「熱闘」のあとでひといき

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帝京大学vs筑波大学(2013年度春季大会)の感想

2013-05-15 01:29:19 | 関東大学ラグビー・リーグ戦


関東大学ラグビーの春季大会も3週目となり、流経対拓大、日大対法政といったリーグ戦ウォッチャーにとっては見逃せない対戦カードが組まれている。しかし、正直なところを告白すると、今の時期で観ることができる最高レベルの試合をじっくり観たいという気持ちの方が強くなった。そんなわけで足は自然に百草の帝京グランドに向かっていた。

「大学選手権決勝の再現」といった期待感はさておいても、百草の帝京グランドでラグビーを観ると得るものが多いことも自然に足が向かった理由のひとつ。ここで試合を観る都度に、時としてラグビー感が変わってしまうくらいに刺激的な気持ちになる。だから、百草園駅からは急坂登りになる徒歩での訪問も苦にならない。というのは少し無理があるが、肉体的には多少きつくても、急勾配の坂を登り切ったときに、前方に開けた視界の中に高台の上にある帝京グランドを見いだしたときにはホッとした気分になる。

住宅地の中をしばらく歩いてラグビー部の寮の前を通り過ぎ、最後の坂道を上り詰めたらいよいよグランドに到着だ。そんな頃だった。午前中の練習を終えて寮に向かう帝京大学のラグビー部員達とすれ違ったのだが、全員が笑顔で挨拶をしてくれた。それも、ごく自然に。おそらく、選手達にとっては普段から当たり前のようにしていることなのだろう。これでチームに対する好感度がアップしないわけがない。帝京というと部員が厳しく管理されているチームというイメージを抱きがちだが、細やかな目配りができるように指導されているとみた方がしっくりくるような一コマだった。

◆キックオフに向けて高まる緊張感。

最前列の確保を目指していつもより早めに座席に座り、両チームのアップの状況を眺めながらキックオフを待つ。帝京のメンバーは流経大戦からSHが荒井から流に替わったのみで、おそらくこのメンバーが現状のベストということになのだろう。翻って、筑波はメンバー表にお馴染みの名前が少なく、どこまでやれるか?といった期待の中にも不安の入り交じったようなメンバー構成。リザーブに登録された竹中が注目選手だが、久々となる試合で健脚を見せてくれるだろうか。

ここに座ると、どうしても2週間前に観た光景、すなわち最後までの緩むこと無く正攻法で攻め続けて76-19で流経大に圧勝した赤いジャージの選手達のイメージをぬぐい去ることができない。水色のジャージのチームも白いジャージのチームと同じ目に遭ってしまうのだろうか。逆に、もし筑波がこのメンバーで帝京と渡り合うことができれば、秋から冬に向けての楽しみが確実に増えることになる。キックオフが近づくにつれて意気上がる両チームの状態を見ていると、自然に緊張感が高まってくる。大学日本一を狙うチーム同士のオーラが既にピッチ上で激突している。



◆帝京のキックオフで試合開始

トップリーグチームへのチャレンジを強く意識した「スタンディングラグビー」を標榜する帝京がキックオフから猛然と筑波に襲いかかる。ペナルティを得ても速攻で仕掛けるのが本日の決まり事のようだ。そんな帝京の猛攻を受けて開始早々から筑波は自陣ゴールを背に防戦一方の展開となる。そして3分、ファーストスクラムが筑波のアーリープッシュとなったところで、帝京はFKからタップキックで攻めてPR1の森川がインゴールに飛び込んだ。あっさりと帝京が先制点を奪ったことで、「2週間前の再現」が現実味を帯びてくる。

しかしながら、筑波もすかさず反撃する。7分、自陣10m/22mでの帝京ボールラインアウトで、ボールが後ろに流れたところをFWの選手がすかさず拾って大きく前進し、パスを受けたNo.8山本が激走してゴールラインを超えた。GKは不成功に終わるが5-7となる。筑波はさらに10分、自陣10m/22mの位置でのスクラムからオープンに展開し、ライン参加したFB山下がビッグゲインした後、ラストパスをWTB久内に渡す。GKも成功して12-7と筑波が逆転に成功した。グランドレベルでの観戦のため状況はよくわからなかったのだが、おそらく帝京のDFにできたギャップをうまくついた形で山下がラインブレイクに成功したように見えた。久内はその後も巧みなステップワークでたびたび帝京のDFを攪乱するシーンを見せた。卒業した彦坂、ベンチ入りの竹中、そして福岡とも違ったタイプの新たなトライゲッターの誕生は筑波にとって明るい材料。

