スパイクとサボテン

写真 ニュージーランド ニート 恋愛の文章ブログです。

30代Vol67・・・・・最終回 2枚の葉書・それぞれの模様

2006-07-04 00:14:20 | Weblog
僕はといえば。

それから半年ほど経った。
もう12月。

彼女からクリスマスカードが届いた。
「お元気ですか?私は元気にしています」
元気かぁ。良かった。ほっとした。
欄外に牧師さんのメッセージが書いてある。
「いつでもこいよ!!」
相変わらずフランクな牧師さんだ。

同じ頃、瞳さんから受賞記念パーティーの葉書が届いた。
大切な息子の肖像画が印刷されている。その絵で何か大きな賞を受賞したみたいだ。
「再婚してNYに行くことになりました。NYで本格的に絵の活動をします。NYの住所~~」
ありがとう。素敵なものをいっぱいありがとう。これからの人生の手本にします。
それと、いっぱい時間をとらせたこと。謝ります。


僕はといえば。

バイクで中央突堤にきた。
夕陽が冬空をグラデーションに染める。
ビルや観覧車の照明がクローズアップされる。

僕の大好きな時間。

彼女の葉書、瞳さんの葉書。二人の幸せを願って大阪湾に流した。

・・・二人の幸せが、この海よりも大きくなりますように・・・

煙草を吸い。夕景をみとれていた。
コンテナを満載した貨物船が港を出て行く。
あの日と同じ風景。もう辛くない。

「やっぱりここだと思った」
振り返るとカオリが来ていた。
「病院いってきた。問題ないって」
僕はカオリを抱き寄せ、頭に顎を置いて聞いた。
「何があってもどんなことがあっても言ったの、覚えてる?」
「うん。覚えてるよ。子供の頃からずうっとそう。これからもずうっとずうっと」
カオリはおなかを撫でながらいった。
「これからは、スパイクさんみたいに暮らせないね」
「うん」



・・・カオリとこの子の幸せが、この海より大きくなりますように・・・

大阪湾 中央突堤 冬

  おわり



              ありがとうございました。




30代Vol66・・・・・寂しさ

2006-07-03 23:48:29 | Weblog
30代、それは与えられる側でいられる神様が設定した最後の年代。
ほとんどの人はもう与える側に立っている。どんどんいろんな事が身の廻りで動き出す。
いつまでも自分だけの事を考えて、与えられる側にとどまることは許されない。
時間は容赦ない方法で僕たちの精神を与えるものに変えていく。
嫌だと拒んでも無理。最後まで戦っても勝てた人はいない。
いろんな出来事が起こり、与える側へと追いやられる。
抵抗し続けたものは代償をはらう。払っても逃れられない。
より大きな代償を払うことになる。
戦い抜いたあとには「自分」というプレゼントが何処からか送られてくる。

彼女は無意識に僕を選び取り、寂しさを理解し、自ら苦難の道に挑戦し果敢に戦い自分を得た。僕は彼女から、寂しさと愛の相違を学び、自分に内在する問題があることを発見した。

瞳さんは無意識に僕を選び取り、自分の寂しさの種類と大きさを感じとり、少女の心を取り戻し、また自分に挑戦しはじめ、輝ける自分を勝ち取った。僕は瞳さんから、積み重ねる大切さ、磨き上げた者の輝き、人生を切り拓く喜び、愛。さらけだす素晴らしさ、いろんなものを見せて貰い、自分の中の大きな穴の正体と、それがどれほど大きかったかを発見した。

