コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

誰がアクセルを踏むのか

2008-11-13 | Weblog
11月30日に行われるとされていた大統領選挙が、先延ばしになることが、正式に決まった。月曜日(10日)にブルキナファソの首都ワガドゥグで開催された、「ワガドゥグ合意」実施協議会の結論である。

2007年3月に達成された「ワガドゥグ合意」は、国家の南北分裂を解消し、さらに新たに大統領を選ぶための選挙準備内閣をつくって、これに全ての政治勢力が参加する、ということを内容とする。これを隣国のブルキナファソのコンパオレ大統領が、調停役となってまとめあげた。この合意は、コートジボワールの国民和解と政治安定にとって、大きな転換点となった。すなわち、この合意に基いて、当時の反政府勢力や、すべての主要政党が参加して、挙国一致の政府が新たに作られた。それまで北部を占領していた「新勢力」の代表であったソロ氏が、首相に任命されたのである。

そして、大統領選挙にむけての主要な決定は、調停者コンパオレ大統領のもとに、バグボ大統領、ソロ首相、ベディエ前大統領、ウワタラ元首相の4名が、一つのテーブルを囲んで決める、ということになった。これが「ワガドゥグ合意」実施協議会。つまり、南北分裂の両当事者(政府側のバグボ大統領と、その当時の北部反政府勢力側のソロ首相)、それから、大統領選挙の3大候補者(バグボ現大統領、ベディエ前大統領、ウワタラ元首相)が一堂に会する会合である。国民和解と政治安定が、「ワガドゥグ合意」が想定したとおりに実現していくかを監督し、必要な決定を行うために、最高首脳が集まるわけだ。今回が、4回目の開催である。

今回の協議会の会合では、今月30日に大統領選挙を実施することは不可能である、と結論づけるとともに、独立選挙管理委員会が、12月末日までに有権者登録作業の日程を明らかにし、それに応じて選挙実施の新しい日取りを示すべし、と決めた。これは、何ら驚くような内容ではない。もうかなり前から、大統領選挙が今月30日に予定通り行われることはありえない、ということは分かっていた。選挙の準備は、遅々として進まず、何より大前提である有権者登録が、殆ど進んでいなかったのである。

ところがこれまで、大統領選挙を延期せざるを得ない、ということを誰も言い出せなかった。各政治勢力ともに、大統領選挙をしなければならない、という立場を表明してきている。発表されている大統領選挙の日程は、準備不足で実現できない、と分かっていても、誰もこれにブレーキを踏めない。他の対立候補から、あいつは大統領選挙に消極的である、と非難されることを恐れるからだ。だから、この誰の目にも明白なことを公式に認めるだけのためにも、全ての候補者が一堂に集まる必要があった。皆で一緒にブレーキを踏まざるを得なかったのである。

国の南北分裂と内紛は解消されたとはいえ、いまだに国内の政治勢力が、しのぎを削っている。その中で、国内での無用の緊張をもたらさないための、コンパオレ大統領流の大岡裁き。すべての当事者の納得を得た上で、物事を決めていくというのは、まことに結構ながら、つまるところ大統領選挙はしばらく行われないということだ。これは私を落胆させる。コートジボワールの政治が、大統領選挙を経て安定してこそ、日本は本格的な経済協力を再開できる。そうであってこそ私も、日本の企業の人たちに、どうぞ本腰を入れてビジネスを展開してくださいと言える。赴任した9月頃は、この大統領選挙の日程が目の前にあったので、明るい見通しをもっていたのに、どうも先行き不透明になってきた。

選挙の先延ばしはともかくとして、腑に落ちないのは、それがいつ行われることになるのか、新たな目標が設定されないことである。どうも、誰もが選挙をしなければならないと言いながらも、誰も本音のところで、早く選挙をしたいとは思っていないのではないか、と疑わせる。皆で一緒に、ブレーキを踏んだり、ハンドルを切ったりは結構だが、一体誰がアクセルを踏むのか。

車は確かに前には進んでいる。有権者登録の作業が、とにもかくにも開始され、遅々としながらも進められているのは、重要な進展である。しかし、その車を早く走らせて、目的地に到着しなければいけないということに、誰も真剣には関心を持っていないのではないか。むしろ、車に乗ってドライブすることそのものを、楽しんでいるのだろうか。であるとすれば、その車に入れるガソリンは、誰が負担していると思っているのか。これが私を苛立たせるもう一つの問題である。

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