ひまわりの種

毎日の診療や暮しの中で感じたことを、思いつくまま書いていきます。
不定期更新、ご容赦下さい。

リスクのとらえ方と伝え方

2011年08月29日 | 東日本大震災
所属しているMLなどにも投稿したことなのだが、
このところずっと、考えていることがある。

放射線による健康被害は、ほとんどは大丈夫だと、わたしは認識している。
が、それはゼロということではない。

私たち医師は、これまでの診療で、
予後不良かもしれない、というお子さんに遭遇した経験は、大なり小なり、ある。
そのようなお子さんを紹介する立場、受ける立場の方々がいる。
今わたしは開業医だから、ほとんどは紹介する立場だが、勤務医の頃は、受ける立場でもあった。

もしかしたら悪性かもしれない病気の疑いのあるお子さんの親御さんに、どのように、ご説明するか。
難しい病気の診断や治療はもちろん難しいのだが、その説明には、とりわけ、心を砕かねばならない。
伝え方ひとつで、本人も家族も希望を失うことだってあるのだから・・・。


今、福島の子ども達は、

「あなたがたは、将来がんになる」
「あなたがたは、将来まともな子どもを持つことができない」

と宣告されているに等しい、という状況にさらされていることを、どうか想像してみて欲しい。

しかもその確率たるや、自然発生に比べても微々たるもので、
ほとんどは問題にならないであろうと、疫学的には考えられているにもかかわらず、だ。

子ども達は、大人の話を聞いている。
そして、小さな心を痛め、悩んでいる。

夏休み前、発疹を主訴に来院した中学生のお嬢さんがいた。
なんのことはない、りんご病だった。
それなのに、そのお嬢さんの表情が暗い。
どうしたの? と聞くと、
彼女は学校でクラスメートから
「内部被ばくのせいじゃない?」と冗談を言われたのだそうだ。
笑い話だとは分かってるけれど、内心は不愉快だし不安だったそうだ。

こんなの、全然関係ないよ、第一、もしも仮に内部被ばくしてたところで、
今の福島市なら、それも全然問題ないレベルだよ、あなたは大丈夫!

そう伝えると、本当に安心した笑顔になった。

診察上は何も所見がないのだけれど、
腹痛だの、吐き気だので来院するお子さんたちもいる。
その子たちに、

「もしかして、放射線のこと、心配なの?」

と聞くと、ほとんどの子ども(おもに小学生以上ですが)はうなずく。
大丈夫だよ、放射線のせいじゃないよ、と伝えると、
みんな明らかに、ぱぁっ、と安心した笑顔になる。

中学生~高校生は、ネット等で(怪しげな)情報を拾っているようだ。

サーバリックスは接種したほうがいいのか、今更どうなんでしょう、
どうせ、いずれがんになるかもしれないのに、
と、真面目に質問なさるお母さんもいた。

溢れかえる情報は、週刊誌やネットでも簡単に閲覧できる。
書店に行けば、「放射線対策」「放射線Q&A」などの本が平積みだ。
しかもそのほとんどは、にわかジャーナリストやら、似非専門家のもの。
確かに、未だに続いている低線量の環境放射線レベルは、
ここに住む人々の気持ちを、とりわけ、子どもを持つ親を不安にさせる。

これは、確かに、福島原発事故のせいだろう。
でもそれは、東電のせい?
政府のせい?

私は、それだけじゃないと思う。

 溢れかえる情報の、何が間違いで、何が正しいのか、
 私たち医師が、きちんと理解して伝えきれてない

そのことこそが、大きな原因だと思う。

このように書くと、
本当のことはわからないから、というご意見もあると思う。
なにせ、世界でも初めての事態なのだら。
やみくもに「安心だ、大丈夫だ」とは言えない、
先のことはわからないのだから、「わからない」としか言いようがない。
確かに、その通りだ。

でも、「わからない」と答えることが、本当に誠実なのだろうか?
人は、先の見通しがつかないことに、不安を覚えるものだ。

 例えば子どもの発熱にしたって、そうだ。
 この熱がいつまで続くのか、このまま下がらなかったらどうしよう、
 その不安感が、子どもの救急外来受診につながる。
 この状態なら大丈夫、あと2~3日後には下がりますよ。
 このようにお伝えするのは、過去のデータや経験の蓄積があるからだ。
 そして、そのように伝えてもらえれば、ほとんどの親御さんは安心できるのだ。

放射線の健康被害の過去の疫学調査で云々するのは、先になってからでないと言えない、
と東大の児玉教授はおっしゃっていたが、本当にそうだろうか?

