草木染めニットALUN  手しごと日記

今日は何を作ってるかな?

レメディ物語り2

2024-10-08 16:54:42 | ホメオパシー

タイトル「昌也をめぐる3人の女性たち」

 

<出演>

 

Pulsatilla プルサティーラ 

セイヨウオキナグサ

27歳 女性 大手玩具メーカー 経理部 風見優子

 

Lachesis ラケシス

ブッシュマスター 

毒蛇の毒

29歳 女性  大手玩具メーカー 企画部 天野瑠美

 

Staphisagria スタフィサグリア

ヒエン草の種子

29歳 女性 大手玩具メーカー 営業部大阪支店勤務 高見沢貴子(キコ)

 

レメディ不明 

29歳 男性 大手玩具メーカー 営業部 大木昌也

 

 

 

第1話 Pulsatilla 風見優子

瑠美、貴子、昌也は同期の親友。大阪支店に転勤になった貴子が久しぶりに東京本社に出張になったので同期で飲み会を・・ということになったが、瑠美は担当の企画案件が大詰めで参加できず、他の何人かも都合がつかず、貴子と昌也が二人、サシで飲んでいる。

話題に出ている優子は昌也が今現在付き合っている彼女。昌也は優子と付き合う前は一時、瑠美と付き合っていたが、瑠美をふって優子のほうになびいた過去がある。

 

「カンパ〜イ!」

「久しぶり〜。」

とお互い差し障りのない近況報告して、二人とも程よく酔いが回った頃。

 

昌也:「俺さ〜。実は優子と別れたいんだよね〜。」

貴子:「嘘〜!あんなラブラブだったじゃない。まだ結婚しないのが不思議って思ってた。」

昌也:「優子が結婚したがってるのは、前からわかってるんだけど、俺が踏み切れないんだよね。かわいいし、守ってあげたいと思って付き合ったんだけど、最近なんだか重いんだよ。真綿で首を絞められている感じでさ。」

貴子:「何それ!俺が一生守ってあげなきゃ、って、瑠美を振ったんでしょ。」

昌也:「それはそうだけどさ・・あの頃は、心底思ってたんだよ。この子を守れるのは俺しかいないって。

あいつが入社して間もない頃にさ、給湯室の隅で泣いてるのを見かけちゃってさ。ちょうどランチに行こうと思ったんで、誘ったわけよ。

先輩として何かしてやんないとな、って思って。

外に出たら、ニコニコして、素敵なお店ですね〜とか言ってたから、もう大丈夫だと思ってたんだけど、

なんかあったらなんでも聞くよ!って言ったら、「私が悪いんです。私嫌われてるみたいで・・」って急にまた泣き出して。聞くとほら経理部にお局が何人もいるじゃん。あの人たち敵に回しちゃって、色々意地悪されてるらしくて。で、それからも何かと気にかけてやったわけ、そしたら、大木先輩だけが頼りですって泣かれちゃって・・・。

ちょくちょく、飲みに行ったりしてたら、噂が瑠美の耳に入っちゃって激怒されてさ、「私とその人どっちを選ぶの!?」ってなっちゃったわけ。

それでつい、お前は一人でも大丈夫、でもあいつには俺が必要なんだ。って言ってしまったわけよ。

俺も、実は後悔してたんだ。でも優子は落ち込んでる俺に、私のせいでごめんなさいって甲斐甲斐しく手料理を運んだりしてさ、だんだん本当に一生守ってあげようって気持ちになって来ちゃったんだよね。

怒っている瑠美は本当に怖かったし。」

貴子:「それがどうして嫌になっちゃったわけ?」

昌也:「優子は従順で、なんでも俺に気を遣って優しいんだ。でも自分がなさすぎる。まるで俺の人生が私の人生だ、みたいな事を言うんだ。例えば、「昌也がいなくなったら、私死んじゃう」みたいな事を年中言っている。最初は嬉しかったんだよ、愛情表現だと思って。でもこいつほんとに別れたらどうなるかわかんないなと思えてきたら、その愛情が重いんだよ。