人は、確実に寂しい人と寂しくない人に、分類される。
寂しい人は寂しさに敏感。
寂しい人は寂しい人に優しく出来る。
寂しい人と、寂しい人が恋愛関係を結ぶのはいとも簡単。
お互い寂しさが良くわかっているので、相手の寂しさを紛らわすのは簡単。
次の段階は、お互い寂しさを埋めてくれと要求しあう。
お互い自分自身も埋められないのにそれは無理。
そこで破綻。
また寂しい人と恋愛関係を結ぶ。
何度も繰り返す。
いくら明るく振る舞っても、いくら友達が多くても、いくらカラ元気を見せても、いくら仕事が順調でも、寂しい人は寂しい人としかつきあえない。
寂しくない人と、一緒にいることは耐えられないから。
何度も繰り返す。
でも埋まらない。
この人? この人?
そう思って年月が流れ寂しいまま。
出来事の節目節目、全てうまくいかない。
そして気がつく。
自分の寂しさを埋めるのは自分しかない。
気づき歩き出せば、寂しくない人と出会える。
自分で寂しさを埋めようとしている人には、寂しくない人が手を貸してくれる。
そして自分の存在と価値を見いだし寂しくない人へ。
寂しさの原因なんて千差万別。子供の頃の劣悪な家庭環境。人生途中での躓き。
寂しい人にとって、寂しさを克服するのは人生の大きな課題。
僕はまだまだ解決出来そうにない。
彼女、瞳さん、僕。僕が一番重傷だ。

30代Vol65・・・・・母

2006-07-03 23:33:05 | Weblog
カオリの家をでて、自分のアパートにかえることにした。いつまでも甘えてられない。
帰る途中、実家に立ち寄った。
突然、帰ってきた僕に母はいつも通り「野菜たべてるか?」と聞いてくる。
僕は「食べてる」としか答えない。
「なんか食べたいもんある?」
「甘い卵焼き」高校卒業まで毎日リクエストしたが、ついに作ってくれなかった幻のメニューが不意に口をついて出た。
母は醤油味しか作らない。
「砂糖いっぱい使って体に悪いからあかんよ」
子供の頃と同じ答え。やっぱり。でも母は敏感。
いつもと様子の違うおっさんみたいな息子にキョトンとして。
「ええよ、今日だけ作ったげる。あんたいっつもいうてたもんな」
しばらくして、出来上がった玉子焼きを食べる。全然甘くない。
僕は抗議した。「全然甘くない!!」
母、「砂糖一杯入れたら体に悪いからちょっとにした」
母にとっては僕の希望は眼中になかった。あるのは僕の健康のことだけ。
僕は食べながら、今の自分の現状を詫びる気持ちや、瞳さんと息子の関係がオーバーラップしたり、友人達に助けられたこと、彼女のこと、いろんな感情が入り交じり涙がポロポロこぼれた。涙を見せたくなかったので食べ残し、下を向いたまま実家を去った。
「ゴメンなオカン。ダメな息子で」心の中でつぶやいた。

30代Vol64・・・・・回復

2006-07-03 01:06:56 | Weblog
次の日も次の日もカオリは来てくれた。
「ここまで来るのは大変だから、家に来なさい。面倒なんかみないよ。勝手にゴロゴロしとけば私も勝手にするから」
わざとそう言う。本当は一人にさせるのが心配なだけ。
居候させて貰った。
カオリの仕事中に電話がなる。留守電になる。懐かしいセッちゃんの声だ。
「カオリー!!薬の件、調べてメールしといたよ~!! あいつどう?元気出た? またね~」
セッちゃんは看護士。多分、僕の薬のことを調べてくれたんだ。
一週間ほど居候させてもらった。
その一週間は、セッちゃんが来たり、えりちゃん、ユキオが来たり。
毎日、夜明け近くまで飲んだ。それぞれ皆が乗り越えて来たことや、これからの人生。今まで語ったことの無かった深い部分まで話した。ユキオとこんな話をするのは初めてだ。30年生以上も生きてくれば何かとある。ぼうっと生きてきた奴なんかいなかった。なんにも社会的評価を得られていなくても、みなそれぞれ走ったり、止まったり、歩いたり。
僕も段々自信を取り戻し、見失っていた自分を取り戻しつつあった。少しずつ素直さも取り戻した。

