ひまわりの種

毎日の診療や暮しの中で感じたことを、思いつくまま書いていきます。
不定期更新、ご容赦下さい。

福島県小児科医会から県への要望書・地元紙のこと

2011年07月10日 | 東日本大震災
6月の始めに県小児科医会の理事会があった。
7月3日に開催される総会及び講演会の打ち合わせだ。
その席で、県小児科医会としても具体的な要望書を県宛てに出そうということになった。
理事会で話し合い、6月下旬に提出した。
以下ははその全文。

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福島県知事 佐藤雄平殿
平成23年6月15日

                           福島県小児科医会
                            会長 太神和廣

              要 望 書

  放射線被曝から小児の健康をまもり、未来ある子どもたちを育むために

 この度の東日本大震災による震災、津波の被害に加え、本県では東京電力福島第一
原子力発電所の事故による放射線汚染という未曾有の災害にみまわれました。今現在
もこれらの災害に懸命に対応されている県知事以下県職員ならびに関係者の皆様方に
は、心より敬意を表します。
 さて今回の原発事故に伴い福島県を中心とした広範囲な地域において放射性物質の
飛散・降下により多くの一般市民が放射線を被曝する事態となっております。とりわ
け子どもたちにとってはその影響は心身両面において特に憂慮されるべきものであり
ます。また子どもたちの保護者においても子どもの健康に対する不安は高まっており
ます。
 私たち小児科医は小児の健康と命を預かる立場より、今後および将来にわたって放
射線被曝の直接的影響および風評被害を含む間接的影響から福島県の子どもたちを守
るために以下の事項を要望いたします。

1. 福島県内のすべての地域において子どもたちの放射線外部被曝線量を調査し、ま
 た内部被曝の可能性がある地域については個人レベルでの内部被曝も測定し、また
 その結果を速やかに公表することを要望する

2. 県内すべての地域の子どもたち(および事故当時妊娠中の母親より出生した子ど
 もたちも含む)に対し放射線被曝による健康影響について包括的かつ長期的な健康
 管理を行なうことを要望する

3. 県内すべての子どもたちおよびその保護者に対し、放射線被曝や避難に伴う不安
 の有無、風評被害に伴う精神的ストレスなどの有無について調査し、必要な場合に
 はカウンセリングなどのこころのケアおよび避難(自主避難も含む)に伴う具体的サポ
 ートを受けられる体制を整備することを要望する

4. 現在の被曝線量を出来る限り速やかに低減するために、表土除去をはじめとする
 放射性物質除染を子どもたちの行動範囲すべてにわたり、可及的速やかに行うことを
 要望する

5. 福島県の子どもたちの心身両面での健康かつ安心な生活を将来にわたり保証し、
 また子どもたちの受ける将来的な風評被害を避けるために、福島県は県内の原子炉を
 すべて廃炉とする方針を明確にすることを要望する

 将来をになう今の子ども達が心身共に健やかに成長することなしに、福島県の復興
はありえないと私どもは考えております。そのためには、福島県小児科医会総員をあ
げて地域医療を守り協力する所存であります。これらのことを鑑み、何卒最大限のご
配慮をいただきたく、ここに要望書を提出いたします。
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この要望書は、7月3日の総会でも事後承諾ではあったが、承認された。
当日、地元紙2社の記者さんも取材にいらしていた。
会長が対応し、その後は忙しい会長に代わってわたしが補足した。
補足の内容は、今日(7月3日)のメインは、
この報告その他事務的な報告だけではなく、講演会2題なんです、と。
お時間があれば、ぜひ聴いていって下さい、と。
プログラムと、この要望書のコピーもお渡しした。

講演1が、国立成育医療センター感染症科の先生の、
  「新しい予防接種とそのすすめかた」
    
講演2が、産業医科大学放射線衛生学講座の先生の、
  「小児科医が心得ておくべき放射線被ばくの基礎知識~原発事故を中心に~」

特に講演2は、メディアの方々にもぜひ聴いて欲しかった。

その翌日。
地元紙の一面を飾ったのは、福島大学で行われた広瀬隆氏の講演会と、
それを聴きに来る市民の方々の様子を取材したもので、
「後悔したくない わが子と「県外脱出」探る母」
と大きな見出し付きだった。