俺抜きで、自分がこれをやりたいとか、これをやったら楽しいとか言う事を持って欲しいんだ。

そんな時、新規のプロジェクトで瑠美に久しぶりに会った。彼女も企画部のメンバーで、数ヶ月同じチームで働いた。

彼女、すごく輝いていて、俺も最初は気まずかったんだけど、全然気にしてないような素振りを見せてくれて、やっぱいいやつだな〜って。

あっ、別になんもないんだよ。そう思っただけ。でも優子は瑠美と仕事をしてるって知って、すごく嫉妬して、なんだかすごく情緒不安定なんだ。

自己憐憫っていうの、なんもないって言ってるのに、なんて私はかわいそうなの!ってすっかり被害者気分なんだよ。普段から病気がちなんだけど、わけのわからない病気になってる。」

貴子:「何?わけのわからない病気って?」

昌也:「不定愁訴っていうの?年中どっか悪いって言ってる。風邪ばかり引いてて、食べたものが悪くて、胃がいたいとか下痢したとかすぐ言うし、生理痛がひどくて起きられないこともある。

顔がほってって熱いと言ってるかと思うと寒気があるっていうし。寒いっていうから窓しめて暖かくすると、息が詰まりそうだから窓開けてっていう。それで、じゃあ明日病院に一緒に行こうっていうと、翌日には治っちゃうんだ。」

貴子:「それは昌也も大変ね。ふふっ・・。

でもそんなの、女子はみんなわかってたよ。お局がいじめたのも、本当は彼女があんまり仕事のミスが多くて、しかもそれを人のせいにするから嫌ってたんだよ。「何もわからないんです〜」って態度で上司に媚びるから、結局責められるのはお局の方で「ちゃんと教育しないとダメじゃないか」とか言われちゃうから、嫌われて当然。

女子から見たら、私かわいそうなんで〜っていう、自己憐憫が見え見えで、あー昌也引っかかっちまったなーって誰もが思っていました。(笑)」

昌也:「そんな〜。それじゃ俺はどうしたらいいの〜?」

貴子:「自業自得だね。瑠美だってね。相当のショックだったんだよ。負けず嫌いだから、泣き言言ったりしなかったけど、当時は調子悪そうで、痩せちゃって見る影なかった。でもどっかで吹っ切ったんだろうね。仕事バリバリ打ち込んで、逆に今の瑠美の地位があるのは、昌也と破局したおかげかもね。

そんなに好きなら、優子と別れてもう一度瑠美に告白してみたら?断られると思うけど・・」

昌也:「俺にはそんな勇気はない。優子と別れるのも大変そうだし。今、瑠美がすごく気になってるけど、瑠美の前に言って、あの目で見つめられると、俺はフリーズして何も言えなくなっちゃうんだ。」

貴子:「もう知らんわ!優子を幸せにしてやればいいじゃん。私そろそろ帰るよ。明日会議だし。」

昌也:「そっか。また出てきたら連絡しろよ。今度は俺が同期全員集めるから。」

貴子:「そろそろみんな、それぞれの道を・・じゃないのかな?でも今日は昌也と二人で話せてよかったよ。」

昌也:「俺もだ。貴子だとなんだか人に言えないような事話せちゃうな・・。副支店長候補って噂を聞いてるぞ。頑張ってな。」

貴子:「まだまだ、だよ。ほんま大阪弁もろくに話せませんわ〜!」

昌也:「確かに貴子に大阪弁は似合わないな。仕事ばっかりじゃなく、早くいい人見つけろよ〜」

貴子:「大きなお世話!」(笑笑)

 

第2話 Lachesis 天野瑠美

 

入社5年目の天野瑠美は企画部の女性社員の憧れの的だ。イキイキと働く姿。途切れる事ない発想力。男性社員顔負けの弁が立つ説得力。実際のリーダーは中堅どころの男性部長だけれど、実質企画部を動かしているリーダーは、彼女である。