30代Vol63・・・・・友

2006-07-03 00:10:16 | Weblog
友人から電話。
「どうしてる?」
「別に」
「ふーん」
「何の用?」
「今日いるか?」
「うん」
何時間か後、友人がきた。ユキオだ。電話で何かを感じとった。
僕のおかしな雰囲気は感じていない振りをする。
ユキオちょっと外へでて、食料とビールを買って帰ってきた。
元気の無い理由は何も聞かない。普通の話をして、帰った。
次の日、幼なじみの女の子を連れてきた。カオリだ。僕のことは何でも知っている。
その子はストレートに「何かあったでしょ?」と聞く
ユキオが「そんなことどうでも良いよ」と遮る。
適当に話をし、食事をして二人で帰っていった。
カオリは「辛かったらうちにおいでよ」と言ってくれた。
明日また来るらしい。
涙がでた。涙が出るところまで回復していが、涙もろくなるのは鬱の証拠。
次の日は掃除道具と食料を持って来てくれた。
僕はちょっと行ってくるといって彼女の行っていた診療内科にいった。
彼女と同じ診断、処方。僕も薬を飲んだ。
帰ったら部屋は綺麗に片づいていた。それを見ても泣きそうになった。やたら泣けてくる。
「どうしたの?ご飯作るから、大根おろして!!」
わざとキツイ言い方で平常心に戻させようとする。
食事が終わったら、ビールを飲む。薬がよくまわりハイになり饒舌に喋る。
子供の頃の話、他愛の無い話をする。落ち着いてきた頃、ちょっと間があって。
「何があったか知らないけど頑張らなくて良いからね。あなたはそのままでいいのよ」
「元気なんか出さなくていいよ」

・・・「何があってもどんなことがあっても、私はあなたの味方よ」・・・

恋愛関係でもない、幼なじみの、人間としての愛で僕は救われた。
20数年前に僕が引き寄せた。

30代Vol62・・・・・消せない記憶

2006-07-02 22:24:27 | Weblog
抜け殻だった僕は、次はクラゲになった。
僕はまた家から出られなくなった。
ベッドに入ったまま出られない。涙もでない。感情が欠落した感じ。
部屋に見える物は思いでの物ばかり、眼もあけられない。
瞳さんの書いた絵が僕の神経をいちいち刺激する。反射的に捨てる。
またベッドに戻る。
瞳さんの使っていたマグカップがまた刺激する。反射的に捨てる。
今度瞳さんが来た時、一緒に飲もうと思ってとってあった「フォアローゼス」
開けること無く、叩き割った。
そうやって思い出を一つ一つ消していった。

現実から抜け出したい。

瞳さんへの想いと、彼女への罪悪感が入り交じる。
寝られない。食事も喉を通らない。
意識は前頭葉と頭蓋骨の隙間でキリキリしている。
もうダメだな。

30代Vol61・・・・・禁断症状

2006-07-02 00:53:37 | Weblog
外へでて、ビールの自動販売機まで歩いていった。
酔っぱらって、全然乗っていなかったバイクを何回も何回もキックする。
腐ったガソリンの臭いがした。奇跡的にエンジンは掛かかる。
あとはなぜか、中央突堤で泣いていた。途中の記憶が無い。
僕は中央突堤の手すりにつかまりずうっと泣いていた。
「ただの失恋、ただの失恋」いろんな言葉を自分にかける。
女々しい男は泣きやまない。地べたに這い蹲りもがき苦しみ、這いつくばった。
バイクは見えるところにある。乗って帰ろうとするが、たどり着かない。途中うずくまる。

何時間か地面に突っ伏して寝ていた。眼をあけると、コンテナを満載した貨物船が港を出て行く。
「瞳さん。行かないで」
「僕を独りにしないで」
「生きていけない」
「もし、テレパシーが通じるなら今すぐ電話して」

立ち上がる、フラフラと歩く、うずくまるを繰り返す。
やっとバイクにたどり着く。
瞳さんの為につけたリヤシート用のグリップ。
仕事帰りの瞳さんの荷物を積むためのネット。
瞳さんに関するものがすべて、僕の神経の奥深くまで響く。
吐き気がとまらない。

頭の中に「依存」と言う文字が浮かんでは消える。


瞳さんは自分の寂しさを、僕に求めた。僕はある時期それを埋めた。そして何かに打ち込むことで、自分の輝きを得た。輝いた瞳さんの側には輝いた人が集まり、瞳さんも自信が持てた。そしてその穴は埋まった。そんな人にはもう寂しさは近づけない。寂しさの代表選手は僕。瞳さんは何年も苦しんだ寂しさとの戦いに勝ち抜いた。全力で僕を愛し、全力で駆け抜けていった。そして寂しさからでなく、本当に人として尊敬し、愛しあえる人と出会った。


