コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

投票日前夜の日の丸

2010-11-28 | Weblog

木曜日(11月25日)夜の対面テレビ対談では、バグボ候補とウワタラ候補が紳士的な態度を見せ、応答の内容も充実していた。
「2007年のフランスの大統領選挙でも、サルコジ候補とロワイヤル候補とが、対面討論をしましたけどね。それはそれは、ひどい罵詈雑言のぶつけ合いでした。政策について語るなんてどころではなかったし。それに比べれば、コートジボワールの対面討論は素晴らしかったですよ。」
あるフランス人が、そう言って称賛する。

決選投票を控えて、バグボ候補とウワタラ候補が二人揃って、平和な選挙を望む、そして選挙結果はきちんと受け入れる、ということを宣言したことは、とりわけ重要だ。こういう点については、改めて念を押して確認し、そして称賛しなければならない。人は称賛されれば、引っ込みがつかなくなる。

それで私は、「友愛朝報」に寸評を書いて送った。二人の候補者の態度と約束への、私からの手放しの称賛である。
「今や私は、決選投票が平和のうちに行われることに、確信が持てます。対面討論で、2人の候補者は、フェアプレイの模範を示したのです。そして、対面討論の終了後、2人は互いに健闘を讃え、握手をしました。これこそがフェアプレイです。こんどの投票は、決選投票ですから、それは感情も高ぶり、勝てば歓喜し、負ければ悲嘆する、それは当然です。でも、勝負が決まった後は、互いに抱擁し、相手に敬意を表して讃えることです。2人の候補者は、選挙管理委員会の発表する選挙結果を受け入れると、はっきり言いました。彼らは、実に国の指導者たる人間であることを、示したのです。選挙の結果が如何なるものであれ、2人の候補者は、コートジボワールの未来の建設に向けて、ともに力を合わせていくことでしょう。」
そうしたら、土曜(11月27日)付の「友愛朝報」に、この寸評がそのまま掲載された。対面討論への諸方面からの評価、という記事の中である。

この分ならば、決選投票は平穏に行われるであろう。多くの人々がそう思ったけれど、一方で心配も出た。バグボ大統領が、討論の中で、夜間外出禁止令を出す、と明らかにしたことだ。そんな大袈裟なことをする必要があるだろうか、とウワタラ候補はすぐに疑問を述べていた。私も同感である。せっかく国民みんなが、平和で平穏な選挙になるのだ、と思っている時に、夜間外出禁止令が出れば、かえって緊張が高まってしまう。衝突や暴動の兆候がある、と言うわけだから。

野党側はいっせいに反発した。第一回投票でも出されなかった夜間外出禁止令を、決選投票で出すとは、大統領側に何かよからぬ企みがあるに違いない、という疑念さえ生んでいる。情報によれば、ソロ首相も反対しているらしくて、だから金曜日のうちには夜間外出禁止令は出なかった。この分では、バグボ大統領は大統領令への署名ができないだろう。それにしても、テレビであれだけ堂々と言ってしまった手前、どう引っ込みをつけるのだろう。よく考えたら、そういえば土曜日(11月27日)に日帰りで、ブルキナファソのコンパオレ大統領がアビジャンを訪れることになっている。この大統領選挙に向けての調停者である。なるほど、コンパオレ大統領の「裁定」によって、この件が片付くという段取りなのだ。

そのコンパオレ大統領は、土曜日の早朝からやってきて、大統領選挙の関係者と順次面談を始めた。私も、他の主要国大使と一緒に、コンパオレ大統領との面談の機会を得た。私は、主要国大使の皆でコンパオレ大統領にしっかり伝えなければいけない、と考えた。夜間外出禁止令は、緊張を高めるだけで、非生産的だから、そんなものは出さないようにバグボ大統領を説得してくれ、と。

午前11時に、大統領府に赴いた。待合室に通されて、面談の順番を待ちながら、他の大使たちとそういう趣旨で行こうと打ち合わせをしていた。そうしたら、フランス大使がやってきて、いやもう遅い、つい先ほど夜間外出禁止令が正式に出されたとラジオが伝えている、と言った。米国大使も、携帯電話で部下に照会して、たしかにもう大統領令が出されている、と確認した。なんと、コンパオレ大統領の裁定、というシナリオではなかったのだ。

