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歯科技工士・岩澤 毅

御厨 貴(著) オーラル・ヒストリー―現代史のための口述記録 (中公新書)

2014年06月28日 | amazon.co.jp・リストマニア
日本における「オーラル・ヒストリー」の総括, 2014/6/28

By 歯職人

 過去日本においては、民俗学における「聞き書き」や芸人の「語り」と言う形で生み出された、編集者・作家主導のインタビューを基礎とした口述筆記や「談」を、アメリカから伝搬した政策決定の内側を記録に残す手法としての「オーラル・ヒストリー」を日本に導入した御厨 貴氏による概説書・入門書である。
 御厨の定義によれば、オーラル・ヒストリーは「公人の、専門家による、万人のための口述記録」となる。これは、「人民による、人民のための、人民による政治」に模したものであるが、御厨氏の民主主義の発展にとって情報の公開の必要性と、情報の占有、情報の秘匿は許されないとの立場が強く影響している。
 本書の中で、日本において「オーラル・ヒストリー」によるインタビューが「高級官僚」等に受け入れられた時期と動機に、自民党一党体制の崩壊と組織の永遠制神話の崩壊が指摘されている。盤石に見えた体制による永遠の庇護が、決して期待できないものであり、残すべき記録を残し、組織と歴史の中での自己の存在を印したいとの人間の欲望の様でもある。
 インターネットが普及し、掲示板、ブログ等の利用手段が多様化しはじめた時代、人はかくも語りたいのかと驚愕したが、人は機会さえ与えられれば、かくも語る動物なのであろう。
 御厨氏は、一部にある「対決型のインタビューにより、問題を掘り下げる」手法の危うさについて繰かえる警告を発している。インタビューアーが、挑発や断罪により「裁く」その手法は、全体像の解明にとって益なしとの経験上の知見と人間心理に根差した知恵がそこには垣間見える。
 御厨氏は、「オーラル・ヒストリー」を政策決定過程の中を覗き込み、公の文書だけでは知ることのできない、様々を知る手段として、学問レベルに利用可能な、歴史解明のための資料・史料として、その存在を高めようとしている。オーラル・ヒストリーの手法を標準化することにより、正に「現代史のための口述記録」としての位置をオーラル・ヒストリーに与える。そのことこそが、御厨氏の宿願と察せられる。
 「第3章 オーラル・ヒストリーの現代史的意味」と「第5章 オーラル・ヒストリー万華鏡」で、オーラル・ヒストリーの成果物が紹介される。
 「第4章 オーラル・ヒストリー・メソッド」は、手法の詳細である。ここにある知見は、他にも応用可能なヒントが豊富なようである。
 御厨氏は、文部科学省の研究費や後の商業業出版等の大人の事情により、政治家やいわゆる高級官僚を対象としたオーラル・ヒストリーの採取を行うことになるわけだが、オーラル・ヒストリーの手法の普及により民間等の多様な記録が残ることにより、更に豊かな政策決定過程の公開がされ、民主主義の発展が進むことを望む。

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中公新書
オーラル・ヒストリー―現代史のための口述記録

御厨 貴【著】

価格 \820(本体\760)
中央公論新社(2002/04発売)
ポイント 7pt

サイズ 新書判/ページ数 207p/高さ 18cm
商品コード 9784121016362
NDC分類 312.1

内容説明

個人や組織の経験をインタヴューし、記録を作成して後世に伝えるオーラル・ヒストリーは、歴史資料としてばかりではなく、意思決定のケース・スタディーとしても利用価値が高い。著者らは、政治家、官僚、実業家への聞き取り調査を蓄積し、政策決定プロセスの解明を目指している。本書は、オーラル・ヒストリーの準備、実施、速記の整理から、資料としての利用法までを具体的、実践的に手ほどきするものである。

目次

第1章 オーラル・ヒストリーとは何か
第2章 歴史資料としてのオーラル・ヒストリー
第3章 オーラル・ヒストリーの現代史的意味
第4章 オーラル・ヒストリー・メソッド
第5章 オーラル・ヒストリー万華鏡
第6章 現代の意思決定に迫る

著者紹介

御厨貴[ミクリヤタカシ]
1951年(昭和26年)、東京に生まれる。東京大学法学部卒。東京大学助手、ハーバード大学客員研究員、東京都立大学教授を経て、現在、政策研究大学院大学教授

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