パンダとそらまめ

ヴァイオリン弾きのパンダと環境系法律屋さんのそらまめによる不思議なコラボブログです。
(「初めに」をご一読ください)

花岡信昭氏化する池田信夫氏~ブーメラン・ブロガー

2007-02-06 18:52:33 | 環境ネタ
 ちょっと環境ネタが続いて恐縮なのですが、かなり引っかかることがあったので(長文注意)。この間触れたIPCC第4次評価報告書第一作業部会報告をめぐる報道振りの一部について池田信夫先生が「偽造」であると糾弾されていますー地球温暖化のメディアバイアス(2/2)地球環境危機はこうして偽造される(2/5)。どうやら日本では最大値のみ掲げる報道があったようです。
一番ひどいのは「今後100年間で気温6.4度上昇との予測」という見出しを掲げたTBSだ:
  報告書は未来のシナリオについて、このままの経済成長を続けた場合や
  省エネや環境保護が進んだ場合などいくつか用意されたのですが、最悪の
  場合でこれからの100年で6.4度もの平均気温の上昇が考えられると
  いう数字が示されました。

 まず基本的なことだが、IPCCの予測は1980-99年の平均気温を基準にして2090-99年の平均気温を予測するもので、「これからの100年」ではない。しかも記者会見で気温上昇の予測が1.8-4度と発表されたことは無視して最悪の数字だけを取り上げ、最大とも書かずに「6.4度上昇」という断定的な見出しをつける。
で、これに関心できないのは全くその通りで、よくある見出し印象操作の新たな一例という印象。幅がある予測の最大値だけをさも一点予測のように報じたらそれはおかしいでしょう。加えて「予測を上方修正」という記事も見ましたが、そりゃ間違いというか、そもそも直接比較でいないと注書してあって、幅の上限と下限が拡がっただけなのに、そうキャラクタライズするのはおかしい。氏の結論の「(問題なのは)おもしろいニュースに群がる一方で、それを大事なニュースに見せかけようとするメディアのバイアスと、役所にニュースを配給してもらう記者クラブの体質なのである。」には激しく同感しますし、私も結論先行型の記事についてはエントリを立てて批判したことがあります。

 ただ池田先生はそういうメディアの姿勢を批判する勢いが余って(or誤解してor確信的に)、その余でかなりおっしゃっていることと実際に書いていることの倒錯が見られます。例えばですが、上記のエントリで「最大とも書かずに」とおっしゃっているところ、2/2のエントリで指摘している
 追記:環境省まで「上昇は2.4~6.4℃に達する」というデマゴギーを宣伝している。
と言っているリンク先に行ってみると
 過去100年間の地上平均気温が0.74℃上昇したと報告するとともに、21世紀末の10年間に上昇は最大2.4~6.4℃に達すると予測。また、この変化が、人為起源の温室効果ガスの増加によってもたらされた可能性が極めて高いことを指摘している。
としっかりと「最大」と書いてあるのはどういうことなのですか。ちなみに、その2.4-6.4℃というのは6つあるシナリオの最も上昇幅の大きい大量消費化石資源依存型シナリオ(下の図(Summary for Policymakersのp11)のA1F1)です。
   
気温上昇の1.8-4.0℃というのは6つあるシナリオのbest estimateの幅で、A1F1がその1つ4.0℃(2.4-6.4℃)ってことですね。ところで、これが池田先生にかかると、
 1.8-4というbest estimateが公式の予測とされ、それ以外の極端な数字は欄外の参考データである。
となるのですが、上の表のどこがどう欄外の参考データなんですか(・ ・?) どうやらp21のグラフのことらしいということの解説→佐藤秀の徒然\{?。?}/ワカリマシェン(2/3、2/5加筆)。p21のグラフがA2, A1B, B1しか描いていないことを「欄外の参考データ」と言ってるつもりだとしたら、他の3つのシナリオを参考データというつもりですか???