「医学は経験の学問なんだ」とかつて教えて下さった大先輩がいた。
私たちは目の前の患者さんを診察し、その診察結果と過去のデータ(すなわち教科書)
を照らし合わせ、診断を下している。

これを放射線による健康被害にたとえて言うなら、
原発周辺の地域・飯舘村・山木屋のお子さんは、今後の詳細な健康調査が必要だが、
それでも、リスクはかなり低いと考えらる。
さらに、これらを除いた地域、今現在の福島市・郡山市などの低線量放射線レベルは、
将来に健康被害をきたすリスクはもっと低い、
これまでの疫学調査から、これは、ほぼ間違いないことだと、わたしは理解している。

そのような見解を述べる専門家の方々を「御用学者」扱いにするのは、間違っている思う。

例えば、
「1%でもリスクがあるのだから、安心はできない」 と伝えるのと、
「リスクは1%だけれど、99%はおそらく大丈夫だよ」 と伝えるのと、
内容は、同じだ。

どちらが、人に優しい?
安心を与えることは、騙すことだろうか?

これから10年・20年・30年にわたって、

「いつか、がんになるかもしれない」という不安をかかえて成長することと、

「もしかしたら、がんになることも万が一にはあるかもしれないけれど、
 ほとんどは大丈夫」

と信じて成長することと、
どちらが、子どもにとって幸せだろう?

みんなは、ご自分のお子さんには、どちらの説明をして欲しいかな・・・。

万が一にも起こりうる可能性を全て伝えることって、実は、伝える方は気が楽なんだ。
だって、あとで何かあっても、ほらね、やっぱり、と責任のがれができるからね。
逆に、ほとんどが大丈夫(でも万が一)ということに対して、
「大丈夫ですよ」と伝えることは、かなり勇気がいる。
でも、今、福島県の小児科医は、このような勇気が必要なんだと思っている。

 福島の子どもたちは、大丈夫なんだよぅ
 お願いだから、これ以上、子ども達に不安を与えるのは、やめて欲しい・・・。


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広島・長崎・平和祈念式典

2011年08月10日 | 東日本大震災
毎年行われる、原爆投下日の平和祈念式典。

今年は、福島県民にとっても日本国民にとっても、一層重く心にのしかかるものとなった。

いや、「今年、福島第一原発事故があったから」ことさら重くのしかかる、ということそのものが、
そもそも、わたしたちの、甘さだったのだ、とも思う。

「福島で暮らすということ~」のエントリーのコメントで、広島の方だったと思うが、
いったい皆さんの何人が、広島。長崎の原爆投下日や阪神大震災の日時を、時間を正確に言えるか、
という問いかけがあった。

本当に、その通りだ・・・。

のど元過ぎれば熱さを忘する、ということわざがある。
世界でも唯一の原爆投下による被爆国の日本で、こともあろうに、原発事故が起きた。
・・・・こんなに恥ずかしいことは、ない。

毎年、毎年、8月6日と9日、広島・長崎で行われる記念式典のニュースを目にして、
いったい、わたしたちは、何を考えて行動してきたのだろう。
何にもしてこなかったのではないか。
認めたくはないが、おそらく、広島や長崎の方々以外は、「ひとごと」だったのではないか。
原爆と原発は違うから、きっと大丈夫だ。
そんな、根拠のない安全神話を、実は頭のすみっこでは疑いながら、
快適さと効率を選んでしまっていた。

わたしは、反原発デモに参加するつもりもないし、
「福島のこども達に放射線の健康被害が出る」という論調を錦の御旗にして、反原発を訴えるつもりもない。
(だって、実際には健康被害は、おそらく殆どは出ないと思うからね。)
でも、原発は、いらない、と心から思う。

住民のほとんどには、健康被害が出ないと思う。
これは、広島・長崎・そしてチェルノブイリでの疫学調査からも、ほぼ信頼おけることだと認識している。
でも、今も事故の収束に向けて日々活動しておられる現場の方々は? そのご家族の思いは?
もしかしたら、半永久的に、暮らしていた町に戻れないかも知れない方々の思いは?
週刊誌やネットの誇張された煽り記事で、不安になっている方々の心は?

こんな思いは、ごめんだ。
福島だけで、たくさんだ。
それなのに、やらせメールだのなんだのと、
この国のエライさんたちの考えていることは、さっぱりわからない。理解不能だ。
福島原発事故の終息もまだなのに、原発再稼働なんて、信じられない。
だいたい、電力は、本当に原発なしでは、ダメなのか?
今年の夏も確かに猛暑だけど、今、計画停電もせずに、どうにかなってるじゃないか。

広島・長崎の方々の苦難をきちんと理解していたら、こんなことにはならなかったのじゃないか。
そして、福島原発事故のことを他山の石と考えてる人たちがまだいるのだとしたら、
同じことが、いずれまた起きるかも知れない。

