透明人間たちのひとりごと

汎動物学(未知の既知)

 肺炎、肺化膿症、肺アスペルギルス症などの所見(症状
悪化)から肺の切除手術をすることになった弟の病状説明
や手術の承諾および5時間は要するとされる手術を見守る
ために、ここ一週間で沼津と女子医大病院(東京・新宿区)
との間を何度往復したことか …

 何はともあれ手術は無事成功し、今はホッとしています。

 些(いささ)か、不謹慎だと思われるかもしれませんが、
病の根源である病巣を包み込むように切り取られた弟の
左肺(2分の1)は、想像していたほどには醜く爛れている
わけでも、また著しく犯されて無残に侵食されている様子
もなく、それは意外なくらいにキレイなものでした。

 つい先刻まで弟の身体の一部だったこの肉塊が標本と
してホルマリン漬けにされるのか、単なる汚物として廃棄
処分される運命にあるのか はわかりませんが …

 やけに赤く鮮度の高いままの肉の塊が、妙に生々しくも
獣的で、いやがうえにも人間が動物たちの仲間であること
を再認識させられた思いがしたのです。

 まあ、それはそれで、

 当然と言えば当然のことですが、人間と動物は、生命
の誕生から現代までの進化の過程でより多くの出来事
(障害や苦難)を共有しています。

 しかも、

 かつては、同じ医者が動物も人間も治療していました。

 人間と動物とは同じ生体システムの延長線上で同様の
生体反応を示し、同じ種類の病気に罹ることはあたりまえ
過ぎるほどにあたりまえの現象なのですが、いつしか
そのことは忘れ去られ、いわゆるキリスト教的な天地創造
の世界観や近代化、都市化して行く過程で人間に対する
治療(医師)と動物に対する治療(獣医)とに、その役割が
明確に分けられてしまったのです。

 ところが、近年になって …

 毎年のように騒がれる新型インフルエンザのなかには、
鳥やブタなど他の動物から人間に感染してパンデミックを
起こす恐れのある厄介者のウイルスが登場してきました。

 これまでにも、エイズ(AIDS)後天性免疫不全症候群や
サーズ(SARS)重症急性呼吸器症候群など人畜・人獣に
共通する病気が広く世間にも知られるようになりましたが、
実は感染症の他にも精神疾患、がん、心臓発作、性病など
多岐にわたる病気においても動物たちとの罹患の類似性
や共通性が指摘されるようになってきたのです。

 そして、そこに一歩足を踏み込んで、新しい医学としての
「汎動物学」ズービキティ)を推し進めるのが、
『人間と動物の病気を一緒にみる』 という
タイトル・ブックの著者のひとりであるカリフォルニア大学の
心臓専門医バーバラ・N・ホロウィッツなのです。

 あるとき、ロサンゼルス動物園の獣医師から、飼育中の
エンペラータマリン(小型の霊長類)の心不全についての
相談を受けた彼女は、治療を続けるうちに、人間に起こる
現象と動物に起こる現象とを並べて比べるようになります。

 すると、どうしたことでしょう

 人間の医学では解明されていない障害が、獣医学では
何十年も前から理解され、その予防法さえ確立されていた
というではありませんか

 前述のように昔は、医者が動物も人間も同様に治療して
いましたが、やがて分断されるにいたってからは、同じ症状
でありながらも別の病気であるかのように扱われています。

 動物から学ぶべき症例として当該書が取り上げるのは、
気絶の仕組み、がんの予防や交尾(セックス)の多様性、
性感染症、心臓発作、以外にも、麻薬その他の依存症や
過食、自傷行為、思春期の問題行動、等々 …

 身体的疾患から精神的な医学療法に関するものまでも、
動物の症状から類推し推測を重ねることで新しい治療法
が生み出される可能性を示唆しています。

 たとえば

 オーストラリアのコアラたちの間では、クラミジア感染症
が猛威を奮っていて絶滅の危機に晒されているとか、

 タコや牡の種馬は、人間のリストカットを彷彿させる方法
で自傷行為に及ぶとか、

 ワラビーはエメラルドグリーンのケシの茎が一面に伸びた
魅惑的な風景をバックに、今日も麻薬でラリっているとか、

 はたまた、性感染症は、魚から爬虫類、鳥類、哺乳類 …
さらには植物にまで広範囲に広がっていることが発見され
、ヒヒは性器ヘルペスになるし、ロバやヌー、北極ギツネで
さえも梅毒に罹り、交尾の際に相手にうつしているのです。

