コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

棺桶が動く(1)

2009-05-01 | Weblog
先日「友愛朝報(Fraternité Matin)」を開いたら、棺桶担ぎ(le port du cercueil)の問題について特集をしていた。ほんとうかいな、と目を丸くするような話だ。コートジボワールでは最も権威ある主要紙が報じている。単に興味本位や一つの話題として紹介している、というわけではなさそうだ。

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4月16日付記事「この風習はさらに犠牲者を増やしている」

去る2月、ラコタ(Lakota)県のディオコリリエ(Diokolilié)村で、ある農園の主人が、棺桶によって鬼であると指名され、そのまま生き埋めにされて殺された。同じような事件は、昨年7月にシケンシ(Sikensi)県のサユイエ(Sahuyé)村でも起こり、一人の男が生き埋めにされている。昨年、アレペ(Alépé)村では、棺桶が村人4人を指名し、4人とも殴り殺される事件が起きている。

ティアサレ(Tiassalé)県ブルブル(Broubrou)村のジョナスさんは、2000年に自分の身に起こったことを、忘れることはできない。ある村人が交通事故で亡くなったときに、村人の棺桶は、当時村長を務めていたジョナスさんを、自分の死の原因であると告発した。ジョナスさんは村を追い払われ、家を取り壊された。

我々が取材したところ、2人の人から証言を得た。棺桶を埋葬のため墓場まで担いで行くと、不思議な力が働き、墓場から村に棺桶が戻ろうとする。そして、自分を魔力で殺した人間を指名しようとするという。指名された人間がどういう目にあうのか、その2人は答えを避けた。実際には、魔法使いだと告発されると、棒で殴り殺されるか、墓場で生き埋めにされる。運がよければ、村を追放される程度ですむ。あるいは、警察に引き渡され、そのまま監獄行きとなる。

「人々の考えでは、全ての死には原因があるということです。そして、死んだ人間には、誰が自分を殺したかが分かっているので、棺桶が動いて、その誰かを指名する、と信じられています。」
ディボ(Divo)市選出のアクパレ議員は、そう説明する。
「まず、母方の家族の中に、死の原因を作った人がいないかを探します。棺桶が動かないと、次に父方の家族のところに行きます。それでも棺桶が動かないなら、それ以外の人を探しに出かけます。」
アクパレ議員は、実際に不思議な現象があるという。棺桶を担いでいると、ある時点で突然重くなる。そして動けなくなるという。そして突然、棺桶が勝手に動き出す。そうなるともう、誰の力でも止められない。

シケンシ市で公証人を務めるアドゥ・ンゲサンさんも、棺桶担ぎで何度も同じような経験をした、と語る。
「担いだ棺桶が、自分で動き出すのです。墓場に到着したら、勝手に後ずさりを始めて村に戻りたがったりします。担いでいる人の意思に反してです。そうなったら、遺族の一人が棺桶に訊ねます。ただ単に皆にさよならをいいたいのか、それとも下手人を指名したいのか、と。」

そこまでして魔力の発信源を探し出し、新たな犠牲者をつくってしまう、この風習の意味は、何なのだ。シケンシ市の警察官であるアブロアクレさんは、迷いなく答える。
「棺桶担ぎは、いい風習ですよ。この風習のおかげで、魂を食べる魔法使いを探し出して、除去することができるわけですから。」
アドゥ・ンゲサンさんもこう言う。
「時に無実の人が指名されることになるとしても、棺桶担ぎに賛成ですね。その人を殺した犯人を探すというだけでなく、魔法使いが取り憑いてしまっている人が誰なのかを、知ることが出来るのです。」
アクパレ議員は、たしかにやり過ぎというのはあるかもしれない、と言う。
「もし、貴方が大変事業に成功したとしましょう。人々から妬まれて、やっつけてしまえ、ということになったら、魔女たちは、棺桶を貴方のところに差し向けるわけです。」

ディボ市のベルタン市長は、この風習は馬鹿げていると、次のように語る。
「交通事故で男の子が死亡し、遺体が警察に運びこまれました。この遺体が親族に返されたとき、安置所の別の遺体と取り違えてしまった。遺体が村に到着して、棺桶担ぎが始まり、ある人が、その男の子が死亡した元凶である、と指名されてしまいました。ちょうどそのとき、警察から人が行って、その遺体はまったく別人だと連絡したのです。」
ところが、男の子の親族は言うことを聞かなかった。
「遺体が違っていても、男の子の魂がその遺体に乗り移って、下手人を指名したのだから、指名は有効なのだ、と。」

アレペ村のニャンボ村長は言う。
「この旧弊を止めさせようと、私たちは努力しているのです。」
しかし、一般の村人たちはもちろんのこと、教育を受けたインテリ層でさえ、結構多くの人々がこの風習を信じているのが現実である。

(続く)

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