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棋士の佐藤天彦さんは、普段のファッションもモーツァルトを意識するほどのクラシック好き!なかでも交響曲「ジュピター」は中学生のときから愛してやまない特別な音楽。特に第4楽章の高度な構築性と感動のフィナーレには強く憧れて、そんな将棋をいつか指してみたいと熱く語る。
19世紀に活躍した天才作曲家リヒャルト・シュトラウスはこの曲の第4楽章に「私は天国にいるかのような思いがした」と語ったという逸話が残っている。今、世界が注目する若手指揮者・山田和樹にとっても、交響曲「ジュピター」は人生の節目ごとに演奏してきた特別な音楽。この曲のフィナーレには「まばゆい光」が見えるそうで、「もし人生最後の曲を自分で選べるとしたらジュピターと決めている」という。音楽家たちにとって、この曲は天国の光を思わせる音楽なのだ。
実はこの曲を書いた当時、モーツァルトは父や娘を立て続けに亡くし、人間の死を身近に感じていた。いっぽうでその頃、彼の暮らしにはもうひとつ大きな変化があった。その前年にウィーンの宮廷作曲家に任命され安定した収入と名誉を得て、嬉しさで有頂天だったことが残された手紙などからわかっている。ジュピターを書かせたのは、そんな悲しみのなかで味わったあふれるほどの喜びという複雑な感情だったのかもしれない。喜びが疾走し、天国にまでのぼっていくかのような音楽でありながら、底知れぬ悲しみも感じさせる暗さもある深みのある名曲なのだ。
モーツァルトの魅力が凝縮した第4楽章を 作曲家 千住明が独自の視点で解き明かす。その音楽の基本になっているのが、冒頭のメロディにも現われる「ドレファミ」だ。これは今から千年以上前からグレゴリオ聖歌にも現われる音形。モーツァルトはその「ドレファミ」をきらびやかな天上の音楽に仕立て上げるため古くから伝わる「フーガ」風の手法を用いた。「フーガ」とは、ラテン語で「追いかける」という意味があり、「ドレファミ」をどんどん積み重ねて荘厳な教会の天井画のような世界を作り上げたのだと千住さんがピアノで解説。さらに、きらびやかな天国のような音楽にも独特の陰影をつけてドラマチックに演出するところが天才モーツァルトの真骨頂。光と陰で天国を描いたモーツァルトの独創的なドラマの作り方に焦点を当てて分析する。
テレビ・映画・アニメ・CMなどの音楽を数多く作曲。東京藝術大学特任教授。
第74・75期名人。2016年に羽生善治さんとの戦いを制して20代で名人となった将棋界のトップランナー。
クラシック音楽への深い造詣からニックネームは「貴族」。