3mmの安心、10cmの恐怖

時計の針はPM7:32
Y子の戦いはすでに3時間前から始まっていた
湯船に浸かりながら
歯磨きしながら
考えることはただ一つ
明日予想されている雪だ


Y子は幼い頃から風恐怖症
風に対して異常に怯えるところがあった
扇風機の風を顔面に受けた時の息苦しさからだろうか
それとも家が粗末だったことが一因だろうか
強風がくると家の壁を力一杯飛ばないような押さえたものだ
今考えるとそんなことで吹っ飛ぶ家でもなかったが、
じっとしていられなかったのだ


台風がくると心配で眠ってなんかいられなかった
一晩中テレビをつけ、画面に映し出された日本地図を見て
台風の風速やhPa、時速などを見て自分なりに台風を分析していた
台風の目が3mm動くと、もう少しの辛抱だと自分を慰めた


今でもY子の風恐怖症は続いている
しかし飼い主の影響を受けているのだろうか
ヴィヴィは風の音にもビクッとする
一緒になって怖がっててはいられないと
あからさまに怖がる素振りは見せないようにしている


テレビのニュースキャスターが繰り返し言う
『群馬の平野地でも明日の積雪量は10cmになるでしょう』
降る雪をみているのはいい
雪の日の運転は風と同じくらい恐怖だ
Y子は雪の日に運転したことはこれまでない
群馬に引っ越してからはVIPが送り迎えしてくれていた
でも‥今VIPはグアム
雪とは全～～～く無縁な国でのほほん(かどうかはわからないけど)

先日の雪では東京の道をスリップする車や
乗り捨ててある車をあちこちで見かけた
そんな光景を目の当たりにするたび
車のドアを押さえてしまう
力が入って手に汗していた
強風で壁を押さえていた頃と変わらないではないか
明日再びY子はこの恐怖と戦わなければならなくなった
しかも一人っきりで


戦いは仕事帰りから始まっていた
明け方から降り出した雪を車から落とすための道具を
仕事の帰り道100均で調達した



オー○○○クスといった類のお店には一人で入ったことがないから
手っ取り早く行き慣れた店で探し買ってみたが
どれだけ威力を発揮するかは未知の世界
何もないよりは朝、雪下ろしでタイムロスしなくて済むだろう

雪の重さでワイパーが折れないようにそうだ、上にあげておこう
明日は経営会議。
朝早く出勤しなければならない
いつもなら6:45に出ればいいが明日は6時といったところか
明日着て行く洋服をもう出しておこう
洗濯物も済ませてしまおう
ジムに行って汗をかこうと思ったが
そんな心のゆとりもないので家でお風呂に入ろう
よし、今考えられるだけのことはした
あとは寝るだけだ、明日は5時に起きなければ

今回は怖がってばかりいられない
なんとか打ち勝たなければ
勝つ相手は雪ではない
１０ｃｍの恐怖を抱くY子自身である