あるのほんだな

「風鳴月」の総合管理人・風月 或の気ままな読書ライフ。

「十字路のあるところ」 吉田篤弘(文)坂本真典(写真) (朝日出版社)

2011-11-23 23:52:38 | 小説-現代
「十字路のあるところ」 吉田篤弘(文)坂本真典(写真) (朝日出版社)


<あらすじ>

「夜を拾うんだ」
先生は事あるごとにそう言っていた。
「ピアノから黒い鍵盤だけ拾うみたいに」
そうした言葉が、黒砂糖を丸ごとのみこんだように、
いまも僕の腹の中にある。
あんな人はもう二度と現れない。

物語あり。

クラフト・エヴィング商會の作家と写真家が
町を歩いて拾いあげた
六つの絵巻
(付属帯より引用)


<感想>

吉田篤弘の小説はこれで何冊目かだけど、やっぱり独特の空気感を持ってる気がする。
すごく透明で、少し古いにおいがして、ちょっと優しくて切ない。

十字路がたくさんあってマンションもたくさんある、とある街を共通の舞台に、物語は紡がれる。
短編の合間合間に挟まれる写真は、今見てきた物語を実際に歩いているような感覚になる。

何なんだろう、この空気感は。
フィクションなのは分かってるけど、なんとなく、そういうことがあってもいいなと思える。
これが、世界観、というやつなのか。

きっとほかの人が同じ筋の物語を書いても、この空気は出ない。
物語は、人の視点?観念? なんて言ったらいいのかわからないけど、人を通して、書かれる、生まれる、ことによって、その人の世界が出来る。

感じたことを上手く言葉に出来ないんだけど、自分もそういう一つの世界を持てたらいいなと思う一冊。でした。


「ソロモンの犬」 道尾秀介 (文春文庫)

2011-11-22 18:50:28 | 小説-ミステリ
「ソロモンの犬」 道尾秀介 (文春文庫)


<あらすじ>

秋内、京也、ひろ子、智佳たち大学生4人の平凡な夏は、まだ幼い友・陽介の死で破られた。
飼い犬に引きずられての事故。
だが、現場での友人の不可解な言動に疑問を感じた秋内は動物生態学に詳しい間宮助教授に相談に行く。
そして予想不可能の結末が……。
青春の滑稽さ、悲しみを鮮やかに切り取った、俊英の傑作ミステリー。


<感想>

道尾秀介っていえば、「向日葵の咲かない夏」で有名な作家さんですが、実はわたしは今回初めて読みました。
とあるバンドのベーシストさんが「ソロモンの犬の方が面白い」なんてことを言ってたものだから、うのみにして面白い方から読んでやろうと思ったのです。

感想は……めっちゃくちゃ面白かった!!!
なんというのでしょう。あぁこれぞミステリ! っていう展開とどんでん返し。
読み終わったときのすっきり感と、ちょっと笑える感じが本当になんとも言えないです。
秋内くんのうぶでイタい所に笑いつつ、京也の寂しさに切なくなりつつ、あーもう上手く言えないんですが、ミステリとしても青春モノとしても面白く読めました。

あとね、間宮助教授のキャラクターがすごくいい。もさもさの変人。なんてコミカルな人なんだろう。何故かそういう、コミカルというか笑える話や登場人物が出てくる印象がなかったので、読み始めた時はびっくりしてしまいました。間宮助教授ならまた見たい。

夢中になって次から次へと読んじゃうほど面白かった。めちゃくちゃ上手い。仕込み方がホント半端ない。尊敬すると同時に、他の作品ももっと読んでみたいなーと思いました。
「向日葵の咲かない夏」が積読の中にあるので、次はそれだな!

「草枕」 夏目漱石 (新潮文庫)

2011-11-21 18:15:47 | 小説-近代文学
「草枕」 夏目漱石 (新潮文庫)


<あらすじ>

智に働けば角がたつ、情に掉させば流される――
春の山路を登りつめた青年画家は、やがてとある温泉場で才気あふれる女、那美と出会う。
俗塵を離れた山奥の桃源郷を舞台に、絢爛豊富な語彙と多彩な文章を駆使して絵画的感覚美の世界を描き、自然主義や西欧文学の現実主義への批判を込めて、その対極に位置する東洋趣味を高唱。
『吾輩は猫である』『坊ちゃん』とならぶ初期の代表作。
(文庫カバー裏より)


<感想>

近代文学は難しい!

