特別企画展「ふたりの絆 石ノ森章太郎と赤塚不二夫 」
豊島区立トキワ荘マンガミュージアムにて、2023年12月9日~2024年3月24日開催
特別協力 石森プロ、フジオ・プロダクション
企画制作 手塚プロダクション
〈ふたりの出会い〉
現在、豊島区立トキワ荘マンガミュージアムでは、『ふたりの絆 石ノ森章太郎と赤塚不二夫』と題された企画展が行われている。企画展のレポートに入る前に、あらためてふたりの出会いを振り返っておこう。
漫画家の卵たちを束ねて〝東日本漫画研究会〟を主宰する石ノ森は、読者投稿欄に力を入れる「漫画少年」誌上で会員を募る。そこに入会を希望したのが赤塚だった。中卒で工員の職に就いていた赤塚は、裕福な宮城の現役高校生である石ノ森から送られてくる手紙に深い教養を感じ、外国語で書かれたようだったという。会では、肉筆原稿を綴じた同人誌「墨汁一滴」を制作しては、手塚治虫ら現役漫画家に批評を乞うた。(1953年~1954年のこと)
赤塚と石ノ森は、東日本漫画研究会の同人の長谷邦夫と共に手塚治虫宅を訪ねるなどして交流を深めていく。石ノ森は雑誌社からの強いラブコールもあり大学進学が叶わず、高校卒業と同時に上京。西落合に三畳間を借りるが、炊事も外出もままならない。そこを救ったのが、年上で生活力バッチリの赤塚だ。石ノ森を西荒川の五畳半(よこたとくおと同居)へ連れて帰り、居候をさせる。すぐに石ノ森は、既に漫画家の梁山泊となっていたトキワ荘の一室へ転居するが、今度は赤塚が石森を訪ねるうちに居候と化す。その年のうちに赤塚もトキワ荘に自分の部屋を借り、ふたりはトキワ荘、そして寺田ヒロオを中心とする新漫画党の仲間入りを果たすのだった。(1955年~1956年のこと)
ここまでが赤塚不二夫と石ノ森章太郎の〝トキワ荘物語〟のプロローグとなる。工場の退職後、進路を漫画家一本に絞った赤塚と、将来を嘱望され高校生にして連載を持つ神童の石ノ森。ふたりは共同生活と共同制作の中で絆を深め、それぞれのまんが道は分かれていくのだった。
〈外観~順路〉
さて、展覧会の会場となる豊島区立トキワ荘マンガミュージアムの最大のアピールポイントは、1952年から1982年まで存在した、あの〝トキワ荘〟の外装と内装の再現だ。
来館者は児童公園の中に古めかしいアパートを発見する。まずは入館料を支払い、玄関で靴を脱ぐよう促されると、ミシミシと軋むように再現された階段で2階に上がるのだ。2階は漫画家たちの住んだ木造アパートを模しており、奥には本家トキワ荘ではあり得ないエレベーター(バリアフリー対応)が存在する。それに乗り込み1階に戻ると、美麗な現代的なスペースが待っている。書棚にトキワ荘ゆかりの漫画家の単行本がびっしり詰まった(ですが読めません)ラウンジと、折々の企画展会場があるというわけだ。そして、入って来た玄関に戻り靴を履いて退館するという順路である。
レトロと現代的設備を兼ね備えたこの博物館は、コロナ禍真っただ中の2020年にオープンしたこともあり、事前予約制が取られている。来訪の際は注意されたい。
〈2階〉

ここからは、企画展と、今回の企画展に合わせた仕様になっている部分をチェックしていく。再現された共同炊事場には、赤塚不二夫の『トキワ荘物語』(1970年)より、あの行水シーンからイラストを抜き出したパネルを展示。

