吉岡昌俊「短歌の感想」

『現代の歌人140』(小高賢編著、新書館)などに掲載されている短歌を読んで感想を書く

絶望と覚悟

2019-05-10 01:48:20 | 日記
この家の前を人殺しが何度通っただろう 窓開けて寝る
山川 藍『いらっしゃい』

「この家の前を人殺しが何度通っただろう」という上句は、“気づくことは難しいけれど、自分の周囲にいる多くの他者たちの中には凶悪な暴力をふるう悪意のある者も含まれている”という事実について述べていると思う。「人殺し」という言い方は極端に見えるけれど、たとえば、“殺す”ということを、“悪意を持って人を、元の状態には戻らないほど深く精神的に傷つける”といった行為まで含めて考えるなら、そういう行為を平気で繰り返す者は、見分けることは難しいけれど、身近に存在しているかもしれない。
そういう現実の世界に対して「窓開けて寝る」という行為の背後には、自分をとりまく世界や他者に対する絶望や諦めと、その果てで開き直って生きようとする覚悟をもった態度があると思う。

コメントを投稿