 他にもセックスネタは豊富なうえになかなかのもので…

 コウモリやハリネズミのオーラルセックス、ビッグホーンや
バイソンのアナルセックス、ツバメはせっせと乱交に勤しみ
、同種・同類の死体に乗りかかるカエルの死姦の例なども
見つかっているそうですよase2

 ひょっとすると、

 哺乳類に限らず鳥類、爬虫類、果ては両生類や昆虫に
いたるまで、人間の病気や性癖に類似した症状や行動は
想像する以上にもっとずっと多いのかもしれませんね。

 早い話が一言でいえば、

 「人間も動物である。
    だから動物の疾患から学べ」


 … ということなのでしょう。

 異なる生物の間に共通する疫病や弱点が見られるという
ことは、種の壁を超えた新たな視点でのアプローチを可能
にするわけで、これからは 「汎動物学」 という大きな
可能性を展望させるカテゴリー の存在が、医学界の
新たなる救世主として、広く認知されることになりそうです。

 医学には「治療」だけではなく、疫病などを未然に防ぐ
観点からの「予防」という大きな使命もあります。

 人間だけを研究した疫学では、自ずと限界があるのです。

 「汎動物学」 は、それを乗り越える可能性を秘める
もので、アインシュタイン流に論じれば、医学獣医学
「統一場理論」 だと考えればいいでしょう

 獣医師たちが人間の医学雑誌を参考にすることはあって
もその逆のケースはほとんど見られないのが現状ですが、
奇しくも切除された弟の新鮮な肺(肉塊)を見てからという
ものは、「汎動物学」 なる視点からの医学的な考察
の必要性を痛切に感じている次第です。

 なんにしろ、

 もっと早くから、動物医療との比較研究が為されていれば
或いは、弟は肺を切除するような憂き目をみないて済んだ
のかも … などと、浅はかにも思ってしまうのです nose3ase

 (まぁ、そんなことはあるはずもないのですが … )


 さて、

 symbol2kirakira2kirakira きょうは 「春分の日」 です。

 昼と夜の長さがほぼ同じで、国民の祝日に関する法律に
よると「自然をたたえ、生物をいつくしむ」 ことを趣旨として
いるのだそうです。

 冬眠していた動物たちが動き始め、人間の営みも活発化
してくる時期ですよね

 人間の非常識は動物の常識、されど人間とて動物

 人間の未知動物の既知をミックスすれば、
そこに叡智が生まれてくるのかもしれませんpeace

コメント一覧

おじゃま虫
人間も動物である以上、動物の病気を参考に学ぶことは当然ですね!
やぶにらみ
今回の新型コロナウイルスの蔓延で動物医学における感染症対策の重要性が問われることになるでしょうな。

今後、「獣医感染症学」に注目が集まるかもしれません!

下手をすると、迂闊にペットをなでたり、抱っこしたりすることがご法度になる時代が来ないとも限りませぬな!
透明人間1号
叡智と傲慢とはイコールですか!
実験台にされる動物にしてみれば、さもありなんなれど …
バカボンのパパのパパ
どんな叡智も彼らには関係ないのだ!
モルモットたちの気持ちになってみるのだ!
きっと、叡智と傲慢とはイコールなのだ!
ココナン
医学の研究に動物実験が欠かせない以上、汎動物学的な研究や調査にもっと目を向けるべきです。
研究や調査に進展があれば、医学を向上させ前進させる原動力となり、効果的な疾病予防対策が見つかるかもしれませんね。
皮肉のアッコちゃん
純粋に生物学的考察としてのみアプローチすれば、獣医だけが知っている人間の病の真実ってのも十分にアリだと思うよ!
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