県小児科医会の総会の記事は、県内版に小さく載った。
新しい会長就任と、こんな講演がありましたよ、という数行だけだった。
もちろんこの要望書の内容にも触れていないし、講演の内容も、出席者の感想もなしだ。

わたしは、小児科医会の活動が一面記事にならないことを不快に思ってるのではない。

広瀬隆氏は、もともと反原発の立場でのさまざまな著書がある。
早稲田大学理工学部を卒業しているが、原子力の専門家ではない。もちろん、放射線医学の専門家でもない。
いわゆるノン・フィクションライターだ。
書くことは個人の思想の自由だから、そのことを非難するつもりはない。

ただ、同じ日に偶然にも、原発事故による放射線リスクのとらえ方に関する講演会が県内で行われたのに、
「危険だ」を声高に主張する方の記事のみを大きく取り上げる地元紙の姿勢は、残念だと思う。

こうやって、「今、本当に伝えなければならない’まっとうな’情報」は、埋もれてしまう。

メディアなら、双方の情報をバイアスなく伝えるのが仕事ではないのかな・・・。
しかも、地元紙なら、なおさら。


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3 コメント

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新聞記者について (藤川智雄)
2011-07-10 14:46:07
情報が混乱していた3月下旬、ある代議士が、『マスコミは、宮城県南の状況には触れるなと言われているようだ。』とボソッと言っていました。その頃、原発事故が不透明さを増し、私自身、『政府とマスコミが歩調を合わせ、日本国民をどこに連れて行こうとしているのか?』と疑心暗鬼になっている時期でしたので、よく覚えています。

今の記者は、昔と違いサラリーマン化しています。自由に記事を書けなくなっています。したがって、先生にコンタクトした記者というより、儲け先行の会社に問題があるのだと考えます。真実は、インターネットから探し出す時代になっているような気がします。

さて、仙台でも、「放射線被曝から子どもを守る会」実行委員会主催の講演会があるようです。http://ameblo.jp/miraie-for-children/entry-10945098049.html ただ、素晴らしい人物とは思うのですが、内部被爆の危険性を強く・強く主張される少数派の先生。宮城県医師会館で開催ということで、医師会の総意にも見えるような不思議なイベントです。

どこに、真実があるのと叫びたくなりますが、今の日本の現状です。何を聞くか、何を信じるかは自由。ただ、私は、山下教授や先生の根拠をベースにしたお話を大切にしたいと思います。医師会の要望書は素晴らしいです。これを、福島県が積極的に展開されることを信じたいと思います。
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Unknown (山田)
2011-07-10 22:34:58
こんな大切な要望書を紙面に載せないとは・・・唖然としました。わざわざ長崎大学を休職してまで福島に転居して被曝医療に身を投じてくださる山下医師を犯罪者呼ばわりする風潮にはウンザリしていますので、広瀬氏の事も読んでもいませんが、報道の偏りを残念に思います。
今後の展望として、医療からこのような方策がなされる事は素晴らしい事ですし重要な事だと考えています。早急に対策が整えられることを切に願います。
返信する
Unknown (Unknown)
2011-07-13 08:01:46
 このブログの管理人さんのように冷静な対応ができる方が増えることを期待しています。広瀬氏が浜岡で行った講演をyoutubeで見ましたが、冒頭で放射線量を単位時間あたりで発表するのは、国民に線量が低いと思わせるためだと話した時点で聞くのをやめました。放射線量は時間変化するから単位時間あたりの値で測定値を出し、それを積分して累積放射線量を計算すべきなのに、こんなことを言って、聴衆を不安にさせるのです。

先生のように冷静な医師が福島県で増えていくことを願っています。また、福島県の医師が一丸となって正しい放射線に関する知識を広めていってほしいと願っています。このような活動を通して、福島県民の方々の不安を取り除いて頂けたらと思います。

このブログはある大学の医学部の学生たちから教えてもらえました。その学生たちも先生のような冷静な対応ができる方が増えていくことを願っていました。
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