あるのほんだな

「風鳴月」の総合管理人・風月 或の気ままな読書ライフ。

「火星の人」 アンディ・ウィアー/小野田和子訳(ハヤカワ文庫)

2015-09-23 15:49:45 | 小説-SF
「火星の人」 アンディ・ウィアー/小野田和子訳(ハヤカワ文庫)


<あらすじ>

有人火星探査が開始されて3度目のミッションは、猛烈な砂嵐によりわずか6日目にして中止を余儀なくされた。
だが、不運はそれだけで終わらない。
火星を離脱する寸前、折れたアンテナがクルーのマーク・ワトニーを直撃、彼は砂嵐のなかへと姿を消した。
ところが――。奇跡的にマークは生きていた!?

不毛の赤い惑星に一人残された彼は限られた物資、自らの知識を駆使して生き延びていく。
宇宙開発新時代の傑作ハードSF。


<感想>

親父の誕生日プレゼントに買ったんですよ。自分が読みたかったから。で、それを借りてきたんですよ。

めちゃくちゃ面白いなこの小説!!!!!!!!!!

最初、洗濯する前にちょっとだけ読もう…なんて思ってぱら、ってめくったら、もう、書き出しが面白いの。
夢中になってもうちょっともうちょっと…って読みすすめているうちに。
6時間かけて580ページ読み切ってた。

まぁ、せっかくなので書き出しをちょっと引用してみようか。

--------------------------------------------------------

第1章

[ログエントリー:ソル(火星の一日。二四時間三九分三五秒)6]

 ボロボロの最悪。
 これが熟慮を重ねたうえでの見解だ。
 最悪。
 人生で最高の二ヶ月になるはずだったのに、六日めにして悪夢に転じてしまった。
 これを読んでくれる人がいるのかどうかもわからない。たぶん、いつかは誰かが見つけてくれるだろう。一〇〇年後かもしれないが。
 はっきりいっておく……ぼくはソル6には死んでいない。ほかのクルーは、ぼくは死んだものと思ったにちがいないが、かれらを責めることはできない。そのうち国をあげてぼくを追悼する日が設けられて、ウィキペディアのぼくのページには『マーク・ワトニーは火星で死んだ唯一の人間』と書かれることになるのかもしれない。
 たぶん、そのとおりになるだろう。なぜなら、ぼくは確実にここで死ぬだろうから。ただ、それはみんなが思っているソル6ではない。
 ええと……どこから始めようか?

<中略(火星ミッションの説明やなぜ取り残されたのかという話がある)>

 つまりこういうことだ。ぼくは火星に取り残されてしまった。<ヘルメス>とも地球とも通信する手段はない。みんな、ぼくが死んだものと思っている。そしてぼくは三一日間だけもつように設計されたハブのなかにいる。
 もし酸素供給器が壊れたら窒息死。水再生器が壊れたら渇きで死ぬ。ハブに穴があいたら爆死するようなもの。そういう事態にならないとしても、いつかは食料が尽きて餓死する。
 あぁ、まったく。最悪だ。

--------------------------------------------------------

まず、或が思ったのは、この主人公マークのユーモアたっぷり軽快な一人称の語りがめちゃくちゃ面白いなってこと。

基本的にはマークの一人称と、彼の生存に気づいて彼を助けようとする他の人たちの三人称っていうふた場面で展開していくんだけど、やっぱりダントツ、マークの一人称が面白い。

すんごく絶望的で死ぬわこれっていう悲惨な状況を面白おかしく語る。悲惨なはずなのに、その悲惨さがそれで軽減されてとっても読みやすい。そして、笑えてしまう。それってすごいことだと思う。

基本的に或は悲劇を喜劇っぽく書いてるのがとっても好き。悲劇をそのまんま悲劇に書くなんてナンセンス、やっぱり笑いに昇華しなければ、と思っている。

っていうか、すごくこの書き出し、わくわくするよね。
これからどうなるんだろう、マークは生き延びられるのだろうかってドキドキするよね。

火星の人は、火星に一人取り残されたマークが、どうやったら生き延びられるかをあれやこれやひねり出しながら、いくつものトラブルと奇跡を起こしつつサバイバルする話なのだ。

ちなみに彼の専門分野は植物学者でメカニカル・エンジニア。なんだそりゃって取り合わせなんだけど、これがまた活きてきてすごい面白いんだな~!
途中で農業するところがSFなのにSFっぽくなくて面白すぎる。


また、この小説の出版の経緯もちょっと特殊で面白いんだよね。解説に書かれてるんだけど。

そして、映画化も決定してるんだよね。リドリー・スコット監督にマット・デイモンだぜ! やっほい!
どういう感じで映像にしてくるのか、とても楽しみで仕方ない。日本で公開されたら、家でずっとゲームやったり本読んだりしている親父を引っ張り出して一緒に見に行こうと思う。


もう、これは、SFがよくわからないっていう人も絶対楽しんで読めるよ。
そして、嫌な気分にさせないよ。すごくハラハラするけど、ちゃんとまるーくうまーく収めてくれるよ。
最悪な日から始まったマークの物語がどう完結するのか、ぜひ、読んで見届けて欲しい。