「瞳さんの人生に幸あれ」

30代Vol60・・・・・未練

2006-07-01 22:03:07 | Weblog
ふと瞳さんのことが気になった。電話しようかどうか悩んだ。
元気になったことを知らせるのなら、迷惑しないだろう。もう僕も声を聞いても大丈夫だろう。瞳さんに電話してみた。どうせとらないだろう。出ても笑って話そう。心配をかけているといけないので、元気な声で話そう。

「瞳さん?」
「どうしたの?元気にしてたの?」

瞳さんは、相変わらず僕を心配していた。僕の至らないところ、好きだったところを長い時間をかけて、話してくれた。僕は、落ち着いて、幸せそうな瞳さんと話せて嬉しかった。以前のように話せている。やっぱりダメだ。いきなりフィードバック。ダメだダメだとわかっていても言ってしまう。

「瞳さん、もう会えないの?」
「会えないよ。終わったのよ」
「コーヒー飲むぐらいいいじゃない?」
「どうしても会えない」
「好きな人ができたの?」
「・・・・・・」
「本当のことを教えて、僕は何をきいても大丈夫だから」
「うん、いるよ。大切な人が。黙っていてゴメン」

僕の頭の中はゆっくりと渦を巻いて回転した。意味がわからなかった。
時間も何も何処にいるのかさえもわからなかった。僕という風船から空気が抜けていく感じがした。瞳さんはこうなるのがわかっているから言えなかった。瞳さんもここまで苦しみ続けていたんだ。

「どんな人?」
「聞いてもしょうが無いでしょ?」
「いいから教えて」
「・・・絵の先生」

瞳さんを熱心に応援してくれて、公私ともに頼りになり、同じ夢に向かって生きていける人。子供もなついて、母親も大切にしてくれる。もうすぐ一緒に住むと言っていた。瞳さんにはぴったりだ。僕とじゃ比べ物にならない。僕は随分前から瞳さんの眼中に入って無かった。
あったのは、夢を追えない、そこから出られないでもがいている男への同情。もう僕は瞳さんを苦しめた過去の男達と同列。


「幸せになって下さい」
「あなたもね、捨て鉢になったらダメよ」
「うん。わかった。瞳さん」
「何?」
「瞳さん」
「何?」
「瞳さん本当にもう2度と会えないね」
「もう切るね。幸せになってね。ごめんね。」
「待って、瞳さんの心の小さな小さな穴はその人で埋まったの」
「ううん。人に求めるものじゃなかったの。自分で埋めたよ。」

30代Vol59・・・・・過去から現在へ

2006-07-01 03:22:48 | Weblog
今は毎日、喫茶店に行ったり、こうして部屋でくつろいだりしている。
NZへから帰って来てからは、スターバックスしか行かなくなった。スターバックスへ行けば、あの幸せだった時の感触を味わえる。
音楽を聴き、ビールを飲みまどろみ、たまには友達と電話をしたり。
繰り返しの日々、抜け殻でも、抜け殻らしく一応は生活している。
日にち薬は効いてきた。
退職金、貯金ももうほとんど無い。価値のある物は、バイク以外全部売り払った。生命保険も解約した。生活費は後ちょっと。よくもったもんだ。もうそろそろ潮時か。
商店街で求人誌をもって帰って、丸印をつける。友人に仕事は無いか探してくれるよう電話もした。やる気がちょっと出てきた。
もう後に引けないな。
それでも喫茶店で同じ日々を過ごす。

30代Vol58・・・・・転機

2006-06-30 21:47:59 | Weblog
転機が訪れた。瞳さんの個展が決まった。
僕に連絡がくる。僕は凄く嬉しかった。

「やっとここまできたね瞳さん」
「うん。ありがとう」
「邪魔ばっかりしてごめん」
「そうね、結構邪魔だったね。うそうそ。でもね、もうやめたいのこの関係」
「嘘でしょ?」
「本当。キツめに言うよ。あなたの為に。あなたは子供、男として見れない。今の現状をよくみなさい。男として自信がもてるようになったら、また私の前に現れてね。私はお母さんじゃないのよ。こんなこと言いたく無いけどもう関わりあわないでね」

