コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

お金が蒸発する

2008-11-12 | Weblog
ジャックさんは、生産した香料エッセンスを、出荷の都度トラックに積んでアビジャンまで搬送する。アビジャンまでの200キロ余りの道のりで、何度も検問がある。全部あわせると、だいたい6万フランから9万フラン(1万5千円から2万円)が必要という。「関税」と呼ばれているが、もちろん本当の関税ではない。検問を通過するために払う、袖の下である。どこにそんなもの払えと書いた規則があるか、警察に言うぞ。いや、「関税」を徴収しているのは、まさにその警察なのだ。

そういう出費が輸送コストに上乗せされるのでは、ビジネスとして大変不利ですよね。そう、利潤がその分減るわけだから。でもコートジボワールの南北をつなぐ道路輸送に比べたら、たいした事はない、とジャックさん。アビジャンからコルゴ(北部国境近くの町)までの「関税」は、トラック1台あたり、合計約80万フラン(20万円)に及ぶのが相場という。国が南北に分裂して以来、北部の勢力が武器を片手に、関税だの通行料だのといって、金を徴収することが横行してしまった。

「その結果、どういうことになったか。かつては、アビジャンと、ブルキナファソやマリなどの内陸部を結ぶ南北の国道は、主要な輸送道路だった。今やこのルートを通る長距離トラックは殆どいない。西アフリカの商品の流れは、完全に東部に移ってしまった。内陸部と海岸部とを繋ぐ交通の動脈は、今はガーナやトーゴが主流となった。」
この国は、自分で自分の首を絞めている。

コートジボワールの庶民は、昔も今も変わらず純朴だ、とジャックさんは言う。欲得ずくになったのは、地方の役人だ。それも、ここ10年、とてもひどくなった。「危機」が始まって以来、公務員の地位も給料も心許なくなったので、皆自分の権限の範囲で、お金を取れるところから取ろうとするようになった。担当の分野でいい仕事をしよう、という公僕の精神は消えうせた。

だから、とジャックさんは言う。
「もし、村の人々への協力案件を考えるとしても、絶対に役人相手は駄目だ。自分としても村の貧困を見るにつけ、保健医療や教育などの分野で、日本の協力が得られることはとても有意義だと思う。しかし、これをアビジャンから、役人を通して実現しようとしてはいけない。日本の資金を投入するとすれば、現地のNGOと一緒に案件を作るなどして、直接村の人々に届くようにしなければならない。」

地方では、役人は、金がどこにありそうか、そればかりを嗅いでいるから気をつけなければ。ジャックさんはそう言う。今晩も、こちらから招待してもいないのに、県の農業局長がやって来た。友人同士の内輪の夕食だから、とお断りして帰ってもらったのだ。そういえばジャックさんは、夕食の始まる前に、トラックでやって来た農業局長ほか何人かと、家の戸口で話していた。この農業局長は、今日一日、私の視察につきあっていた。そんなに変な人ではなさそうだったが、言われてみれば確かに、何をしに来ていたのかはよく分からなかった。

村には、道路も、保健医療も、学校も、何もかも足りない。アビジャンの中央政府では、ちゃんと地方全体の開発計画が決められているし、予算も付いているはずだ、という。しかし、資金が地方に届くまでに、介在する役人が横取りしてしまう。地方の道は長くてとても暑いので、「アビジャンのお金は、村に届くまでに蒸発する」と言うのだそうだ。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