「熱闘」のあとでひといき

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関東学院大学 vs 大東文化大学(関東大学リーグ戦G1部-2016.09.18)の感想

2016-09-19 18:46:23 | 関東大学ラグビー・リーグ戦


先週始まった今季のリーグ戦。第2節は9月18日の日曜日に3会場で4試合が組まれた。大学チームはシーズンを追うごとに変貌を遂げていくので、早い段階ですべてのチームを観ておきたいところ。秩父宮の法政、中央、東海に日大(先週観戦)の揃い踏みが魅力的だったのだが、関東学院と大東大の対戦がある熊谷ラグビー場(Bグランド)をセレクトした。今季はとくに優勝争いに絡むことが期待される大東大に対し、4シーズンぶりに1部復帰を果たした関東学院がどんな戦いを挑むかも興味深いところ。

午前中に熊谷の隣町で所用を済ませてラグビー場に向かえば12時半のキックオフに間に合うはず。の予定だったのだが、競技場まであと一歩のところで「その時間」を迎えることになってしまった。時間節約のため、いつもとは違うCグランド近くの駐車場に車を止めて試合場のBグランドに小走りで向かうことにする。途中、視界の左手に拡がるCグランドは正に「緑の絨毯」だった。遅刻の後ろめたい気持ちの中に、涼風を吹き込んでくれたことが救い。

さて、今シーズンはAグランドが2019W杯仕様に改装工事中のため、Bグランドでも有料試合が開催されることになった。メイン側の入り口はスタンドを左右にグランドレベルで拡げられた状態だからどうなっているのか興味津々だったが、入場口はAグランドとBグランドの間に設けられていた。なるほど、バックスタンド側からの入り口を1つにして出入りできるようにしたわけだ。埼玉ラグビーサポーターズクラブのデスクで会員証を見せて招待券を受け取りBグランドへ。ここもCグランドとまったく変わらない「グリーン・カーペット」が敷き詰められたような状態。

とかくアクセスがよくないことで評判の芳しくない熊谷ラグビー場。だが、AからCまでの3面のグランドで(おそらく)芝生のクオリティに差はないはず。グランドの広さもインゴールの深さを含めて変わらず、違うのはゴールポストの高さくらいではないだろうか。3面あるどのグランドに立ってもプレーヤーは100%プレーに集中でき、ベストパフォーマンスを引き出すことができるという面をもっと評価して欲しいと(アクセスに関する悪評を聞くたびに)思う。

例えば、コンサートホールなら収容人員の多寡よりも音響効果が評価の対象になる。ラグビー場も本来は選手のプレーのしやすさと観客の観やすさで評価されるべき。比較できるほどラグビー専用の球技場がないのが残念だ。熊谷ラグビー場の場合は、たとえ収容人数ではAグランドに遠く及ばなくても、Bグランドで展開されるラグビーは選手と観客との一体感がより強固に感じられるという意味でAグランドを凌ぐのではと感じられたことがこれまでにも何度かあった。



◆前半の戦い/健闘が光る関東学院に対しちぐはぐだった大東大

雨が降ったり止んだりの状態の中でポンチョを着込んでメモの準備をし、ストップウォッチをスタートさせる。試合はもう既に始まっているのだが、場内アナウンスで5分の遅刻と分かる。幸いにもまだ両チームともに無得点。今年から関東学院はジャージーを深い緑色のものに替えたので、大東大がセカンドの白を纏っている。関東学院には1部復帰を機に新たなチームとして再出発を図るという意図があるのかも知れない。白装束の大東大は珍しくないが、永年のファンにとってはよくない記憶が蘇ることも事実。もっとも、今はそんなことも無くなってはいるが。

前置きはさておき、序盤戦から強力なアタッカーが揃う大東大が主導権を握る展開。関東学院が渾身のタックルで凌ぎ、大東大のミスを誘発することで両チームともに決め手をかくような状態の序盤戦だった。とくに関東学院はLOタラウ、No.8アマトの大東大FWの2枚看板に対しダブルタックルで前進を許さないところが圧巻。一人目は低く入り、二人目はボディーコントロールを抑えるといったダブルタックルのお手本を見ているような状況に、関東学院のDNAを感じる。大東大はアタックのテンポが遅めで、プレーヤーも体格の優位を活かして個の力でボールを運ぼうとしていることで関東学院は助かっている面もある。大東大はラインアウトが安定しないのも痛い。たびたび見せたサインプレーで前に投げる方法も相手に見破られたら逆に危険。