赤塚が過ごした16号室には、赤塚と漫画家仲間が食事を共にするパネルを展示。これは、エッセイ『ボクは落ちこぼれ』(1979年)の挿絵を使用したもので、左のちゃぶ台をかこんでいるパネルに描かれているのは、上段がよこたとくお、下段が石ノ森章太郎、長谷邦夫、赤塚不二夫。右のパネルに描かれている女性は赤塚の実母・りよ。
この他、石ノ森の部屋であった17号室には、石ノ森のエッセイ『章説・トキワ荘・春』(1981年)より、石ノ森と赤塚がステレオを聞いている場面をパネル化したものを展示。漫画家たちが過ごしていた頃の椎名町を紹介する常設展示室には、当時の少年読者がトキワ荘を訪ねて描いてもらったという、赤塚の『ナマちゃん』と石ノ森の『テレビ小僧』のサインが展示されている。赤塚のサインは珍しくも〝赤塚ふじお〟名義だ。
〈1階〉
ラウンジの壁にはふたりがトキワ荘時代を回想した作品、赤塚の『トキワ荘物語』と石ノ森の『ぼくの部屋にはベートーベンのデス・マスクがあった』を読ませるパネルがあり、いよいよ企画展会場へと足を踏み入れる。目に飛び込んでくるのは肩を組むふたりがまぶしいメインビジュアルだ。石ノ森が学帽を被っているところを見ると、学生時代に上京した折に撮影されたものだろうか?

ミュージアムのある南長崎花咲公園(トキワ荘公園)の公衆トイレの壁面に大きく掲示された、本企画展のメインビジュアル。
会場内では、ふたりの漫画家を追うにあたって、赤塚の作品は赤、石ノ森の作品は青でキャプションやラインが色分けされている。デビュー前習作からトキワ荘時代までの原画からは、まだ未成年とは思えない技巧を誇る石ノ森と、独自性を掴むべく成長中の赤塚、それぞれの歩みが感じられるだろう。大きなガラスケースの中には、ミュージアムが所蔵する「漫画少年」や、石ノ森が保存していた「墨汁一滴」より、ふたりの作品の掲載ページが開いて展示されている。ふたりの合作ペンネーム・いずみあすか、ふたりと水野英子の合作ペンネーム・Uマイアの原稿を過ぎると、誰もが知る名作『天才バカボン』や『仮面ライダー』のナマ原稿の大サービスが待っている。展示の幕を閉じるのは、逝去したばかりの石ノ森との思い出を振り返る、赤塚の自筆エッセイ原稿『石ノ森のこと』だ。企画展会場は省スペースだが、晩年までカバーした盛りだくさんの内容を楽しめる。
赤塚の展示作品に関しては、原稿それぞれのキャプションに初出媒体が号数に至るまで記されており、これまでの展覧会での「初出不詳」からの成長を見せてくれる一方、石ノ森作品には初出の記載がないものもありバランスの欠けた結果となっている。昨年末刊行の『まんが 赤塚不二夫伝 ギャグほどすてきな商売はない!!』の収録作品と被る展示も多々あり(末尾の展示物リスト参照)、今回の企画展の図録の役割も果たす書籍として企画・編集されたことが伝わる。ミュージアムの売店にも並んでおり、記念グッズと共にお土産として買い求めることも可能だ。

赤塚と石ノ森のふたりに焦点を当てた展覧会は今回が初めてとのことだが、赤塚ファンとして忘れてはいけない、ふたりの謎を残す接点がある。それは、トキワ荘時代の石ノ森のスケッチ(『ボクのらくがき帖』収録)に、〝ナマちゃん〟なるキャラクターが描かれていることだ。この現物を展示し、謎について触れてくれたら、より嬉しかったのだが。
〈特典&グッズ〉
ちなみに、トキワ荘マンガミュージアムで赤塚の原画が展示されたのはこれが初めてではない。『トキワ荘の少女マンガ』(2021年9月18日~12月5日開催)では、『まつげちゃん』(1枚)と『おハナちゃん』(2枚)の原画が展示、7種用意された入場者特典のバッジの1種に『おハナちゃん』が、開催記念グッズのポストカードに『まつげちゃん』がセレクトされている。
今回の展示でも入場者特典にバッジが用意され、石ノ森4種、赤塚4種の計8種が配られる。赤塚の4種は『ナマちゃん』、『まつげちゃん』の色紙、『ダイヤモンド島』の蛸、『トキワ荘物語』の行水シーンを基に描かれた画稿(『まんが 赤塚不二夫伝』12ページに掲載)がプリントされている。赤塚の開催記念グッズは『おかあさんのうた』、『ナマちゃん』、『トキワ荘物語』のポストカード3種セット、『まつげちゃん』のコースター、『トキワ荘物語』のマグカップだ。
〈以前の企画展では…〉



