枯野

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最高裁靖国判決の回顧

2005-05-05 | 雑文
                           

                                        最高裁靖国判決の回顧


 憲法は、門外漢であり、かつ、憲法記念日も過ぎてしまったから、学説なども研究しないで、いい加減なことを書くのは、すこぶる気が引けるが、憲法づいたついでに、お粗末な私見を記す次第である。
 周知のとおり、平成9年4月2日の最高裁大法廷判決は、県が靖国神社等に玉串料等を県の公金から支出して奉納したのは、憲法20条3項(国・その機関の宗教的活動の禁止)、同89条(公金等の宗教団体への支出の禁止)に違反するとした。その根拠としては、靖国神社や護国神社は、宗教上の団体に当たるとした上で、玉串料等の支出は、建築主が主催して建築現場において土地の平安堅固、工事の無事安全等を行う儀式である起工式の場合とは異なり、時代の推移によってすでにその宗教的意義が希薄化し、慣習化した社会的儀礼にすぎないものになっているとまではいえなということにある。
 そこで、問題としては、第一に、宗教法人である靖国神社等が、前記憲法89条における公金の支出等が禁止される「宗教上の組織もしは団体」に該当するか否か、第二に、玉串料等の支出が、同20條3項にいう「宗教的活動」といいうるか否かの二点が重要であろう。とくに、第二の点は、非常に難しい問題点というべきであろう。玉串料等の奉納は儀礼的な意味合いの濃いものであって、まさに慣習化した社会的儀礼にすぎないから、たとい公金であっても、また、宗教団体に対するものであっても、その奉納は、違憲ではないという立場も大いに成り立ちうるであろう。たしかに、学説上は、この最高裁判決に反対する議論も十分可能ではあろうけれども、裁判所の判例としては、なにしろ確定した最高裁のものだけに、この最高裁の考え方は、類似した事例において、下級審で採用される余地は大いに考えられよう。
 全く同じではないが、類似した問題として、古くは、1985年に当時の中曽根首相が、靖国神社に公式参拝したことについて、3件の損害賠償訴訟が起こされ、いずれも請求は退けられたが、1992年2月福岡高裁は、首相が公式参拝を繰り返すならば、違憲となると指摘し、1992年7月大阪高裁も、宗教的活動にあたる疑いが強く、憲法に違反する疑いがあると述べている。
 小泉首相の靖国参拝訴訟としては、東京、千葉、大阪(2件)、松山、福岡、那覇の6地域、7件の違憲訴訟が起こされ、大阪地裁の2判決のうち、一方は、損害賠償請求は退けたが、参拝は、総理大臣の資格で行った公的参拝であったことを認めるとしている(他方は、憲法判断を回避した上で、参拝を私的なものと判断している)。さらに、2004年4月の福岡地裁判決は、慰謝料の請求については棄却したものの、参拝は、職務の執行に当たり、憲法違反であるとはっきり断定し、下級審の判決ではあるが、一般の注目を呼んだことは、記憶に新たなところである。この福岡地裁判決を受けて、小泉首相は、「私的な参拝といってもいい」と語り、公私の区別をあえて曖昧にしてきた従来の姿勢を転換させた。しかし、「おかしいねえ。なぜ憲法違反か分からない」と述べている(従来、こうした憲法違反の問題があるところから、参拝は、私的なものであるというのが政府の公式見解であるようだ)。
 私的な参拝であるとすれば、お彼岸にお寺参りするのと同様なものになり、日本国内でもアジヤ諸国からでも強く抗議される根拠が失われる理屈になるかも知れないが、しかし、あくまでも強気の公式参拝としなければ、国内の支持母体との関係上、到底収まりがつく筋合いのものでないことは、大いに同情に値するところである。
 いずれにしても、この参拝問題については、今のところ、下級審の判例面では、参拝者にとって旗色はあまり芳しくない雰囲気のようであるが、しかし、最高裁の判断は、示されていないのであるから、その確率は極めて低いと思われるが、しかし、もしかすると玉串料とは違って、公式参拝でも違憲ではないとする結論が出ないとも限らず、今後の推移が注目されるところである。


 [リンク] 最高裁靖国判決   靖国神社問題   

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1 コメント

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指導的判決 (向井邦夫)
2008-08-17 13:38:11
 この平成9年の最高裁判決は、県がその公金を靖国神社に玉串料として納付したのは、政教分離を定めた憲法20条・89条に違反すると断定した根拠を詳細に述べた靖国神社、政教分離に関する指導的判決として極めて重要である。
 靖国神社は、一つの宗教(神道)の宗教団体に過ぎず特別な地位にあるものではないことをはっきり説示しており、この判決では、言及していないとはいえ、当然、総理その他の閣僚はじめすべての公務員が公式に参拝することは、憲法に違反することになる。
 公式参拝以外にも国家又は公共団体、公務員が特別に関係することは総て違憲となることに十分留意する必要があろう。
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