満州国内では日満間のトラブルや事件が多発していたが、その原因の多くは日本人側にあった。
この史料においても、冒頭のところで
「就中日満民族間ニ於ケル相剋摩擦ノ状態ハ今ニ於テ禍根ヲ断ツニアラザレバ悔ヲ他日ニ貽スベキ重大問題ニシテ而モ其ノ罪ハ多ク日人側ニ在ルヲ看取セラレ又其ノ他ニ於テモ大陸ニ
発展セントスル日本人トシテハ今後改善ヲ要スベキ幾多ノ欠陥アリ」(108-109頁)として、陸軍としても原因が日本人側にあることを認めざるを得ない状態であった。
今回は、職種別に日本人がどのような言動を行っていたかを見てみる。
傀儡国家であった満州国には、その国政の担い手として多くの日本人官吏がいたが、その官吏も例外ではなく、満州人官吏からの反発を受けていた。
「然ルニ大部ノ日人官吏ハ口ニ民族協和、国策遂行ヲ叫ブモ未ダ内地官吏ノ旧套ヲ脱シ得ズ是正ヲ要スルモノアリ而モ植民地官吏ノ弊害タル他民族ニ対スル優越感強烈ナル為意識無意
識ノ裡ニ幾多ノ誤謬ヲ犯シ満人官吏以下一般満人トノ間ニ相剋ヲ生ジツツアリ 而シテ日人官吏対満人官吏ノ相剋ハ主トシテ日人官吏ノ独断専行ト給与上ニ於ケル優遇並ニ満人官吏ニ
対スル蔑視ノ傾向ニ対スル満系官吏ノ反感ニ基因ス」(110-111頁)
と指摘している。
また、警察官においては
「例ヘバ日満人ノ紛争ニ際シ日本人ノ非ヲ枉ゲテ満人ヲ叱責処罰スルガ如キ不当措置並ニ公衆ノ面前ニ於テ満人ヲ殴打スルガ如キコト少カラザルシテ満人民衆ノ反感ヲ漸次挑発シアリ
之ガ為満人官吏多キ地ニアリテハ之ト反対ノ現象多発ノ傾向ニアリ」(114頁)
という状況であり、一方、満州人警察官は
「警察官ニ於テハ其ノ差著シク大ナルノミナラズ満人警察官ハ俸給ノミヲ以テ一家ノ生計ヲ維持シ得ザルモノ少カラザル状態ニシテ日人警察官ニ対スル反感及待遇改善ニ関スル要求相当
熾烈ナルモノアリ」(111-112頁)
として、警察官という立場でありながらも、一般満州人と同じく日本人に対する反発は強かった。
企業関係においては、
「両者従業員間ニ於ケル紛議特ニ日人従業員ノ優越感満人蔑視ニ基ク支配的態度乃至暴行ニ対スル反感アリテ階級闘争ヨリモ寧ロ民族闘争ノ色彩ヲ帯ビタル紛議ヲ惹起セル事例アリ」
(114-115頁)
「甚ダシキハ苦力ニ支払フベキ労銀ヲ引下ゲ又ハ全然支払ヲナサザルガ如キ者アリ」(115頁)
商人においては、
「又日人商人ハ満人顧客ニ対スル態度粗暴非礼ナルヲ以テ満人ハ極メテ感情ヲ害シアル状況ニアリ」(116頁)
いずれも「五族協和」といいながらも、満州人に対する蔑視観は濃く、「階級闘争ヨリモ寧ロ民族闘争ノ色彩ヲ帯ビタル」状態であった。
これらは満州開拓移民においても例外ではなかった。
「然ルニ開拓民ニ対スル日本内地並ニ現地ニ於ケル教育ハ国策移民トシテ国士的気概ヲ注入セルタメ徒ラニ自ラヲ高カラシムルト共ニ現住満人民族ヲ蔑視スル観念ト化シ殴打暴行甚ダ
シキハ殺害スルニ至ラシメ而モ之ガ集団的ナル為往々ニシテ満人ヲシテ圧迫迫害セラルルガ如キ感ヲ与フルモノアリ」(117頁)
「而シテ日常生起スル開拓民対満人ノ紛議及暴行事件ハ多ク開拓民側ノ不法ニ端ヲ発シアルハ反省ヲ要スルトコロナリ」(117-118頁)
として、日満間トラブルの原因が開拓民側にあることを認めざるを得なかった。