これまでの10年は20世紀モダンデザインの再考とその可能性の伸展を空間模索テーマにしている風情であった。その中では日本的なるもの、エコロジカルな兆しの追求も目立つようにはなってきた。一部には空間美学の新たな準備、胎動も見られる。
東京表参道は銀座と共にコマーシャル的な意味合いからまちがブランドに占拠された状況である。その中に著名な建築家、伊東豊雄氏設計のTOD’Sの旗艦的なショップやヘルツォーク・ド・ムーロン設計のPRADAや妹島さん設計のDIORなど、美術的なまなざしから見てもこの目を楽しませてくれる。
狭い限られた敷地で、いずれもショップということもあり、企業の商品陳列の商業論理からは免れないため、表参道との応答性を本来もう少し豊かにしたかったところも設計者の力量を考えればあったのでは。
同じくストリートに並ぶ黒川記章設計の作品は表参道への応答性に関しては彼の都市建築空間論の展開からもう少し内と外との空間呼応を豊かに設計デザインへ落込んでおられたようだが、夜のせいかその効果を読取れなかった。しかし、もともとロゴス的に我々を啓発する作家なので、あまり気にしてない。設計者の論理テキストと思えばよい。世界に誇れる日本設計界のメタボリズム(いわば代謝空間論)の理念成果の一つ、汐留付近でみた住居カブセルが代謝するコンセプトの中銀マンションタワーはいまは古いせいか大変粗末に利用されている。竣工当時から外観に限れば、代謝もされていない。それでもそこから我々設計者は今後、このような理念をどのように伸展させるべきか動機付けるだけのインパクトは今でもある。(アスベストが天井に多く使っており、カプセル間のパイプスペースも難があり更新しずらく、実は普通建築より難しい設備更新を強いられるとのこと。(あの当時の設計者はよく使っていたので同情しますが。)2005・9・9)
空間の見方にはこのように、一般の人とは案外違う目線で空間テキストとして建築を町並みを都市を読む専門的な愉悦が一方でプラスして与えられている。
ところで、私たちの21世紀建築空間美学は確実に環境建築への様相を希求することを待ち望まれている。それを伝統的な日本の生活様式に単に祖先帰りすることではなく、21世紀のエネルギー転換文明に基づく新たな文化の枠組みで希求することになろう。
21世紀、あらたな技術的な成果を睨みつつ、新たな空間美学を先行して近未来に照射する表現活動が求められている。
新たな空間美学、それはどのような21世紀の特徴的な精神構造を押さえるべきか、また編出していくか、暗黙知の中にその成果が息づき、花咲いていくことになるだろう。
もうそろそろモダンデザインも設計潮流からマンネリ化し始めてきた部分が見られる。ミッドセンチュリーやミニマリズムやNY超高層再興までもと焦らせたデコンストラクションの商業主義化したものが普及し始め、やたらガラス、ルーバー、庇ものが多くなってきた。専門としては一見、ネクスト・フェーズにいきたい気分である。
しかし重要なのは、そのような単なるデザイン手法や素材の表層的マンネリではなく、時代にそぐわなくなった時代精神の深層的なマンネリからの脱却をどう企てるかである。それはまさに新たな時代精神の芸術美学が必要とされる世界でもある。その意味で建築は自由度の高い時間進行次元も持つ空間表現として、やはり重要な芸術分野である。