踏み込まない関係を、いい年こいたオジサンになるまで何年も続けたわけです。
 その頃にはもう、王は不摂生が祟ってデブのオッサンになっていました(違う意味で魅力的…笑)。
 俗に言うプラトニック・ラヴです。それはそれで美しいですよね。

 しかし、この青年が王と結ばれなかった本当の理由は、男同士だとか、主従関係だとか、世継ぎ問題だとか、そんなことではなく、お互いに素直になれなくて意地の張り合いをしたのだと、彼は別れ際に王に言うのです。
 つまり、何にもとらわれずに王から愛されたかったし、自分も王を愛せばよかったって!(キャー!赤面)

 なんと可愛いイケメン(いいトシこいたオッサン)たちか!!
 今からでもいいからくっつけや!(←誰?)と思いましたが、時すでに遅し。
 二人は王国の行く末を案じた重臣たちに引き離されてしまうのです(涙)

 恋愛映画が苦手な私ですが、今まで観たどの恋愛映画よりも感動しました。
 初めて腐女子の皆さんの気持ちが分かりました。(あれ?違う?)

 とはいえ、この映画は決して王の恋愛面だけにスポットを当てたものではありません。(この記事を読むと、いかにもそういう映画だという印象を与えてしまいそうですが…)
 バイエルン王国の置かれた当時の厳しい社会情勢や、王が庇護した音楽家のワーグナーWilhelm Richard Wagner(1813-1883)とのエピソード、戦争によって精神に異常をきたした弟、そして、幽閉生活の果てに悲劇的結末を迎えるルートヴィヒ王の生涯全体を描いたものです。

 もちろん、王の人生にとってホルニヒさんとの出会いは、一国の運命を一身に背負わねばならない王位にあって、かけがえのないことであったのは確かでしょうが。
 それだけに、この二人が結ばれて幸せに暮らしてくれたらどんなに良かったか!と思わずにはいられませんでした。
 精神異常の濡れ衣を着せられて、監視生活を強いられ、孤独な最期を迎えたルートヴィヒ王が可哀想でたまらないです。
 フィクションのBL作品だったら、軟禁されている王を青年が助け出しに来て、二人は逃亡先で末永く幸せに暮らすのにぃ…涙
 (まあ、年齢的に無理があるか…いいトシこいてるからな…)

 唯一の救いは、王が国の財政を傾けてまで作ったお城や豪邸が、今ではドイツの観光資源として活かされているということでしょうか。
 人生って、うまくいかないですね。



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