ただ他の部署の女性社員や企画部の一部の男性社員は、彼女の高慢な態度を、極端に嫌うものもいる。

 

風見優子もその一人だった。

 

優子の回想

一度だけ友人の誘いで合コンに参加した時に、天野瑠美と初めて会った。

瑠美は、常に話の中心、大きな声で男性の注目を集め、変わるがわる話題を提供し皆を笑わせていた。

私には皆が笑っているジョークがわからず、何やら経理の仕事は無味乾燥でつまらないでしょう、と皮肉めいた事を言われたのが引っかかって、笑いの輪に入れなかった。瑠美の独壇場でしらけきっていると、隣に座った男性も、私と同じ思いだったらしく、私が意味ありげに微笑むと、向こうも含み笑いをして、小声で一緒に出ましょうか、と言って来たので、二人でこっそり抜け出したのを思い出す。

それからしばらくして、私が好きになった人の彼女が天野瑠美と知った時は驚いたが、罪悪感は湧いてこなかった。彼がいるのに合コンに出るってなんなんだろう。私なら絶対にそんな事しない。あの人よりは私の方がずっと彼を幸せにできると思う。どんなに素晴らしい仕事をするよりも、一人の男性につくして愛し続ける方がずっと価値があると思う。

 最近になって、昌也は天野瑠美とプロジェクトで一緒になった。昌也をそれをわざとらしく私に報告した。何にもないのを証明したいように。あっちも俺も昔のことなんかすっかり忘れてるからと言いつつ、私の言うことに上の空の時がある。

私には昌也の気持ちが、少し傾いているのがわかってる。

昌也を失ったらどうしよう。私はもう生きていられない。それを思うとハラハラと涙が出て止まらなくなる。そんな事なんとしても阻止しなくては。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

深夜。会社の企画室に一人パソコンに向かい仕事に熱中していると思われる 天野瑠美。

会社員とは思えぬ、首元が大きく開いてゆったりとしたパンツスーツを着ている。守衛さんが廊下を歩く音に、ビクッとして振り向く。

 

瑠美の回想

あーもうこんな時間か、終電がなくなってしまう。いつの間にか考え事に耽ってしまった。

 今日は大阪支社勤務の高見沢貴子が東京に出て来たので、久々に同期で飲み会をやると誘いがあったが、急ぎの仕事があってどうしても出られないと断った。

忙しいのは本当でもあるが、本音は元彼の大木昌也に会いたくなかった。昌也とは先だって同じプロジェクトを担当することになって、別れてから初めて会話をした。

もう何事もなかったような対応を見せたけど、それは悔しさが残っていて弱みを見せたくなかったからで、私の中の棘が完全に抜けた訳ではない。

昔のようになんの屈託もなく、同期の仲間として会えるわけもない。

 

昌也とは、新入社員の研修合宿で親しくなった。あってすぐに気が合うと感じ、肉体関係をもつまでにさして時間は掛からなかった。情熱的な恋愛が始まり、昌也は最高のSEXパートナーでもあった。

憧れの企画部にも配属され、あの頃は最高に毎日が充実していた。

 付き合い初めて3年になろうとする時、昌也が浮気をしていると耳に入った。問い詰めると、2年後輩の経理部 風見優子と頻繁に会っているという。

聞き覚えがある名前だった。しばらく前に数合わせで出席を頼まれた合コンで一緒になった娘(こ)だ、男に媚びてしなだれるような仕草や、自分の意見を言うこともなく、意味なく微笑む様子に、虫唾が走るように嫌いなタイプと思っていたら、途中で男を誘惑したのか二人バックれた。なるほど男好きするタイプだなと思っていたら、私の昌也を餌食にするとはなんて事。