核兵器廃絶も、脱原発も、目指す根本的なことろは、同じだ。
放射線による人体への影響を、これ以上、絶対に引き起こしてはいけない、ということだ。

 くどいけれど、福島では、おそらく健康被害は起きないと思う。
 でも、もしかしたら起きるかも知れないという不安そのものや、
 そこにはもう住めないかも知れない、ということが、すでに大きな問題なんだ。
 そして、これも広い意味での、人への影響だと思う。

今年は、6日と9日の平和祈念式典を録画して、仕事が終わってから観た。

長崎市長の、平和宣言の全文
http://www.asahi.com/special/npr/SEB201108090009.html

この宣言の、最後の方・・・、
「1945年8月9日午前11時2分、原子爆弾により長崎の街は壊滅しました。
 その廃墟から、私たちは平和都市として復興を遂げました。
 福島の皆さん、希望を失わないでください。
 東日本の被災地の皆さん、世界が皆さんを応援しています。
 一日も早い被災地の復興と原発事故の収束を心から願っています。」


この言葉に、涙が出てしまった。

うん。
歯を食いしばって、頑張ろう。

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夏休みになって・・・・

2011年08月01日 | 医療
夏休みになって10日余り。
子どもの多くは、県外に短期避難するので、さぞや外来は暇になるだろう、
と、タカをくくっていたけれど、あんまりヒマじゃない。

 医療機関がヒマじゃないのは、ほんとはあんまりいいことじゃないんだけど。
 だって、具合の悪い方がそれだけいらっしゃる、ということなんだから・・・。

もっとも、おいでになるお子さんは、予防接種や健診も多い。
これまでの定期接種に加えて、肺炎球菌ワクチン・ヒブワクチン・子宮癌のワクチン、
などが増えたので、それらの接種スケジュールの説明に、時間がかかる。
当院では、看護師がスケジュールの説明をかなりきっちりしてくれるので、
わたしは助かっているけど。

でも、相変わらず、ヘルパンギーナとか、手足口病とか、プール熱とか、
夏かぜウイルスのお子さんも多い。
ヘルパンギーナは、のどに口内炎のような水疱がたくさんできて、
小さいお子さんは痛くて(食べたくても)食べられなくて、
高熱の上、脱水や低血糖になってしまうこともある。この暑さだしね・・・。

点滴して、ちょっと元気になって帰ったおこさんが再診の時には、
診察室に入るなり、わたしの顔見て、思いっきり泣かれてしまったり。
そうだよなぁ、赤ちゃんだって、嫌なことされたのは、しっかり覚えてるよなぁ。
しかも、一週間前に予防接種なんかしてた日には、

「あ、このヒト、なんか、やなことしたヒト!」

って、みるみる表情が変わるんだもん。

でもね。

そういう赤ちゃんたちでも、
長いお付き合いのうちには、ある日突然、泣かなくなるから、不思議。

この夏休みの間に、転校や転園するお子さんもいる。
気管支喘息やアトピー性皮膚炎で通院してたお子さんには、
紹介状をお渡しすることもある。

カルテの数年前の記事をひっくり返しながら、紹介状を書く。
書きながら、そのお子さんが小さかった頃のことを思い出す。

あるお嬢ちゃんは、アトピーがひどくて、毎晩からだを掻きむしって、
いつも顔や手足が傷だらけだった。
少し良くなってきた頃に弟が産まれて、小さいながらも、甘えたいのを我慢して、
でも泣き虫さんで、すぐに目の周りが涙でかぶれて、それをまた掻くから、
いっつも、目の周りがカサカサしてたっけ。

転校することが決まった時、やっぱり泣いたんだそうだ。
我慢強い子だから、それがからだに出ないといいな。
そんなことを考えながら、紹介状を書いた。

 センセイもね、小学校は2回も転校したんだよ。
 でも、その分、お友達もたくさんできたよ。
 だから、あなたもナンにも心配ないよ。
 いろんなところにお友達ができるんだから、よかったね。

そう話したら、その子は恥ずかしそうに笑った。
うん。きっと、この子は、大丈夫だ。
いま、どうしてるかな。

子ども達だけで、キャンプに行ってる子。
お母さんと一緒に短期滞在してる子。
みんな、元気かな。

今年の夏休み。
わたしは、絶対に、忘れない。
お母さんの気持ち、お父さんの気持ち、子どもたちの気持ち、
避難した人も、ここで過ごした人も、
みんなが、それぞれに、どんな思いで過ごそうとしたか、
どんなふうに過ごしたか、
絶対に、忘れない。

 福島県の子ども達をお世話して下さってる自治体の方々、ボランティアの方々、
 ほんとうに、ありがとうございます。
 どうぞ、よろしくお願いいたします。





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