おもしろニュース拾遺

 BC級ニュースが織り成す可笑しくも愛しい『人間喜劇』。おもしろうてやがて悲しき・・・

「イラクに行きたくない」と自衛官万引き

2006-02-22 18:07:55 | 珍事件
 自衛隊員の犯罪は(残念ながら)そんなに珍しいことではない。特に万引きのような「軽微」な犯罪は報道するほどの値打ちもないように思う。しかし今回の自衛隊員の万引きは、その理由が全く意外なものであった。それは「イラク派遣を命令されてそれがイヤだったから万引きしてわざと逮捕された」というものである。しかもそれが陸自最精鋭の第一空挺団の隊員というから二重に驚きだ。

 東京新聞2月22日によると、<陸上自衛隊第一空挺(くうてい)団(千葉県船橋市)の二等陸曹(38)が同県印西市のホームセンターで万引し、部隊内の事情聴取に「イラクに行きたくなかったからやった」と話していることが二十一日、関係者の話で分かった。>
 同空挺団からはイラクに約百七十人が参加することになっていたという。この二曹は、派遣部隊に欠員が出た場合の予備隊員だった。自衛隊は彼を21日付で停職四十日の懲戒処分にしたらしい。空挺団はすでに1月に出発しているので、この二曹は"希望通り"派遣されなかったということだ。

 政府の正式な発表はないが、サマワに宿営している陸自は、この3月から撤退を開始することになっている。だからこの陸曹も撤収の仕事をするために派遣命令を受けたわけだ。しかし軍隊が一番危ないのは撤収の時期だ。極端な話、サマワの宿営地を去る日の隊員たちは、隊舎を撤去してから退去するわけだから、その時「隠れ家」はないわけで、包囲されて攻撃されたら全滅だ。まあだからこそ、最精鋭の空挺部隊をつぎ込んだのかもしれないが、この陸曹からすれば「おれはまだ死にたくない」と危機感を持ったのだろう。

 この陸曹の年齢から考えて、入隊は20年前だ。80年代には、自衛隊の海外派遣は全く想定されていなかった。この時代には自衛隊法成立とセットで上げられた国会決議、「自衛隊の海外出動を為さざることに関する決議」(1954.6.2参院本会議)が有効だった。「メシはタダで、無料で免許も取れる」というおなじみの謳い文句に誘われて入隊した彼の立場からすれば、海外の「非戦闘地域」への派遣はもう完全な契約違反だ。

 でも牢獄を選ぶくらいなら、自衛隊を辞めたらいいのにと不思議に思われる方があるかもしれない。しかし敵が攻めてきたときに、怖いから自衛隊辞めますという隊員が続出するようでは、そもそも「軍隊」は成り立たない。だから自衛隊法では、許可なく退職できない(特に”戦時”には)ようになっている。また”戦時”の「出動」命令を拒否しても三年以下の懲役又は禁錮刑に処せられる(自衛隊法百十九条)。

 とは言っても、実際には上記の罰則はこの二曹には適用されなかったのだ。つまり上記のことは”戦時”のこと、つまり自衛隊法の用語で言う「防衛出動」(外部からの侵略と戦う)、と「治安出動」(内乱の鎮圧)の場合にのみ適用される(これらを自衛隊員の「本来任務」と言う)。今回のイラク派遣は、法的には「イラク特措法」で行われており、これには派遣拒否に対する罰則を特に定めていない。自衛隊も内部では自衛隊法の教育などなされないようなので、この二曹にも誤解があったのだろう。

 この二曹も犯罪に走らず、落ち着いて手続きを踏めばよかったのだが、一方で派遣する側、つまり政府だが、こちらの方としては派遣拒否者に対する罰則を厳しくしようという動きがある。具体的には、「海外派兵」を自衛官の「本来任務」にしようということ。と言うのも、今回のイラク派遣も日本が進んでというより、アメリカからの”命令”によるものだ。そのアメリカはイラクだけでなく、今やイランにもちょっかいを出そうとしている。しかも国内では兵隊が集まらなくなって、アゴで使える自衛隊に熱い視線を送るようになって来た。自衛隊の海外派兵の「需要」は高まる一方なのだ。当然それはますます危険な任務になる。”甘やかして”いては逃げられる。

 これは昔からだが、自民党などには「昔は敵前逃亡は死刑だった。自衛隊法もそれくらい厳しくしないと戦えん」という議論がある。なるほど、拒否すれば死刑ということにすれば、まだ少しは助かる見込みのある「戦場」への派遣の方がましだ。
 しかしそもそも旧軍の規定を志願制の「軍隊」である自衛隊に適用するという発想に無理がある。これは一種の恐怖政治なので、不満は内攻するだけ。マグマのように貯まった不満が、ある日突然爆発して、万引きや強盗どころか、戦車を動かして国会や首相官邸を砲撃という事態になるかもしれない。そう言えばもうすぐ「2・26」がやって来る。


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1 コメント

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TBありがとうございます (ゆのの)
2006-02-26 23:01:47
確かに、一昔前までは海外派遣なんてあり得ませんでしたよね。

そういう意味からすると、年配の自衛隊員にとってはまったく予期しなかった出来事が次々と起こっているのかもしれませんね。

ちょっとかわいそうかも・・・
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