愕然とした。それから何ヶ月は生きた心地がしなかった。瞳さんは僕にショックを与えるといけないので、だいぶ前から考えていることを黙っていた。僕も僕自身に感じていたこと、瞳さんがそう思っているだろうと薄々感じていたことが現実となって飛び出してきた。耐え難い辛さを感じた。
それからは、電話をする、出ない。電話をする、出ない。メールをする。返事はこない。
何回も何回も連絡をとる。瞳さんはシャッターを下ろした。僕はシャッターを叩き続けた。

 どこかで見た場面。あの時の彼女と同じ。同じことをしている。気が付くのが遅い
あの時の彼女の辛さが身にしみてわかる。瞳さんにもどれだけ心理的に負担をかけているかよくわかる。自分が嫌になる。あの子はこれ以上辛かった。多分。瞳さんには僕が見えているから、タイミングが計れる。僕は彼女が見えていなかった。ストレートに言葉を吐いていた。彼女の辛さを考えると僕は、人間じゃないなと思った。辛かっただろう。ホントにごめんと思った。

彼女の言った言葉
「ホントはこんなことしたくないの。でもやめれない。どうしていいかわからないの」
牧師さんが言った言葉
「むしろ心配なのはあなたのほうです」
脳裏をよぎる。
「もう僕はダメだ。立ち上がれないなぁ」心の中でのつぶやき。
落ちていくのはやい。もうほとんど外に出なくなった。酒に溺れる日々。
苦しみは「日にち薬」で癒えると思っていた。
もう瞳さんとは連絡をとっていない。僕も諦めた。

これが仕事をやめてから何年間かの長くて短い日々。
結局今も何もしていない。

30代Vol57・・・・・自己喪失

2006-06-30 11:47:30 | Weblog
こんなやりとりが2年強続いた。
僕もすっかり自分を見失った。一日中携帯が気になる。部屋の下でタクシーの止まる音がすると「瞳さんかな」ってドキッとする。
瞳さんは、何もせず、自分ばかり追っかけてくる僕を男としてみなくなってきた。
絵の方は、認められもう少しで個展。もっと時間がなくなる。
僕もいい加減嫌気がさしてきた。もうやめたい。
それでも瞳さんは時々僕が落ち込んでいないか心配して連絡してくる。
瞳さんも会いたい時がもっとあった。
寂しさを埋めるために僕と会うことが僕の為にならないことを、瞳さんはわかっていた。
瞳さんも一人の女、弱くなる時もある。
頼りたい。でも僕に頼れば堂々巡りになるのはわかっている。
何回繰り返しても、会った瞬間に僕は虜になってしまう。
瞳さんは虜になった僕が重荷になる。
こうやって何通りのかの悪循環のパターンが出来上がる。

この頃までは、瞳さんも僕にまだ少しは好きという気持ちはあったと思う。でもその気持ちは僕では無く、NZでの僕。瞳さんは、大阪に帰り現実の生活に戻った。現実の生活は忙しく辛い。絵の道を邁進するのも周囲を犠牲にしながら。ただ奪いにくるだけの僕には興味が無くなって当然。そんな瞳さんは、どうしようもなく辛く、寂しい時にNZでのなんのしがらみの無い自由な生活を思い出す。そして僕に連絡。僕はいわば楽しい思い出のショートカットみたいなもの。本当の愛情は瞳さんのディレクトリの階層の奥深くに保存されている。現実の自分は愛されていない。わかっている。何も与えるものなど無いことを。僕は少しの時間の癒し役でいることに眼をつむる。愛されたい。

予告と挨拶

2006-06-30 03:13:51 | Weblog
もうすぐ30代は終わります。今まで沢山の方に読んで頂き、感想のメールを頂きました。ありがとうございます。ありがたい事に出版の話も来ています。ですが、僕はそのような知識は持っていません。読者の方で業界に詳しい方がおられましたらアドバイスお願いします。
次回作の予告です。
30代も最後までおつきあい下さい。よろしくお願いします