しかし、このままガタガタと崩れてしまわないのが帝京で、すぐに体勢を立て直す。「スタンディングラグビー」を標榜するだけあって、激しく縦に、横にとボールを動かして攻め続ける。だが、筑波も殆ど組織を乱されることなく粘り強いディフェンスで応戦。引き締まったゲームは時間が経つのを忘れさせてくれる。だが、22分に筑波に残念なプレーが出る。自陣22m内でのラインアウトからオープンに展開するもののノックオンを犯し、そのボールを拾った帝京のCTB権が難なくトライを決めて逆転に成功する。数的にはむしろ不利な状況で無理に展開する場面でも無かっただけにもったいない失点だった。

その後も、筑波が粘り強いディフェンスで抵抗し続けるが、帝京優位は動かない。30分、帝京はPK.からの速攻で筑波陣のゴールに迫るものの、筑波が渾身のタックルでタッチに押し出して一旦はピンチを逃れる。だが、直後のラインアウトからのタッチを狙ったキックがノータッチとなり、帝京は得意とするカウンターアタックから一気に攻め上がる。パスを受けたWTB久田が走りきってゴールラインを超えた。帝京はたたみかける。リスタートのキックオフからのカウンターアタックで怒濤の連続攻撃からフィニッシュはエースのWTB磯田。この強力な2連発で26-12と帝京のリードは14点に拡がる。

かつてはFWのボールキープによる「停滞」を批判されたことを完全に忘れさせるくらいにボールを動かすチームになった帝京。そのアタックは3段式(あるいは4段式)のロケットを連想させる。初期段階(1段目と2段目)ではFWでボールキープをしながらポイントを動かし、相手のDFが薄くなったところで一気にロケットの3段目が点火する形でBKがスピードアップして攻める。攻撃のテンポが良く、しかもどんどんスピードが上がっていくため、3段目に点火された段階でほぼトライが約束されたようなものだ。とにかく、FW、BKに限らずパスを受ける段階でレシーバーがトップスピードになっている。難しいことはやらず、そのためミスなく確実に速くボールを動かせるラグビーは脅威。筑波がよく持ちこたえたといった印象が強い前半の戦いだった。



◆後半はさらにテンポアップした帝京

帝京優位とは言え、点差は2T2G差の14点。筑波は後半での逆転を期し、プレー中に足を痛めたFB山下に替えて竹中を投入した。これで筑波が迎撃態勢を整えたかに見えた後半だったが、帝京はキックオフからさらにテンポアップして攻め立てる。5分、筑波が帝京陣内に攻め入りながらラックでターンオーバーを許し、帝京は素早いボールの繋ぎで最後はWTB磯田がゴールラインまで走りきった。31-12と帝京のリードはさらに拡がる。磯田は、ボールを持った段階で前方が開けていたら「走る距離は関係ない」といった韋駄天ぶりを見せて本日も大活躍だった。

しかし、筑波も簡単には引き下がれない。リスタートのキックオフでLO藤田が魅せた。そう、藤田と言えば大学選手権の東海大戦で逆転勝利を収める原動力となった「キックオフに強い」インパクトプレーヤー。浅めに蹴られたボールをジャンプ一番で奪取に成功して前進を図る。ただ、筑波はその後のボールキープに失敗して逆襲を許し、最後は帝京のFL杉永がゴールラインを超えた。ボールを失った後のカウンターアタックには注意しなければならない。それは十分にわかっていても止められないのが帝京の怖さといえる。

38-12とリードが拡がっていく中で、続くリスタートのキックオフでも藤田が頑張りを見せた。今度は後ろにタップするような形でマイボール獲得に成功する。高いボール保持能力を持つ帝京に対しては、深いキックオフは相手に得点をプレゼントするようなもの。浅めに蹴ってボール奪取にチャレンジするなどの工夫が対戦チームに求められる。筑波の藤田と目崎のLOコンビは随所で光るプレーを見せた。帝京のアタックに耐えた後の15分、筑波は帝京の反則で掴んだ帝京ゴール前でのラインアウトでモールを押し込みトライを奪う。17-38とまだまだ点差は大きいがFWで取れたことは大きな自信になるはずだ。

自慢のFWで取られたことに対して、帝京FWのハートに火が付いた。22分、帝京は筑波陣のゴール前でのスクラムを押し込んでスクラムトライを奪う。GKは失敗したが43-17と帝京のリードは26点に拡がり、ここで勝敗が決した。また、筑波のNo.8山本が反則の繰り返しでシンビンを適用されたことも筑波にとっては痛かった。帝京は35分にもPKからの速攻で後半からSO朴に替わって出場した前原がトライを奪い48-17で試合を締めくくった。



