そもそもの原点は引退を発表する意味があるのという
素朴な疑問から始まって、しかも、(ベネチア国際映画祭に
作品を出品中の)この時期に …

疑問符が付くのです。
何の腹蔵もないのであれば、あらぬ疑惑を呼び起こさせ
痛くもない腹を探られることも十分に考えられるこの時期
に、あえて引退を表明するメリットとはなんだろう
下世話な人間としてはどうしても、その方向でものごとを
判断してしまいます。
何故、いま引退を発表したのか
「公式引退の辞」 を読んでもピンときません。
かいつまんで紹介(2013年9月4日付)をすると …
あと10年は仕事がしたいけど、それは寿命が決めること。
作品と作品の間がずんずん開いていく、要するにノロマ
になっていくばかりで … 長編アニメーションではなくとも、
やってみたいことや試したいことがいろいろあります。
やらねばと思う――ジブリ美術館の展示――も課題です。
これ等はスタジオに迷惑がかかることではない。 それで
スタジオジブリのプログラムからぼくをはずしてもらうこと
にしました。
ぼくは自由です。といって日常の生活は少しも変わらず、
毎日同じ道をかようでしょう。 どうなるかは、まぁ、やって
みないと判りません。 ありがとうございました。―以上―
この文面のどこに辞めなくてはならない必然性と妥当性
があるのでしょうか
これならば、マッカーサー元帥のように
「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」
… でいいわけで、わざわざ大袈裟に引退を公表する意味
などないはずです。

「それが道理に適うのか、損得に絡むのか、のいずれか
でないと人間は行動を起こさない」 が、持論の2号には、
そこに道理の欠片も見い出せない以上、損得勘定からの
引退表明であると看破する以外に咽喉から食道にかけて
詰まりに詰まっているマルコのローストポーク(紅の豚)を
腑に落とすことができません。
引退会見後の昨夜放映されていた『紅の豚』を肴に
焼酎をあおっていたのですが、いささか高級すぎる素材が
使われているだけでなく、調理の腕も超一流で、さすがに
「作り込んでいるな」 と感じたものです。
なるほど 「これが『風立ちぬ』の伏線だったんだ」 と
別の意味で宮崎駿の正体を見たような気持になりました。
それは「飛ばねぇ豚は、ただの豚だ」という
ポルコ(マルコ・パゴット)のセリフに凝縮されています。
そして、ポルコの軍隊時代の同僚でイタリア空軍に所属
するフェラーリン少佐が吐く 「国家とか民族とかくだらない
スポンサーを背負って飛ばなきゃならないんだ」 に痛烈な
皮肉と本音が込められていて、さらに、「ここではあなたの
お国より、人生がもうちょっと複雑なの」 とヒロインである
ジーナに囁かせる言葉でとどめを刺されるのです。
つまり、『宮崎駿の有名税(前編)』 で指摘
したリアリストたる彼の面目躍如、真骨頂なわけです。

『紅の豚』は元々、日航の機内上映用として制作が開始
されたのですが、長編化したために劇場用へと変更された
作品なので、対象は子どもではなく国際便に搭乗している
ビジネスマンで内容も明らかに大人向けです。
しかも、自らの趣味(軍事マニア)を反映させた戦闘機が
テーマで、この点だけをみても、『風立ちぬ』 と共通
する要素(大人向けと戦闘機)が見受けられます。
次に時代背景ですが、どちらもほぼ同時期だと言えます。
『紅の豚』は第一次世界大戦で戦勝国だったイタリアです
が、扱いは敗戦国と大差なく、国民からは 「栄光なき勝利」
と呼ばれるまでに経済は落ち込み、世界恐慌によって国民
生活は破綻寸前という動乱期のイタリア・アドリア海が舞台
となっています。
『風立ちぬ』は大正から昭和にかけての日本が舞台で、
戦争に大震災、世界恐慌による不景気と世相は重苦しい
閉塞感に覆われていました。
ここでも両作品の共通性が見て取れると思いますが …
いまや時代は平成の御世となって、四半世紀を経過した
今日の世情が極めて両作品の時代と酷似していることを
ここではシッカリと押さえておいてください
さて、
前編での軍事マニア、軍事オタクの片鱗を宮崎駿監督が
如何なく発揮していると思うのが、『風の谷のナウシカ』 や
『天空の城ラピュタ』 に 『もののけ姫』 などの作品です。
マシンガンらしきものやガトリング砲もどきに中折れ式の
リボルバーなど、およそ現実離れした軍用飛行機や戦車、
果ては形状記憶ハイセラミック製のロボット兵や核兵器を
思わせる「ラピュタの雷」 … こうした様々な種類の兵器が
次から次へと登場してくるのです。
『もののけ姫』では火縄銃なのに、やたらと口径のデカい
バズーカ砲のような石火矢という名の火縄大砲が登場して
画面を彩ります。
こうした武器のオンパレードは画面上でこれでもかという
迫力と物量で押し寄せます
まるで、それは枚挙に暇がないほどで、如何に筋金入り
の軍事オタクなのかが知れようというものです。
このこともキッチリと頭に入れておいてくださいね

それでは、次回(後編)で
宮崎駿監督が、なぜ、「護憲」をわざわざ強調して主張し、
「慰安婦たちへの謝罪と賠償」にまで言及したのか
そして、引退宣言の裏にある監督の本音、本心 … を
独断と偏見と予断をまじえて
妄想してみたいと思いますが …

きっと、暴走しますよ

