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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

汚職疑惑は晴れた

2010-07-31 | Weblog
さて、タグロ内相の汚職疑惑調査の結果が出るのを待ちながら、誰もがこの事件のもたらす政治危機を案じた。タグロ内相の汚職の事実が判明すれば、これは内相の辞任騒動にはじまり、しばらくは混乱が不可避となるであろう。もしタグロ内相が無実だということになれば、告発したクリバリ国会議長の面目は丸つぶれ。いや、クリバリ国会議長ほどの実力者であるから、それでは収まらず、新たな証拠を持ち出したりして、事態はどんどん泥沼化していくのではないだろうか。その一方で、私は、コートジボワールの汚職体質について、これを機会に是々非々の議論が始まるかもしれないと、ある程度を期待したのである。

その1ヶ月の期限が来た7月19日、アビジャン検察庁のチムー判事は、長々とした調査報告全文を、新聞に発表した。
「タグロ内相は潔白」
新聞の見出しには、そう書かれている。調査報告を読んでみると、バグボ大統領が命じた4つの調査項目の順に、こう述べている。

(1)警察学校の入学試験について、サイウア市とナイオ市(タグロ内相の出身地)での合格者への調査
「全合格者1505名のうち、サイウア市の出身者は66名、ナイオ市の出身者は3名であった。これら両市出身の合格者計69名に聴取したところ、誰もがタグロ内相を個人的に知らない、まして警察学校合格に際して、仲介を頼んだことはない、と答えた。よって検察庁は、タグロ内相が警察学校の受験者に対して、直接・間接の斡旋を行ったと結論付ける証拠を見出すことはできなかった。」

うーん、斡旋を頼んで合格した本人に聞いても、自分はコネとお金で合格しましたと答えるだろうか。ちょっと詰めが甘いように感じる。それに、全国合格者1505人の中で、たった一つの市だけの出身者が66人もいる、という事実だけでも、十分不自然に思うが、どうだろうか。

(2)メッカ巡礼に対する政府補助事業における、タグロ内相による公金横領があったか否か
「メッカ巡礼への政府補助事業が、内相の管轄下で設置された実施委員会によって行われてきたことは事実である。しかし、補助事業基金の財務管理は、財務省の内部口座において行われ、担当の監査官が監督してきている。2009年のメッカ巡礼においては、補助事業予算として118億フランが計上された。ムスリム団体の一つは、必要額は130億フランにのぼるので不足して当然だと述べている。また、財務省担当は、事業の決算が長期にわたるので、国庫からの支出が滞る可能性がある、と指摘した。さらに財務省担当は、内務省担当局の支出命令書のほとんどに、支出の正当性を立証する証拠書類が付いていなかった、と述べた。タグロ内相自身、政府予算を使用する立場にも、口座を監督する役割にもなく、自分の仕事は事業の進捗管理だけであった、としている。したがって、タグロ内相がメッカ巡礼に割り当てられた資金を横領したと結論付けることはできない。」

昨年のメッカ巡礼が、途中で資金不足に陥り、巡礼者たちが立往生に至った事件は記憶に新しい。でも、その資金不足は横領によるものではなくて、そもそも実際上・制度上の問題があったからだ、と言いたいのだろう。横領がなかったということは、タグロ内相自身の説明だけを根拠に結論付けられるものなのだろうか。ところで、口座を監督する財務省が、内務省の支出命令書のほとんどに、支出の正当性を立証する証拠書類が付いていなかった、と言っている。つまり、使い道が怪しいといっているわけで、これはこれで、かなり問題ではないのだろうか。

(3)有害廃棄物不法投棄事件におけるトラフィギュラ社からの補償金を、タグロ内相が横領したか否か
「タグロ内相は、2007年2月に締結された、トラフィギュラ社他とコートジボワール政府との間の補償協定書に、大統領の代理として署名した。同協定に従い、1050億フランが同社から政府側に支払われた。この資金は、財務省監督の口座に預金され、大統領府に設置された「災害危機委員会」が運用している。その財務省の監督官に聞いても、「災害危機委員会」の関係者に聞いても、事件の犠牲者への補償の過程で、タグロ内相が介入した事実はないと言っている。犠牲者の連絡協議会も、横領があったという話は聞かないとしている。したがって、タグロ内相が有害廃棄物不法投棄事件の補償金を、タグロ内相が横領したということを立証することはできない。」

タグロ内相が横領をしたという話は聞かない、と誰もが言っているので、横領の事実はなかったと考えるというのは、辻褄が合っているようで、いないようで、何となく納得できない。しかしながら、具体的な証拠がないのならば、やはり推定無罪なのだというのは、司法の世界の原則なのだろう。

(4)大統領選挙関連で委託を受けたSAGEM社から、タグロ内相(およびソロ首相)が100億フランの口利き料を受け取ったか否か
「タグロ内相が、口利き料を受け取ったという疑惑は、報道で伝えられているだけで、聴取した誰からも述べられなかった。タグロ内相は、口利き料がありえたということ自体、今回初めて知ったし、もしそういう口利き料の事実関係があったとして、自分は決してそれを受領したことはない、と述べた。したがって検察庁は、SAGEM社がタグロ内相に、100億フランの口利き料を支払ったということを、立証することはできない。」

またまた、本人がそう言っているから無罪なのだ、誰も疑惑があるという人がいないから無実なのだ、という説明である。何だか、水漏れの多そうな捜査ではあるけれど、証拠もないのに誰かの罪を疑うわけにはいかない、というのは正しいことだ。

まあ、そういうわけで、タグロ内相の潔白は証明された。「人民党」のアフィ・ヌゲサン党首は、これでよかった、この件は一件落着で、もう応酬は止めようと言っている。タグロ内相も、クリバリ国会議長も、矛を納めなさいということである。そして、肝心のクリバリ国会議長は反論もしないのみならず、国会にも顔を出さず、告発は尻すぼみの様相である。

これを機会に、汚職の問題が大きく議論されると期待していた私は、大山鳴動して鼠一匹というのでは、どうも割り切れない。そう同僚の某国大使に言ったら、彼は答えた。
「いや、一件落着だからこそ、良かったのですよ。」
え、こんな落着で満足できるのですか。
「考えてごらんなさい。大統領選挙の準備に大きな責任を担う大臣の、汚職疑惑ですよ。もし汚職があるとなれば、大統領選挙の実現は、さらに遠のいたでしょう。まして、そこにSAGEM社が関係しているとなれば、今完成に向けて進んでいる選挙人名簿だって、その正当性に問題があるということになります。」

たしかに、大統領選挙の実施こそが、コートジボワールで一番大事かつ喫緊の懸案なのだ。汚職問題に寄り道していてはいけない。
「この汚職疑惑が持ち上がったとき、これは絶対に、大統領選挙をさらに先送りしたい人々による、新手の理由付けだと思いましたね。でも、潔白宣言で、そうした流れに陥る心配が全て払拭されたわけです。」

内相の汚職疑惑は晴れたと宣言したことにより、チムー判事はタグロ内相とその周辺を醜聞から救った、と見えたけれど、実は彼は大統領選挙を混乱から救ったのだ、ということなのだろうか。そうであれば、調査報告に多少詰めが甘い部分があるように見えるとしても、もうそこのところはうるさく問わない、というのが正しい姿勢なのである。

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