腹ワタが煮え繰り返るような思いだった。

昌也の「お前は一人で生きられる。俺は一生あいつを守りたいんだ。」という言葉に愕然とした。何をたぶらかされているんだ!と呆れたが、私を捨ててあんな小娘を取るなんて、もうどうでもいい。おっしゃる通り一人で生きます。と意地になった。

 そうやって、別れが訪れて一人になると、私は嫉妬の炎にかられて身動きできなくなった。二人を呪い殺したいとさえ思った。

二人が私の知らないところで何をしていたのか、いつから裏切られていたのか。疑念を持ちありとあらえる想像が湧き上がってくる。ずっと前から二人は肉体関係があったのではないだろうか。二人で私をせせら笑っていたんじゃないだろうか。昌也が言った言葉の数々はみんな嘘で、私にの肉体を求めただけだったのではないのか。絶対許せないと思った。

 

毎日毎日、呪っていても二人は死なず、弱って来たのは私の方だった。

 まずは生理が不順になり、なかなかやってこなくなった。おりしも私が苦手な夏に差し掛かり、一気に具合が悪くなった。左側の扁桃腺が腫れて熱が出たのが皮切りで、顔が火照って、動悸、息切れが頻繁に起こるようになった。脈も不規則になっているような気がした。特に朝起きた後の倦怠感がひどく、会社に行くのがひどく億劫になった。

不安になり、循環器科を受診すると、血圧は高いが、不整脈はない、心臓も異常がないので、ストレスと過労による一過性のものだろうと言われた。

 診断が出たことで、会社を休みやすくなったので、溜まった有給を利用して、長期の夏休みをとった。長野にある癒しのプログラムのある保養所で2週間療養した。

ひんやりした山の空気、新鮮な野菜。冷たい山の湧水が私の心と体を癒して行った。何日か経って、何ヶ月ぶりかの生理が来た。大量の経血が出る重い生理で2日ほど寝込んだが、それが過ぎるとみるみる回復していった。

この滞在で私は何かが吹っ切れ、生まれ変わったような気持ちになった。

 それからは、嫉妬のエネルギーを全て仕事とスキルアップに充てた。企画に全力を注ぎ、そのほかにも英会話を習いTOEICの資格を取得した。

異文化の人との交流が必要と、さまざまなコミュニティをSNSで見つけては参加して、人脈を増やした。

人生を充実させるには、体力も必要と、ジムに入会して、ヨガや水泳を日課にした。

芸術性も必要だと、合唱のサークルに入り、美術館鑑賞も趣味にした。

 そうやって目まぐるしく動くことで、嫉妬の炎も鎮火したように見えていたのに、久しぶりに昌也に会ってしまうと、心の奥に疼くものがあるのを否定することは出来なかった。昌也への未練なのか、嫉妬の火種がまだ消えていないのか。

もしかしたら昌也がどうとかでなく、私は男の愛を求めているのかもしれない。

 そんな煮え切らない思いを断ち切るために、海外進出のために立ち上がるニューヨーク支社の配属を希望してみようと思う。前から悩んでいたが、語学力を活かせるのも魅力だし、私ならまだまだやれる。こんなところでぐずぐずしてはいられない。

 

第3話 Staphisagria 高見沢貴子(キコ)

 

 東京出張から大阪の一人暮らしの自宅に戻った貴子は、冷蔵庫から缶ビールを取り出し、ソファーにぐったり沈み込んだ。仕事の疲れ以上にメンタルをやられていた。

大阪人のあけすけな気質に慣れず、早く東京に戻りたいと思っていたが、東京本社に戻るには、自分自身がまだ、きついのだと言う事を思い知らされた東京出張だった。

 

 同期の仲間が、久しぶりの飲み会を企画してくれたが、みんなそれぞれに忙しく、当日ドタキャンの人もいて、昌也と二人きりと聞いた時は、自分でも信じられないくらい心がウキウキしてしまった。

お互い営業での苦労話など、久しぶりの昌也との会話は終始弾んで楽しいものだった。昌也は以前のようにフレンドリーでオープンな性格で、ちょっとした女性への気遣いぶりも嬉しくて、自分がまだ昌也に恋心を抱いているんだと自覚するよりほかはなかった。

