コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

チョイ代表の説得力

2010-12-12 | Weblog
バグボ大統領を当選者とする憲法院の決定(12月3日)を、国連(UNOCI)のチョイ特別代表は、即座に認証できないと声明した。そして、その一方で、ウワタラ候補を当選者であるとする選挙管理委員会の選挙結果のほうが、正しいとした。それを受けて、直ちにニューヨークでは、潘基文国連事務総長が、ウワタラ大統領の選出を祝するという声明を出した(12月3日)。

これで、国連は怪しからん、という怒りの声が出てきた。もちろん、バグボ大統領当選を支持する人々の側の見方である。誰が当選したかを判定するというのは、国連の「認証」の範囲を越えている。それは、国の最高司法機関である憲法院の役割だ。国の最高機関がバグボ候補の当選を宣言しているのに、国連がいや違う、本当に当選したのはウワタラ候補だ、と言うのは、国連の越権行為のみならず内政干渉であり、国家主権の侵害である。怒りの声は、そう言う。

私たち大使連中は、チョイ代表が客観的な基礎資料を持っていることを、よく知っている。つまり、全国すべての投票所から集められた、2万枚の開票調書が、チョイ代表の手元にある。そして国連が、開票調書に記載された投票結果をきちんと数え上げて、しっかりとした数字を持っており、数字でみれば、8%の差をつけてウワタラ候補が勝ったことを知っている。そして、憲法院が、バグボ当選という結論を出すために、何と60万票もの投票を、つまり全投票の13%に及ぶ投票を、無効扱いにしたことを知っている。

だから、いくら憲法院の判定だといっても、それはとても正常な判定とは言えないと、外交団の間ではよく分っている。でも、多くの一般の人々や、報道関係者などは、そうした事情を詳らかに知る環境にない。だから、憲法院の主張に、国連が異議を唱えて盾突いている、そういう構図だけが目に映ることになる。私たち大使連中は、チョイ代表に言った。はやく記者会見を開いて、どうして国連がウワタラ候補の当選を確信しているのか、具体的に説明しなければ。

チョイ代表は、すぐに説明会を開いて説明しようとした。さっそく日曜日(12月5日)に行おう。そして、私たち大使連中にも、そこに出席してしっかり後押しをしてほしい、と頼まれた。ところがチョイ代表の方から、当日になって、いや月曜日に延期だ、と言ってきた。どうして、と聞くと、日曜日に説明会をしても、記者たちの出席が悪いだろうから、という答えが返ってきた。そういうものだろうか。ここに詰める記者たちにとって、一刻一刻事態が進むなかで、日曜も月曜もない。たとえ日曜日でも、チョイ代表が説明会をすると言えば、何を置いても駈けつけるはずだ。何より、少しでも早く、国連側から説明をして、世論を味方につけなければ、と思うが。

そして、その月曜日(12月6日)になったら、また延期だという。すでに、2人の大統領並立という事態の中で、双方の宣伝合戦が激しくなっている。そして、ウワタラ候補が真の当選者だ、との立場をとる国連は、もはや中立性を失っていると批判されている。バグボ大統領が国営テレビ放送局を握っているので、国連を非難する主張ばかりがテレビで流れる。新聞で少しでも挽回しなければならないのに、日曜日に記者会見を行わなかったために、すでに月曜朝刊を逃してしまっている。さらに月曜日の記者会見を見送るとなると、国連の主張の妥当性について、疑わしいという見方がますます強くなってしまう。

私たち大使連中は、焦りというか呆れるというか、何故またまた延期するのか、と聞いた。そうしたら、ニューヨークの国連本部で、説明会での説明内容について、法律の専門家たちの審査が終わらないからだという。なんと呑気な。説明会が一日遅れれば、それだけ国連の信頼性が疑われていく。法律の専門家たちは、そのあたりの事情を分っているのだろうか。いや、国連事務局の中に、どうも邪魔をしている人々がいるようだ。ちょうど、安全保障理事会の「報道声明」が、ロシアの邪魔でなかなか出せないでいたところだから、そういう憶測も流れた。

火曜日(12月7日)にはせめて、と思っていたら、この日に「西アフリカ経済共同体(ECOWAS)」の臨時首脳会議が、ナイジェリアの首都アブジャで開かれることになった。そして、チョイ代表は、そちらに赴いて、国連の確認している事実、つまりウワタラ候補が54%の得票をして当選しているということを、説明することになった。チョイ代表は、ここで熱弁をふるったと言うことである。そのかいがあって、ECOWAS首脳会議は、ウワタラ候補の当選を認め、そしてバグボ候補に退陣するように求める声明を出した。

