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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

何とか宿題を仕上げた

2010-09-01 | Weblog

ブアケの「新勢力」軍の駐屯地で行われた「兵士の集合」記念式典の最後に、それでは「兵士登録・社会復帰センター」をご視察いただきましょう、と案内があった。コネ司法相をはじめ大使連中や来賓たちとともに連れていかれたのは、新築の兵舎が立ち並ぶ一角である。そこに、「社会復帰・地域更生国家計画(Programme national de la réinsertion et de la réhabilitation communautaire)」という横断幕が張られた建物があった。コートジボワール紛争の間、「新勢力」軍に従軍していた人たちに、国の統一後、どういう人生の見通しを持ってもらうか。それは紛争の後始末の、重要な課題である。だから、そうした事業を、国庫の資金で行う。それが、ソロ首相のもとで進められている、「社会復帰・地域更生国家計画」なのである。

センターの主任が説明する。ここでは、「新勢力」軍の兵士だった人々をデータベースに登録するとともに、兵士を続けることを希望する人と、この機会に兵士をやめることにした人とを振り分ける。そして、除隊を希望する人には、職業訓練や新生活に必要な資機材などを支援する。新しく編成しなおす「新勢力」軍は、全部で5千人。それ以外の人は、兵士から民間人に戻る。つまり、武装解除である。そして武装解除された旧兵士は、市民生活に戻る。武装解除の対象となるそういう兵士がどのくらいいるか、というと約3千人である。

この人たちは、2002年の戦争以来、およそ8年間を兵隊として過ごしているから、手に職なども無い。もともとが農民だったとか、「昔の杵柄」というようなものがある人はまだいい。多くの兵隊は、若者である。人生で軍隊生活しか知らない。教育やその他、いろいろ人生に必要なものを学ぶべき月日を、兵士として過ごしてしまった。世の中が平和になったということは、彼らの人生には、失業という意味なのだ。だから、平和な世の中でも生きていけるように助けてやらなければならない。

そこで、「新勢力」軍の兵士たちを、まずこのブアケの駐屯地において登録する。そして軍に残って、国軍として統一した後も軍人となりたい人々には、登録と兵舎への居住を求める。一方、除隊を希望する人々には、社会復帰のための支援を、国の事業として行うことになった。ここはそのための、事業実施センターなのである。

最初に案内されたのは、「登録セクション」。表に大勢の「新勢力」軍の兵士たちが、順番を待っている。ここで兵士たちは、一人ずつ面接を受け、健康診断を受け、兵士として軍に残りたいかどうかを確認される。個々人で所持していた武器は、ここでいったん返納するということらしい。傍らに、兵士から回収した小銃が並べて置いてある。

まず、兵士として残るという人は、別の建物に設けられた「統合セクション」に行く。ここで、改めて軍人として所属と階級が決められ、指定された駐屯地での勤務が命じられる。人により、軍ではなく、憲兵隊や警察官になるように勧められる場合もある。この「統合セクション」には、国軍側の担当将校も来ていて、再び面接がある。これは、大統領選挙の後に予定される、「新勢力」軍と国軍との統合で、各人をどこに配置するかという検討が行われる。

除隊を希望する人は、軍服を返却し、次の「社会復帰セクション」に移る。ここでは、既に行った登録に従って、一人一人に「除隊証明書」と身分証が交付される。そして、職業訓練などのためのTシャツも配られる。別の机には、面接官がいて、その人がどういう職業に就きたいのか、かつて何か技能を有していたか、などを聞き出す。農業のほか、電気工、自動車修理、左官、木工家具製造、散髪、その他の職業を割り当て、これからその訓練を行っていくのだという。

元兵士への職業訓練については、以前に北部地域に出かけて、あるNGOが進めている様子を実地に視察したから、だいたい事情はわかる。一人ひとりの適性や能力に応じて、どういう人生を目指したらよいのかを指導するという、小まめな配慮が必要な作業である。その人が住む村や町の地域事情も考慮する必要がある。その職業への需要があるのか、すでにその村や町にいる職人との競合は起きないだろうか、そういうことも考えなければならない。

さて、センターを視察したあと、兵舎を見学する。兵舎には、一部屋10人ずつの二段ベッドが置かれた部屋が、たくさん並んでいる。これがここには1600人分あるというわけである。
「ところが、これらの兵舎には、まだ電気も水も来ていないのですよ。」
案内の将校が、そう説明する。急作りの兵舎であり、生活のための設備が全くない。そういえば、部屋にはベッドがあるだけで、家具はおろか、机や椅子さえ置かれていない。見学した部屋には、すでに何人かの荷物が置かれていたので、ここでの生活を始めた兵士もいるようである。しかし、この部屋では、とても生活できない。

「限られた予算で、大急ぎでここまで作りましたからね。とにかく、まず最初に必要な設備、つまり1600人分の台所だけは、最新の調理機器を入れて完成させました。」
担当将校の案内で、その台所に行く。金属製の巨大な釜が並んで、米やアチェケなどを蒸し、肉や魚を調理している。1600人分の調理というのだから、これは毎日、大変な作業である。
「問題は、食堂がまだ整備できていないことです。大ホールはあるのですけれどね、机も椅子もまだ調達できていない。」
傍らの「食堂」に行くと、たしかに単にがらんとした建物だけがある。これでは食事を取ることはおろか、配膳もできない。建物の端では、雑貨店だけが空しく営業を始めている。兵舎に住むことになる兵士たちは、とりあえず食事にだけはありつけるけれど、それ以外の生活は、まだまだ大変だということだろう。

「兵士の集合」といっても、どうも恰好をつけただけ。実情はまだまだ問題山積のようである。それでも「兵士の集合」を8月31日の期限までに始めた、と言えることが重要だ。大統領選挙に行けないのは「新勢力」の所為だ、ということにはなってはいけない。もう夏休みも終わるぎりぎりになって、何とか宿題を仕上げたという感じだ。「新勢力」側としては、宿題を仕上げたことを、私たちに誇示したかったに違いない。

 「兵士の集合」完了式典
整列する兵士たち

 国歌の吹奏

 「社会復帰・地域更生国家計画」と書かれた横断幕

 登録を待つ兵士たち

 まずここで、軍に残るか除隊するかを登録する。

 返納された武器が並ぶ

 除隊希望者には、登録証が発行される。

 除隊希望者を面接して、職業を決める。

 桃色に塗られた兵舎

 兵舎の部屋には、ベッドが置いてあるだけ。

 調理機器が並ぶ台所

 食事が出来上がった。

 説明を聞くコネ司法相


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