 酔いも程よく回った頃、昌也から風見優子の話が出て、そうか、もう入社当時の私たちでは無いのだと、現実に引き戻された。

昌也は倦怠期なのか優子と別れたい、元カノの瑠美に心を惹かれていると話し始めた。親友の顔をして相談に乗っている私の心の内は複雑で、「ずっとあなたが好きでした。私と付き合ってください」と叫びたい気持ちをグッと飲み込んでいた。

 

 昌也には初めて会った入社式の日から惹かれるものがあった。その後の新入社員の研修合宿でますます好きになり、希望していた企画部に配属されず営業部になった事も、昌也と一緒の部だったことで、この先がバラ色に感じられた。

 同じ部で同じ苦労を経験することで、昌也との間が急速に縮まったと思っていたのに、ある日昌也から瑠美と付き合っていることを聞かされた。

ショックだった、私とは友達を超える気持ちはなかったんだ。

瑠美もなんとなく昌也に気があるのは感じていた、でも自分のほうがうんと昌也の近くにいたので、安心していたところがあったのかも。

 あの頃は頻繁に同期会をして、みんなで励ましあっていたのだけれど、女子だけの同期会の席で、瑠美が昌也と付き合い始めたいきさつを、自慢げに話していた。やっぱり瑠美の方が積極的にぐいぐい誘って行ったようだ。

悔しいと思うが、瑠美には自分はかなわないと諦めもある。瑠美は人を惹きつける魅力がある。知的な魅力と、色気の両方を兼ね備えている。どちらも私にはないものだ。

それに私は昔から絶対に自分の気持ちを打ち明けたりできない。それで何度もこういう苦い経験をしているけれど、どうしても変わることはできない。

 入社当時の失恋の気持ちが、まざまざと蘇ってしまった。

私が何も言わなくても、昌也が私の蓋をしている気持ちに気がついて、蓋をこじ開け、ぐいぐいと私を引っ張って別の世界に連れて行ってほしい。そんな夢を描くけど、現実にはそんなことは起こらない。

 

 そんなことを想いながら、すでにワインを1本空けてしまい2本目を探しにいく。この頃お酒とタバコの量が増える一方だ。節制しなければと思うのだけれど、一人で過ごす時間が寂しくてたまらなくなると、ついつい酒量も増えてしまう。

お酒を飲む場所で知り合った男性と一夜限りの関係を持った事も何度かある。けれど大阪に来てから男性でも女性でも親しく付き合う間柄の人はいない。

大阪気質が合わないだけではない。自分はプライドが高くて、心が開けないのはわかっている。誰かと親しくなって侵入されて傷つくのが怖いのだ。だから自分をちょっと高いところに置いて、上から眺めているようなところがある。

そのくせ一人ではいられないくらいの脆さがある。脆さを隠すように私は毎日お酒を飲まずにはいられない。

 

 大阪支社に転勤になったのには思い出したくない訳がある。入社1年目、ある先輩が私の教育係になり、二人チームで営業のイロハを叩き込まれた。

外回りの後のお酒の席も頻繁に付き合わざる得なくて、教育という名の名目で頻繁に二人だけでお酒を飲むことが多くなった。

私はお酒に強いので決して酔い潰れることなどなかったが、ある日事件が起きた。

いつもの酒量なのに意識が朦朧として動けなくなり、記憶が戻った時は、ホテルのベットで事が済んだ後だったのだ。私の抗議に、涼しい顔をして、「だってお前も望んだでしょ。」と言い残して先輩は去って行った。

 

 それからの事は、あまり思い出せない。頭を圧迫されるような頭痛で何日か仕事を休み、夜も眠れず悩んだ後。意を決っして、上司にレイプされたと訴えたのだと思う。微熱が続いて何日も下がらず、それが膀胱炎とわかり長い間治療していたのは覚えている。