端的に言えば、個の大東大に対し、組織の関東学院。2部で3シーズン戦っていたとは言っても、15人で意思統一してボールを動かすことにかけては関東学院の方が大東大を上回っている。ときおり強い雨が降るスリッピーなコンディションの中で、関東学院も惜しいノックオンなどのミスが出る。が、ボール回しなど1部で王者に君臨していた頃のプレースタイルはしっかり受け継がれているようだ。そんな個人能力と組織力とが拮抗したような状況の中で14分、大東大に待望の(というよりもやっと取れたという感じの)先制点が生まれる。スクラムでは優勢に立つ大東大が、関東学院陣内に入ったところでアーリープッシュをフリーキックのチャンス。ここから大東大はクイックで仕掛け、SO川向からCTB戸室を経てラストパスがWTB中川に渡る。大道のGKも決まり大東大が7点を先制した。

これで大東大に勢いが出るかと思われたが、逆にペースを掴んだのは関東学院の方。FWとBKの連携のよさで確実にボールを前に運び大東大陣のゴールに迫る場面も。個々の突破力は劣っていても、テンポのよい球回しに大東大のディフェンスが遅れ気味になっていく。大東大がもたつく間に関東学院に得点が生まれる。25分、大東大陣22m付近中央のスクラムを起点としてFWのサイド攻撃でじわじわと前進。ボールを確実に前に運んで最後はPR3の阿部が左中間にトライ。GKは外れるが関東学院は5点を返す。

この失点に大東大は動揺したのかキックオフで(やっていはいけない)ダイレクトタッチを犯す。センタースクラムを起点とした関東学院のキックを大東大が蹴り返して自陣10m付近のラインアウトとなる。しかし、ここで関東学院はラインアウトを確保出来ず、ボールを拾った大東大はSO川向が左タッチライン沿いに控えたWTB中川に絶妙のキックパス。中川は自身でゲインした後CTB戸室にリターンパスを送り、さらに戸室がゲインしたところでパスは再び外の中川へ。大東大は持ち前の以心伝心の域に達したプレーで自らのミスにより招いたピンチをチャンスに変え、中川が2トライ目を奪う。GK成功で14-5と大東大のリードが拡がった。

この得点をもってしても大東大は波に乗れない。関東学院が大東大陣22m付近で攻勢に出る中で、ゴール前ラインアウトのチャンスを掴むがゴールラインは近いようで遠い。ないものねだりをしても仕方ないが、大東大のように決定的な仕事ができるプレーヤーが欲しいところ。スクラムはクイックで出すことで劣勢をカバーしていたが、肝心な所でのラインアウトのミスが響いた。前半も終盤に近づいた38分、大東大はSH小山の卓越した個人能力により得点を奪う。自陣10m/22mでのマイボールスクラムから小山が一瞬の隙を突いてウラに抜けたあといったんボールをSO川向に預ける。川向から再びボールを受け取った小山は関東学院のディフェンダーを翻弄。そのままゴールポスト直下までまっしぐらにボールを運んだ。

ここのところ、1人で行くことは控えていた感がある小山だが、停滞した状況を何とかしたいという気持ちでボールを前に運んだのかも知れない。GK成功で21-5と大東大のリードは16点に拡がる。42分にはクルーガー・ラトゥがHWL付近からPGを狙うが外れ、前半が終了。3トライを奪った大東大が順当にリードを奪ったように見えた前半も、得点は卓越した個人能力で生まれた感が強い。アタックに関して明確な意図が見えた関東学院に対し、今一歩焦点が絞りきれていない大東大という印象で終わった前半の戦いだった。果たして、後半はどのような形で建て直しを図るか。



◆後半の戦い/大東大圧勝もスコアでは語れないラグビーの難しさ

後半から大東大はWTBクルーガーに替えてホセア・サウマキを投入。首脳陣のホンネは、サウマキは前半から投入したいのではないだろうか。中川との両翼で確実にトライを重ねていった方がゲームを優位に運ぶことができるような気がする。生粋のファイターのサウマキはインパクトプレーヤーというよりスタメン出場の方が相手にとってプレッシャーも大きくなるように思えるのだ。ただ、FWの戦力を考えると、No.8アマトはもちろん、LOタラウも欠かせないメンバーなのでこの形はやむを得ない。

さて、後半開始早々の2分にそのサウマキがいきなりパワーを発揮する。浅めに蹴って相手のノックオンを誘う意図もあったと思われる関東学院のキックオフがノット10mとなる。ここで大東大は前半とうって変わって攻撃のテンポを上げ、関東学院に襲いかかる。フェイズを重ねながらボールを大きく前に運んだところでフィニッシャーとなったのはサウマキ。大道がGKを確実に決めて28-5となり、ようやく大東大のアタックにエンジンがかかったかに思われた。しかし、大東大はピリッとしない。リスタートのキックオフで反則を犯し、関東学院がタップキックで前進しさらに反則を誘う。

