パンダとそらまめ

ヴァイオリン弾きのパンダと環境系法律屋さんのそらまめによる不思議なコラボブログです。
(「初めに」をご一読ください)

レッジ

2006-01-26 23:59:32 | 環境ネタ
米北東部諸州で地域排出量取引制度(Regional Greenhouse Gas Initiative: RGGI)の立案が進んでいます(RGGIをみんな「レッジ」と言っていた)。ABA(American Bar Association)主催のワークショップが同制度を扱うというので(職場の先輩@DCに教えていただきました、ありがとうございました)、授業がかぶっていたのですが出席。私と同じく留学中のRさんも出席。

この制度、報道された範囲ぐらいのことしか知らなかった(米国内最初の義務的キャップ&トレード排出量取引制度だとか、2009年開始、2015年を安定化、19年までに10%削減を目指す、超党派的に各州が参加云々。)のですが、ちょっと予習と思って昨年12月の各州了解文書(MOU)を眺めてみたり、また今日の話を聞いているといろいろと面白いなと思った点が

○最も特徴的なのは対象を発電施設に限っていること
 この(必然的な)作用としてオフセット(電力セクター外の排出削減をケース・バイ・ケースで認める)を認めていること。オフセットは、削減分の半分になるように、ということで、排出総量の3.3%までしか使えない。
 なんでこんなややこしいことをするかというと、「電力セクター内の排出削減を実現したいから」(NY州担当者)。 なんでぇ~、どこからでも排出が減ればいいんじゃないの、電力に限る必要ないじゃ~んという反論があり得るでしょうが、行政コスト(というより交渉コスト)を考えるとそれなりの妥当性がありそうです。何より米国電力の半分は石炭ですし、「電力セクター内の排出削減を実現したい」というのはとりもなおさず燃料転換(石炭→天然ガス・リニューアブル)を狙っているということでしょう。ちなみに「オフセット」というのは77年のClean Air Act改正(環境基準未達成地域=Non-Attainment Areaの新増設施設にオフセット義務付け)以来馴染みのある考え方なので、実務的にむちゃくちゃということでもありません。

○被規制者にもある程度歓迎する声があったこと
 発電施設を持つエネルギー会社の渉外担当者が話をしたのですが(COP3に出席していたらしく、議長が抜けてすぐに戻ってきたのは異様だったなぁと言っていた)、環境問題は大事、しっかり取り組むが、エネルギーには他にも大事な課題(価格、エネルギー自給、多様性等)があり、環境対応はその中の一つに過ぎない、ってなありきたりの話を一通りした後、最後に、いろんな課題を解決していくための仕組みとして、「率直に言うと、現在可能な仕組みで最も魅力的なもの」と言ってプレゼンを締めくくり。その時のNY州担当者の何とも言えない表情の綻びが2年半の交渉の苦労を物語っていましたね・・・と思ったのですが、よく調べると彼は、エネルギーはエネルギーでも天然ガス会社でした ガス発電所を持っているようで、当該発電所にとっては削減余地が少なく大変なハズですが、手っ取り早い燃料転換として天然ガスの需要は増えるでしょうから、会社全体の利益を考えるとそりゃぁ褒めちぎるのも無理はない。
 実際、とあるローファームの環境部門弁護士がD.C.から電話で会議に参加して、「RGGIは温暖化防止のため象徴的効果しかないのに、ただでさえ高騰しているエネルギー価格がさらに上昇する、こんなことは合法的なのか」云々口を極めて批判していたのですが、彼のローファームのクライアントリストを見るとたくさんの(天然ガス供給をやっていない)電力会社が含まれていました。

○連邦制の壁を突破できるか
 他方で、その弁護士がいうことにも一理ないではなくて、カリフォルニアから北東部諸州その他に広がりつつある自動車燃費規制もそうですが、連邦―州関係がここでも問題になってきます。連邦政府の管轄は憲法上列記されたものに限られ、他は州の管轄というのが原則ですが、もちろん、200年以上前に制定した憲法に「排出量取引」と書いてあるわけがないので、大胆にかいつまむと、以下の
 ・連邦専管
 ・州が定めてもよい
 ・州専管
のどれになるかという法的な疑義が出てきます(霞が関の所管争いで設置法・組織令を吟味するのなんて可愛いもの)。例えば大気汚染防止分野だと、一般的にいうと、連邦法に定めがない限り自由に州法で定めうるということになっています。ただバラバラなことをされてはタマランという被規制側(特に自動車)のロビイングもあって、連邦法ができて、連邦―州の役割はキレイさっぱり明確化されていったのですが、RGGIが現時点でどういう扱いになるかはちょっと考えただけでもややこしいですね。
 まだドラフトさえ出来ていない(allocationやオフセットの詳細も州ごとにこれから詰める)ので、訴訟を起こす段階にさえないのですが(Ripeness)、2009年に本当に開始できるのか予断を許さないと思います。

 上記3点の他にも、手続地獄・硬直化(ossification)の弊が垣間見えたことなど興味惹かれることはたくさんありましたが、今後もウォッチしたいと思います。
※あっ、ちなみに。一回欠席したつもりでいた講義、なんでも教授が急に体調を崩したとかで休講になっていたそうです。うーんラッキーでした


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