コンパオレ大統領との面談では、外交団の側から、出された夜間外出禁止令は不本意ながら仕方がないけれど、その運用には柔軟性を認めなければ、透明性のある選挙と言えなくなる、ということを伝えた。公明正大に行おうとしている開票の過程が損なわれたり、選挙監視団の行動が制約されたりするようでは困る。私からも、せっかくここまで、素晴らしい民主主義を達成して見せているのだから、国民の誠意を信じて、あまり過剰なことはしないほうがいい、と述べた。

さて、その夜間外出禁止令は、報道によれば以下のとおりである。
「11月27日(土)および28日(日)の夜10時から翌朝6時まで、ならびに29日(月)および30日(火)の夜7時から翌朝6時まで
国民の夜間外出が禁止される。ただし、大統領選挙関係者(選挙管理委員、国連関係者、報道関係者)は対象外。」

なんと、もう土曜日の夜から、外出禁止になるのである。私は、公邸などの現地職員を早く帰す算段をして、夜のテレビニュースをつけた。いきなり、マングー参謀総長が画面に登場している。
「皆さん、夜間外出禁止令は、平穏な選挙を実現するためにとられた措置なのです。決して、投票が危険にさらされているということではありません。明日の投票日には、皆さん大挙して投票所に赴いてください。夜間外出禁止令が必要と判断されたのは、実際に鉈や鎌などを手に、騒乱をしようという動きが出てきつつあるので、それを抑えようというものです。」

そう述べてから、参謀長は実際に、両候補者の支持者の間で、衝突が起こり始め、数人の死者さえ出始めている、と具体的な例を挙げて説明し始めた。アビジャンのアボボ地区で衝突、何人が重軽傷、トレイシュビル地区で衝突、何人が重軽傷、という調子である。
「これ以上、衝突が起こらないように、夜間外出禁止令で予防するのです。軍が何か勝手な動きをするということではありません。国軍は「新勢力」軍、国連軍、リコルヌ軍と緊密な連携のもとに動いており、誰も互いの連絡なしには動けません。安心してください。また、携帯電話を使った無責任な噂は、信じないでください。」

そういう懸念があるのならば、夜間外出禁止令で予防するというのは、理由がある。ここはひとまず、コートジボワール政府の措置に従って、できるだけ安全な行動をとるように、皆に徹底しておこう。

さて、夜間外出禁止令が効力を発する、夜10時近くになった。もう今頃は、街中から人影と車が消えているはずだ。そして、国民がみんな家に閉じこもって、何をしているか。まあ、テレビでも見ているだろう。そう思って、テレビをつけた。夜10時になったら、何が始まったか。私は目を疑う。日の丸が画面いっぱいに登場したのだ。

「平和と未来へのコンサート」
番組はそう題されていた。先日のコンサートの実況録画が、この大事な日の夜に流されることになったのである。のっけから、私が大写しになる。舞台の上で演説をしている。このたびの選挙を通じて、国民が一体になったのだ、という話を訴えている。続いてチョイ国連代表も登場し、平和のメッセージを語りかけた。そして、あの幻想的な民謡の演奏が始まった。太鼓に三味線に尺八に、民謡の歌声も加わった。

「どんどんぱっぱあ、どんぱっぱ」
日本の歌と掛け声が、全国に流れた。日本の民謡で、この歴史的な大統領選挙、決選投票の前夜が飾られた。

<新聞記事>


11月27日付「友愛朝報」に載った、私のコメント。
「二人の候補者は、真の指導者であることを示した」


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1 コメント

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平和な選挙でありますように (Unknown)
2010-11-29 12:06:35
先日音楽祭一日目に出演させていただいた日本人です。大使の日記を大変興味深く拝読させていただいています。私は今回二回目の渡航でしたがとてもアビジャンが大好きです。
アビジャンの
またコートジボワールの国中が平和で活気溢れる国になる為の選挙を自分の事のように見守らせていただいております。

このような情報を日本語で得られる機会を設けていただき大使には感謝しております。
今後も拝見させていただきますので宜しくお願いいたします。
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