 一番いかがなものかと思うのは次の部分の2文目です(2/2、強調原文)。
 ところがNHKのニュースは、「温暖化は深刻化している」という最初から決まっている結論にあわせて、最悪の場合の数字だけをつまみ食いし、最小値や都合の悪い数字を無視している。これは「温暖化も海面上昇も6年前に予測されたほど悪くない」という報告を逆に報じるものだから、ほとんど捏造に近い。彼らに「あるある」を批判する資格はない。
NHKが「最小値や都合の悪い数字を無視している。」のと同様、海面上昇の最小値が上昇していることを無視して、「温暖化も海面上昇も6年前に予測されたほど悪くない」と断言できるのはなぜなのか(注:温度予測の比較について先ほどの佐藤秀さんのエントリ)、それより何より、温暖化の進行がunequivocalで、very high confidence(90%)で人類が温暖化影響をもたらし、very likelyに温暖化を起こしたと(66%→90%)踏み込んだ点を差し置いて、"not directly comparable"とわざわざ注書してある数字のその一部分でなぜ「予測されたほど悪くない」と断言できるのですか? あのCEIの事前レスポンスとそっくり Good News for the Planet = Bad News for Climate Alarmists (1/31)。 さらにがっかりすることに、上記のように「ほとんど捏造に近い」といっておきながら「地球温暖化のデータがいかに偽造(捏造とまではいわない)されているか」(2/5)とさらりと前言撤回しています(Technicalには「ほとんど捏造に近い」≠「捏造」ですが、そういうつもりなのですか→追記 こっちの意味だそうです。私はてっきり「6年前に予測されたほど悪くない」というキャラクタライズのおかしさにお気づきになって、トーンを変更したのだと希望交じりで(私のバイアス)早合点してしまいました、お詫びして修正します、ありがとうございました)。

 他人に対する批判がそのまま自分に返ってくるの政党ことをブーメラン政党呼ばわりするそうなのですが、何だかDéjà Vuがすると思って記憶をたどったら、花岡信昭氏の炎上騒ぎのときのことを思い出しました。事の次第は最近花岡氏御自身でレビュー(1/28)なさっているのでまぁそちらを御覧頂くとして(「・・・。」がおかしい、モーニング娘。のせいだ、歌もダンスも下手なくせに云々)、「こういう日本語がおかしい」となぜそう断言できるの? What makes you perfect??? と素朴な疑問をもったところです。対象がモーニング娘。とIPCC AR4という激しい落差がありますが、不用意に断定を繰り返しながら、自分のことは棚に上げて威勢のいい批判を並べるのは同じこと。最大値のみ報じるマス・メディア報道を「終末論」とラベリングして「デマゴギー」と批判されていますが、その批判が全くそのまま「本当に実行しようとすれば、ガソリン代を2倍にするとか、飲食店の深夜営業を禁止するとか、かつての石油ショックのころのような統制経済にしなければならない。」(2/5)という主張に当てはまると思わないんでしょうか? 

 いや言論の自由万歳と笑い飛ばしてもいいのですが(実際「誰にだってバイアスはあるんですよ、メディアだけでなくブログにもリテラシーが必要ですよ」っていう壮大な釣りコラボレーションではないかさえ思える)、以下の点で残念に思います。
 1つは、エントリを見る人の期待に背いているじゃないかということ。メディア・リテラシーを説いているかのごとく振る舞いながら様々な地雷を仕込むのはフェアじゃないというか、この報道の仕方がおかしいと言ってる人は、きっとキチンと伝えてくれているのかなと期待を抱くんじゃないかと。並み居るαブロガー達を「プロフェッショナルな情報を提供するものが少ない。」とする切れ味からすれば、プロフェッショナルに徹した正確な内容になっていると期待するでしょう。にも関わらずな内容なわけで、申し訳ないのですが、悪徳業者から救ってくれるかと思ったら実はトンデモなことを言ってる悪徳弁護士だった、というようにしか見えません(準備書面と書証で内容が全然違うという手法まで一緒)。
 2つ目は、折角の池田先生の結論のマスメディア体質批判の論旨がぼやけてしまうことです。マスコミ側から見れば当然おかしな点には気づくでしょうから、結局「ほらウソばっかり」「ブログってこんなものかよ(茂田晃風)」という反応になって、結局本当のメッセージが軽んじられると考えるからです。これは残念。(プロフェッショナルな)ブロガーとマスコミではなくてメディア関係者同士のインサイド・ベースボールですからそれは心配に及びませんというオチは勘弁して欲しい。

