「正しい言葉」って？／７

　ユリアさんはお書きです。

こゝで鍵となつてゐる「正しい言葉」が何を指示してゐるのかについて、Leftyさんの記亊からは知ることはできません。なんの説明もないからです。ですから、正しいと規定される言葉がなにかといふことよりも『世の中のうたはすごくつまらなくなる気が... 』といふ邊りに重點がおかれてゐるのだと、私は想ひました。後に『最初は、「世の中にうたなんてなくなってしまうかもしれない」とかこうかとおもった... 』と、Leftyさんが述べてをられることからも、やはりさうなのではないかと推測されます。私は實はより後者に近い讀みをしていました。

「正しい言葉」という言葉の重苦しさ！　Leftyさんは、彼らしくソレの内容は書きませんでした。ですから余計に、際限なしに、空白の重力を増幅します。注目を浴びるためには、チラリと見せた後に隠すことが効果的。見えそうで見えないかも知れないエロチシズム。ブラックホールのように、彼の中でも同じような虚の引力が渦巻いていたかもしれません。

でも考えましょう。考えるとは、不敬な墓の盗掘にも似ています。糸口はあります。「正しい言葉」も言葉世界内にあることです。以下、「正しい言葉」を大文字のTと表しておきます。

かなり当たり前ですが、できるだけ言葉を「正しく」使って観測結果や考えを記述しようと努力する自然科学、人文系諸科学に言及しているわけではありません。いわば日本語の辞書や辞典、小説や歌詞などにおいて「抽出」されるかのような一連の言葉（単語、語句、ときにやっぱり文脈も？）を対象にしています。

まずロジックのうえでは、言葉世界に属しているにもかかわらず、そこからの超越を望むところに「正しい言葉」Tの馬鹿馬鹿しさがあります。Tがありえるとすれば、存在した瞬間に言葉ではなくなる。他の言葉たちにいつも参照されるメタ言葉になるのです。神です。キングです。ですから、通常の言葉の形をしていては矛盾です。最低、何かの印が必要です。黄金の冠とか（笑）。

言葉の一要素にすぎなかったものが、何かをキッカケに要素ではないと主張しだすのと同じです。これを形而上学の「ゼロ」と呼ぶのでしょうか。社会や世界の変動に言葉世界はリンクしていますから、御用学者が敏感であれば、絶え間ない「手直し」が必要になります。「正しい言葉」などという言葉の収拾を前提にした「研究」は、書き留められた言葉に依存する学者の仕事です。設定され続けた「当用漢字」の悲惨な状態が思いだされます。言葉世界に絶対王政を持ち込む企ては無理です。

また、「正しさ」を言葉で説明する必要があります。このとき、正しくない言葉との差異を説明できないでは「正しい言葉」Tの記述はできません。Tは「不正」の言葉を使って説明されるのです。これは大きな矛盾でもあります。ですから大抵は、「正しい言葉」Tの記述とは、説明抜きの天下り的リスト表示になります。反論の根拠を与えないように、との浅知恵でもあります。

Tは「不正な言葉」を前提します。絶えず「不正」があってこそ、「ゼロ」としての価値がある、というわけです。価値を維持するためには、特殊なフレームワークさえ行えばよろしい。カメラのファインダーを覗くように、Tに基づくフレーム枠に見えない言葉（はみ出す言葉）は「不正」であると決めるのです。

特殊なフレーム枠に、自分の存在を依存するんです。甘えた存在論だ。爺さんたちのガラガラ！　そこに擦り寄る乞食学者もいます。バカげた「放送禁止用語」などのNG-ワードをご覧になればいいかも知れません。だれが決めたか、とても恣意的な言語世界が再現できます。もともと言語世界とは恣意的だから、とでもいいたそうな杜撰な「禁止」の姿勢が。「自主規制」と名づけるイイ加減な啓蒙姿勢が。

これでは伝統回帰とも子宮回帰ともいえません。ただの「ガラガラ」。日本語の言語環境は、こんなにも文化の後進国なのです。いや、Tを希求する御用学者たちが、後進国性を固定化しようと目論んでいるのです。乳首のフェイクやガラガラを奪われまいとして。Leftyさんが「正しい言葉」についてのエントリーをかかげた理由もわかるというもの。

　こうして「正しい言葉」とは、御用学者たちがいじくる乳首のフェイクやガラガラにすぎないことがわかってきます。黙っていればすむものを、大声上げて「正しい言葉」と喋りだすやつ。ラフなこの見取り図によって、おれたちは「正しい言葉」から自由になれます。ところが、この言葉の「自由」ってやつがまた厄介なんですね。　《続》


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