関東学院は大東大ゴール前のラインアウトからモールで確実に得点を取りたいところ。大東大にとっては今シーズンもモールディフェンスが泣き所だけに関東学院ファンの期待も高まったところだが、痛恨のミスでボールを大東大に渡す。その後もちぐはぐな大東大にミスが目立ち、得点板はまったく動かない。大東大にとっては想定外の自陣ゴールを背負ってラインアウトのピンチが続く。23点のリードあるとは言っても時間も十分にある。関東学院がラインアウトのボールを確実に確保出来ていたら大東大はもっと厳しい戦いを強いられていたはず。関東学院は17分にラインアウトのこぼれ球を拾う形でFL鳥飼がインゴールに飛び込む。GKは失敗するが10-28となり、関東学院の応援席は一気に盛り上がる。

ここからゲームは完全な膠着状態となる。そして、むしろ多くのチャンスを掴んだのは関東学院の方だった。25分には大東大陣ゴール前のラインアウトからモールを形成してゴールラインになだれ込むが惜しくもパイルアップ。5mスクラムの場面が続き、もし大東大がスクラムで劣勢なら大ピンチの連続になっただろう。28分にNo.8宮川が8単でゴールを目指すもののノックオンと関東学院にとって取り切れないもどかしい展開が続く。

後半も35分を過ぎたあたりからようやくパワーに勝る大東大が関東学院をゴール前に釘付けの状態で攻め続ける展開となる。しかし、大東大も焦りからかミスが多く、ゴールラインが遠い状態。ようやく得点板が動いたのは41分だった。HWL付近の関東学院ボールラインアウトからターンオーバーに成功してボールを前に運び、最後にFL河野がゴールポスト直下に飛び込む。大道も小山もクルーガーもベンチに下がったためキッカーを務めたのがサウマキ。GKは難なく成功して35-10となる。

ロスタイムが4分となった中で関東学院が一矢報いるべく最後の攻勢に出る。残り時間が殆どなくなった44分、関東学院は大東大陣10m付近のスクラムからゴールラインを目指す。しかし、痛恨のパスミスがあり、ボールを拾ったのが関東学院のとってはワーストで大東大にとってはベストのプレーヤー。23番をつけたサウマキが関東学院のディフェンダーを寄せ付けずに約50mを走りきってゴール左にボールを置く。もちろんゴールキッカーを務めたのはサウマキ。この距離で入るのかと両チームのファンが固唾を呑んで見守る中、サウマキは難しい位置から見事にゴールキックを成功させる。ピリッとしない展開での中での42-10の圧勝劇に華を添えるラストプレーとなった。



◆試合終了後の雑感(1)/開幕2連勝でも不安要素が消えない大東大

アタックの意図が明確だった関東学院に比べると、どうしても大東大のちぐはぐさが気になる。チームの形を整えていくのはこれからとしても、小山、川向、戸室、大道、菊地、サウマキと言った1年生で青柳監督に抜擢された選手達が今は4年生になっている。実際にこの日のトライの殆どは彼らの個人能力を活かした形で生まれた。タラウとアマトに殆ど仕事をさせなかった関東学院のディフェンスでの健闘があったにせよ、今後FWが強力なチームと対戦する上で(優勝を狙うチームとしては)不安材料を拭い去ることができない。得点能力の高いBK陣を活かすためにも、FW陣との連携を磨いていくことが優勝を目指す上でのカギとなりそうだ。4年間活躍した中核メンバーがごっそり抜ける来シーズン(2017年問題)のことはさておいても、今シーズンは千載一遇のチャンスと思われるだけに試合を重ねることでチーム力を上げていって欲しい。

◆試合終了後の雑感(2)/「復活」への道程が見えてきた関東学院

大東大のミスの助けられた形だが、関東学院の健闘が強く印象に残る。とくにディフェンスでの頑張りが大東大のミスと焦りを誘発したとも言え、チーム全体での意思統一と組織的な動きは流石と思わせるものがあった。春口氏が作り上げたチームとはいえ、多くの優秀なスタッフの尽力で基礎を作って来たチームだから、指導体制が整備されればチーム力は確実に上がって行くと思う。1部リーグでの戦いを経験して行く中で個々がパワーアップしていけば、再びリーグ戦Gをリードしていく存在になれるはずだしそうあって欲しい。本日の戦いぶりを見てもその可能性は十分に感じられた。今季はいきなり上位に食い込むことは難しいとしても台風の目になる可能性は十分に感じられる。今後の戦いに注目していきたい。

余談ながら...第2試合は対抗戦Gの注目の1戦、筑波大と慶應義塾大学の戦い。最後まで手に汗握る展開で、勝敗を分けたのは試合運びの巧拙。1本のPGを決めることの大切さを教えてくれる締まった好ゲームで、正直なところ粗い内容になりがちだった第1試合より楽しめた。リーグ戦Gの試合に足りないものがいろいろと見えた試合だが、第1試合を戦った両チームの関係者はしっかりと見届けただろうか。

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李 スンイル
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