次回作:ハイウェイ

初夏
阪神高速守口料金所。深夜1時

僕は料金を払い、一気に加速する。
RZ250はみるみるスピードは上がり、白煙を吐きながら猛然と周りの景色を流していく。
ハンドルは小刻みに震え、もう古くなったフレームは軋む。
僕のストレスは前頭葉から、大脳に移り、後頭部から抜けていく。
色んなイメージが浮かび上がる。まるで夢でも見ているように、普段考えたことのないことが、どんどん浮かんでくる。
何個かのカーブをこなし、環状線へ。
東大阪方面に行こうか、堺方面に行こうか迷ったので、もう一周する。
別に、行く当てなどない。気が向いた方向に行くだけ。
堺には、彼女の家。東大阪には、元彼女の家、グループで住んでいる。
どっちに行くかは僕の感性。
連絡さえしていない。
別に引き返したってよい。
僕は環状線を周りながらその3パターンのどれにするか考えた。


30代Vol56・・・・・すれ違い

2006-06-29 22:42:14 | Weblog
すれ違い
瞳さんとは、だんだん話が合わなくなっていった。目標ができ、頑張り続ける瞳さんは僕との時間も惜しむようになってきた。僕と会うことに価値を見いださなくなった。僕は彼女が去ったことで時間的に余裕ができ、もっともっと瞳さんを求めるようになる。瞳さんは僕の必要度が下がり、僕は逆。電話、メール会っても、けんかばかり。

「もっと会いたい」
「それは無理。私の夢を応援して」
「たまには時間を作って」
「私の夢をつぶす気?」
「じゃあ次会える日を教えて」
「わからない」
「・・・」

そんな内容がくりかえされる。
だんだんエスカレートしていく。

「僕には関心がないね」
「そんなこと無い、時間をおきましょう」
「僕は耐えられない」
「無理言わないでそれなら別れましょう」

と言うことで時間をおく。
何週間か連絡が無い日々が続き耐えきれなくなった僕が連絡する。

「会ってよ」
「会えない。今忙しい。時間が出来たら連絡する」
「待つのは辛い。これっきり連絡しないか、今まで通りにするか決めてくれ」
「じゃあこれっきりにする」

絵に打ち込む瞳さんもたまには寂しくなる。

「元気にしてる?」
「してるよ。これっきりって言ってたよね?」
「あなたが心配だし、私も寂しいし」
「会う?」
「うん会う」

二人は甘美な時間を過ごし、求め合っていることを確認しあう。
その少しの時間が僕にとっては誤解の元、やっぱり瞳さんには僕しかいないと勘違いするのは簡単、燃え上がる。
次の日から、僕は有頂天で毎日連絡する。瞳さんはいつも3、4日たったころ嫌気がさしてくる。
電話に出なくなる。メールがくる。
「ごめん、今忙しい」
「やっぱり、僕は息抜き?」
「そんなこと無い。」
「この前愛してるっていってたのは嘘?」
「そんなことない。堂々巡りになるのでやめます」
「じゃあこれっきりにして下さい」

僕は瞳さんを忘れようと必死になる。
やっと、瞳さんなしでの生活に慣れてきたころ僕を心配して電話がある。

「元気にしてるの?」
「してるわけないよ」
「それだけよ」
「それだけって会わないの?」
「・・・」
「瞳さんはズルい」

そして会うことを強要する。
会えば、二人とも必要としていることを認め合う。
その頃から、僕は男性関係を疑いだす。

「好きな人いるんでしょ?」
「いない、あなただけ」
「ホントのことを教えて」
「いない、できたら言うわよ」

30代Vol55・・・・・束の間

2006-06-29 22:25:48 | Weblog
瞳さんとは一ヶ月以上会っていない。連絡もとっていない。彼女とやっとけりがついた。
けりがついたのはついたが、僕もぽっかり大きな穴が空いた。僕の寂しさの正体は?
僕は何も考えずに瞳さんに埋めてもらう。