トキワ荘マンガミュージアムで過去に開催された『藤子不二雄Ⓐのまんが道展』では、トキワ荘時代の記念写真を展示。赤塚が映っているものも展示された。
〈展示物リスト〉
※会場で配布の展示物リストを基に、赤塚不二夫関連の原稿のみカッコ内に詳細を補足。ここで展示された赤塚の複製原稿は、原稿ではなく単行本をコピーしたものだった。
第一章 マンガ家を目指すふたり
単行本『新寶島』
単行本『ロストワールド 地球編』『宇宙編』
原稿『未完成交響楽 』
原稿『われない椰子の実 』
原稿『ダイヤモンド島』(2枚、「№5 出発」7~8ページ)
原稿『シェリフジョン』(2枚、2~3ページ)
雑誌「漫画少年」 昭和27年3月号
雑誌「漫画少年」 昭和29年5月号
雑誌「漫画少年」 昭和29年7月号
雑誌「漫画少年」 昭和30年4月号
第二章 出会ったふたり
雑誌「漫画少年」 昭和28年12月号
複製原稿『嵐をこえて』(1枚、16ページ)
肉筆同人誌「墨汁一滴」第6号
肉筆同人誌「墨汁一滴」第7号
雑誌「漫画少年」 昭和29年3月号
雑誌「漫画少年」 昭和30年夏の臨時増刊号
原稿『二級天使』
単行本『嵐をこえて』
単行本『湖上の閃光』
トキワ荘の蛇口(赤塚が保存)
第三章 トキワ荘のふたり
単行本『火の鳥風太郎』
原稿『きのうはもうこない だが あすもまた・・・』
原稿『幽霊少女』
原稿『黒い風 』
複製原稿『ナマちゃんのにちよう日』(2枚、1~2ページ)
原稿『まつげちゃん』( 3枚、1961年1月号別冊付録表紙、「ミミタンはおにいちゃん」1~2ページ)
原稿『ハッピィちゃん』(2枚、「しあわせと子犬」1~2ページ)
原稿『おハナちゃん』(2枚、「だれがつくったおひなさま」1~2ページ)
単行本『その仮面をとれ』
原稿『そしてミヤはいなくなった』(いずみあすか作品、2枚、6~7ページ)
原稿『くらやみの天使』(Uマイア作品、2枚、「みどりの雪の巻」1~2ページ)
原稿『テレビ小僧』
原稿『ナマちゃん』( 2枚、「電話でノイローゼ」1~2ページ)
原稿『龍神沼』
原稿『おかあさんのうた』(3枚、1・117~118ページ)
第四章 その後のふたり
原稿『ミュータント・サブ』
原稿『さるとびエッちゃん』
原稿『王アラジン』
原稿『サイボーグ009』
原稿『仮面ライダー』
複製原稿『消えた少女』(1枚、2ページ)
原稿『ひみつのアッコちゃん』(1枚、「りぼん」1960年12月号別冊付録表紙)
原稿『ナマちゃん』(2枚、「漫画王」1960年5月号別冊付録表紙、8月号別冊付録表紙)
原稿『おそ松くん』 (2枚、「いなかでハッスル」1~2ページ)
原稿『天才バカボン』(1枚、「ミュージカルでバカボンなのだ」1ページ)
原稿『ギャグゲリラ』(2枚、「タレント候補 赤塚不二夫」2~3ページ)
原稿『はや松くん』(4枚、全ページ、石ノ森作品、石ノ森章太郎のエッセイ『赤塚不二夫とそのマンガ』を添えた、曙出版『おそ松くん全集』第1巻収録時のレイアウト)
原稿『石ノ森のこと』(2枚、全ページ、エッセイ)