◆試合後の感想

やはり帝京は強い。70点以上取った流経大戦に続き、本日もトリプルスコアに近い圧勝。それも「シンプル・イズ・ベスト」の模範を示すような正攻法で攻め続けての勝利。パワーアップだけでなく戦術に磨きをかけていく時間が十分すぎるくらいにあることを考えれば、5連覇も難なく達成できそうだ。また、5が6になり、8になりの状況になっても不思議はないくらいにB、Cチームも充実している。春に公式戦ができたことで、大学ラグビー界は、体勢の整った強豪チームはより強くなっていき、土台作りに四苦八苦のチームはなかなか力を上げることができないといった格差の拡がりがより顕著となっていくような気がする。

さて、健闘及ばず完敗だった筑波。とても惜敗とは言えないスコアだが、さりとて数字ほどの惨敗という印象も薄い。力の差はあっても手応えは十分に感じさせる戦いだったと思う。現段階では帝京の圧倒的な攻撃力を辛うじて止めることができているといった状況には違いないが、希望がないわけではない。試合前はFWのセットプレーで苦戦必至とみていたわけだが、スクラム、ラインアウトは健闘していた。また、ディフェンスでも簡単には突破を許さない粘り強さも見せた。身体を張った泥臭さが筑波の魅力。では、どこに差があったのか? 一番それを感じたのは、攻撃態勢に入ったときのFWの動きの部分だった。

帝京のFWはアタックの場面では素早く4~5人でユニット組んで攻撃態勢を作ることができる。SHからボールをもらう位置が絶妙で、また、ランでパスを受ける場面ではほぼトップスピードになっている。しかしながら、筑波のFWは止まった状態でボールをもらう場面が多かった。また、せっかく塊を作って動くことができているのに、パスを受ける体勢が中途半端で有効なアタックに繋がらない(観ている方にはもどかしい)場面も多かった。当然、FWがボールを持った段階で停滞からターンオーバーされてしまう状況が増える。チャンスボールを確実に得点できたかできなかったかの差は、このようなFWの初期段階での動きの差に原因がありそうだ。筑波はBKの豪華なランナー達を活かすためにも、アタックの局面でのFWの効率的な動きに磨きをかけることが必要と思われる。



◆B戦を観戦しながら想ったこと

A戦のあとにB戦が行われ、72-0と帝京Bの圧勝に終わった。帝京のBが強力なことはわかっているが、今日はそれ以外にも面白い発見があった。それは、AチームとBチームの差がどこにあるかと言うこと。AもBも、そしてCであっても同じラグビーができるのが帝京の強みであり、組織としての一体感を感じる部分。だが、AとBには当然のことながら違いがある。Bの選手のプレーはパワー、スキルそして正確さが僅かだがAの選手達に及ばない。逆に言えば、Bの選手でも足りない部分を克服していけばAに上がるチャンスが出てくる。どうすれば上に行けるかが明確になっていることで選手達のモチベーションを下げないチーム構造ができあがっている。

期待の竹中だが、B戦でも殆どボールを持つチャンスがなく、不完全燃焼に終わった。本人はAの最初から試合に出たかったようだ。後半からの出場ではゲーム感がつかめないといったようなことも口にしていた。また、B戦のハーフタイムでは選手達に檄を飛ばすなど存在感を示す。強力なライバル達の出現で安閑とはしていられないという気持ちの表れと観た。また、B戦ではしばしば「前を見ろ!」とか「頭を下げるな!」という指示がベンチから頻繁に飛んでいた。普段は関東リーグ戦Gの試合を観ている私だが、そんな指示が学生の応援席から出たのを聞いたことは殆どない。

ここでふと想った。もちろんすべてではないが、リーグ戦G校の選手達のモチベーションの在処に問題があるのではないかということを。とにかくプレーでミスが多いこともあるが、典型的なのはタックルの拙さ。高くて低く刺されないだけでなく、引き倒しからぶら下がりのだっこちゃんスタイルまで(激しく前に出てヒットする筑波や帝京とは)別次元のラグビーを観ているような印象を受けてしまう。これでは大量失点試合の続出も免れないだろう。Aグループの3校はこのレベルを体感できるからまだいいとして、問題はBとCに所属しているチーム。ぜひ百草グランドで自分達のラグビーを見つめ直す機会を持って欲しいと思う。緩まない帝京は鏡みたいなチームで、自分達の足りないところをはっきりと示してくれるはずだから。
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