瞳さんにメールで報告する。
「二人にとって最善の結果ね。良かったね。明日会おうか?」
「うん。会いたい。」
やっと素直にメールしている。もう瞳さんの胸に飛びこみたい。
 次の日、僕は瞳さんを保育所の近所まで迎えに行き、その後、僕の大好きな中央突堤に連れて行った。着くまでの間、瞳さんはバイクの後ろでカメラ片手に騒いでいる。何回も途中で瞳さんに停止を命ぜられる。フィルム交換のためだ。中央突堤に着いて、二人で海の夜景を見ながら話した。
「ちゃんと終わったよ。長かったね。ごめん。やっと振り出しに戻れるよ」
「そうね。あなたはこれからどうするの? NZで話した通りにするの」
「僕の気持ちはそのまま。瞳さんは?」
「私もそのままよ。でも寂しさは少し減った。自分のやりたいことして輝きたいの」
「僕がそばにいれば邪魔?」
「邪魔じゃないよ。応援して」
「応援してるよ」
「あなたも考えないといけないことがたくさんあるでしょ?自分も目標を決めて頑張りなさい」
「わかった。頑張るよ」
瞳さんも輝いてきた。NZで、寂しさからよく泣いていた瞳さんとはひと味違っていた。
「絵の方はどう?」
「やっと自分の方向性が見えてきた。友達もたくさん出来たし。今は書いている時間が一番幸せ」
ちょっと絵にジェラシーを感じながら、僕達は大阪湾を後にした。
 一応、瞳さんとは最初の約束通りの関係に戻れた。嬉しい反面僕は一抹の不安を感じた。
彼女との別れ、瞳さんの絵。僕だけ取り残され気がした。
一番身近なこの二人が、自らの力で上向きに歩み始めたことで、僕の心の見て見ぬふりをしてきた部分に眼を向けざるを得なくなってきた。
僕はこの先どうやって、二人が歩んでいる道と同じ道を歩めるんだろう?

30代Vol54・・・・・ファミリー

2006-06-29 11:15:11 | Weblog
彼女は約束通り、各県を出るときだけ連絡してきた。道で出会う見ず知らずの人から、お金をもらったり、お茶を出してもらったり、ご飯をご馳走になったりしたらしい。「お接待」というらしい。足にマメができてなかなか前に進まない。お遍路転がしという難所が数カ所あり、それが非常に辛いらしい。声は明るく元気にしていることがよくわかった。
 室戸岬から高知に向かう海岸沿いの道は、とても辛かったらしく電話がかかってきた。その後は、各県を出る時のみで、電話の内容も「元気にしている」と簡単だった。声ももう別人になった感じ。そのまま結願。高野山で会う約束になっていたが、一度家に帰って、ちゃんと身だしなみを整えて会いたいと言う。梅田で会う。Gパンにシャツを着てサッパリした格好。ちょっとだけ飲みにいくことに。飲みながら、お遍路中に感じたこと、考えたこと、いろんなことを話してくれた。
僕との関係については、何も喋らなかった。ビールも2杯ほど飲んだところでもう喋ることは無くなった。これで終わりの二人にはもう話すことはあまりない。店をでて、ビッグマンの前まで送っていった。帰り際
「今までありがとう。ムリなことばかり言ってごめんなさい。あなたに会えてよかった。あなたに会えなかったら、自分の本当の気持ちに気が付くことが出来なかった。お別れするのは寂しいけど、本当にありがとう。これで最後にします」
「こちらこそ。ありがとう。僕も君とのことが無かったら、自分の気持ちに向き合え無かったよ。僕はまだまだだけど。僕の優柔不断さが苦しめたと思う。ごめん」
「私は、こうなりたかったから、あなたを選んだのだと思う。幸せな思いでばっかり。掃除と洗濯はちゃんとしてね」
「そう思ってくれると助かる」
「はい、カギ」
「俺も、はい、カギ」
彼女は涙も見せずに、長いエスカレーターを登って行った。振り向きもしなかった。
僕は見えなくなるまで見送って、煙草を吸って帰った。

彼女は寂しさから僕を求め、僕の中から埋めるものが無いことに気がつき、心の穴を埋めるものを出せと暴れた。僕には無かった。彼女の寂しさを埋められるものは家族からの愛情だけだった。彼女は僕と距離ができればできるほど、自分の寂しさの正体と大きさを無意識に気がつきだした。自分で引き寄せた僕、自分で引き寄せた教会のチラシだった。
寂しさの正体に気が付いた人の回復は早い。彼女は自分で寂しさを埋める方法を見つけた。
キリスト教の教えに救われたかもしれないが、僕は教会という家族が彼女を救ったと思った。求めた。与えられた。


「彼女の人生に幸あれ」