チョイ代表による説明会は、結局水曜日(12月8日)になって、ようやく行われた。私たち大使連中は、チョイ代表を後ろから応援するために、皆で押しかけた。外交団は、一部の国を除いて、どこもバグボ大統領の当選を認めていない。その判断が正しいことを、ここでチョイ代表がしっかりと説明してくれなければならならない。そして、チョイ代表は、私たちの期待に応えてくれた。

「今回の決選投票が行われ、全国2万ヶ所の投票所で開票が行われた後、国連は3段階に分けて、全国の開票結果を検討しました。第一は、統計学的に全国の投票動向を代表すると考えられる721ヶ所の投票所を選び、そこでの開票結果を、いち早く集めたのです。すでに、投票日当日(11月28日)の午後10時には、最初の趨勢を入手していました。そこにおいて、すでにウワタラ候補は、バグボ候補に約9%の差をつけていました。」
チョイ代表は、プロジェクターで図表を映し出して説明する。

「第二に、最後の段階での集計である、各州19ヶ所の地方選挙管理委員会での集計結果を、国連に集めて集計しました。この数字が出たのは、11月30日夕刻です。そして、その数字は、選挙管理委員会が発表した数字とまったく同じでした。つまり、ウワタラ候補が8.4%の差で勝つという結果です。」

「第三に、国連の元に集められた約2万枚の開票調書です。これを14台のコンピューターを用い、200名の要員を動員して、昼夜3シフトで計算しました。すべての開票調書が国連に届いてから、丸2日でこの作業を終え、数字が出たのが12月1日の夕刻でした。この数字も、選挙管理委員会が発表した数字と、まったく同じでした。」

そして、チョイ代表は、結論を述べた。
「これらの3段階の検証から、国連として、選挙管理委員会が発表した数字こそが、正しい数字であることを確信しているのです。」

さらに、チョイ代表は続ける。
「バグボ候補の側から、北部地域において暴力行為があり、民主的な選挙が実現できていないという不服が、憲法院に提出されました。その訴えを認め、憲法院は北部の9県における投票を、全て無効にするという決定をしました。これについて、国連の考え方を述べます。」

「たしかに、暴力行為は、全国から報告されています。しかし、それは多くの場合に突発的な事案であり、その県の投票結果をすべて無効にしなければならないほどの規模ではありません。もし、その地域で暴力による脅迫があったとしたら、どこでも80%を越える投票率を記録している事実が説明できません。人々は、何にも怯えることなく、大挙して投票所に向かったのです。」

「それに、暴力行為の数は、むしろ北部地域においては少なかったのです。西部地域のほうが、はるかに多かった。衝突の結果、西部・中部では出てしまった死者も、北部では一人も出ていません。」
それなのに、憲法院は北部の県ばかり無効にしてしまった。暴力で民主主義が損なわれたと、憲法院がいうならば、西部の県でも無効にしなければならないはずだ。チョイ代表は、そう言いたいのだろう。

「バグボ候補は、多くの開票調書が、必要な署名、とくにバグボ候補の政党の代表者の署名がなく、無効であると主張しています。また、計算結果が合っていない開票調書があるということを主張しています。そういう開票調書は実際にあったことは確かです。そこで、国連ではそうした欠陥のある開票調書を、すべて抽出し、その数字を取り除きました。」

そして、チョイ代表は正面を向いて、ゆっくりと言った。
「それでもやはり、ウワタラ候補の得票数の方が、多かったのです。」

これは説得力があった。国連が把握している数字は、2万枚の開票調書を全部調べ、それを足し上げた結果なのだ。これに対して、憲法院はわずか1日に満たない時間で数字を出した。おおよそ国連が行ったような作業を経た数字であるはずはない。そして、ウワタラ候補は、全国の得票で8.4%の差をつけて当選しているだけでなく、不完全な開票結果を除去したとしても、やはり勝者となっているという。

予定していた日より3日も遅れてから、ようやく国連の認証の詳細について、チョイ代表の説明が行われた。それでも、遅きに失したということはない。外国プレスも含めて衆目の前に、民主的な選択の真実はどこにあるかが明らかになり、人々の確信を強めた。バグボ大統領は、その頃から、自分は「民主的に選ばれた大統領」という言い方を一切しなくなった。かわりに「法により決まった大統領」と言うようになった。さすがにバグボ大統領も、チョイ代表の説得力には、反駁の余地がないと考えたのかもしれない。

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