当時の係長が女性だったのは不幸中の幸で、親身に話を聞いてくれた。だが所詮会社側の人間で、彼女の意見なのか会社の意見なのか、結論は事を表沙汰にはしないという事だった。性交渉が同意した上でない証拠もないから言い逃れをされるだけ、公表したところで傷つくのはあなただけだ。と説得された。

会社としてもそういう騒動は避けたい方針だった。

そのかわり、大阪支社の副支店長の候補として、栄転の配属をする。店長の経験を積んで東京に戻れば、出世コースに乗れるわよ。と野心ある係長に説得された。

相手になんの咎めがない事に、腹立たしく思ったが、戦う気力もなく、昌也のそばにいるのも心苦しく思っていたので、入社して1年目の春に心に傷を抱えたまま、大阪支社への移動を受け入れた。

大阪支社では、入社2年目なのに理由もなく高いポジションに配属されたことで煙たがられているのはわかっている。なるべく反感を持たれないように、大阪のやり方に従って動いている。心の支えは、いつか瑠美や優子を見下ろす立場になって東京支社に戻る事だ。自分を犠牲にして得たチャンスを私は逃したくない。

 Me tooの運動の報道なのを見ると、自分が権力の側に屈して、今の地位を得た事を、恥ずかしく思ったり、先輩がした行為、男の行為への怒りが湧いてきたりはする。でも自分にはMe tooと公表して世間と戦う事はとても無理だと思う。

嫌な過去は忘れてしまいなさい。と係長が言うように、忘れてしまいたい。でも今日の帰り際、遠くからだが先輩の姿が見えて、心と裏腹に身体の震えが止まらないほど怒りが湧き上がってきた。当の本人はそんなことがあったことなど忘れているだろう。他の女性に同じような事をしているかもしれない。

私だけが、あの時から時間が止まって縛られ続けている。

今日の自分の身体の反応や、しばらく不安定が続きそうな心の状態を考えると、私はなんだかの心理療法を受けた方がいいのかもしれない。

 

 昨夜、昌也との別れ際「早くいい男作れよ!」の言葉にひどく傷ついた。レイプ事件があった当時、私の様子を見て昌也はとても心配してくれていた。俺でよければいつでも相談に乗るよと言ってくれていた彼。私が求めているのは昌也なのだ。

優子のように、しなだれて泣くことができたらどんなにいいだろう。慰めなど求めず、吹っ切って自分の人生を歩める瑠美のように強くなれたらどんなにいいだろう。

私の中の何かが慰めを強く求めながら、つよく拒否している。

 

毎日自慰をしないと眠れない自分の身体に辟易しながら、今日もアルコールが回った体を、ベッドに横たえる。

 

・・・・・・・・・・・・・・

番外編 4人のその後

 

瑠美は見事ニューヨーク支社立ち上げのメンバーに抜擢され渡米。ニューヨーク在住の日系アメリカ人と出会い恋人同士に。Yes Noはっきりものを言うアメリカの方が性に合い。彼と結婚して永住することに。会社を辞め夫の仕事を手伝い、水を得た魚のように暮らしている。

 一方昌也は仕事で大失態をしでかし、大阪支店に左遷。貴子の部下となる。優子は泣く泣く遠距離恋愛を受け入れたが、しばらくすると、エリートコースから外れた昌也より有望な彼氏を見つけ、昌也とはあっさりさようなら。

貴子は友人の紹介でホメオパシーの治療を受け、だんだんと昌也に気持ちを打ち明けられるようになる。

落ち込んでいる昌也を元気付けるためにあちこち連れて行ったり、大阪での仕事のノウハウを教えたり、二人の距離は縮まっていく。ついにレイプの話も昌也にすることが出来て、昌也は一生貴子を守ると誓って二人はゴールイン。貴子はもう出世を目指すような事はせず、仕事をしながら自分が救われたホメオパシーを学び、自分のような人を助けると言う目標を持って幸せに暮らしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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