 無論ですが私だって勿論バイアスがありまくりです(っていうレベルじゃねーぞ)。しかも当然サイエンス素人ですし、ブーメランから逃れられないでしょう。実際よく分からないところ*がいくつかある。
*海面上昇の幅をBBCが28-43cmと報じている点池田先生が指摘されていて、「これもbest estimateを報じたBBCが正しい。」としているのですが、SPM自体には海面上昇のbest estimate出てきませんよね、何でだろう(見落とし)? NYT,CNN(AP),WPは18-59cm(7-23 inches)で報じていたのですが、5月の最終レポートまでまてばどこかに書いてあるのかな???
にも関わらず、一般論として思うのですが、メディア・リテラシーとメディア・バッシングは別ですよということを自分の中でバランスを取っておかないと、メディア経由情報に逆のバイアスが(無意識にor意図的に)かかり得ますよということ、リテラシーが必要なのはメディア経由の情報だけではありませんよということ、そしてそのリテラシーは批判的思考を通じてきっと自分の議論を磨くことにつながって、全体として議論の質を高めるでしょうということ、逆に言うとデマゴギーvs.デマゴギーからはろくなものが生まれないのではなかろうかということです。誰だって都合の悪いor好まない情報は過小評価するもので、そういう自分自身のバイアスを知っておくことも重要なのではと。ブーメランが自分に返ってくることを考えながら発言したいものだなぁと思ったのでした。っとありきたりの結論までの長文失礼しました&ここまで読んでいただいた方ありがとうございました


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4 コメント

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欄外なんてありません (佐藤秀)
2007-02-07 10:51:27
TBありがとうございます。池田さんの言っている「欄外」なんてありません。あのグラフは全部「欄内」なんですよ。左側が3シナリオしか描いてないのは単に重複して見づらいだけだと思います。このグラフでさえshadingの部分が重複して一見4つのシナリオに見えるくらいですから。
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Unknown (SGW)
2007-02-07 10:53:43
パンダとそらまめさん、どうも分析をありがとうございます。TBを。

池田さんもついつい自分で墓穴を掘ってるようですね。

ところで、最悪ケースをマスコミが重視して報道するのは、当然ながらマスコミ自身の価値判断として行った結果として評価できることだと思います。
平均値をそのまま出すという判断が価値中立的で良いのだとすることには、ちょっと同意することは出来ません。
 またこの意味では、最善のケースではもっと少ない、という評価を出したとすれば、それこそバカなマスコミといわざるを得ないでしょう。

 ということで、マスコミがすべきだったことは、TBSの表題で「最大」という言葉を抜かさないことだ、と思うのです。

 こうなると、デスクが勝手に本文から適当な見出しをつけることをどうやってデスクのリテラシーを高めて抑制するか、というのが問題だとなるかと思います。
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RE:佐藤秀さん (そらまめ)
2007-02-08 10:42:49
ありがとうございます。池田氏のコメント欄で返事を頂いてp21のグラフのことを念頭に置いていたことが分かりました。佐藤秀さんの分かりやすいエントリのおかげでスッキリしました。引き続きよろしくお願いします。
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RE;SGWさん (そらまめ)
2007-02-08 10:47:58
 お久しぶりです。私も仮にもジャーナリストなら伝えたいことぐらいあるだろうと思うので、脚色・結論先行そのものを否定する気にはなれなくて、その一線を踏み越えて不正確になる点で「偽造」なりと糾弾されるべきだと思うのですが、今回の場合はSGWさんがおっしゃるように「最大」を削った時点で不正確になったと思います。
 デスクの点、蒙を啓かれる思いです。確かに強烈な見出しにしたがる点をどうコントロールするか考えないと片手落ちになりそうです。
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