何故「草枕」を読んだかというと、「うごかし屋」っていう講談社ビッグコミックスから出ている芳崎せいむ先生の漫画で引用されてたのが気になったからでした。

難しくて要するにどんな話なのかはよく分からなかったんですが爆
文章がものすごく色鮮やかに感じました。
なんかすごく気張ったような…ううん? どう言ったらいいのか分からないんですが、やたら難しい言葉がたくさん出てきて、わかったような「つもり」になる感じ。
でもそういう読み方でもいいのかもしれないと、解説を読んで思ったりもしました。

個人的に、池だっけ沼だっけ、まぁなんか水辺に行った時の、椿の色鮮やかな描写がめちゃくちゃすごいな、と感動しました。あの辺がなんかすげーな、と思った。根拠はよく分かりませんが。

うーん難しい。でもこういうのを読むのも、なんだか新しいものを得るような気がしていい感じです。きっと、夏目漱石ってあの時代、新しかったんだろうな。と思いました。新しいものを見つけたいわたしとしては、その新しかった感覚が、勉強になった、ような。

うまく感想書けませんがそんな感じで。夏目漱石はもうちょっと色々読んでみたいです。オススメがあったら教えてくださいな!

「消えた少年」 東直己 (早川書房)

2011-11-04 19:29:12 | 小説-ミステリ
「消えた少年」 東直己 (早川書房)


<あらすじ>

学校では門大事だが映画が大好きな中学生、翔一と知り合い、意気投合した<俺>。
ところが、翔一の親友が惨殺死体で発見され、一緒にいた彼も行方不明になってしまった。
担任の教師、春子に頼まれて、<俺>は懸命の捜索を始める。
変質者による誘拐か、暴力団がらみか、学校にも飛び火している障害者施設建設反対運動に巻きこまれたか?
翔一、無事でいろ!
札幌の街を便利屋探偵<俺>は必死で走る!


<感想>

いやー、なんていうか、今回の巻はやたらめったら面白かったです!!

みんながみんな、失踪した翔一の心配をしているのがすごく心に染みました。
(あのヤクザの組長桐原すらも! なんかありがとう桐原!)
高田もなんだか活き活きとしていたような気がします…気のせいかな…

読み飛ばした二冊をきちんと補完できたので、「探偵はひとりぼっち」につながるもろもろを認識できました。春子さんとはそうなるのねーふーん。とか、高田が主人公に付き合って怪我するのが(ひとりぼっちの時点で)三回目だとか。あー確かに三回だわ、って妙に納得したりしました。知らなくてもきっと楽しめるけどね!

終始ハラハラしてたし、「え、ほんとに!?」ってびっくりすることもたくさんあって面白かったので、次映画化するタイトルはこれだろーって思ったんですが、よく考えたら映画化してもいいのか? っていう暴力的で性的な描写が多かったので、きっとこれじゃない話になるかうまく改ざんされるかのどっちかになると思います……

それにしても、今回は後味が悪くなくてよかった。(苦虫をかみつぶしたような思いになるときも時折、ハードボイルドにはあるので…)事件自体はそうとう…「洗面器」だけど……後味自体は悪くない。面白かったと素直に言える一作でした。

「向う端にすわった男」 東直己 (ハヤカワ文庫)

2011-11-01 21:48:30 | 小説-ミステリ
「向う端にすわった男」 東直己 (ハヤカワ文庫)


<あらすじ>

ある夜<俺>のところに、結婚詐欺にまつわる依頼が舞い込んだ。
詐欺を仕組んだのは、元一流商社マンの伊野田という男だという。
さっそく<俺>は、札幌にメディア革命を起こそうと息巻くこの男の企画会社にもぐり込んだのだが……
夢見る男の不気味な犯罪を描く中編「調子のいい奴」ほか、バーにすわった謎の男をめぐる表題作など、5編を収録。
札幌ススキノを舞台にした新感覚ハードボイルド


<感想>

飛ばしてしまった二作のうち一作。ススキノ探偵の短編集ですね。

相変わらずめちゃくちゃ調子がよくて面白かったです。
語り口調や主人公とか、あと桐原たちとのやり取りとかすげー面白いんですけど(「桐原にヘソ曲げられるのは本望なんだ」「やな野郎だな、本当に!」)、すごく切なくなったりやりきれなくなったりして、本当にうまいなぁーと思います。

っていうかヤクザなんですけど、ヤクザなのに相田がイイヤツすぎて好きです…映画でもあの役者さんって、なんかヤクザっぽい味があっていいんですよねぇ……

高田は一編にだけ出てきたんですけど、相変わらずのぼーっとしててよかったです。
「シャブシャブにしような。ラムのな」とか、ぴょんぴょん跳ねながら言うのか! って想像するとちょっと笑っちゃったりしました。そういうさりげないセリフとかちょっと好き。


ちょっと、面白かったのは事実なんですがうまく感想が言えません…!
あぁもどかしい! 多分読んでもらった方が面白さが伝わっていいとおもいます。
文庫にもなっててお手に取りやすくなってますので機会があればぜひ!笑