カクレマショウ

やっぴBLOG

「ノー・カントリー」─神は決して人生に入ってこない。

2008-09-03 | ■映画
"NO COUNTRY FOR OLD MAN"
上映時間 2007年/米/122分
【監督・製作・脚本】 ジョエル・コーエン イーサン・コーエン
【原作】 コーマック・マッカーシー 『血と暴力の国』(扶桑社刊)
【撮影】 ロジャー・ディーキンス
【出演】 トミー・リー・ジョーンズ/エド・トム・ベル保安官 ハビエル・バルデム/アントン・シガー ジョシュ・ブローリン/ルウェリン・モス ケリー・マクドナルド/カーラ・ジーン

昨年度アカデミー賞で作品賞はじめ4部門を獲得したコーエン兄弟の待望の新作。劇場で見逃したので、DVDでじっくり鑑賞。

1980年のテキサス。荒野の中の銃撃戦の痕跡。そこで200万ドルの入った鞄を見つけるルウェリン。それを持ち去ったことによって、殺人鬼、アントン・シガーに追われることになる。とあるモーテルの一室で、札束の中に埋め込まれた発信器を見つけたルウェリンは、逆にシガーを返り討ちにしようと暗闇の中で待つ。ドアの下の隙間に見える人影。「来た!」と思った次の瞬間…。心臓ドキドキのシーンです。これはまるで「シャイニング」だ!

そういう場面はいくらでも出てくるのですが、とにかくあの特異な髪型が画面に出てくるだけで、条件反射的に手に汗をかいてしまうというのは、ものすごいキャラクターだといわざるを得ませんな。

凶悪殺人者のアントン・シガーにどうしても目が行ってしまいますが、この映画の主人公はトミー・リー・ジョーンズ演ずるエド・トム。祖父、父と同じ保安官の道を選んだエドは、年を取って、最近の犯罪についていけなくなっているのを感じている。終盤近く、彼がこんなことを言います。

「俺では力が足りない。自分が年を取ったら、神が人生に入ってくると思った。…だが違った。」

20代の頃は、自分が40代、50代になったら、きっとスゴイ人間になっているのではと漠然と思っていた。時代がいくら変わっても、自分の「場所」がしっかりあって、社会的にはちゃんと「地位」も築いていて、若者たちにもちゃんと背中を見せられるような人間。でも、実際そういう年齢になってみると、20代の頃とそれほど変わっていないんじゃないか、ちっとも進歩してないんじゃないかと思うことも多い。うん!わかるわかる! まさに"No country for old man"、つまり、年寄りには「住む場所」がない。

トミー・リー・ジョーンズがここでも渋い。血気盛んな割にはどこかピントがずれている若い部下を、時には諫めつつも暖かく見守るエド・トム。普通の映画なら、一見のんべんだらりとしたエド・トムが、実は常に核心を衝いていて、殺人鬼シガーを追いつめていく…てな展開になるのでしょうけど、この映画に限っては、そういうことはありません。エドたちは常に一歩出遅れ、シガーを追いつめるどころか、新たな凶行を許してしまう。

コーエン兄弟の映画によく見られるように、シガーにも、ある「こだわり」があります。彼にしかわからない奇妙な原則と言ってもいい。殺すかどうかを決めるのはコインの裏表だったり、いざ殺すときのタイミングだったり。それは、見る者に彼がまるで「神」であるかのような錯覚さえ覚えさせる。こんな「神」ならもちろん要らないけれど、避けられない運命を握っているという意味では、心のどこかに彼に対する憧憬を抱いているのかもしれない。そこを鋭く衝いてくるコーエン兄弟、さすがです。

そういえば、エンディング・ロールが流れるまで、この映画には一切の音楽が使われていません。確かにあの映像にはBGMは不要。派手な音楽で場面を盛り上げたり、もの悲しい音楽でしっとり見せたり、そういう小細工は一切いらない。そういう映画もあるのですね。

それにしても、コーエン兄弟の映画には、「忘れられないシーン」が多いなあとこの映画でもますますその思いを強くしました。あるシーンが、一瞬にして目に焼き付くのはなぜだろう? 全く覚えていないシーンだけの映画もたくさんあるのに。もう少しコーエン兄弟の映画は見てみたいと思います。

「ノー・カントリー」≫Amazon.co.jp

 

最新の画像もっと見る

コメントを投稿